天津院御影――誇りの象徴――
「下品な女だ。姫とはいえ、やはり蛮族か」
御影の挑発に、しかしバルマクは胡乱な溜息を吐くだけだった。
「……うん?」
その様子を見て、御影は少し疑問に思う。
パールから聞くバルマクという男は、簡単にいえば「歴史と文化に敬意を払わない下劣な男」と言ったものだった。
囚われた時はあまりの出来事だったので深く観察することができなかったが、改めて見ると印象が少し違う。
「これから婚姻を結ぼうという娘の貞操を、式の前に奪うということはしない。鬼種の乱れた価値観とは違い、この国において処女の貞操は神聖視されているのだ」
訥々と紡ぐ言葉に感情が見えない。
仮にも「性」とか「処女」「貞操」なんて話をしているのにそれに対する喜びも照れもなにもない。
鋼鉄のような、或いは蛇のような。
ただ事実だけを述べている、そんな塩梅だ。
「ふむ……てっきり私は王都の本屋の隅でこっそり売られているような春本のような目に合うと思っていたのだが。こんなあからさまな拘束をされていてはな」
「それについては謝罪をしよう。残念ながら、鬼種を拘束するには鎖で繋ぐなり必要だ。魔封じの拘束紐はあるが、お前たち鬼ならば素の膂力で引きちぎるだろう。寝台に括り付けても、寝台の方を壊すと判断した故に地下牢を使っている」
「………………なるほど? まぁ、確かに」
言われたことを咀嚼し、奇妙な気分だが納得する。
確かに鬼種の膂力は亜人においても最高位。
魔法がなくても、たいていの人種が魔法で強化した状態よりも上回る。バルマクの言う通り、魔法を封じるだけの紐なりでは容易く引きちぎれる。
「扱いが良くないことは理解しているが、不可抗力だ。逃げられると困るが故の拘束をしているが、それ以外は配慮をしている。お前が尻に敷いている絨毯は平民が10年働いても買うことのできない高級品だ」
そう言われると尻がむず痒い。
居心地の悪さを感じる御影を見下ろすバルマクの視線は変わらない。
それどころか口元と目元以外はまるで動かず、地下牢に入ってから直立不動のまま。
「話をしよう、天津院御影。ヤースミンの女」
黒鉄の如き男は言う。
「何故、私が革命を為そうとするのか。何故、お前を拘束したのか。それを話そう」
「まぁ聞かせてくれるなら聞くが。……ヤースミンとはなんだ?」
「貴様の母親の部族だ。皇国の言葉では茉莉花という花を示す。貴様の母は聖女から除名されている故にトリシラの姓ははく奪されている」
「……初耳だな。茉莉花は母が好きな花だったが」
「そうか。では本題に入ろう」
「…………まぁいいが」
打てば響く、というか。
質疑応答のような会話だ。
御影の現在の印象は「つまらない男」である。
「……この国は、砂漠に埋もれた礎のような国だ」
「ほう、詩的だな」
「即ち、時代遅れという意味だ」
「いや、分かるが」
「そうか。ならば続けよう」
この状況で思うのもなんだが、もうちょっと抑揚が欲しい。
いつでもどこでも会話を楽しみたいと御影は思う。
「王国に住まうお前でも分かるだろうか。この国は、非合理的な慣習、しがらみがあまりにも多い。そうだな、例えば女だ。この国の女というものは権利というものがほぼない。男の所有物と言っていいだろう」
「なるほど。まさしく私をもののように扱っているお前が言うと説得力がある」
「そうだろう」
「…………」
「婚姻は、まさに顕著だな。誰と結婚するかなんぞ決定権はない。父親や部族の長が決める。部族同士の友好のために、或いは保有する系統を広める、ないし囲うために」
「保有系統の為の婚姻など、珍しくもないがな」
系統の為の婚姻は、実の所それほど珍しくない。
貴族だろうと平民だろうと、そこは左程大差がなかったりもする。
貴族であればより広く系統を得る為に、平民、特に農家においては農業に有用な水・地属性系統は重要な婚姻の要因だ。
「そうだな。必要な面もある」
御影の反論に、しかしバルマクは反論はしなかった。
だが、
「多くの部族において、必要だからではなく、《《そうしてきたから》》、《《そうするべきと行われている》》。ただの手段が、目的となっているのだ」
男は身じろぎ1つしない。
口元だけ絶えず動き続ける。
例えば、
「婚姻の続きで言えば、系統の都合一人の女を複数人が娶りたいとなった場合どうなるか。答えは妻の共有か奪い合いだ。前者であれば順番に子を産まされる。後者であれば立候補者同士の決闘。冗談のようではあるが、この決闘は聖なるものとされている」
例えば、
「大戦以降各国の技術交流が盛んとなっている。お前の学園のトリウィア・フロネシス。あれは傑物だ。ここ4年で彼女が公開した魔法理論は聖国まで届いている。それを受け入れれば生活水準は向上するというのに。掟、しきたり、伝統、そんなただの言葉を盾にして、拒絶をするのだ」
例えば、
「この聖都は同心円状の都市だ。中心がこの宮殿であり、中心にあればあるほど栄えている。外側に行けば行くほどに治安が悪い。外周部がどうなっているかお前は確認したか? ただのテントが大量に並んでいる。聖都が豊かな土地だからと聞いて訪れ、集落を作っている。部族を出て帰るところもなくそこにしかもう行き場所がないからだ」
例えば、
「この国は教皇が王だ。大戦以降、導師が主導権を握っているとはいえ宗教故のしがらみによりできないことも多い。例えば農作物の輸出。この国の過酷な地であっても、場所を選べば特産と呼べるような物を作れるだろう。だが、そういう地に限ってどこかの部族の聖地などと言って使うことができない。私の裁量で亜人連合から学び、一部に珈琲農園を作ったがそれでも供給量が足りず、王国と帝国に僅かに流すだけ」
例えば、
「ナツメヤシという果物がある。確かに栄養価は高く保存も効く。この国では聖なる果実として重宝されている。だが他にも食べるものはある。魔法を使えばいくらでも応用が利く。だがやはり昔から重宝していたという理由で食べている」
例えば、
「職業の自由がない。鍛冶を得意とする部族生まれなら鍛冶しかできない。狩猟が得意な部族は狩猟することしか考えてない。聖都を含め、いくつかの大都市以外では識字率すらままならない。女であれば教育すら受けられない。下らない、あまりにも多くの才能の無駄遣いを――――」
「もういい、十分だ」
「そうか? まだ伝えることはできるが」
「要らん。つまり、お前はこの国の在り方に不満があるというわけだ」
「そうだ。理解に感謝する」
呪詛のような事実の羅列。
その時だけは瞳の奥に意志をうかがい知れた。
憎悪、というと違う。怒りでもない。
疎んでいる、価値を感じない。
理解ができない。
感情とも違う、そういう拒絶の瞳だった。
「下らないだろう。奔放と力を旨とする鬼種ならば、私に共感できないか?」
言われて考える。
バルマクの言葉を。
確かに非合理的な内容だった。
止めなければいくらでも続いたのだろう。
その上で、
「……いや。私はこの国に来て二週間程度だぞ? 悪い所だけ言われても困るし、私が協力する理由もなくないか?」
「確かに。そうだな」
「……」
なんだこいつと、御影は思った。
人形に話しかけている方がまだ楽しい。
「故に、利点は提供しよう。私と婚姻をすれば皇国との関係は密接となり、互いの発展が可能だ。望みがあれば言うが良い。可能な限り譲歩する。また、私はこの国の権力構造も塗り替える。導師が名実問わず頂点に君臨するように。そうすればお前は皇国と聖国、二つの国の女王となる」
「貴様、他人からつまらないとか言われないか」
「よく言われる」
「だろうな」
パールがこの男を嫌っていたのも納得できる。
彼女は聖国の聖女として、自らの国を愛している。そんな彼女からすればこの男の極まった実利追及主義というのは全く相いれないものだ。
「…………ふぅ」
思っていたものと少し違い、息を吐く。
かちゃりと両腕の鎖が揺れた。
それにしてもこの男、御影はかなり扇情的な姿だというのにそちらに視線が行く様子もない。そういう風に見られても不快なだけではあるが、少し疑問ではある。
「何故私を使おうと思った?」
「偶然だ」
「……もっとこう、ないのか?」
「ない。お前とお前の母の出自を偶然知った。そしてお前たち学園が遠征候補に聖国を入れていることも。お前がこの地を訪れないのなら利用はしなかった。だが、来たから利用した。それだけだ」
「それだけか? それにしては私たちの動向の把握が完璧すぎたぞ?」
「そういうこともある」
「……ふむ?」
あるわけがない。
クーデターを進行していたにしても、御影やパールに対する対応が迅速すぎる。
何かしらあるのには、間違いない。
問題はそれが何なのかという話なのだが―――
「もー、面倒じゃないですかー。さっさと操っちゃいましょうよー」
●
《《ぞわり》》と、初めて御影の背筋に悪寒が走った。
当たり前だが、バルマクの声ではない。自分の声ではない。
《《それ》》はバルマクの右斜め後ろ、温かく照らされた牢の中のほんのわずかな影が差したところに、いつの間にか立っていた。
小柄糸目の人影だ。
学園の制服に似たような、真っ黒なスーツスタイル。ブラウスとネクタイ、革靴に腰当たりまでの長いポニーテールまでもが黒い。
影の中で立つ、影のような存在だった。
何よりも、細い目から微かに覗くその瞳があらゆる光を吸い込むような漆黒で。
青白い肌はその黒を引き出すように不気味。
不気味さと不吉さを象徴するような影絵がそのまま人の形をしているかのようだった。
中性的な顔つきで身体を見ても、声だけでも男か女か判断できない。
「《《ヘルメス》》」
「はいー。ヘルメスさんですよー。相変わらずザハクさんはお堅いですねー。クーデターはもう成功しててー。おまけの賞品で、この鬼のお姫様を好きなようにできるんですよー?」
「それ自体に興味はない」
「はははー。お堅いですねー。欠片も面白味もないのにクーデターとかしちゃうからおもしろいですよねー」
「面白さでクーデターをするような輩は正気以前の問題だ」
「確かにー」
「…………何者だ、貴様?」
「どもどもー、ヘルメスさんですよー。以後、お見知りおかなくて結構ですのでー」
輪郭を掴むことすら難しい、影はヘラヘラと笑うだけ。
瞳がほんの少しだけ開き、漆黒が覗ているのが不気味極まりない。
バルマクとは違う意味で、感情が読めない女だった。
「ささ、ザハクさーん、やっちゃいましょー?」
「…………」
影から《《ニタニタ》》と笑う影に、しかしバルマクは胡乱な溜息を吐く。最初に御影が挑発した時と同じような反応だった。
けれど、影はバルマクの様子には構わない。
「だって、これが一番手っ取り早いじゃないですかー? 好きでしょー、バルマクさん手っ取り早いの。《《例の2人》》もお姫様と一緒に来てるとなると、ヘルメスさんの《《アドバイス》》も難しいんですよねー。ランプの魔人が叶える願い事は限界がつきものです」
「……待て、貴様。お前の言う2人というのは――」
「致し方あるまい」
何か、見過ごせないことをヘルメスが言った。
だが、バルマクの決断は一瞬だった。
「天津院御影―――《《これ》》を見ろ」
《《カツン》》と、手にしていた錫杖を石畳みに叩きつけた。
甲高い音。
反響する金属音。
鼓膜に突き刺さる音に、思わず錫杖に視線が向く。
蛇の頭を模した錫杖。
眼に当たる場所に、赤い宝石がはめ込まれていて。
閉じた口には二本の長い牙が生えていた。
《《カツン》》ともう一度音が鳴り、その眼が妖しく光り、その口を開いた――――気がした。
「―――――っ!?」
どくんと、心臓が脈打った。
高温が反響し、視界が揺れ、体に、特に臍下に強烈な熱を持つ。
気温によるものではない、汗が流れるのを嫌にはっきりと感じ取る。
「っ……はっ……何を……した……!?」
「なーんとなーんと! 発情モードになっちゃうおまじないなんですねー!」
「っ……はっ……なる、ほど?」
思考を鈍らせるような臍下から全身を犯す熱は確かに性感のそれ。
意志と反して身体が強制的に発汗し、ネグリジェが艶めかしく張り付いてく。
「うわー、えっちですねー。おっぱい大きすぎるでしょ。お尻もすっごー。どうですか、ザハクさん、興奮します? ムラムラします? その気になってきました?」
「ならない」
「えぇ……? この息を荒くして体をよじるドスケベ長乳褐色娘を見てその反応ですかー? インポなんですか?」
「生殖機能に問題はない」
「あっ……そうですかー」
「ふぅーっ……ふぅっー……はっ……この手のことは好かん類だと思ったが……?」
「遺憾ではある」
脂汗を流し、頬を赤らめる御影に、しかしバルマクの表情は変わらない。
黒鉄のように変わらず、蛇のように無機質な瞳で観察するだけ。
「だが、古今を問わず、女を従わせる手段として有効だろう。導師や教皇に行った暗示をするには時間が足りない。ならばこれが最も効率的だ。貞操を奪わずとも、これに関しては方法はいくらでもある」
髪が乱れ、滝のような汗が首筋から深い谷間に流れ落ちた。
こらえる様に太ももは震え、よく手入れされた足先の指に力が入る。
ネグリジェしか纏ってないせいで、彼女の豊満な乳房は体の揺れをダイレクトに受け、男を誘う様に。
世の男が見れば、一瞬で理性を失う光景。
「ヘルメス。鬼種の精神を屈服させる方法はあるか? 鬼種の生殖事情までは知らん」
しかしバルマクには何の高ぶりもない。
この男は御影の艶やかな姿にも、道端の物乞いにも同じような視線を送るだろう。
「あー? うーん、自分もあんまり知らないですけどー。やっぱ角じゃないですかー? 『龍の逆鱗、鬼の角』なんて言葉もありますしー」
「なるほど」
「っ――――触れ、るな……!」
御影の眼に狼狽の色が濃く浮かぶ。
他人に角を触れられるということは御影にとってそれだけ受け入れてはならないことだから。
「そうか。触れる」
けれどバルマクは構わない。
効果的だから、行う。
ただそれだけ。
国を変えるという意思の下に突き進む鋼鉄の革命家。
「っ……くっ……やめ、ろ……!」
引き絞る様な声は激情を乗せて。
「――」
無言で伸びる手には何も乗らず。
その五指が御影の角に触れて、
「―――――!?」
《《刃の如き鋭く固い先端》》が振り上げられ、バルマクの掌を深く切り裂いた。
●
「―――――ハッ! このアホどもが! 全く何も知らんな!」
鮮血を顔面に直接浴びながら、しかし御影はひるまなかった。
手の傷を抑えたバルマクはわずかに眉をひそめながら後ずさり、ヘルメスは信じられないものを見たようにその漆黒の瞳を見開いた。
「……え? ちょ、まじ? 本人の経験上、興奮の最大値を強制的に引き起こすはずなんですけどー……?」
「天津院御影、性的興奮は覚えているか?」
「正面から聞くなそんなこと! だが応えてやろう、血の匂いで覚めた!」
角から伝わる肉を裂く感触と顔面に降りかかった血。
御影という半鬼にとって、性的興奮を闘争本能に置き換えるのには十分だった。
「ふぅー……」
息を吐き、
「3つ、お前たちに教えてやろう」
彼女は嗤う。
「……聞こう」
「1つ、確かに鬼は強さを何よりとする。強きを焦がれ、強きを欲する。最も重要視するのは強さだ」
だが、
「我々鬼種が最も嫌悪するのは《《自らの強さに溺れた者》》だ! 今のお前のようにな!」
歯をむき出しに。
息は荒いままに、それでも琥珀の瞳を爛々と輝かせて彼女は告げる。
「そうでなければ! 我々のような蛮族はとっくに滅びている! 強さを希うが故に、強くあるのと同時に正しくなければならん! 強さとは他者を押しつぶすものではなく、他者に魅せつけるものだ!」
その在り方こそが、鬼種の根幹だ。
ただ、腕っぷしの強さだけを求めていたのなら彼女の言う通りとっくに絶滅しているし、国として成立するはずがない。
力の強さというものは、精神の高潔さを前提とするのが鬼という種族である。
故に彼ら彼女らは強いから好きになったり、尊敬されることはあるが、弱いから嫌われたり、迫害されることはない。
「やり方を間違えたな! こんな企みをせずに、最初から《《協力してください》》と私に頼めばよかったんだ! だったら、一考してやったというのに! どんな理屈か全く知らんが、何もかんも思い通りにできると思うからこうなる!」
「そうか、残念だ」
「納得が早い! 最後まで聞け!」
「いいだろう」
「えー……?」
ちょっと面白くなってきた。
バルマクは表情は変わらず、ヘルメスは微妙に引いていた。
「2つ! そもそも鬼種というのは、生涯を添い遂げると決めた相手以外に股を開くどころか! ましてや角を許すことなどありえん! 我々の体は、そういう風にできている! 端的に言って、惚れた相手以外には勃たんし濡れん! そもそも死ぬほど酒を飲むせいか、毒物の類も全く効かん!」
それは鬼種の生殖事情だ。
鬼は一度決めた相手以外に発情することもない。亜人種によっては時期により発情することがあるが、鬼種は極めて珍しい個人が発情条件という種族である。そうなってくると肉体的、精神的、思考も含めてその手の考えがなくなってしまう。
例え相手と死別したとしてもそれは変わらない。
鬼種は男であろうと女であろうと、浮気や不倫も絶対にない。
一方が一方を囲むことは別の話だとしても。
文字通り、一生涯をかけてたった一人を愛するのだ。
「特に角は! 勝手に触れたら殺されても文句は言えんぞ!」
人種と鬼種のハーフである御影にしても、それは変わらない。
角とは、魂なのだ。
家族であっても軽率に触れさせることはない。
ただ一人愛する者以外は。
「なるほど。知らなかった。一途な種族のようだ」
「ハッ! そうだそうだ! 私は純愛路線でな!」
そして、
「3つ目! 一番大事なことだよく聞け!」
先ほど、今の自分は自らの肉体を強制的に発情させられた。
個体としての上限値として、頭がおかしくなりかねないほどにと。
なるほど、それは確かに苦しい。
だけど。
だとしても。
《b》「《《私は婿殿にいつも発情している》》! 《《そして》》、《《我慢もし続けている》》! 故に私を発情させてどうこうなんぞは無駄というわけだ!」《/b》
はっはっは、と。
仮にウィルが聞いていたら筆舌にできないようなことを大声で言い放った。
あまりに声量故に、地下牢が揺れるほどだった。
「…………えぇー……?」
「なるほど。言葉通り純愛路線のようだ」
「ザハクさん、反応絶対変ですよ」
「些事だ。……だが、どうやらこの段階で、この女を支配下に置くのは不可能なようだ」
「えー? いやもうちょっと粘れば」
「これを見ろ」
バルマクは手の血は構わず、数歩歩みを進めた。
向かった先は御影ではなく、彼女を捕らえる鎖。その鎖と壁を繋いでいる接合部に触れ、
「入ってきた時は問題なかった」
軽く指で押せば、接合部の下にある大きな煉瓦がぐらりと揺れた。
「…………えぇ?」
「外れかけている。角の振り上げの勢いでな。素手で壁の一部を引っこ抜く様な女を襲えば命がいくつあっても足りん」
「はっ、目敏いな。このまま引っこ抜いて頭をカチ割ってやろうと思ったが」
「そうか。危なかった」
バルマクが指で押し込めば、接合部が壁に沈み元通りになる。
土属性の魔法か何かだろう。
「ここまでだ、ヘルメス。ここでできることはもうない。この女を支配するのは婚姻を結んだ後とする」
「……ちぇー、残念」
「私が大人しくしているとでも?」
「物理的に大人しくさせることは不可能ではない。時間の問題だ」
「皇国と戦争をするつもりか?」
「否だ。そうしないためにお前を手中に収めた。時間は掛かるだろうが、お前を利用することはできる。教皇や導師のようにな」
「大丈夫ですかねー。明日が何の問題もないか、自分にも読めないんですよねー。お姫様はともかく余分なのも来てるせいでー」
「もはや賽は投げられた。多少の問題には目を瞑り、都度対処していく他ない」
「その手の傷みたいにー?」
「そうだ。鬼種に関して、もう一度学び直すとしよう」
そこで話は終わりと言わんばかりに、バルマクは御影に背を向けた。
彼はもう御影を意識の外に追いやって、ヘルメスと共に牢を出ようとして、
「おい、バルマク」
「なんだ」
御影の声に振り返らず応えた。
その背に向けて、彼女は薄く笑う。
「この国を、嫌っているんだろう? 女には結婚の自由がないみたいな話があったな」
「然り」
「なら――――まさにお前が象徴じゃあないか」
「そうだ」
御影の挑発に、しかし彼は揺らがなかった。
ただ彼は、誓う様に言葉を吐く。
「だから、造り替えるのだ」
●
「ウィル、改めて君に言っておこう」
導師継承式及び結婚式前夜。
生徒会とアレスの面々で止まっている宿屋の屋上にウィルとアルマはいた。
冷える気温に肩を寄せ合う二人は、共に星が輝く夜空を眺め、
「僕にとっての幸福は、君の幸福だ」
アルマの言葉をウィルは聞く。
彼女の静謐な言葉と夜風だけが耳に届ていた。
「ただ……彼女は、《《君の幸福に必要な人だ》》」
「……はい」
その言葉の意味を噛みしめて、彼は頷く。
パール、トリウィア、アルマが考えた御影を救う方法。
それを為すには最終的にウィルの意思が必要だったから。
彼は拳を握る。
もう何も、幸福を失わないように。
アルマはもう何も言わない。
だからウィルは、自らと彼女に誓う。
「――――御影さんを助けましょう」
御影
快楽堕ちなんて絶対しない(真顔
溢れんばかりの性欲を理性で抑え、そのギリギリを楽しんでいる女。
無敵か?
ウィルにはよくふやふやになった角を押し付けて遊んでいる。
まだ触れてもらったことはないけれど
鬼種の発情
時期ではなく特定個人に対してのみ発情をする。
人種が時期にとらわれず発情することで数を増やしたのとは違い、
鬼種は個としての強度を上げる為に自らと相性の良いものと子孫を育むように発展した。
正確に言えば想い人相手にしか発情しないというわけではなく、
相手の血や汗、匂い(フェロモン)、体液等を自らの肉体に覚えさせることで発情条件を確定するようになる。
これに関して相手の数は問わないために、一夫多妻、多夫一妻自体は問題ないが、浮気不倫、或いは愛を失ったと判断されるとほぼ確実に流血沙汰になりどちらかが死亡することになる。不貞行為を働いた側が生き残っても社会的に追放、迫害される立場となる。
鬼種が浮気や不倫をしないのではなく、したら肉体的にも社会的にも死ぬという話。
女性の発情に関しては姫様ドレス回の「角がふやける」を参考に
余談だが
角を触れさせる>性行為という価値基準
鬼種
ちょっと豪快成分増した光の国の戦士みたいな連中
アルコールを含めて毒物薬物耐性もバグっている
上記の性質上、幼馴染はほぼ勝ちみたいなところがある国
バルマク
打てば返るが響かない男。
超効率主義者。性欲が無いわけでもないが、無視できちゃう。
絶対近代化するマン
ヘルメス
自称、ランプの魔人
黒スーツに黒髪ポニテ黒目の性別不詳。
ウィル
もう何も失いたくない
アルマ
それでいいんだよ
思う所はいくつかある。
地の文回で毎回上がってる気がするトリウィア(n回目
感想評価いただけるとモチベになります。




