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ショートショート集

それは、さよならじゃなくて

作者: 青樹空良
掲載日:2023/05/17

「もう、会えるのは最後だね」


 夕暮れの教室で君は言った。それはそれは、神妙に。

 泣きそうな声で、泣かないように我慢した顔で。

 今にも泣きそうに震えながら、セーラー服の裾をぎゅっと握って。

 その姿があまりにも辛そうで、僕も黙ってしまった。

 僕はそっと手を伸ばす。

 そして、ぽんぽんと軽く彼女の頭を撫でるように叩いた。

 これくらいは今だって許されるだろう。

 部活をしている生徒たちのざわめきが遠く聞こえる。


「だって、もう行っちゃうんでしょ? 明日になったらさよならなんでしょ?」


 彼女はそう、信じてる。


「確かに、ここではね」

「明日になったらいなくなっちゃうんでしょう? そうしたらもう会えなくなるんだよ」

「そうだね、最後だね」


 僕は言う。

 そう、最後だ。


「ねえ、それなら最後にキスくらいしてよ。それくらい、いいでしょう?」


 本当に彼女はしょうがない。


「だから、ダメだって。俺たち、まだ先生と生徒なんだから」

「……バカ」


 彼女が涙目になる。

 そんな顔をされても困る。本当にキスしたくなるから。

 だけど、今はダメだ。

 それに、お別れのキスなんて悲しすぎる。


「もう会えなくなるなら、それくらいしてくれてもいいのに! バカ!」


 とうとう涙目になった彼女は教室を出て行ってしまいそうになる。


「待て、って!」

「なんで!?」


 俺は彼女の腕をつかんで止める。


「誤解だって。まだ、ダメって言っただけだよ」

「え? どういうこと?」


 彼女がきょとんと俺を見上げる。


「ん、そうだな。今はさすがにまずいけど、教育実習終わったらLINE教えるから。そしたら、外で会お」

「……え。先生、生徒には絶対教えないって」

「実習の期間が終われば別。そしたら、俺なんてただの大学生だから」

「あ」

「だからさ、そしたら先生はやめてくれる?」

「……うん!」


 彼女の顔がパッと輝く。


「それからなら、キスなんていくらでもするから。最後の、なんて言わないでさ」

「バカ!」


 今度は彼女が顔を真っ赤にする。自分から言い出したくせに。

 本当は今すぐにでもしたいけど。

 抱きしめてしまいたいけど。

 今は、彼女の幸せそうな笑顔だけで充分だってことにしておこう。


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