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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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24-6


「工場ですか…費用がかかるのでしょう?自分で作れば、生地と糸とボタン代だけですみます」


 費用だけを考えたら、オーベルさんの主張は正しい。


「仕事しながらですよね?時間がかかりますよ」

「わかっております。作る事も仕事の内ですから」

「作ってもらったら?楽するわけじゃないのよ。費用は出すんだし」

「ですが…」


 この人、根っからの仕事人間なのね。


 わたしもそうだから、彼女のの気持ちがわかる。



 オーベルさんと話をしてる時に、シンディさんが入ってきた。


「ウィル様が、領民も一緒に商品を選んでもらってほしいと」

「そう。じゃあ、サンプルを見て」

「これよ」


 リアンがサンプルについて説明してくれた。


 メイド達と領民の女性達が、楽しそうに会話をしながらサンプルを見てくれてる。


 わたしは、オーベルさんの腕を引き、テーブルから離れた。


「費用がかかっても、その分オーベルさん達の負担が減ります」

「確かに…そうです」

「そもそも費用もさほどかかりません。工場で作ってるのは、宮殿にいる使用人や事務方の制服なんです。デザインやサイズは決まっていて、数が増えたところでやることは同じ.。工場の負担にはなりません。むしろ注文数が多いほうが安くすむこともあります」


 商魂たくましいわね、わたしも。


「なるほど…」


 と、彼女は言うが、雰囲気から手応えはない。



 やはり費用がネックか。


 費用は、当然オーベルさんが出すわけではない。

 

 シュナイツの財布からだし、負担をかけたくない気持ちはわかる。



「生地代だけで、お作りします」

「生地代だけでですか?損するのではありませんか?」

「損はしませんが、さほど儲かりもしません。トントンですね」

「そうですか…」


 オーベルさんの態度は変わらない。

 

 ここまで推してダメなら、一旦引いたほうがいいわね。


「わかりました。とりあえず、話はなかったこと」

「申し訳ございません」

「いえいえ。わたしのほうこそ、無理に話を進めてしまってごめんなさい」


 わたしはオーベルさんから離れ、サンプルを見ている領民とメイド達の輪に入る。



「ダメだった?」


 リアンがオーベルさんのほうを見ながら話しかけてきた。


「今のところはね…」

「私は良いと思うんだけど。私が言っても渋るでしょうね」

「彼女なりの、こだわりがあるんじゃないかしら」


 良く言えば真面目で、言い方を変えれば頑固者かしら。


「マリーダさんのお店の制服って、オーベルが宮殿いたころにも納品してたんでしょ?」

「してたはずよ。わたしが今のお店に入った時には、もう納品してたし」

「なら、いいじゃない?」

「そうね」


 オーベルさんような人は初めてではない。


 好条件を提示しても、商談が成立しない事なんてざらにある。


「ウィルに頼んで見るわ」

「ウィルにどうにかできる?」


 リアンと小声で話す。


 オーベルさんはシンディさんと話をしていた。


「そこは領主権限で」

「領主がいいと言ったら、何も言えないじゃない?」

「そうなんだけど、そうなる前にうまくやるはずよ」


 彼女は自信を持って話す。


「初対面の相手じゃない。知った仲なんだから」

「手の内は知ってるのね」

「うん。そういうとこ何度も見てきてるから。私も協力するけど」

 

 なら、ウィルに話してみるか。



 商談自体はうまく進んで、大方の注文は出揃った。


 メイド達の制服は別にして、予算内に収まっている。



「結構な量じゃない?」

「いいのかしら…」


 領民の女性達が心配そうだ。


「いいのよ。必要だからお金を出したんだから」

「でも…補助金からですよね?」

「ということは王国からということになりませんか?」

「元を辿ればね。補助金はシュナイツに与えられたものだし、どう使おうと勝手。贅沢するわけじゃないんだから、気にする必要はないわ」


 とはいえ、それなりお金が動く事に怖気づく事はある。


 わたしだって、最初の大きな契約で及び腰になった。

 責任がぐっと増すのよね。




 ティオとの商談はグレム達に任せ、多目的室へと戻った。 


 多目的室では、メイド達と領民の女性達で会話が弾んで盛り上がっていた。


「盛況だね」

「当たり前でしょ」


 マリ姉は得意気に笑う。


「ここで盛り上がらずに、どこで盛り上がるのよ?」

「確かにそうだね」


 商売する側からしたら、今が売り時だ。

 そのためにシュナイツまで来たんだから。



「ウィル。そっちは、終わったの?」

「グレム達に任せてきたよ。任せたというか、後は任せてほしいって」

「そういう事。こっちもだいたい終わったわ」

「そう。リスト見せてもらえる?」


 買い取りリストを見せてもらう。


「予算内に収まってるね」

「超えるのはマズいんじゃない?収めておかないと」

「予算はあくまでも、予算だから。必要ならそれ以上出すから」

「必要ならね。今回は予算内でいいみたいよ」

「ほんとに?皆さん、これでいいですか?」


 僕はそう呼びかける。


「大丈夫です」

「これ以上は気が引けてしまって。ねえ?」

「悪い事してるわけじゃないのにね」


 領主からいいですか?と、言われたら、はい と言わざるを得ないか。


「わかりました。これで、商談成立という事で」

 

 予算書と買い取りリストをシンディに預ける。


「すぐに計算いたします」

「今じゃなくていいよ」

「よろしいのですか?」

「これは仮で、後で細かい交渉をするから」

「承知いたしました」


   

「それじゃ反物を仕分けるから、みんな手伝ってもらえる?わたし一人じゃ、時間がかかっちゃう」

「もちろん、手伝いますよ」

「ありがとう。裁ち鋏かナイフあったら持ってきて。それと、買った物が汚れにないように、使い古しの麻袋や麻布もね。外で落ち合いましょう」

「はーい」

 

 メイド達と領民達が一斉に多目的室を出て行った。


 

「マリ姉は、行かないの?」

「行くわよ。けど、その前に…オーベルさん、ちょっといいですか?」


 彼女はオーベルさんを呼ぶ。


「はい」

「さっきの話、もう一度考えてもらえませんか?」


 ん?さっきの話?


「悪い話じゃないと思うんです」

「わたくしも、悪い話ではないと思いますが…やはり…」


 何の話だ?


「リアン。僕がいない間に、何かあった?」

「大した事じゃないのよ。オーベルは自分達の制服を作り直したいの。でも、大変でしょ?」

「うん」

「それでマリーダさんが、うちの工場で作りましょうか?って」


 そういう事か。


「オーベルは断った」

「え?何で?」

「制服を作るのも仕事内だってさ」


 オーベルさんらしいといえば、らしい。


「マリーダさんは、生地代だけでいいとまで言ったのに…」


 生地代だけとは、破格だ。

 

 マリ姉の所の工場の制服は宮殿に収めてる。

 

 そのへんで売ってるものとはわけが違う。上等なものだ。


 生地自体の質の違いはあるだろうが、それを差し引いも破格であるのは間違いない。



「オーベルさん。僕は、いいと思いますよ」

「ですが…」


 マリ姉に制服を依頼することは、怠慢ではない。


「後はあなたに任せるわ」

「え?ああ、うん」


 マリ姉は、僕の肩を叩くと多目的室を出ていってしまった。

 

 マリ姉が出て行ってどうするんだよ…。

 商談するのはマリ姉なのに…。



「メイドとしての仕事の合間に作業しますので、ウィル様方に迷惑はおかけしません」

「仕事の合間という事は、休まなければいけない時間ではないでしょうか?お体を障りますよ。そうなったら、メイドとしての仕事に影響すると思います」

「ウィルの言う通りよ。オーベル、あなた自身やメイド達の体を考えて」

「はい…」


 オーベルさんが悪いわけじゃない。


 メイドとしての仕事ぶりは完璧だ。完璧すぎるんだ。

 

 それが、彼女の才であり難点でもあった。


 

 領主として命令すれば、事は速やか解決する。

 だけど、僕はしたくなかった。


 

「まずは、紅茶を一杯いかがですか?」


 マイヤーさんがティーセットとともに多目的室に入ってくる。


「紅茶を飲んでいる間に解決するやもしれません」


 そんなわけないでしょ、とリアンが小さく呟いた。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 マイヤーさんからティーカップを受け取る。


 受け取った時、彼の服が目に入った。


 彼の服もメイド達の服同様、くたびれている。

 補修の跡にも気がついた。


 

「マイヤーさんの服も作り直しましょう」

「わたしの服もですか?」

「はい。メイド達の制服のついでにさ。シンディ、君も」

「わたくしもですか?」

「そう。オーベルさん。使用人すべての制服を作り直す。ということならどうです?」


 僕は、そう彼女に提案した。



Copyright©2020-橘 シン

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