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ティータイム・ウィズ・ハングドバード


「んー、侵入者かぁ」


 日課の礼拝を終えた後、パールは耳に届いたばかりの話を考えながら生徒会室に向かっていた。

 シュシュで結んだ髪を弄りながらの足取りは重くない。

 学園の侵入者というのは実の所、たまにだが現れる。

 将来世界中の重要な立場を担う者が集まる場所であり、それゆえもっとも知識と技術が集まる場所だ。

 表立ってではなくともそれを手に入れたい者はいるし、単純に入学できなかった故に逆恨みから愚かな行動を取る輩もいる。

 学園の外には警備員がいて、けれどそこで止められなかった場合。

 その対処は生徒会役員に対処が一任されている。

 生徒会は特待生であり、そして今後の生活における多大な恩恵が約束されている。だからこそ自分の学園は自分で守れということだ。

 学園は広いので、基本的に一番近くにいる生徒会役員が対応し、一般生徒は相手をせず生徒会か教師に伝えるのが原則だ。

 勿論、生徒会役員で対応できない場合、最終手段として教員が対処に当たるルールもある。


 そして今日、ウィルたちが対処したのだろう。

 心配はしてない、あまり。

 なぜなら後輩たちは極めて優秀だからだ。

 1年後輩のウィルと御影。

 2年後輩のアルマとフォン。

 彼らの戦闘力は既に世界有数であり、例えばウィルは去年の夏、聖国の一件でバルマクを下している。彼自身は気にしていないようだがつまりそれは各国において頂点に位置しているということ。

 御影は元々現在の皇国の同世代で最強であり、それゆえの皇国の皇位継承権第一位。

 フォンは連合の鳥人族に代表にも選ばれ、速度においては間違いなく世界最速。

 3人とも去年までは模擬戦をすれば割と勝ち越していたが、最近は押され気味。

 何よりとんでもないのはアルマ・スぺイシアだろう。

 あの人形染みた美貌を持つ少女は別格だと、パールは思う。

 底が見えないのだ。

 何ができてもおかしくない。

 そういう底知れなさがある。

 ウィル、御影、フォン相手なら本気で戦ってもなんとかなると思う。

 親友であり生徒会会長であるカルメンには無理をすればいけるかも。

 先輩でありトリウィアは数年修業に専念すれば勝てるかも。

 

 けれど―――アルマには何年研鑽しても勝てる未来が見えない。

 

 後輩はそういう存在たちだ。

 

「うーん、頼もしすぎて申し訳ないなぁ」


 何せ去年の一件で彼らには多大な借りができた。

 返したいと思うが彼らは本当に優秀で、自分にできることは少ない。



 もう卒業が近い。

 来週になれば三学期が始まり、二か月後には卒業式。

 この時期になると3年の生徒会にやることはなく、2年に引継ぎだけ。

 休み明けの生徒会の仕事は新1年生への入学試験の監督であり、自分とカルメンは大体の仕事を任せることになる。

 ウィルと御影ならうまくやるだろう。 

  

 この借りは将来聖国の教皇になって返したいと思う。

 明るい未来、綺麗な砂漠、民衆に優しい政治。

 ウィルは王国の貴族になったわけだし。

 何か事業をやるなら聖国として全力でサポートしてあげたい。


「さてはてー」


 そんなことを思いながら生徒会の前に辿りついた。

 中から元気な声が聞こえてくる。

 もうすぐ卒業とはいえ先輩だ。

 なら先輩らしく不審者を拘束したという後輩たちを褒めてあげなければ。

 まだできることはある。

 そう思い、明るい笑顔を浮かべながら扉を開けて、


「うおおおおおおおおおおおフォン! フォン!? 血が! 頭に血が上る! 下がる!? 分かった! 理解したぞ!」


「本当に?」


「あぁ! ――――――お前は自分の意思でウィル・ストレイトの奴隷になったんだな? まさか親戚がそんな性癖に目覚めているとは……この変態め!」


「そい」


「ぐああああああああああああ目が回るううううううううう!!」


「いや、鳥人族が頭ひっくり返して目ぇ回すわけないでしょ」


「あはは……フォン、そこまでにしておいた方が……」


「わはは、こういう拷問私見たことあるぞ? ちょっとやらかした鬼種をこうやってつるして酒盛りしながらみんなで最大何回転するか競って遊ぶんだ」


「ふむ……しかし長時間遠心力を加えられた鳥人族がどうなるかは気になりますね。鳥人族の資料は本当に少ないですし」


「……………………」


 天井から魔法で吊り下げられた鳥人族らしき男を回転させるフォンとそれを見て困った様子のウィルとそれを見て笑っている御影とその隣で何やらメモの考え事をしているトリウィアとさらに背後で呆れたように額を抑えているアルマがいた。


「…………………………」


 数秒、固まった笑顔で部屋の中を見た。

 

「……ん? パール! よく来た待っていたぞ……!」


「あ、ごめん。私もうちょっとできることがなさそうだから……」




 


 

 帰ろうとしたパールをアルマが引き止め、そして彼女に対してウィルが出来る限りの説明をしているところを見ていた御影は一先ずお茶を淹れていた。

 

「えーと……つまり」


 一通り話を聞き終えてから頭を抑えていたパールは息を整え、


「フォンちの親戚がなんか学園に来てカチコミ来たけど最初はアレっちが相手して、ウィルちが引き継いで翼折ったけど復活して、なぜか飛べなくなったフォンちが精神攻撃したらシュークェがメンタルアップダウンしてからアルちゃんが縛り上げて撤収?」


「そうですそうです」


「それから拘束して事情を聞くために落ち着かせつつフォンちが折檻で釣るして説明という名の拷問に掛けていた……と」


「完璧ですねパールさん」


「…………」


 どこか遠くを見ていた。

 それから彼女はシュシュを外し、


「………………」


 つけ直して、


「………………そっかぁ」


 半笑いで息を吐いた。


「なんだ、今の外して付けて」


「いや、ちょっと真面目状態で対応したら受け入れられるかなと思ったけど別に人格変わったりするわけでもないからあんまり意味なかったなって」


「どうにか受け入れろ……!」


「いやぁ、流石に生徒会室で釣られた人がいるのはちょっとね……」


「ははは、そういうこともあるぞパール先輩」


「嫌だなぁ」


 げんなりしているパールの前にお茶を出す。

 皇国式の緑茶だ。

 実家から取り寄せた高級品であり、生徒会室には常備しているものではある。

 御影はお茶を淹れるのが好きだ。

 生徒会面子の嗜好はわりとバラバラではあるものの、個性が出ていて面白い。

 ウィルは何気に甘いのが好きで、


「ほらウィル。抹茶オレ」


「ん、ありがとう御影」


 緑茶と牛乳、砂糖を混ぜたものを好む。

 珈琲も砂糖を入れる派だ。

 

「うーん、美味しい。皇国のお茶は独特の苦みと風味が凄いね。嫌な苦みじゃないというか」


「ふふふ、淹れる腕がいいのさ」


「さっすがー。お茶といえば、アレっちは?」


「あいつなら逃げたよ」


 憮然とした言い方をするのはアルマだった。

 彼女はウィルの隣で彼女用に通常の30倍くらい濃縮した緑茶を啜りつつ、


「スーツが焦げたとか言ってクラスメイトと帰っていった。あれは今日来ないつもりだぞ」


「へぇ、残念だねぇ」


「流石に冬休みともなれば全員は集まりませんね」


「だなぁ」


「カルメン先輩はどうしてるんでしょうか」


「あー、寝てるんじゃない? あの子休みの日は昼まで寝てるし」


「1年から相変わらずですね。……あ、どうも御影さん」


「うむ。アレスがいないから私のだが」


「いえいえ、御影さんのも美味しいです」


「ぐああああああああああ―――ぁぁぁ――……」


「あ、落ちた?」


「そう言ってもらえると嬉しい。……おい、フォン。その遊びはもういいだろう、お茶置いておくぞ?」


「あ、うん。ありがとう」


 トリウィアに渡したのは少し濃い目、フォンにはパールと同じ香辛料と乾燥した果物を混ぜたフレーバー入りだ。

 後者は皇国には無い飲み方だが、


「アレスが即席用を作り置きしてたから助かるな」


「おー、流石。こういう色んな香りある方がなじみ深いんだよね。連合はやたらハーブ使うし」


「ねー。聖国的に香辛料の風味は助かる。いやぁアレっちが生徒会入ってくれたおかげで飲み物事情が随分豊かになったよ」


「確かに、私もあれやこれや置くだけ置くようになったなぁ」


 去年の夏、世話をかけた礼として茶器やら茶葉やらを生徒会室に置くようになってから、アレスは生徒会室に入り浸っている。

 自分たちの作業中にそれぞれ好みに合わせたものを入れてくれるし、自分から会話を積極的にというタイプではないにしても話しかければ応じる。

 バカをやっていればツッコミも。

 ウィルと似て口数は少ないが、御影の未来夫はどちらかというと天然ボケで後輩は苦労性のツッコミ役である。

 可愛い後輩なのだ。

 それに関してはこの場にいるみんなの共通認識だろう。

 さっきのトリウィアの発言はアレスを生徒会として含んでいるものだったが誰も否定していない。

 本人がいたら全力で否定しながら唸っていそうだが。


「それで」


 茶を飲み、一息ついたパールが周りを見回して言う。


「なんでその不審者を生徒会に?」








「一応、規則的には拘束した不審者は生徒用の反省室に一時隔離して憲兵に突き出すって手筈だけど。わざわざここに連れてきたってことは意味があるんだよね?」


 パールの指摘をトリウィアはソファの背もたれに裏側から腰を預けながら聞いた。

 体を半身で振り向き気味で会話を聞く形だ。

 歓談用の3人がけソファは中央に机を挟んでおり、向かい側にはフォン、ウィル、アルマが並んでいる。

 こちら側は真ん中にパールがいて、フォンの正面にお茶を配っていた御影が今腰掛けた。

 ちなみにソファやテーブルの奥に吊るされたシュークェがいる。

 そして自分だけはアルマの正面の位置でソファに座らず、背もたれの後ろ側。

 なぜなら。

 この方がかっこいいと思うからだ。

 そして向かい側のウィルからはベストアングルである。

 彼女は珍しく煙草を吸わず、お茶の香りを楽しみながら口を開いた。


「その通りなんですが、ちょっと気になることがあったので」


「へぇ、トリ先輩が?」


「はい」


「……」


 返事をしたら彼女はこちらに振り返ったが、すぐに眉を顰め、


「先輩? そこ話し難いですよ?」


「なんと―――?」


「いやそりゃそうだろ。僕からそうだ……パールに対する応えとしても位置的にも」


 同意してくれたのは正気でない濃度の緑茶を飲んでいるアルマだ。

 彼女の横目の視線はフォンと目を回して意識が朦朧としているシュークェに。


「そちらの彼は憲兵に突き出せば終わりだけど、聞きたいことがある。気になることを言っていたからね」


 それは、


「フォンの不調に関して『気が乱れている』とか『仙術』とか≪龍の都カピタル・デ・ドラーゴ≫、とか」


「それは―――」


 並べられた単語、特に最後の一言にパールもまた反応した。

 それは特に彼女にとっては無視できないだろう。

 なぜならば


「≪龍の都カピタル・デ・ドラーゴ≫、カルメンさんの実家……というより龍人族の里のことですね。亜人連合の最果て、現存する最後の御伽噺」 


 トリウィアにとって人生で一度は行ってみたい場所の一つだ。

 この世界における全ての生物の最上位種であり、もっとも希少な龍人族の里。

 学術的興味がそそられないわけがない。

 学園でカルメンという後輩もいるので行くことはトリウィアにとってそれは願望ではなく予定でもある。 


「カルメンのとこから来た……って鳥人族が? 龍人族と交友あったの?」


「まさか。私らからしてもほとんど御伽噺だよ。≪七氏族祭(ドロ・ナーダム)≫にだって関わってこないし。初めて会った龍人族がカルメンだし」


 首をかしげた彼女はウィルに自然に体重を預けている。

 いつもはポニーテールの髪は下ろされて、なんだか弱々しい。

 ひとまず落ち着いたようではあるが、それでもまだいつも通りというわけではないう。


「シュークェは3年前に急に私たちの里を出て行ったんだ。この人はなんというか……鳥人族的に見てもちょっと変わってて、飛ぶ以外の武術もかなり好きだったり、魔法も風より炎が得意だったりしたんだよね。あと性格も鬱陶しいし」


「あ、やっぱ鳥人族的にもあれはあれなんだ……」


「うん、うざいよね。主も言葉を選ばなくて大丈夫だよ!」


 辛辣さが随分増しているような気がする。

 

「……ふむ?」


 気がしたのでちょっと振り返ってみるが、そういえばフォンはトリウィアに対してそこそこ辛辣だった。

 部屋が汚いとか、創作料理を作るなとか。

 わりと去年の初めから尊敬度が薄れていたような気もする。

 

「おや……?」


「多分どうでもいいこと考えてるから言うが―――トリウィア、話を進めろ」


「はぁ」


 アルマに言われたので話を進める。


「≪龍の都カピタル・デ・ドラーゴ≫について聞きたいということがまず理由の一つ。それから仙術と気、という単語ですね」


「トリィ、仙術っていうのは? 魔法とは違うの? 気はなんとなくイメージできるけど」


「良い質問だね、ウィル君」


 そう、問題はそこだ。

 

「仙術というは亜人種の生態的特徴を生かした魔法―――《《その古い呼び方》》です」

 

「そうなの?」


「あー……なんかいつだったかちらっとカルメンが言っていたような……?」


「えぇ、私も彼女が入学時に聞きました。フォンさんが聞き覚えない通り、現在亜人連合ではもう使われておらず、人種の本で一部残るくらいですね」


「ふむ。皇国が魔法を鬼道と呼ぶのと似たようなのか?」


「えぇ。究極魔法を始め、国によって呼び方が違うのはよくあることです。ですが、この場合確かな違いはあります。鬼種は強度や生態は人種と強度が桁違いですが角以外は構造的には基本的に同じでしょう?」


 ですが、


「連合の亜人種は肉体構造から違うのが基本です。細かいことを言うとエルフ種は鬼種に近いですが耳部の性能がまるで違いますね。そういったそれぞれの身体特徴を起点とした魔法が仙術とされています」


「ふむ、例えば?」


 取り出したノートを開きながらアルマが問う。

 握っている万年筆は真新しい。

 ウィルがクリスマスに誕生日プレゼントとして贈ったもの。

 数日後、トリウィアからはレアな学術書の初版本を何冊か贈ったりしたなと思い出しつつ答えた。


「そうですね。聖国で龍化したカルメンさんが周囲の威圧をしていたでしょう? あれもそうです。或いは……フォンさんがたまに翼を広げたまま空中に浮いているのもそうです」


「あぁ、空を掴むこと。ふぅん、あんまり自覚なかったな」


「…………ふむ」


「うん? どうしたのトリウィア。首が痛くなった?」


「いえ、違います。……こほん、そうですね。カルメンさんに話を聞いた時についでに連合出身の生徒に聞きましたが、やはり言葉に聞き覚えはないそうです」


「つまり、言葉として風化……というよりも共通単語に吸収されたというわけか」


「はい、そういうことだと思います」


「ふむ」


 アルマは軽く顎を上げ、そこにペンを当てた。


「珍しいね、トリウィア。君にしては少々曖昧な言い方だ」


「……えぇ、まぁ」


 苦笑する。

 流石に鋭い。

 というのも、


「《《仙術に関して人種には再現不可能だからです》》」


「ん……まぁそれもそうか」


「あー、いくらトリ先輩でも翼とか尻尾とか鱗とかないもんねー」


「魔法で似たようなことはできますが、結局ただの魔法でしたし」


 試したんだ……という視線に肩を竦め受け流す。

 この辺りは自分の性質によるものだ。

 知りたいと欲は誰よりも強い。

 だが、そこから先は得意不得意可能不可能有用不要がある。

 仙術はトリウィアには再現できず、必要でもなかったという話。


「トリ先輩の話はおもしろいけどその不審者とはどういう関係?」


「えぇ、大事なのはここからです」


 お茶を一口飲み喉を潤す。

 解説の時大事なのは溜めだ。

 このわずかな間で皆の視線を集めさせる。

 そして言う。


「仙術は私なりに解釈し、理解しました。気も同じように魔力の言いかえですね。ですが」


 それは解釈と理解だけ。

 もう廃れたものを人聞きで自分の中の枠に落とし込んだだけに過ぎない。

 ならば、そこにはまだ自分の知らないものがある可能性がある。


「彼はウィル君に翼を折られ、しかしすぐに復帰しました。―――つまりここにフォンさんが空を取り戻すヒントがあるのではないでしょうか」



パール

後輩有能だけどやっぱちょっと変なかも……


トリウィア

ふっ……かっこいい座り方!


アレス

めちゃくちゃ馴染んでいるけど

めちゃくちゃ馴染んでいると認めないけど

ほぼ毎日生徒会室に入り浸ってお茶入れマシーンになっている男


ちょっと切悪い感じだけど

続き長くなりそうなので分割しました。

本題は多分次回


☆評価ブクマよろしくお願いします!

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