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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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24-8


「私の部屋、そんなにきれいじゃないんだけど…」

「掃除してないの?」

「してるけど」


 マリーダさんが、私の部屋に泊まると言い出し、特に断る理由がないので、許した。

 けど…。


 私と話したい事があるって…なんだろう?

 


「話をするなら、年が近いヴァネッサのほうが良くない?」

「もちろん、彼女の部屋にも泊まるわ。今日はあなた」


 マリーダさん達は明後日以降に帰るらしい事が判明した。それは置いておいて。



「ここよ」


 マリーダさんを招き入れる。


「ほお…」


 彼女は部屋を見回す。これ意外に恥ずかしい。


「シンプルね」

「必要最低限の物しか置いてないから」


 シュナイツに来る前、寄宿学校の寮部屋はそれなり物を飾ったりしていた。


 持って来たかったけど、シュナイダー様から必要な物だけど、言いつけられる。



「ほんとにここで?」

「ええ」


 彼女は笑顔で頷く。


 

 私は少し不安だった。


 私の過去を訊いてくるじゃないかと…。


 別に拒否すればいいだけなんだけど、それも失礼かなって。


 マリーダさんは、ウィルのお姉さん代わりな理由だし、これから長いお付き合いになるはず。



 彼女は自身の荷物から厚手の布を取り出し、私のベッドのそばに敷く。


「これでよし」

「シンプルね」

「いつも通りよ。ベッド付の宿ばかりじゃないから」

「わかる」


 王都へ行った時も、半分はベッドなしだった。野宿もしたし。


「よかったら、私のベッドに」

「気遣いの無用よ。言ったでしょ、いつも通りだって」


 そう言って早速横たわる。


 私もベッドに横たわった。


 と、その前に体を拭く。



「はあ~」

「疲れた?」

「大丈夫です」

「そう。昼間、立ち眩みしてたでしょ?」

「たまにあるんです」


 襲撃と悪夢を乗り切ったものの、シュナイツの安定化にはまだ遠い。

 

 私の心と体もまだ全快していない。

 

 ウィルと同じように、シュナイツのために何かできないかと考え込む事が多くなった。

 そして不調になる。


 不調になる頻度は少なくなっているから大丈夫だろう。



「ウィルが、ずいぶん気にかけていたわ」

「そう…ですか」


 気にかけないわけがない。

 彼以上に私を気にかけてくれる人はいないと思う。


 

 私は発光石が入ったランプに布を被せる。

 

 布は薄めで光量を抑えるだけで、柔らかく光を通す。


「真っ暗は苦手なので…」

「構わないわ」


 

「あなた、ウィルの事好きでしょ?」

「え!?」


 マリーダさんが突然言った言葉に驚き、ちょっとむせてしまった。


「大丈夫?」

「大丈夫です…」

「図星だったでしょ?」

「あはは…」


 マリーダさん達の前では、特に仲良さそうにしてたつもりないんだけど…。


「どうしてそう思うんですか?」

「どうしてってて…食事の時、ウィルと隣同士だったでしょ?」

「はい」

「隙間なく座ってた。二の腕のくっつくくらいに」


 そうだったかしら?

 

「全員座るには狭かったから…」

「いや、それなりに余裕があったわ」

「そうですか…」


 無意識にウィルに近づいていた?


 気をつけないと。


「で、どうなの?」

「どうなの?って言われても…」

「わたしはお似合いだと思う。ウィルもあなたの事好きなはずよ」


 その通り。

 彼は、私の事を好きと言ってくれた。

 私も好きと返事をしたのは事実。


 それで進展しかのというと、あの日以降何もない。


「お互い好きである事は事実です」

「そう」


 マリーダさんの そう は嬉しさこもっているように聞こえてた。

 

「でも、その事はソニアしか知りません」

(おおやけ)にはしてないんだ」

「はい。公にする気は、ありません」

「どうして?」

「領主と補佐官だからです」

「領主と補佐官って付き合っちゃいけないの?」

「はい」


 補佐官は、領主の支えや助けと同時に統制も兼ねている。


 もし領主が暴走し、損害が出ると判断した場合には補佐官が止めなければいけない。

 そういう立場。


 領主と補佐官が結託するとなったら、領運営がおぼつかなる可能性が出てくる。



「そうだけど…領主と補佐官で前に 男と女 なのよ?」

「分かっています」

「なら…」

「私は、ウィルにひどいことした。だから…」

「ひどいことって?」

「マリーダさんには言えません」

「いやいや」


 彼女は起き上がり、私を見る。


「そこまで言ってそれはないでしょ」

「すみません…」


 彼に後ろめたい気持ちがある。

 と、同時に抑えきれないくらい、彼が好きな気持ちもあるのも事実。



「リアン。あなたはそれでいいの?」

「…」


 良くはないけど、今はそうするしかない。



「リアン?」

「もう寝ましょう…。マリーダさんも、今日は疲れたでしょう…シュナイツについて早々、商談でしたし…」

「ええ。そうね」

 

 私は急に眠気が襲ってきたふりをして、黙った。




「ここがお前の部屋か…」


 ジョエル達が部屋を見回している。


「元はシュナイダー様の部屋だよ」

「マジか!?」

「ご本人様が化けて出ないだろうな…」

「一回出たけど?」

「おいおい…冗談はよしてくれよ。亡霊とか、マジで勘弁だぞ」


 キースが怖気づく。

 

 彼は体格が良い見た目に反して、小心者だったりする。



「部屋のすみにあるあれはなんだい?」


 ティオが指さす。


「あれはシュナイダー様が使っていた鎧だよ」

「へえ。見てもいい?」

「どうぞ」


 ティオとともに鎧に近づく。


「やめとけって…」

「キース。お前、ビビりすぎだ」


 ジョエルがキースを笑う。



 鎧に掛かっていた布を取る。


「これが…」

「すげえな…中々お目にかかれないぜ」

「戦時中に使ってた物?」

「らしいよ」


 鎧にはいくつもの傷があり、当時を状況をものがっている。


「これ、オークションに出したらかなりの値がつくぞ。一財産築ける」

「しないよ。そんな事…」

 

 ヴァネッサが激怒するよ。きっと。



 寝る場所を決め、体を拭いてから横になる。が、ランプは灯したまま。


「おやすみなさいませ」

「おやすみなさい」


 マイヤーさんが一礼し、去っていく。



「疲れた…」


 ジョエルが寝ながら背伸びする。


「ここに来るだけで、一仕事だろう?」

「ああ…。でも、意外と元気そうで安心した」

「賊の襲撃を受けたわりにはな」

「領主の手腕によるところがあるんじゃないかな」

「それはないと思うよ」

 

 僕が何かをしたわけじゃない。


 みんなそれぞれ、自分がしなければいけない事をしてるだけだ。



「おれは、お前が領主をしなきゃならん理由が、未だにわからん」

 

 キースはそう話す。


「それはもう聞いたろ?シュナイダー様が、ウィルを指名した」

「だから、何でウィルなんだよ」


 ジョエルが起き上がり、キースと話す。


「それはわからん。わからんが、指名された以上どうする事もできない」

「ジョエル。お前だったら、どうしてた?」

「どうって…」


 ジョエルは言い淀む。


「普通は断るぜ。おれならそうする」

「決めるのはウィルだ。彼がそう決めた以上、ぼく達がどうこう言うべきじゃない」


 ティオがそう話す。


「ウィル。お前は本当に後悔してないのか?」

「してないよ」


 キースにそう答えた。


 本当にそう思ってる。


 辛く大変な事だけれども、それ以上にやりがいがある。


「僕は後悔していない。むしろ感謝したいくらいだ」

「感謝する事か?」

「僕自身が思っていた世界や価値観がガラリと変わって広がった。商人だったら、絶対に見えない事に触れて、感じる事ができた」

「そうか?…」

「キースはあまり変化を好まない性格だからな。わかんないんじゃね?」

「バカにしてんのか?」

「人それぞれって事さ」


 少し怒り顔のキースをティオが宥めている。


「おれは、ウィルを気づかって言ってるんだぞ」

「わかってるよ。だけど、君はどうこう言ったって状況は変わらない。そうだろう?」

「そうだが…」


 僕も変化を望む性格ではない。いや、ではなかった。

 

 変化を体験しなければ、その変化は分からない。

 


「ありがとう、キース」

「別に礼を言わるほどじゃ…」

「だけど、言わせてもらうよ。今こうして、こういう話をしてるのも領主になったからできるわけで」

「お前…変わったな。おれの知ってるいつもお前だと思ってが…」

「そう?変わったつもりはないんだけどなぁ」

「使用人や兵士に指示してる姿は、おれは知らねえ。いい意味で、化けちまった」


 彼は、腕を組み考え深く話す。


 そんな彼に、ジョエルとティオは苦笑いを浮かべている。


 

 その後も話していたが、少しづつ口数が減り、皆眠ってしまった。




Copyright©2020-橘 シン

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