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素晴らしい国の素晴らしい王子

作者: 乃木太郎
掲載日:2022/06/17

今は昔、とある小国に一人の王子がお生まれになりました。父王に似て目もとが艷やかでこちらが恥ずかしくなるほど美しくまだ赤ん坊の時分から愛嬌がありどんな方でもいつもにこにことしていらっしゃいます。一目見ればかの有名な武神でも思わず笑みをこぼさずにはいられない、それはそれはたいそうお美しい王子でいらっしゃいました。


※ ※ ※


かの王子はまたご聡明で快活で大変好奇心の強いお方で、ときどきその悪戯心から城下に出ては民草の生活をご自分の目で見聞きしていらっしゃいます。一部の口さがない者は将来の愚王と噂しておりましたが、王子の御心がお変わりになることはついにないようでございました。


※ ※ ※


ところで、この世は自分に似た人間が三人はいるという話がございます。神に選ばれた高貴な王子でいらっしゃいますから、そのような夢物語をも現実のものとしてしまわれたのでしょう。王子は数奇な巡り合わせにて、ご自分にそっくりなお方に出会われたのです。


※ ※ ※


王子とかの君はお顔ばかりか、話し方や仕草もやはりどこか似ているところがあり、お二人はすぐに意気投合なさいました。かの君は貴族と呼ばれる身分ではありませんでしたが、幼少からご立派な御心の王子はそのような些末なことは気にも留めず、お二人は王子がたびたび城下にお下がりになるときにご親交を深めておられたのでございます。


※ ※ ※


ご自分がいずれ王となることにご不満は一切なかったのではございますが、王子は父王のお決めになったご婚約に多少よろしくないと思われるお心があり、かの君にすっかりご自身のお気持ちをお打ち明けになりました。かの君はすぐさま目の前のご親友のために、自分が身代わりとなりそのお相手に会ってみよう、きっと素晴らしい方に違いなく君の暗い気持ちなど吹き飛ぶような報告をしてみせようとおっしゃいます。そうしてお二人はご自身の着ていらっしゃるものを交換ししばしの間お互いのご身分を取り替えることになったのでした。かの君を普段ご自分が使う隠れ道にお連れし、王子はかの君の帰りをたいそう心待ちにしていらっしゃいました。


※ ※ ※


幾度太陽がのぼりそしてまた沈んだでしょうか。かの君はいつになってもその隠れ道からお戻りになる気配がございません。もしや入れ替わりが発覚し恐ろしい目にあっているのではないかと王子は不安でたまりませんでした。かの君の生家はその日の暮らしが精一杯のところで、入れ替わっている以上、王子もかの君に代わり様々なことをお仕事としてやらねばなりません。それらのお仕事を終えて、王子に許されたその数時間のみ、隠れ道の側まで行くことができますが、ついぞかの君と再会することは叶わないようでございます。


※ ※ ※


そうして王子はもはや王子としてではなくかの君として日々を暮らすこととなりました。平民の労働は過酷で、どんなに働けども暮らしは楽にならず、やはり日々のパンを買うのがやっとという有様でございます。


※ ※ ※


そのような折、かの小国に大変素晴らしい慶事が訪れました。第一王子と宰相閣下のご息女のご成婚の儀が執り行われるというお話でございます。第一王子は父王に似て目もとが艷やかでこちらが恥ずかしくなるほど美しくまだ赤ん坊の時分から愛嬌がありどんな方でもいつもにこにことしていらっしゃいます。一目見ればかの有名な武神でも思わず笑みをこぼさずにはいられない、それはそれはたいそうお美しい王子でいらっしゃるとご高名な方であらせられます。


※ ※ ※


かの君は大変驚かれ、またそのときにすべてを悟ったのでございます。あのときのご自分の好奇心がご自分を殺められたのであると。


※ ※ ※


ご成婚の儀に向け、かの君はご自分にできることをと東征奔走いたしました。もちろんそれはこの国の未来のためでございます。かの君の生家は印刷を生業としていらっしゃいました。


※ ※ ※


小国には、誰にも知られていない豊かな資源が隠されている。


※ ※ ※


かの君はそれらを国中、そして周辺の国々まで知らしめ、この国が素晴らしい国であるとご自身のすべてを投げ売って伝聞なさいます。美しい髪やご自身の白い歯を売り払ってでもこのことを伝聞せねばならないとかの君は強く心に決めておりました。


※ ※ ※


第一王子がとうとう国王に就任さられた日に歴史に残る出来事がございました。国中の民が苦しい生活から一念発起し、また周辺の国々が豊かな資源を求めて王宮を取り囲んだのでございます。


※ ※ ※


そうして集まった方々により、一つの小国が地図から消えたのは、一体どれほど昔のことでありましたでしょうか。

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