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ウィル&アルマ――クリスマス・プレゼントーー

クリスマス特別編でございます


「そういえばアルマ殿は誕生日いつなんだ?」


 12月25日。

 アクシオス王国建国祭当日。

 巨大な二つの褐色の長い乳がそんなことをアルマに聞いてきた。

 否、違う。

 違ってはいないけれど話掛けて来たのは褐色の巨大な長乳を持った御影だ。

 アルマの頭くらいなら嵌りそうな赤いブラジャーを外し乳が揺れている。

 目の前の服掛けにはいつか王城のパーティーに着ていったクロノから送られた露出過多なパーティードレスだ。

 これから建国祭のダンスパーティー。

 当然アルマたち生徒会は色々な仕事があるのだが、たまたま空き時間が空いていた二人は一緒に着替えていたのである。

 

「誕生日かぁ」


 アルマも服を脱ぎ、黒い下着姿になりながら掛けられた言葉を反芻する。

 でかいなぁ、と思う。

 身長的に目線の位置がほとんど御影の胸に当たるからだ。

 反対にアルマ自身の胸部はほとんど膨らみがないなだらかな平原だった。

 まぁ、彼女自身あまり気にしてはいないのだが。

 首に揺れる南京錠のチョーカーだけで、わりと満足してしまう。

 それでもでかいなぁはやっぱり思う。

 気になると言えば中近世時代相当の世界なのに下着のクオリティがやたらに高いことだがまぁそういうこともあるだろう。

 

「そうそう、誕生日。先月はウィルのお祝いで盛大にやっただろう?」


 彼女が婿殿ではなく、ウィルと名前を呼ぶようになりしばらく経ち違和感も消えていた。

 その彼女が言っているのは先月11月11日のウィルの誕生日のこと。

 いつもの面子―――つまりは生徒会6人に加えてアレスのことだが―――だけではなく、生徒教師、学年を問わず呼んでもいないのにいつの間にか沢山人が集まってちょっとした学園パーティーになったのだ。

 このあたりは約二年におけるウィルの人望の象徴だろう。

 

「気づいたら凄い人数になっていたしね」


「先輩殿の婚約祝いも兼ねてたしな。私も祝福を貰ったりしたし」


「嬉しいことじゃないか」


「ふふん、全くだ。毎年誕生日を派手に祝う、というのは王国で始まった文化らしいが良い物だ」


「あぁ。元々は数年おきとかだったっけ」


「各国の王族とかは毎年祝うが、平民なら5年とか成人の時とか、或いは一年の内の祭りで一斉に祝うとかが基本かな。と言っても、ちょっと豪華な食事を内々で食べる程度のものさ」


「君も?」


「そうだな。食って呑んで……いや、いつも呑んでいるのだからあんまり変わらないかもしれないなハハハ」


 胸を張って揺れると当然ぷるぷると胸が揺れる。

 暖房があるとはいえ、真冬にパンツ1枚で仁王立ちしているこの女はなんなのだろう。

 天津院御影か。

 だったら仕方ないか。

 一応今の話はメモしておくかなと心の隅に置いておく。


「まぁそれでだ。ウィルは11月、私は9月、先輩殿は3月、フォンは5月で去年から誕生会やったりプレゼントしたりしてきたが、恥ずかしながら年の瀬になってアルマ殿の誕生日を聞いてなかったと今更に気づいてな。いや、申し訳ない」


「いいよ別に」


「良くない。全く我ながら情けない話だ、とりあえず乳でも揉んどくか」


「……いいって」


 ちょっと興味はあったが断っておく。


「そうか……ならウィルの誕生日にウィルと私と先輩殿がどれだけ素晴らしく熱い夜を過ごしたとかは」


「それ、君が話したいだけだろ」


「まぁそうだ。フォンはわりと興味津々で聴いてくれた」


「あぁそう……僕はいいよ」


「なら、誕生日を教えてくれ」


 それまでの話は前置きに――というわけでもなかったのだろうが、自然に話が戻る。

 御影のこういうストレートなところは美点だ。

 他意がないと言う感じ。

 彼女はドレスと手に取りながら、いつもの様に余裕そうな笑みを浮かべている。


「うーん」


 アルマも着替えを進めながら肩を竦めて答えた。


「覚えてない」


「それは、どういう意味で?」


「いや、普通に。忘れたかい? 千歳だよ僕。一々思い出せないというか、思い出すこともなかったし。誕生日って概念自体こっちに来てみんなのをお祝いして思い出したくらいだ」


「ふむ」


 アルマの言葉に御影は小さく頷いた。

 驚くわけでもなく、同情するわけでもなく、悲しむわけでもない。

 ドレスに着替えつつ―――といってもほとんど一枚の布と言っていいホルターネックドレスだが―――、その上に高そうな黒い毛皮のコートを羽織り、彼女は笑った。


「なるほど。そういうこともあるか」


「うん、そういうこともある」







 建国祭のパーティーは学園で行われるイベントしても大きなものだ。

 メインとなるのは当然ながらダンスだろう。

 各国の王族や貴族が集まるとしても、この場では思春期の少年少女。

 誰と行くかは一月前から水面下で熾烈な争いが始まっていた。

 もっとも、ウィルには関係のない話なのだが。

 基本的に男女一人づつだが、ウィル一人で生徒会の美少女を4人を独り占めだ。

 そのうち二人とは婚約しているし、一人は奴隷なのだからとんでもない話である。

 ダンスは学園から代表ペアが選ばれて生徒の前で披露するのが慣例であり、去年はウィルとトリウィアが選ばれて、ゴーティアの一件で流れてしまった。

 概ね毎年生徒会長が選ばれるのだが今回はカルメンだった。 

 どういう繋がりなのか1年の、この学園では珍しい平民出身の男子生徒を捕まえてきていたのだ。

 男子にしては少し背の低い彼と二メートル近い二人のダンスは微笑ましい―――というよりも呵呵大笑するカルメンに少年が精神的にも物理的にも振り回されているいう感じだった。


 ウィルも御影と、トリウィアと、フォンと、アルマとダンスを楽しみパーティーは進み、終わりかけ。


「アルマさん」


「ん」


 夜空の下、降り始める雪を一人見つめるアルマに声をかけた。

 所々に銀が入った黒プリンセスラインドレスの上にトレードマークになっている赤いコート。いつもより厚手に見えるのは多分、気のせいではない。

 今ウィルが来ているスーツとよく似た意匠。

 或いは彼のネクタイピンと彼女のチョーカーが対になっている。

 白い息を吐きつつ、彼女は控えめにほほ笑んだ。


「どうしたいんだい? こんなところで」


「アルマさんこそ。いつの間にかいなかったので探したんですよ」


「あぁ。悪いね。……どうにも、あの手のパーティーは得意じゃないからさ」

 

 嫌いではないけれど、得意ではないと彼女は苦笑する。

 ポケットに手を突っ込みながら肩を竦めるアルマにウィルも苦笑で返した。

 

「えぇ、知っています」


 別にアルマがいつもみんなの中心にいないというわけではない。

 むしろ生徒会としての仕事だったり、授業の教え合いだったりは中心にいる。

 去年までトリウィアが個人で行っていた勉強会をアルマがそのまま引き継いでいたりもする。

 最初は新入生で大丈夫かと思われていたようだが、トリウィアの紹介であることとウィルの恋人であること、そして何よりも彼女は教え方が上手だったからすぐに受け入れられている。

 トリウィアは難しいことを解るまで丁寧に教えてくれるが、アルマは難しいことを簡単な言葉にして教えるのが得意だ。

 どっちが良いかは相手に寄るが分かりやすいのには変わりない。

 

 けれどみんなで楽しむという時、彼女はいつも一歩引いている。

 みんなで作る輪の外側から。

 慈しむようにみんなを見ている。

 尊い宝石を愛でるような、元気な子供を見守る母親のような優しい目で。

 それこそ今日の様に気づいたら遠い所にいるのだ。

 内側に引っ張っていけば、年頃の少女みたいに照れながら来てくれるのだけれど。


 ウィルはアルマのそういう色々な表情を見せてくれるところも好きだった。


「さっき、御影から聞いたんですけど」


「ん。……あぁ、誕生日?」


「えぇ」


 彼は困ったように、いつも通りに小さく首を傾けた。


「……すみません」


「いいさ」


 たった五文字の言葉。

 けれど、そこに込められている想いがどれだけの重みを持つのかアルマには解っていた。

 長く息を吐く。

 白い靄が夜空に吸い込まれていった。


「なんか、トリウィアやフォンにも言われそうだけど。気にしないで欲しいな、僕自身、自分の誕生日なんて忘れてたし」


「――――はい、解りました」






「ん――」


 その時アルマは、なんてウィルを慰めようかと思っていた。

 気にしなくていいと言って、気にしない性格ではない。

 彼は、彼の中の判断の基準が明確に線引きされている。

 自分が良いと思うことは良いし、悪いと思うことは悪い。

 そして今回の件はどれだけアルマが気にしなくてもウィルは気にすると思った。

 よく考えればアルマ自身も無意識に自分の誕生日に関する話題を避けていた気がするし仕方ないとか、そういうことを言おうと思っていた。

 けれど彼は白い息を一つ吐いて、


「アルマさん、今からちょっと勝手なことを言うんですけれど」


「……今更君の我がままで驚く僕じゃないよ。それで?」


「ありがとうございます……それじゃあ、まずはこれをどうぞ」


 スーツの内側から取り出したのはラッピングされた細長い小さな箱。


「クリスマスプレゼントです」


「へぇ……驚いた。この世界、クリスマスにイベントはあってもプレゼントを贈る習慣はなかったよね」


「えぇ、まぁ」


 建国祭を決めたのは初代国王だったけれど、プレゼントの習慣はない。

 おそらく、習慣を作りたかったけれど作れなかったんだろうなとアルマは予想している。

 国同士の関係や経済、治安が落ち着いた今ならばともかく、建国直後は民全体にそこまでの余裕はなかったはずだ。

 数年かけて、それこそこれから出来上がるのではないかと思っている。


「ふむ、困ったな。僕は用意してなかったんだが……開けても?」


「勿論」


「ありがとう」

 

 箱を空ける。

 重くはなかった。

 中にあったのは、


「これは……万年筆かい?」


 艶の無い黒地に二つの銀の糸が螺旋を描く様な装飾がされた万年筆。

 手に取れば少し小さくアルマの手にも握りやすい。


「えぇ。アルマさん、いつも色々なことをメモしているので。……元々、アルマさんには貰ってばかりですから。何かちゃんとしたものを送りたかったんです」


「全く、そんな気遣いはいいのに。いや、ありがとう。これは嬉しいな、使わせてらもうよ」


 胸の前、小さな両手で万年筆を握り、アルマはにっこりとほほ笑んだ。

 花がほころぶような、年頃の少女みたいに。

 ウィルの頬がうっすらと赤くなったけれど、自分の頬も赤くなっているだろう。

 照れているのではなく、嬉しいからだ。

 ウィルはきっと照れているのだけれど。


「えぇと……こほん。それからもう一つ、さっきの話なんですけど」


「ん」


「アルマさんは誕生日がないということなら……今日が誕生日、なんてどうですか?


「…………ん?」


「去年、アルマさんが僕に会いに来てくれました」


 ウィルは真っすぐにアルマを見つめていた。

 意志を秘めた黒い瞳。

 

「僕に希望をくれました」


「んんっ」


「あぁ、ごめんなさい。揶揄ってるわけではなくて」


「解ってるよ。……それで、今日が僕の誕生日?」


「はい」


 首を傾けて彼は笑う。


「生まれた日を覚えていなくても、アルマさんがこの世界に来てくれた日で、僕とアルマさんが初めて出会った日です。だったら誕生日にするならぴったりじゃありませんか?」


「………………」


「こっちの世界……というか、実家にいた時はあんまり誕生日とか意識してなかったですけど、学園に来て実際に祝ってもらって嬉しかったですから。だからこれから、アルマさんと生きていく上で、何度でも、お祝いしたいなって、思うんです。今更って感じですけど―――わっ」


 ぽすんと、小さな音がした。

 それはウィルの胸にアルマが頭を乗せた音だった。


「……アルマさん?」


「君は……」


「は、はい」


「…………全く、ずるいね」


 顔を上げた時、アルマは―――泣いていた。


「え、えぇ!? す、すみません! ふ、不快にさせてしまいましたか!? そんなに嫌だったなんて……」


「馬鹿だなぁ、嫌なわけないだろ。これは……ふふっ、嬉し泣きってやつだよ」


 ぽろぽろと涙をこぼしながら彼女は笑っている。

 

「………………えぇと」


「ん?」


「いえ、その。アルマさんが泣いてるところ、初めて見ました」


 そのアルマはウィルの知らないアルマだった。

 掲示板で尊大に振る舞う彼女でもない。

 ただの少女のようにウィルと生きる彼女でもない。

 御影の勢いに押されている彼女でもない。

 トリウィアに魔法を教えている彼女でもない。

 フォンの級友として授業を楽しんでいる彼女でもない。


 きっとそれは、いつか、穴倉で。

 なんでもできるかもしれないけれど、なんでもはできない少年となんでも知っているけれど、なんでもできるとは限らない少女が。

 二人なら何でもできると笑っていた時のアルマだ。


 ウィルでさえめったに見れない―――アルマ・スぺイシアの一番深い所。


「…………確かにね。そういえば、びっくりだ」


 最後に泣いたのは――――いつだろう。

 それを彼女は覚えている。

 けれど、思い出したくない。

 《《1000年前流した涙の理由》》を彼に知られたくなんてない。

 

「お誕生日、おめでとうございます。生まれてきてくれて……僕と出会ってくれて、ありがとうございました、アルマさん」


 でもきっと。

 その時に泣いた少女は今、救われたのだろう。


「あぁ……うん。ありがとう、ウィル」


 胸いっぱいに気持ちが溢れて月並みの言葉しか言えなかった。

 固く掛けられた心の鍵が開いているように。

 ねぇ、ウィル。

 君はどれだけ僕が喜んでいるのか解らないだろう。

 解らなくていい。

 解る必要はない。

 ずっと知らないでいて欲しい。


 けれど雪降る夜の下、少女がありったけの優しさと愛しさを込めた口づけをした意味を少年は知っていたのだ。

 


 

ウィル

生まれてきてくれて、ありがとうございます

万年筆は凄い悩んで周りにこっそり相談して一生懸命考えたもの。

一緒に生きていく、彼女がこの世界で生きる証を記すもの


アルマ

最後に泣いたのは1000年前。

その時とは違う、泣き笑い

どう違ったかは、GRADE2の後とかに


御影

おっぱああああああああい!!!!



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