新島巴 -祝砲ー
傭兵団≪信念無き指≫には、文字通り信念というものがなかった。
いるのは≪精霊殺し≫を筆頭とした居場所のないゴロツキたち。
それも高度に訓練されたゴロツキだ。だからそれは傭兵であるし、同時に暗殺者でもある。
全員が精霊術師協会に未登録の裏社会の精霊使いだ。
世界にはもう長いこと戦争は起きていない。
でも争いがないわけではない。
人がいる限り必ず損得が生まれ、社会を形成すれば利権が生まれ、傭兵に仕事が生まれる。
クロノ・ラザフォードへの依頼はそうして生まれた、らしい。
仕事の内容をこの傭兵団は問わない。
金を貰って、相手を教えてもらい、準備をして、殺す。
それだけだ。
殺しの相手は問わない。
信念なんてないのだから。
構成員の増減は激しいがクロノ・ラザフォードの暗殺依頼に動員されたのは12人。
中精霊使い9人。
大精霊使いが3人。
暗殺対象であるクロノ・ラザフォードが元素の大精霊使いであることを鑑みても、過剰戦力と言える。
依頼主、或いは依頼主たちは相当彼を恨んでいるらしい。
だが、それもどうでもいいことだ。
指に信念は要らない。
暴力を、力を振り回す相手があればいい。
だから深夜、ラザフォード邸に12人は侵入した。
暗殺対象であるクロノとその大精霊は勿論、関係者も全員皆殺しにするために。
そして――――中精霊使い9人は即座に戦闘不能になった。
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1003:自動人形職人
チキチキ! 人の屋敷に侵入して来た暗殺者集団の撃退方法!
1004:サイバーヤクザい師
俺が職人ニキが持ってた植物類から麻痺ガスを精製シて~~~
1005:冒険者公務員
それを屋敷の侵入するであろう場所に私がブービートラップにしてドカーンであります!!!
1006:2年主席転生者
はえーすっごい
1007:名無しの>1天推し
一網打尽で草
1008:名無しの>1天推し
3人残ったか
1009:名無しの>1天推し
精霊術で守ったんかな?
1010:脳髄
派手になりそうだけど、職人ニキの屋敷大丈夫か?
1011:1年主席天才
向こうさんが屋敷に踏み入れた瞬間に空間ズラした結界入ったから平気
1012:名無しの>1天推し
さす天!
1013:名無しの>1天推し
さす天!
1014:自動人形職人
ありがとうございます! いやほんとマジでありがとうございます!!
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大精霊使いが昏睡ガスで気絶しなかったのは大精霊使いだから――――ではない。
傭兵として、暗殺者としての訓練で培った対毒体質だからだ。
効果の弱い毒を体に取り込み、少しづつ効果を強くして慣らしていく。そうして様々な毒に対する抗体を身に着けていくのだ。
精霊術とは関係ない技術。
精霊と寄り添い合うこの社会では軽視しがちだが、有用な、裏社会ではそこそこあるもの。
暴力と殺意において、精霊だけに頼る必要はない。
3人が3人とも同じような恰好をしていた。
動きやすそうな、けれど艶消しが施された黒い革と布の鎧。
顔も布とフードで目元以外ほとんど隠されている様は、やはり傭兵というよりも暗殺者に近い。
というよりも、今回の任務が暗殺だから暗殺に適した格好をしているだけだ。
必要があれば礼服だろうとドレスやスーツだろうと物乞いの恰好だってする。
暴力を振るえるならなんでもいい―――そういうことだ。
違いは武器。
≪精霊殺し≫は少し短い直剣を両手に一振りづつ。
もう二人は槍と弓。
≪精霊殺し≫は女だからシルエットの違いはある。
対して、待ち構えていた3人はまるで統一感がなかった。
女と青年と少年だ。
1人は上下一体になった緑の上着にと黒い下着のようなインナー。胸がかなり大きい。大きな胸に巻き付いたベルトがあり、片手にはなにやら鉄の塊を握っていた。
1人は見たこともない材質に細い管のようなものが全身に巻き付いた黒いフード付きのコート。顔を覆うマスクから零れる髪は脱色したように白い。手には何かの部品同士が組み合わさったような剣らしきもの。
1人は東方の修行僧のような道着に片肩に短く赤いマントを羽織っている。
無手だった。
「――――」
誰も何も言わなかった。
ただ、≪精霊殺し≫を始め傭兵たちが武器を構え音もなく動き出した。
待ち構えた中で、一番最初に動いたのは―――女だった。
すっと軽く右足のつま先を上げる。
「――――≪万有の林檎≫」
軽い動きで落として。
「!?」
3人の暗殺者が、地面に叩きつけられた。
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≪万有の林檎≫。
それが新島巴の超能力の名前だ。
重力操作。
言ってしまえばシンプルだが、それはアース881における最高位という注釈が入る。
全人類がそれぞれ固有のスキルを持つ世界において、それは揺らがない評価を受けている。
重力による加重、逆に重量の軽減、自身を中心にした斥力や引力の発生による疑似念動力等々。
重力とは万物に適用される力だ。
そしてそれを、マルチバース最高の魔術師であるアルマ・スぺイシアが認めるほどには使いこなしている。
新島巴が転生したのは軍部の名家だった。
江戸時代より端を発し、その後アース・ゼロに等しい歴史の流れの中で現代に至るまで代々国を守ることを家業としてきた。
父は自衛隊の高官であり、巴もまた当然のように父と同じ道に入った。
アース・ゼロとの違いは、世界中各地に所謂ダンジョンがあったということ。
それは山の中だったり、街の中だったり、海の中だったり。
あらゆるところに現れる。
その中では人類がただ時を重ねただけでは得られないような技術や素材、或いはダンジョンの外とは全く違う生態系――分かりやすくモンスターと呼ばれている――により、大きな恩寵を与えて来た。
当然、同じくらい大きな危険も。
超能力を持っていたとしても、簡単に死ぬ。
アース・ゼロと等しい歴史、というけれど。
似たような時代、似たような相手同士でも、その争いの発端はダンジョンだったことが多い。
言うなればダンジョンとはアース・ゼロには存在しない、アース881固有の《《資源》》なのだ。
その資源、それも発生したばかりの、危険度すら定まっていないものを調査するのが新島巴の仕事だった。
自衛隊特別迷宮攻略部隊『B.R.E.A.K.』。
Beater Resource Excavation Armied Keeper。
こじ付けに近い、というかこじ付けの頭字語は巴の上司の趣味だとかなんとか。
ふざけてるのかなと、入隊当時思ったのを覚えている。
仕事の内容は全くふざけていなかったけれど。
発生したばかりのということは完全に未知の迷宮だ。
つまり、スキルの使い方も碌に覚えていない初心者でも進めるようなレベルなのか、熟練の冒険者が万全な装備を整えても簡単に死んでしまえるようなレベルなのか。
それを確かめるということは、命の危機は計り知れない。
『新人か。新島殿の娘というが、七光りでないことを祈ろう』
入った時の隊長は、入隊直後に死んだ。
『おいおい巴ぇ! 良い乳してんなぁ! 次で死ぬかもしれないから乳揉ませてくんね?』
迷宮に入る度にセクハラをしてきた先輩は2年目に死んだ。
『巴のスキル凄いけど、使い方が雑だよ。もっと無駄なく、けれど幅広く使わないと』
スキルの訓練に付き合ってくれていた先輩は巴が一人前と呼ばれる前に死んだ。
『新島先輩かっこいいですよほんと! 私のあこがれです!』
初めてできた後輩は最初の任務で死んだ。
『巴さん、ずっと怖い人だと思ってんですけど。意外とそうでもなかったですね』
入隊から4年経ってできた新人は自分に怯えていたけれど、やっと心を開いてくれたと思ったら次の任務では死んだ。
死んで、死んで、死んだ。
勿論、巴の入隊時から死ななかった人もいるが、それ以上に危険度の高い仕事だった。
どうしたって必要な仕事だったのだ。
誰かがやらなければならない。
だったらやらねばならぬというのが父の、家の教えだった。
けれどどうしたって心は摩耗していって、傷ついて、戦闘力と階級だけは上がっていって。
もうそろそろ限界かな。
次で死んじゃうかな、なんて。
そんなことを思い出した頃。
1人の男性と出会い、結ばれて、色々あって、恋人になって、色々あって、部隊を引退して、色々あって、結婚して、ごく普通に家族になり、娘を生んだ。
辛いことはあったけど、今では理解ある旦那がいるのでハッピー!
それが新島巴の自分の人生に対しての感想である。
そして今。
「―――!」
≪万有の林檎≫の広範囲荷重により暗殺者を押しつぶしたと思った瞬間。
白い光が、重力圏を切り裂いた。
本来であればまともに立っていられないはずの荷重。
ウィルや景でさえ、単なる身体の強化だけでは抜けられないレベルのそれは、しかしあっけなく消滅した。
≪精霊殺し≫。
未だに一言も発しない、感情すら見せない、黒衣から唯一覗ける翡翠色の瞳にさえ感情はなかった。
必要なものはないむき出しの殺意。
触れれば肉を裂く、抜身の刃。
変化は、彼女の背後。
白いベールのようなものが背後にいる。
純白の死神。
その白光が重力を切り裂いた光景を見て、巴は修正テープで文字を消す――そんな日常を思い出した。
修正の精霊、らしい。
そういう観念的なものなのありなのか? と思ったけれどそういうのもありらしい。
修正。
即ち、あるべき姿に反す力。
『精霊とは本来、人間界にはいなくてもいい存在なのです。だから人間界と精霊界は別れている』
元素の大精霊、アルカは言った。
『我々は我々の都合で人の世に訪れ、人と繋がっている。けれど、ある意味ではそれは本来の世界の在り方はないのかもしれません。≪精霊殺し≫はそこを突く』
『世界に対する修正。それに関しては、君たちも気を付けたほうがいい』
次元世界最高の魔術師、アルマ・スぺイシアも言った。
『≪精霊殺し≫による修正で、巴たちの能力が使えなくなるわけではないだろう。ただし、単発的な無効化はされることはあり得る。特に重力圏による荷重とかネオニウムを放出した斬撃とか銃弾とかね。あるはずのないものが、あるべき姿になる――というのなら、やはり結果は無効化となるだろう』
え? じゃあなんで呼んだの?
自分たちには意味を為さないんじゃないの?
とか、ツッコミかけて。
にやりと笑う少女を見て、その言葉を聞いて何も言えなくなってしまった。
『問題ないだろう? ――――だから、呼んだんだ』
なんて。
そんなことを言われたら、何も言えない。
ウィルも、景も、巴も。
ウィルに対しては言うまでもないけれど。
性格ねじ曲がっているなと思う時もあるけれど。
アルマという少女は、人のやる気にさせるのが上手い。
いいやそもそも。
推しに呼ばれて、推しと婚約したばかりの推しと一緒に戦えるなんて――――ハッピーが過ぎる!!
「ふっ! 今こそウィルトリ婚約の祝砲を……!」
「今ですか!?」
隣のウィルに突っ込まれたが気にしない。
両手で拳銃を握り、構える。
銃口が狙う先は≪精霊殺し≫―――ではない。
背後にいる≪弓使い≫。
≪精霊殺し≫も手練れではあるが、他の2人も劣らず強者であることは気配で分かる。
後衛が面倒だと感じるのは巴自身の経験故に。
≪精霊殺し≫から狙ってもいいが、今回はチーム戦だ。
だから、≪弓使い≫に向けて引き金を引いた。
「≪万有の林檎≫――――圧縮、加速」
祝砲は、しかし大きな音は鳴らず―――刹那の後、≪弓使い≫の弓に着弾していた。
その弾丸を誰も目で追えなかった。
≪精霊殺し≫も≪槍使い≫も景も、目が良いはずのウィルも。
状況を観察していたアルマは認識していたが、それでも感心するように目を少し見開いた。
別に特別なことはしていない。
ただ、《《異常なまでに速かっただけ》》。
銃弾を斥力で弾き出し、銃口に展開した重力門で超圧縮。極小サイズになった銃弾は空気を《《突っ切って》》、超高速の弾丸となる。
単なる荷重ではなく、能力の応用。
クリスマスの時は銃を持っていなかった上にゴーティアの眷属に対しては使う必要がなかった巴の基本技能。
それがこの場の誰も認識されずに≪弓使い≫に着弾した。
超加速と弾丸自体が小さくなってしまったせいで握っていた指と弓の持ち手も貫通する。
そしてそれでは終わらなかった。
「―――解放」
呟きは短く。
弾丸が弓を貫通した瞬間に。
圧縮された重力が運動エネルギーと共に開放され、爆散した。
今後はごうっという音がなる。
それは空気が弾けた音であり、弓が爆散した音であり、≪弓使い≫がふっ飛ばされて背にしていた壁に叩きつけられた音であり、ついでに倒れていた他の傭兵たちもぶっ飛んだ音だった。
一瞬、誰もが驚いて目を見張ったり、絶対セクハラしないようにしようと頬を引きつらせたり、素直に感心したりする中で。
新島巴だけはにんまりと笑った。
「婚約おめでとうでありまーす!!!!」
新島巴
わりとしんどい時期があったけど理解ある彼君が私にも(ry
かなりのエンジョイ勢
おもしれー女
トリウィアと相性良さそうだな……って感じ
≪精霊殺し≫
異物の修正なので通常の精霊術に絶対的に有利であり、
異世界人もそれなりに有効
アルマ
それでも大丈夫だと判断したのさ
クロノ
あれ、納期……?
ブクマ星評価よろしくお願いします!!!




