24-5
「…になりますね」
「うむ…」
トウドウ先生は、俺の説明を聞いた後、腕を組み唸る。
「いかんなぁ、これは…」
「何がです?」
「いや、お前さんの薬の事ではない」
「はあ…」
「薬の知識が一昔前で止まっている」
「先生、仕方ありません。ここでは、情報が入ってくる事が皆無ですから…」
「そうだが、それではいかん」
薬、医療に関してがサウラーンが進んでいいる。
その情報を、シュナイツで手に入れる事は不可能だろう.。
せめて王都にいる事が必須だ。
「ミラルド。お前、一度サウラーンへ戻れ」
「戻ってどうしろと?」
「勉強しなおしてくるんだ」
「サウラーンでなくても、フリッツ先生がいるではありませんか」
トウドウ先生とミラルド先生は師弟のようだ。
「お前には、もう教える事などないよ」
「そんな事ないです」
「さっきも言ったとおり、知識が止まっている。薬だけこれだ。医療技術もわたしらの先を行ってるはすだ。なあ?」
トウドウ先生が俺に問いかける。
「でしょうね。サウラーンに帰るたびに新しい情報がありますから」
「なら、サウラーンに帰るべきだろう」
「先生をお一人にするわけには…」
「ここなら、わたし一人でなんとかできる。シエラもいるしな」
「年齢をお考えください。先日の襲撃でも、お辛かったはずです。私が気付かないとでも思っていたんですか?」
「…」
ミラルド先生の口調は厳しい。
トウドウ先生はばつが悪そうに、ミラルド先生の視線から逃げた。
「ジョエル、お前さんはどう思う?」
「俺に、振らないでください…部外者ですよ」
シエラさんが笑いを堪えている。
「先生、とりあえずどのお薬を買うか、決めましょう。サウラーンへ戻るかどうかは、後日に」
「おう、そうだな」
雑談を交えつつ、商談となった。
ほとんど、ミラルド先生とシエラさんに任せられていたけど。
「ウィルと知り合って長いのか?」
「ええ、まあ。あいつが孤児院を出た時くらいからだから…十年くらいですかね」
「ほお」
「まさか、領主になるなんて、びっくりですよ。ヨハンさん…あ、ヨハンっていうのは…」
「知ってる。祖父だろう?」
「そうです。そのヨハンから独り立ちした時は、ちゃんと食っていけるのか、心配したもんです」
俺の杞憂だった。
才能があったんだな。それとも、俺の教え方がうまかったか。
「ウィルは、何でもそつなくこなす才があるのかもな。大工までやるし」
「そうなんですよ。大工やってたって聞いた時は、何やってんだよって仲間内で笑いましたよ」
「剣の才能はないけどね」
いつのまにか、ヴァネッサ隊長が来ていた。
「始めるのが遅かったのかもな。十代から始めるいれば、お前くらいの腕前になってかもしれない」
「ないない」
彼女は手を振って否定する。
「いやいや、わかんないっすよ」
「あいつは優しすぎるんだよ。殺しはできない」
「あーそれは…」
「殺れない剣に意味はない」
ヴァネッサ隊長は、そう言うとミラルド先生とシエラさんに近づき話し始めた。
「何で、領主なんて引き受けたのか…あいつには荷が重い気がするんですよ。今でも」
「確かに重いかもしれんが、今更辞める事はできない」
「そうなんですけどね…」
「ウィルは、よくやっているよ。貢献度が竜騎士のヴァネッサに匹敵する」
先生の言葉にヴァネッサ隊長が振り向く。
「あたし以上でしょ。確実に」
「お前さんが、褒めるとは珍しいな」」
「あいつがいるからシュナイツが成り立ってる」
「いなかったら…引き受けていなかったらどうなってたんです?」
「あんたとこうして話してない」
「そうか…ミラルド先生やシエラさんとも会えなてかった…それはまずいな…」
ウィルが領主で良かった。ほんとに。
綺麗どころ知り合えたのは、あいつのおかげだもんな。
「あんた、何言ってんの?」
「え?別になんでもないですよ…ははは…」
睨んでくる顔がすげえ怖い。
「体調には、気を使ってほしいですね。ウィル様あってのシュナイツなんですから」
そう言いながらシエラさんが商品のリストを返してくれる。
リストには購入希望の商品に記しが付けられ、購入数量が記載されていた。
「ありがとうございます。…あの、体調って?」
「ウィル様のことです。一度、お倒れになったんです」
「あー…やっちゃたか」
「あんたは知ってるみたいだね」
「まあ…たまにあるんですよ。俺か滋養の薬を渡してあったんですが…あいつ飲んでるのか?」
「そんなのあるんだ」
「ええ。でも、渡したの大分前だからなぁ。言ってくれれば、ギルド経由で渡せるのに…」
「気を使ったんだでしょ」
「使い方間違ってるつうの…」
あいつらしいといえば、らしいけど。
「その滋養の薬、今日持って来てます?」
「ええ、持ってきますよ」
リストと確認する。
「これです。記しと数量書いてありますね」
「それですか。先生、これもっと買っておきましょうか?」
「うむ。そうしておいてくれ」
無理すんなって、俺からも言っておこう。わかってると思うがな。
「マリーダです」
「オーベルでございます。遥々、シュナイツまでお越しいただきありがとうごうざいます」
メイド長らしく丁寧な挨拶。
メイド数名とも挨拶をした。
用意されたテーブルにサンプルを広げていく。
「予算はあまりないって手紙にあったんで、絹素材は持って来てない。八割が綿素材で、二割が麻素材よ。柄物もなし。単色のみ」
「うん。いいわよね?オーベル」
「もちろんでございます」
「糸も同じ。それから、縫い針、まち針とボタンも持って来たわ」
「これ全部、マリーダさんが扱っているんですか?」
メイド達が驚いている。
「いつもはもっと少ない。シュナイツは物入りらしいから、今日は多め」
「へえ」
メイド達が生地を確認しながら、話し会う。
「同じ色でも触った感じが、結構違うね」
「うん。厚みも微妙に違う」
「ほんとだ」
「厚みがあるほうが単価は高くなるわ」
「じゃあ、薄いほうで?…」
「厚みがあるほうが、丈夫で長持ちするのではありませんか」
オーベルさんの言葉に、わたしは頷く。
「そのとおりです」
「え?でも、高いって…」
「用途によるのよ。高いもの買って、大事に使うか。安めの買って、数を揃えるか」
「そういう風に考えないといけないのね…」
これは好みだから、売り手のわたしからは、どうこう言わない。
「オーベル。どうするの?」
「両方買っておけばいいかと」
「そうだけど…両方買うだけの予算ある?」
見せてもらった予算書を見る限り、かなりの量を買える。
ないとは言いつつ、ウィルは思い切ったわね。
「ウィルはそれなりの予算を組んでるわ。十分な量を買えるはずよ」
「オーベル。ほんと?」
「はい。多すぎるではないかと思うほどです」
「そうなんだ…」
買う物の選定は、オーベルさんに主導権あるみたい。
「これとこれを…二十。これは三十…」
「はい」
「針類は…」
彼女は迷いもせずに選んで行く。手慣れてるなぁ。
「オーベルさんって、ずっとシュナイツに?」
「いいえ。ここに来る前は宮殿におりました」
「宮殿?王都のですか?」
「そうでございます。これを五十…いえ、四十でお願いします」
「あ、はい…」
仕草から貴族に雇われてたのかと思ったら、更に上の所だった。
「オーベルはメイド長だったのよ」
「へえ…ええ!?宮殿のメイド長!?」
「そうよ」
「そうよって、なんでシュナイツに…」
「シュナイダー様に頼まれまして。頼まれた時にはメイド長ではなかったので、お引き受けしたのです。何より、シュナイダー様からの依頼を断るわけにはいきませんから」
メイド長を引退したからって、お払い箱じゃないはず。
「引き留められましたが、わたくしがいなくなって仕事が回らないようではいけません。回るように後進の指導をしてきたので、シュナイツに参りました」
「厳しい…」
「普通ですよ。前任者もそうでしたから」
話し方や雰囲気から、自信と自負が見える。
この人、相当な力量を持ったメイド長だったはず。
侮れないわ…。
「オーベルさん。黒と白の生地、他のより少し多いですね」
注文を確認していた時に気づいた。
「それは…わたくし達の制服を作ろうと思いまして」
「制服?今来てる服ですか?」
「はい」
型紙を大事にとってあるという。
「たいへんじゃありません?」
「ええ。ですが、大分くたびれしまって、どうにかしなければと思っていたのです。この機会を逃してはいつ機会が巡ってくるかわかりませんので」
「なるほど」
オーベルさんが一人で作るわけじゃないと思うけど、全員分作るとなると相当な時間がかかる。
「わたしを雇ってくれている店は工場も経営してるんです。そこで制服を作るというはどうです?」
わたしはそう提案してみた。
Copyright©2020-橘 シン




