24-7
ウィルが、使用人すべての制服を作り直すと言った。
「良いじゃない。オーベル、そうしましょ?」
「…」
オーベルはいい顔をしない。
わかってたけど。
「ウィル」
「ん?」
「廊下に行っててもらえる?私が話すわ」
「いいけど…大丈夫?」
「オーベルとは、あなたより付き合い長いし、あなたにばかり負担はかけたくない」
「負担にはならないよ」
「いいから」
「はい」
ウィルが廊下へ出て行った。
私はオーベルに近づいて、彼女の肩に手を回す。
「ねえ、オーベル」
「はい」
「制服を自分で作る事は良いことだと思う。でもね、あなたの負担になるのは避けたいの」
「このくらいの事は負担にはなりません」
「かもしれない…。こう言い方は失礼だと思うけど、年齢を考えてほしいの。あなただって、いつかは引退する時が来るでしょ?」
言いたくなかったけど、オーベルのために私は話した
「はい…それは…」
「私は、あなたが元気なままで、できるだけここにいてほしいって、そう思ってる。私だけじゃない。みんなそう思ってるわ」
そばにいたシンディを見る。
彼女は私に頷く。
「わたくしがいなくても…」
「やめて。そういうの」
私は、つい語気を強めてしまった。
「申し訳ございません…」
「私の方こそごめん…。オーベルには、ここに来てからずっとお世話になってて、この前も…だから負担をかけたくなくて…」
「リアン様…」
様をつけられるほど、偉くないし出来も良くない。
「リアン様が、そこまで仰るのなら…わかりました。すべてお任せいたします」
「ありがとう、オーベル」
彼女と軽く抱きあう。
「いけませんね。歳を重ねると、どうしても頭が固くなってしまって」
「真面目過ぎるのよ、あなたは。少しぐらい楽したって、誰も怒らない」
「ええ。でも、下の者の手本にならければいけないと、さんざん教え込まれので…」
「ちゃんと休むことも、教えてあげて。大事な事よ」
「はい。かしこまりました」
体を離し、オーベルを見ると少しだけ涙くんでいた。
「申し訳ありません…用事を思い出しました。一旦、失礼したします」
そう言うと足早に多目的室を出て行く。
リアンに言われた通り、廊下で待っていると、オーベルさん一人だけが出てきた。
僕と目が合うと一礼し、すぐに立ち去って行く。
「ウィル。終わったわよ」
戸口からリアンがそう話す。
「どうだった?」
「私達に任せるって」
「そう」
それはよかった。
「何を話したの?」
「別に大したじゃない。シュナイツにできるだけ居てほしいから、無理をしないでって」
なるほど。
オーベルさんに長く居てほしいのは僕も同じだ。
「年齢を考えてほしいって言っちゃった。卑怯な言い方よね…」
「オーベルさんは怒ってなかったんでしょ?」
「うん…」
「そうなら、大丈夫だよ」
オーベル自身もわかっているだろう。
わかっているからこそ、元気であることを証明したいかもしれない。
商談については、使用人の制服とキースの修理以外は大方片付いた。
最終的な交渉は残っているが、時間がかかるものではない。
夕食時までには全員が多目的室に集まった。
「ウィル。これ、先生からな」
「うん。ありがとう」
ジョエルから薬の買い取りリストを受けとる。
「予算内に収まっているね」
「そりゃ収まるように調整するだろ?」
「オーバーしてもいいように、追加の予算は確保してあるんだ」
「そうか…大丈夫なのかよ?補助金の件は聞いたが、贅沢できる金額もらってるわけじゃないんだろ?」
ジョエルに後ろから、ヴァネッサが近づく。
「臨時収入があったのさ!」
ヴァネッサはそう言って、ジョエルの背中を叩く。
「痛って!」
ジョエルが思わずひざまずく。
「え?そんなに痛かった?」
「大丈夫?」
「俺…兵士じゃ…から…」
「情けないねぇ…」
「マジで…ふざけないでくださいよ」
彼は涙目で立ち上がる。
ヴァネッサは笑いながら離れて行く。
「何なんだよ…。あー、臨時収入?って?」
「死んだ賊から漁ったのさ…」
僕は小声で話す。
「賊から?賊が大金持ってるわけないだろ」
「色々わけありでね。詳しく聞きたいなら、ヴァネッサに聞いて」
「…やめとく」
ジョエルはうんざりとした表情で、席につく。
「どうして?」
「払ってくれれば、それでいいって。金の出所なんざ聞いたって、こっちの手元が増えるわけじゃなし、妬みしか生まれない」
「確かに。逆に根ほり葉ほり聞いてきて、足元を見る人もいるしね」
「あーいるな。商談終わってんのによ…空気読めっつうの」
そう言いながら、紅茶を飲み干す。
夕食時は、ジョエルとアリス、ジル、ソニアも加わり、いつもより大人数での食事となった。
おしゃべりなミャン、マリ姉、男性陣の中ではよく喋るジョエルが、場を盛りげる。
夕食の後も、紅茶の飲みながらの談笑を楽しんだ。
「ワインでもあればねぇ…」
「残念ながら」
「持ってくればよかった」
マリ姉はそう言って残がっていたけど、ワインなんか持ってきたら収集がつかなる。
「わたしは、そろそろ失礼ます」
アリスが、そう言って立ち上がった。
「もう寝る時間?」
「いいえ。任務の時間です」
「任務って?」
マリ姉は、僕やヴァネッサを見る。
「彼女は明日の朝まで、見張り番なんだ」
「完徹で?嘘でしょ?」
「アリスは、ジルもだけど吸血族で、昼間は苦手だから夜の任務につく事が多いんだ」
「あたしらなんかより気配に敏感だし、すごく助かってる」
「だからって…人使いが荒すぎない?」
彼女は怒りを込めて語気を強めて話す。
「マリーダさん。お心遣い、感謝します。わたしは平気です。シュナイツには、ジルともども命を救われているのです。この程度の事をできなくては恩返しにすらなりません」
「そう?…」
「それに、わたしはこの任務に誇りさえ持っています」
アリスの言葉に、マリ姉は何も言えず、頑張ってと声をかけただけだった。
「はい。いってきます」
アリスは一礼し、ジルとともに多目的室を出ていく。
「そうまでしないといけないとは…大変なんだな」
キースがティーカップをいじりながら、そう話す。
「慣れるもんだよ。意外ね」
「お前…」
僕の言葉にキースは苦笑いを浮かべる。
シュナイツだけが、特殊なんだろう。
それが身につき、当然のことと常識化してしまっている。
「ヴァネッサも見張り番するの?」
「たまにね」
「隊長でもやるんだ」
「ミャンはやらないけどね」
「ミャンちゃはやらないんだ?どうして?」
「やらせたら昼間、眠いからってずっと寝てるから」
「エヘヘ」
ミャンの悪びれない様子に、クスクスと笑いが起きた。
談笑は続いたが、リアンが欠伸を噛み殺した事に気づく。
彼女も僕に見られた事に気づいたようだ。
「ごめん…」
「いや。いつもなら、もう寝てるよ」
リアンの欠伸がうつったのか、何人かが欠伸をし始める。
「もう寝ル…ファア…」
ミャンが欠伸をしながら、立ち上がった。
それをきっかけにライアとエレナも立ち上がり、多目的室を出ていく。
「俺らはどこで寝ればいい?」
「ここって客間はあるのかしら?」
「ないよ。そんなものは」
ヴァネッサが少し笑いつつ話す。
「客が来る想定はしてないからね」
「謁見室はあるのに?」
「なんで作ったんだか…今じゃ、洗濯物を干してるよ。雨の日だけだけど」
「じゃあ、おれらがそこで寝ますよ」
謁見室を使うのはどうかと思うけど、有効活用という点では間違っていない。
「ねえ、ウィル」
「何?マリ姉」
「あなた達は自分の部屋を持っているのよね?」
「うん。持ってるよ」
「リアンも?」
「もちろん」
「そう…」
マリ姉はリアンを見つめ頷く。
「リアン。あなたの部屋で、一緒に寝てもいい?」
「私の部屋に泊まるの?」
「ダメかしら?」
「別にダメじゃないけど…」
リアンはそういいながら、僕を見る。
「ウィルの部屋で寝たらどうです?久し振りに会っただし」
「元気な事は分かったし、そこまでする必要はないの。リアン、あなたともう少しお話ししたい」
「私と?」
リアンは戸惑いつつも、マリ姉の押しに負けて一緒の部屋で寝る事なった。
「なら、おれ達はウィルの部屋で寝ようかな」
ジョエルがそう言い出す。
「男同士で積もる話もあるだろ?」
「これ以上、何を話すのさ?」
「いいじゃねえか。な?」
ティオとキースに話を振る。
「まあ、なくはないが…」
「ぼくはすぐに寝るけどね。ウィル。三人寝れるのスペースはあるのかい?」
「スペース的には大丈夫だよ」
「よおし。部屋行こうぜ」
という事で、マリ姉はリアンの部屋、残りの男性陣三名は、僕の部屋に泊まることになった。
Copyright©2020-橘 シン




