カム・フロム・マルチバース 1
2021年ありがとうございました。
頬に風を感じ、鼻に匂いを感じる。
肌を刺すような戦場の空気には火薬の匂いはないが、血のそれは懐かしいものだ。
息を吸い込み、肺に空気を送る―――果たして何年振りかとマキナは苦笑してしまう。
目前に広がるのはだだっ広いグラウンドだ。
前世の中学や高校でみたものとはさほど変わらないが、広さだけはかなりのものだ。様々な種族がいる為に広くしているのだろうかと思う。
確かウィルから掲示板で聞いた時はこのグラウンドは純粋な運動目的で、戦闘は別の演習場だと聞いた覚えがある。いつだったか二年主席の龍人がサバトされていたのもここだ。
そして、今は。
「……熊とゴリラか?」
10メートル近い大型の眷属魔物。聞くところによればゴーティアの眷属は現地生物の情報を読み取り再現するという。このアースの原生生物はファンタジーながらも現実に近い故に見覚えのあるものが多かった。
アルマの結界の中に解き放たれた眷属は大小さまざま数百体。
眼の前にいる大型二体の周囲には四足歩行の獣型から二足歩行の猿人型も交じっている。
「―――《《懐かしいな》》」
思わず笑ってしまう。
生前――というべきか。肉体を持っていた頃はこういう光景を何度も見た。
そう言った時には背後には仲間たちが大勢いたし、自分は彼らの命を預かり、率いて戦う立場だった。
己の肉体で、血と汗を流し、命を懸けて戦っていた。
だが、今は―――一人だ。
転生者たちは散らばり、それぞれ自由に戦う。
自由に。
自由。
その言葉を失ってどれほど経つか。
思考領域のほんの僅かだけをマルチバースに接続し、コメントすることしか許されない。
何もかもを失って機械の奴隷になって、そして今――――友の為に新たな体を得て、自らの体にて立つ。
「…………友。友は言い過ぎか? やはり推しの為と言ったほうがいいか……?」
腕を組み、眉を顰め考えるが答えは出ない。
ウィルならば認めてくれそうだが。
『■■■■―――!』
獣の咆哮が轟き、二体の大型眷属が迫る。
マキナは動かなかった。
わずかに目を細め、掌を何度も開き、握り、感触を確かめ、
「―――デウス・エクス・ヴィータ」
トリガーヴォイスと共に体内に格納されたナノマシンが起動。周囲十メートルに放電現象を伴うエネルギーフィールドを形成。
圧縮されたナノマシンが解放され体外に放出されると同時にマキナの肉体をコアパーツとして巨大な四肢を構成する。
そして降り立ったのは10メートル大の人型ロボットだった。全身は黒く胸や体の各所に青いナノプラズマコアが鈍く輝く。
太もも裏や腰、背中には加速スラスター。それは本来地球物理法則では満足に立てないであろう細身の流線形。だがそれらのボディを構成しているナノマシン自体が常時バランサーとなって人体と変わらぬ機動性を実現していた。
変生は一瞬で完了した。
生命仕掛けの神。
アース1203における超科学文明、ナノマシン工学における第一位強化人間・二種戦闘形態。
己を機械と嘯き、生命を鎧として纏う。
『――――戦闘を開始する』
《《ヴゥン》》と。重低音の響きと共に胸のナノプラズマコアと瞳のアイレンズが青く輝き――背中の加速スラスターを起動。グラウンドの地面を陥没させながら魔族へと真っすぐに飛び出した。
『■■■■!』
向かう先はゴリラ型。大地を踏みしめる度に轟音が鳴り、小型眷属ごと潰していく。
どちらも示し合わせたように拳を振りかぶり、ぶつかる直前、
『バーニア!』
足裏足首のスラスターを起動。疾走が跳躍に変貌し、浮かんだ後に肘の加速器も起動。
加速と落下を乗せて、叫んだ。
『――――ロケットパァーンチ!!』
From earth 1203 脳髄惑星/惑星管制中枢生体コア―――デウス・エクス・マキナ。
●
「行きますよ、アルカ」
「はい、ご主人様」
グレーの半ズボン、グレーベストに白シャツ。青い髪とモノクルが印象的な背の低い少年は金髪長身でポニーテールのメイド服の女性を引き連れながら、学園内植物園に足を進めた。
植物園を見るのは初めてだった。
ウィルの学園生活を時には文章で、時には視界共有で楽しんできたがこの場所は見たことがなかった。
だが、少年にとって植物園自体はわりとなじみ深いものだ。
自身の世界において自然の素材から人形を製作する少年は自身の屋敷や商会で植物園や農園、猟師団も経営することで素材を効率よく安定供給している。その中でも自宅にある小さな植物園でメイド――アルカの淹れる紅茶は最高の息抜きの時間だから。
「いやですね、全く」
学園の植物園は専門の庭師がいるのだろう。魔法でも使っているのか少年が知っているものによく似たものや全然知らないものがあった。しかし、それらは今、蛇やトカゲ、或いは蟲のような眷属らが木々や植物に絡みつき、踏みつぶしている。
「ご主人様」
「はい」
「全滅させましょう」
「あはは―――はい、最初からそのつもりです」
平坦なトーンの声にはしかし怒りがにじみ出ている。
長身豊満なメイドはしかし、そのうちに収まるのは元素の大精霊。少年の世界では科学学問は未発達であり元素とはすなわち万物を構成するものと定義されている。
少年は――真っ黒な手袋に包まれた両手を広げる。その指先から伸びるのは極細の糸だ。
そしてそれの十本の糸、少年からアルカの全身へと伸びていた。
少年の指が跳ね、
「――――参ります」
アルカもまた跳びあがる。
『■■!』
呼応するように眷属たちが木々から飛びあがり、中空のアルカへと殺到。
逃げ場はないが、少年は冷静だった。
「―――」
言葉はなく、しかし右腕を大きく引き――――くるりとアルカが宙を舞う。
ロングスカートがたなびき、手にしていたのはスナイパーライフルだった。少年の世界には機械文明は発展しなかった。だからそれは魔力効率の良い鉱物をスナイパーライフル状にしたものであり、実際の銃機構が内蔵されているわけではない。
故に、
「元素メイド殺法・ライフルバッティン!」
鈍器として殴りつける。
一体を殴り飛ばし、その勢いでアルカの体が僅かに勢いで流れる。
故に再び少年が手を引けば、さらに回転を増しコマの様に高速回転しながら一息に中空の眷属たちを文字通り吹き飛ばした。
地面に着地し、ライフルを脇に挟んで決めポーズ。無表情ながら僅かなドヤ顔をにじませ、ポニーテールとスカートの広がり具合まで計算されたポージングだった。
少年は苦笑、アルカは優雅におじぎをし、
『■■!』
ライフルの先端から放たれた魔力弾が、少年の背後に忍び寄っていた蛇型眷属を打ち抜き塵にした。
「……便利ですよね、これ。銃。わりといいんじゃないですか?」
「大精霊の言葉ではありませんねぇ」
科学文明や自動作業工程を拒否する大精霊のセリフとしてはあんまりだが、彼女の持つ銃は少年が三か月かけて研磨し、組み合わせた特注品だ。
銃としての機構はほぼなく、筒状の棒に銃床をつけただけで銃と呼ぶには悲惨だが精霊として魔力弾を射出する補助機構としては十分すぎる。
「次に行きますよ、アルカ」
「畏まりました、ご主人様」
From earth412 自動人形職人/自動人形嫁 ラザフォード商会会長クロノ・ラザフォード&最高級自動人形・元素の大精霊アルカ。
●
「ぬおおおおおおおお!!」
唸り声と共に岩のような拳を、虎型の眷属の頭に叩き込む。一発で頭蓋が砕け、残った体は前蹴りでぶっ飛ばして他の眷属魔族たちをまとめて薙ぎ払う。
「ぬんっ!」
肩に噛みついてきた狼型は筋肉を固めることで牙を通さない。そのまま首根っこを掴み、首を握りつぶしながら地面に叩きつける。獅子型が頭上から来るが逆の腕で中空で殴って飛ばし返し、後ろから来た蜥蜴型は勢いそのまま回し蹴りで吹っ飛ばした。
「ぬぅあーーー!!」
続々と小型の眷属が迫るが唸り声と共にその肉体を以て殴り、蹴り、投げ、叩き潰す。
極めて原始的な、溢れる筋肉のパワーに任せた肉弾戦。防御行動などとらない。やられる前にやり、受ける攻撃は全て筋肉の鎧ではじき返す。
ロック・アルカイオス三世。
その生涯において暗殺を受けた数は数限りなく、幼少のころは文字通り生きるのに必死だった。
権謀術数、政治と金による暗殺は当たり前のことで護衛がいなければ10になる前に死んでいただろう。
だがある日、彼を守って護衛が死んだ時、彼は1つの真理に到達する。
信頼できるものはいない。
誰に殺されるか分からない。
信じられるのは自分だけ。
ならば信じられるのは――――己の筋肉である。
「弾けろマッスル! 胎動せよ大腿四頭筋!!」
銃弾、刃、毒、殴打、火、水、感電、酸。
なるほど恐ろしい。
だが、筋肉を鍛えていればなんの問題もないのではないかとロックは思った。
思ったので体をひたすら鍛えた。
鍛えた結果、全身を筋肉の鎧で包み、あらゆる暗殺を筋肉でぶちのめすことが可能になったのである。
ビバ、筋肉。嗚呼筋肉。
筋肉は全てを解決する。
「――――むっ?」
ぴくりと大胸筋レーダーが反応する。
一度飛び退けば、小型の眷属たちが大量に密集。
瘴気が溶け合うように混ざりあい、一つの形を得る。
それはロックを上回る体躯の人狼だった。眷属たちはそれぞれが全てゴーティアの分体であるがために融合して強化個体も製造可能なのだ。
同時刻、マキナがパイルバンカーで頭部を打ち抜いた大型眷属もそれと同じ理屈で生まれている。
2メートルと少し。体の大きさは人のものではない。
人狼は身を屈め、
「ぬぅっ――――!」
轟音と共にロックへと爆進した。
彼は逃げなかった。
両手を前に出し、腰を落とす。大地に根を張る様に体勢を整え――――正面から受け止めた。
「ぬっ、あああああああ……!」
『■■■■―――!』
真正面から二つの巨体がぶつかった勢いで周囲の地面が砕け、ロックの体がから汗が弾け飛び、あらゆる筋線維が張り詰め、全身の筋肉が、太い血管が脈動する。
「甘いわァ!」
狼の牙がロックの頭に食らいついてくるがヘッドバットで押し返す。
だが、しかしそれは決定打にならない。
がっつり組合い、唸りを上げ、肉と肉が拮抗し、
「んまぁー!? なにあの良い男!?」
「むっ!」
視線をずらせば、巨大な斧を二つ持った筋肉がいた。
否、巨大な筋肉のメイクの濃い、おかまっぽいエルフである。
学園教諭フランソワ・フラワークイーン(偽名)である。
学園内で文科系全般の科目を統括し、日々の生徒の悩みの相談にも乗る、学園一信頼が厚い教師と言っていい。
彼女もまたその戦闘能力の高さからアルマの結界からも弾かれることはなく、状況を把握しきれていなかったものの戦い続けていた。
途中、守るべき生徒が消えたことにより思う存分に戦いに赴き、自慢の双斧を振り回してきたが―――その先、ロックを見た。
かなりタイプのイケオジがピンチになっているところを。
眼が合う。
大胸筋と大胸筋が呼応する。
例え世界は違っていても、己の肉体を極限まで鍛えた者同士。
今この瞬間、筋肉に生きる男に何が必要なのかを理解していた。
「――――キレてるキレてるぅ!!」
「!!」
『!?』
声援を受けた瞬間、筋肉が音を鳴らし鳴動する。
鼓動を刻み、血流が血管を流れ溢れ、急速に圧力を増した。
ただの声援と、侮ることなかれ。
筋肉とは日々の研鑽の蓄積である。
そして一流の筋肉戦士であれば肉体コンディションを100%にしているのは言うまでもない。
ならば、120%に、さらにその先に持っていくには如何とするか?
「広背筋ドラゴンウィングか! 肩にマウンテンゴーレム宿ってるわぁ!!」
意味は半分くらい解らないが。
しかしてロックの筋肉を賞賛するのは通じる。
そう、それで十分なのだ。
誰かの声で強くなる―――――それこそが筋肉。
「ヌゥ―――ふぅぅ……!」
『……!?』
人狼には、眷属には理解できない。
筋肉と筋肉を信じる声を。
応援してくれるだけ力が沸き上がるという筋肉の力を!
「ヌオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
溢れ弾ける筋闘気!
嗚呼、礼賛せよその至高芸術を!
物理的に衝撃波となって放たれるマッスルオーラが人狼の体勢を崩し、ついに均衡が崩れる。
「!!」
その瞬間を見逃すロックではない。
緩んだ一瞬、さらに腰を落として両腕で人狼の左脇へタックル。そのまま抱きしめるように右腕で人狼の肩と腕を固定。
全身を律動させ、人狼の巨体を浮かし、
「我が筋肉を味わうがいい……!」
130キロにもなる全体重を乗せて地面へと叩きつけた。
From earth412 暗殺王/≪不死王≫アルカイオス王国三代国王 ロック・アルカイオス三世。
デウス・エクス・マキナ
機械により降臨させられた神
人の形をしたナノマシンの集合体。精神自体は拳大のプラズマコアに収まっておりそれさえ無事であるのなら無限再生可能。
ナノマシンもある程度は自身精製できる。
デウス・エクス・ヴィータ
命仕掛けの神
マキナ体内に用意されたナノテクノロジー戦闘兵装
通常形態第一種、五メートル程度を第二種、さらに第五種までスケールチェンジ可能であり、ナノマシンによりリアルタイムで兵装精製可能。
クロノ・ラザフォード&アルカ
オネショタ。
人形師であり人形遣い。
アルカ単体でも元素精霊術により物質を元素崩壊させる力を持つが、それをクロノの傀儡操作でフォローしている。スナイパーライフルを模した武器は魔力弾の発射補佐。
本来近代兵器は精霊は受け付けないが、鉱物からクロノが発掘して形成しているのでオーケーらしい。
ロック・アルカイオス三世。
筋肉その1。
ロックの世界は魔法はないが、人体の可能性が極めて高く確固たるイメージを以て鍛えればその通りになるという世界法則を持つ。
故に最強の筋肉と鍛えた結果最強の筋肉になった。
あらゆる暗殺を筋肉で物理的に防ぐ。
フランソワ・フラワークイーン
オカマ筋肉エルフ
好みのイケオジと出会い、筋肉で通じ合った。
普段はやる夫スレでAAを弄っているので、ハーメルンにもAA機能が実装されたということで少し遊んでみました。
改めて、来年もよろしくお願いします。
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