表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/154

イッツ・モーフィン・タイム



 ウィルから見てその男は一見して、思っていた王様というタイプではなかった。

 40代くらい、蜂蜜色の短髪、彫りの浅め顔つき、身長はそれなりだが特別鍛えているわけでもない。整った顔立ちながらも穏やかで分かりやすく雰囲気を纏っているわけでもなかった。着ている服がその立場に反して質素というのもあるだろう。隣で控える王妃もまた年を重ねてなお美貌が伺えるが、決して華美ではない。

 けれど、


「諸君――――ユリウス・アクシオスである」


 口を開いた瞬間、彼がこの国の王であるということを誰もが理解する。

 それは当然ウィルもだ。

 彼は王族というものをよく知らない。

 知っている限りは御影と暗殺王ことロック。

 御影は全身からカリスマが溢れているが、ロックが溢れているのは筋肉だ。その二人のどちらともユリウスは違った。

 ただ一言。

 そしてほほ笑みだけで周りを安心させる、そんな在り方だった。

 

「今日は我が国……世界にとって大いなる功績を果たした若者たちを称える為に集まってもらった。いやはや、全く未来は明るいようだ」


 ユリウス王が笑みをこぼし、それが全体に伝播する。

 必要な緊張感は保ちつつ、しかし適度なリラックス。過剰に畏まらず、「冗談を言われたら自然に笑える空気」。そういうものが既に生まれている。

 ダンスホールから謁見室に早変わりした大広間の奥に玉座が態々運ばれ、その目前にウィルたち、それを取り囲むように貴族や招待客が見守っている。

 御影だけは自然体で腕を組みながら立ち、それ以外は跪いていた。 

 これは別に御影が無礼を働いているというわけではなく、彼女は≪天津皇国≫の第六皇女であり、皇位継承権第一位でもあるため、他国の王であっても、王であるからこそ膝をつくことがない。

 顔を伏せながら視線だけで王や王妃、大臣たちをどうにか視界に収める。


「さて、今夜は彼らの為の時間であるが、その前にいくつか通達をしよう。まず気づいている者もいるだろうが、我が娘ヴィーテフロアも出席予定だったが、教会からの移動が少し遅れているようでね。この叙勲の後に到着しそうだ。いやはや、恥ずかしいことだが、焦っているのは本人だろう。この後、余裕がある者は彼女に励ましの言葉をかけてくれると嬉しいね」


 苦笑し、


「それから」


 彼はほんの少しだけ目を細めた。


「ゼウィス・オリンフォスについてである」


 ウィルは自身の体が硬くなるのを自覚する。

 自分にとっての敵―――ではない。

 それはゴーティアだ。アルマと数百年戦い続けた次元喰らい。二人の特権によってやっと端末を倒した、そしていつか再び倒すべき仇敵。

 だが、ゼウィス・オリンフォスは違う。


「大戦の大英雄。アクシア魔法学園創設者、我が父初代国王の盟友……≪至天なる雷霆≫ゼウィス・オリンフォス。彼の者が我ら世界に齎した者は多く、彼が先の魔族との戦いで死したのは実に悲しいことだ……後日、彼の葬儀を国葬を持って行う。祝いの場なれどこれだけは伝えておこう」


 粛々と伝えることは、しかし事実ではない。

 それはウィルたちもユリウス王も解ってはいる。

 だが、王の言う通りゼウィス・オリンフォスという存在はこの世界において多大な影響を与え、称えられていた英雄だった。故に、民衆向けのエピソードが必要だったのだ。

 表向きではゼウィスは建国祭において魔族と戦って、死亡したことされた。

 勿論、真実は知っているものは知っているが、しかし知らなくてもいいこともあるというわけだ。

 

「――――さて、ここまでにしておこう。あまり主賓を待たせてはいけない。メトセラ」


「はい、陛下」


 王に促され前に出たのは長身痩躯の老人だった。

 固い無表情の額から後頭部へと細い木のような角が伸びている。王国どころか、亜人連合でも珍しい≪樹人種≫だ。亜人種でも長命の部類であり、噂では200歳ほどでなお現役だとか。

 メトセラ・ヒュリオン。

 アクシオス王国の宰相であり、王を除けば政治のトップである人物だ。


「ウィル・ストレイト。アルマ・スぺイシア。フォン。トリウィア・フロネシス。顔を上げよ」


 感情を感じさせない深い声に促され、伏せていた顔を上げる。

 

「――」


「……?」


 上げた瞬間、ユリウス王との目があった。

 グリーンの瞳。

 何か、懐かしいものを見る様に細まっていた――――気がした。

 すぐに視線は外れ、


「さて、さっそく勲章式を始めよう。といっても、私が長いこと話すわけでも、このメトセラが小難しい話をするわけでもない。我が父はそういったものを実に嫌っていて、皆も知っての通り、上に立つ者は話を短く、がモットーとされているからね」


 苦笑気味に周りを見回す。

 ウィルからすればそんなものなのか? と思うが、この国はそういう感じらしい。帝国で同じようなことが起きると数時間の式になって時間の無駄だったとトリウィアがぼやいていたので助かるのだが。

 視線だけ横にずらせばトリウィアとアルマは落ち着いた様子の無表情で、フォンは少し視線が泳いでいる。こういう場での慣れによるものだろう。

 御影は相変わらずの自然体で笑みすら浮かべていた。

 

「それではこれより叙勲の儀を―――」


 メトセラが口を開き、その瞬間だった。



「緊急!!!」


 

 正面の大扉が勢いよく開け放たれた。





 

 飛び込んできたのは鎧姿の騎士らしき人物だった。

 ウィルも思わず振り返ったが、兜も被っていて、遠目に加え声だけでは性別を判断できない。おそらく若い。


「き、緊急です、国王陛下!」


 息を荒くし―――そして、僅かに血を浴びている。

 すぐに衛兵らしきものたちが追いかけてきて、無礼だぞ、と取り押さえられる。

 ざわりと、全体に緊張が走る。明らかにただ事ではない。何があったのかと誰かが疑問を口しようとする者もいれば、騎士の様子に眉を顰めて苦言を呈そうとする者もいた。

 無秩序が始まる直前。

 その瞬間、


「―――お静かに」


 澄んだ声が、始まるはずだった混沌を打ち消した。

 黄金の長髪、簡素なれど品の良さを感じさせるドレス。高い長身と黄金比に近いボディバランスを備え、トレードマークであるモノクルは何故かなかったが、その場にいるほぼ全ては彼女は知っている。

 クリスティーン・ウォルストーン。

 王国屈指の文化人であり、女性のカリスマだ。


「そちらの方にいかなる判断をするかは、この場においては国王陛下がなされるのが筋という者。それを妨げるのはエレガントではありませんわ」


 ぴしゃりと告げる言葉は簡潔に。 

 されど思わず誰もが口を閉ざした。


「……あー、ミセス・ウォルストーン。感謝する。君の高潔さはこういう時実に助かるよ」


「恐縮にございます、陛下」


「そういうのはワシの仕事だったんだがのぅ」


「失礼、元帥閣下。ですが臣下として、《《どうするか》》は門外漢ですが、《《どう聞くか》》という作法は私が最も重要視しているもの……お続けになさってください」


「むぅ……」


 王の背後、メトセラと対になるような位置で自らの髭を撫でるのは王国軍部のトップ、大元帥。少し前バルコニーでクリスティーンと共にウィルとトリウィアのやり取りを眺めていた壮年の男―――レグロス・スパルタス。

 彼は一度嘆息しつつ、軽く手を振る。


「あぁこれ、衛兵たち。その騎士を離せ。その様子ではおちおち話もできん」


 その間にウィルたちの脇をユリウス王が通り過ぎ、解放された騎士の下へ行く。


「へ、陛下……緊急、緊急なんです……そのっ!」


「落ち着いて」


 解放されたままながら膝をつき混乱している騎士だがユリウス王もまた、目線を合わせ、肩に手を置く。


「落ち着くんだ。君は……」


 至近距離で騎士の鎧を確認し、王は眉を顰める。

 血で汚れているが、細部に装飾がありながら実用性もある、赤を基調とした鎧。それは、


「……ヴィーテの近衛か?」


「っ! は、はい! 陛下――――ヴィーテフロア様が襲撃されました!」


「―――――何?」


 ユリウス王の一人娘。

 予定が遅れてこちらに向かっているはずの王女。


「こちらに向かっている最中に襲われ、近衛で反撃したのですがしかし相手側は中々の手練れだと近衛長が判断して私を陛下の下へ送りました、まだ戦闘中のはず……!」


「……下手人は解るか?」


「―――《《魔族信仰》》の邪教徒達です」


 《《ざわり》》と、止める間もなく今度こそ全体に混乱が走った。メトセラもクリスティーンもレグロスもまた顔をしかめ、ユリウス王も同じ。

 示す意味は言葉の通り。

 

「分かった。良く伝えてくれた。衛兵! この騎士に水と手当を!」


「いえ、陛下! 私も殿下の下へ……!」


「いいから。諸君! 悪いが叙勲式は中止に――――」


 ユリウス王が振り返り、そして彼は見た。

 既に動き出していた者たちを。







 早かったのはウィルとアルマだった。

 「魔族信仰」という名が出た瞬間、二人は行動を開始していた。

 ウィルが右腕を振る。

 ダイヤルロック式魔法陣が起動。拳を握ったことで術式が確定。

 一歩踏み出すと共に、手首に浮かんだリング状魔法陣を前方に軽い動きで放れば、目前でウィルの身長程の魔法陣に拡大された。

 その歩みに迷いはなく、真っすぐに。


 アルマは体をくるりと回転させながら胸のリボンを引き抜いた。

 少し前まで人前でどう踊ればいいか頭を抱えていた少女はもういない。熟練のバレリーナのように優雅に踏み出しながらのターン。それに合わせ、左手で真紅のリボンを頭上で回し―――ターンが終了した瞬間、リボンはいつの間にか広がり、コートとなり彼女の両肩を包み込んだ。

 

 そして。

 ウィルは二歩目を踏み出しながら魔法陣を潜り。

 アルマは左腕を真横に振り。

 2人は揃いの戦闘装束への変身を完了させていた。


 赤いコートと肩幕。漆黒と濃紺の胴着。

 ウィルは以前、ゴーティア戦で貰ったものそのままだが、アルマは少しだけ変化がある。あの時は両手首にはめていた緑色の宝石腕輪は無く、代わりに胸元に細やかな金細工のブローチとしてコートの首元を留めている。

 指輪は左手の二つだけ。ドレスからの変身と同時にカラーリングは元の金に戻っていた。

 首のチョーカーだけは変わらず赤く―――鍵を模したストラップはそのままに。


 ウィルはそのままバルコニーに向かって走り出し、アルマも軽く浮きながらそれに追従し、


「―――ま、そうなるか」


 苦笑と共に振り返りながら両手で白い光を生み、それが赤と青、黄の光球に。

 腕を広げならその三球をそれぞれに打ち放った。

 その先は、


「流石だアルマ殿! ありがとう!」


「是非この魔法教えてください」


「ひえー、すっご!」


 御影、トリウィア、フォン。

 彼女たちに光球がぶつかった瞬間、全身を覆いアルマと同じくドレスから戦闘装束へ変身、当然と言わんばかりに御影の大戦斧とトリウィアの二丁拳銃もセットだ。

 

 そしてそのまま、


「行きます!」


 5人はバルコニーからその身を投げ出した。









 謁見の間だった場所に、沈黙が下りる。

 それは驚きによるものだった。

 一番驚いているのはユリウス王だ。

 振り返ったと思ったらウィルたちが走り出し、変身して、かと思えば一瞬でバルコニーから飛び降りたのだから。

 数瞬、呆気に取られながら目を見開き、そんな王に声をかけたのはメトセラだった。

 彼は大真面目な無表情で言う。


「勲章が増えそうですな」


「……………………確かに」


「準備をしておきましょう」


「……レグロス! 部隊を編制して彼らの援護とヴィーテの救助を!」


「はっ! ほれ、この場にも軍人はいるじゃろう! 何を呆けておる! 彼らのようにそっから飛び降りるくらいの忠誠を見せんか!」


「ははっ! 今飛び降ります! 殿下! 殿下ァー!」


「そこの近衛はさっさと医務室に連れていけ! それはもう忠誠じゃなくて狂信のそれじゃ! 着地できるんか!?」


「は? 誰が狂信ですか!? 私の殿下への忠誠を疑うのですか!? それこそ忠誠で何とかします!」


「なんじゃこいつ上司を……近衛だと殿下か!」


「近衛の忠誠としてはある意味見本ですな、元帥閣下」


「騎士としてはちょっと拙いがなぁ宰相閣下!」


 場が騒然となり状況が動き始める。

 唐突の出来事ゆえに戸惑いはあったが、この場にいるのは大半が貴族であり、それぞれ立場と能力があるもの。故に自らするべきことに向けて動き出す。


 そんな中。

 ウィルたちが消えたバルコニーを見て―――ユリウスは懐かしそうに目を細めながら苦笑した。



「なるほど、君の息子だね―――ダンテ」


 

 


ウィル&アルマ

同時変身タイム

これがやりたいがために地の分回が続いたという事実


ユリウス・アクシオス

王様

パッパの昔の仲間



以下モブ


メトセラ・ヒュリオン

宰相。政治の偉い人

レグロス・スパルタス

元帥。軍の偉い人

クリスティーン・ウォルストーン

スーパーエレガント人3


近衛騎士

狂気の忠誠モブ


初代国王

大人になって校長先生の話の長さにグダグダ言うタイプ



感想評価いただけるとモチベになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] この話途中で切れてますよ 同時変身以降が無いです
[一言] 緊急時の連絡方法がマニュアル化されてれば 報告がさっさと済んでたんだろうか? 後で緊急に値しないと判断された場合は ある程度の処分する事セットにせんと悪用され兼ねんが ・・・陽動っぽいなあ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ