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ディスコミュニケーション

 

 飛行都市旅艦『地獄府』の中層部は四階層のショッピングモールとなっていた。

 室内ではあるが、吹き抜け構造となっており、照明も当然のように完備されているため、空間の開放感は強い。

 『地獄符』自体が富裕層向けの観光地であるため、並ぶショップも高級品のファッション系や貴金属、最新家電系が多い。

 また、世界各国各有名地由来の家具やグッズを集めたアンテナショップ、軽食屋やレストランもあり、一日かけても巡りきれないほどの店が収まっていた。

 そのモールの一階フロアにあるキッチンカー形式のカフェにて、

 

「もきゅもきゅもきゅ……」


 トリウィアは透明な竹筒に入れられたタピオカミルクティーを飲み、タピオカを咀嚼していた。

 白のサマーセーターにハイウェストデニム、ベージュのコート姿の彼女は、手にしているタピオカミルクティーをじっと見つめていた。


「………………不思議な触感です」


「これが結構クセになるんでありますな。自分の世界では一時期めちゃくちゃ流行って店が沢山できて、数年で潰れたりもしたであります」


 トリウィアの向かいの席で同じ用にタピオカミルクティーを手にしていたのは巴だ。

 彼女もいつものスーツ姿ではなく、黒のキャップとオーバーサイズのグレーのパーカーに迷彩柄のカーゴパンツ姿。

 

「どこの世界も流行による流行り廃りは世知辛いですね……」


「御主人様、もう概ね事業も安定したのですから一々ナーバスになられなくてよろしいかと」


 染み染みと頷くクロノは白い半袖のカッターシャツに蝶ネクタイ、黒い紺色の半ズボン。普段のモノクルとは違い、黒縁メガネ。

 彼の背後に立つアルカはいつもどおりのメイド服姿。


「………………」


 そして、一人無言でタピオカを咀嚼するソウジは全身真っ黒のシャツとズボンというシンプルな姿だった。


「しっかしまー、どの店もとんでもない値段でありますな。家族でアウトレットモールとかに行くと光景としては似てるけど、値段が0一つ違うでありますよ」


「私の世界とは時代や金銭価値が大きく違うのでなんとも言えないですが、そんなものなんです?」


「ですねぇ。僕やトリウィアさんみたいな世界でいうと貴族向けって感じの店が並んでいますね」


 クロノは頷きつつ、ポケットからカードを取り出す。


「今回、僕らはアルマさんから限度額無制限のクレジットカード貰ってるんで気にしなくていいですけどね。みなさんの服も、それで買えたわけですし」


「ありがとうございます、クロノさん」


「いやぁ、マジ感謝でありますな。旦那とのデートに使わせてもらうであります」


「いえいえ。コーデさせてもらえてむしろありがたかったという話です」


 ウィルとロータスが兄妹デートをし、フォンたちがビーチに、トリウィアたちがウィンドウショッピングに来て、まず最初に服屋に赴いてクロノのコーデによる服を購入したわけだが、


「アレスとヴィーテフロアは選んでもらった服でそのままデートに出かけたあたり、ウキウキでありましたな」


 正確に言えば新しい服にテンション上がったヴィーテフロアがアレスを引っ張っていったという感じだったが、今頃は二人きりでショッピングモールを楽しんでいるのだろう。


「あの二人も、ここ数ヶ月落ち着いて一緒に過ごす時間なんて無かったでしょうしね。せっかくだしゆっくりしてもらいましょう。そういう意味でも、ヴィーテさんのテンションを上げてくださったクロノさんには感謝です。まぁあの子はアレスくんが絡むと静かにテンション振り切れていますが」


 言いつつ、トリウィアは周囲を見渡す。

 この『地獄符』は旅艦が故に、観光客が浴衣を着ていることが多い。

 モールの客も七割ほどが様々な柄やアレンジされた浴衣を着ている。

 同じ様に他の客に視線を向けたクロノはメガネをくいっと押上げた。


「せっかく別のアースに着て、浴衣だけというのも味気ないですからね。アース・ゼロに近いファッションも扱えて楽しかったですしね。ただ……」


 彼は、視線をズラした。

 その先にいるのはストローに口をつけたままのソウジ。

 黒一色の服装に、女性に見間違うほどに整った顔立ちと濡れ羽色のポニーテールはそれだけで完成されている。

 完成されているのだが、

 

「ソウジさん、ほんとにそれでよかったんですか? もうちょっといろいろ組み合わせればおしゃれになると思うんですけど。いえ、似合ってはいますが」


 クロノの言葉に、ソウジはストローから口を離し、


「…………………………問題ない」


 一言、小さく、静かに返して、またストローに口をつけた。


「…………」


 その場に一瞬、沈黙が下り、


「なんというか」


 巴が言葉を発した。


「ソウジさんはアイドルでもやれそうなぐらいものごっついイケメンですが―――――なんでそんなコミュ障なんでありますか? 厨二病でありますか?」







「ごふっ」


 ソウジは巴の言葉に精神ダメージを受け、同時にタピオカを喉につまらせた。


「うっ、ぐっ……!」


 すぐに飲み込み、巴に対して言葉を返そうとし、


「そも、前から気になっていたんでありますが、掲示板だとっすっす三下口調なのに、顔合わせると全然喋り方違うじゃないでありますか。あと口を開く頻度も。どういうあれであります? 正直、他のみんなは一目見て、あぁあのコテハンかぁってなったでありますが、ソウジさんだけ、一瞬マジで誰……? ってなりましたし―――――キャラ付けでありますか」


「ごふっ……!」


 続けざまに放たれた口撃に、大きく仰け反った。

 

「と、巴さん! 言い過ぎでしょう! デリカシー! 確かにちょっと思っていましたけど! ほら! きっとソウジさんはあれですよ! 前世で言う……なんでしたっけ? ゆっくーり世代?」


「ゆとり世代でありますか」


「それです! のびのびと育てられた人なんです! 僕とかの時代の工場にいたら一日で顔面ボコボコになりそうなコミュ力だなとは思っていましたけど!」


「御主人様。おそらくフォローになってないかと思われます。あと、色々思っていたのですね」


「ぐうぅ……!」


 クロノからの思わぬ追撃に体をくの字に折り曲げることになった。

 色々ひどい。

 実際、ソウジはいわゆるゆとり世代と呼ばれる時代の生まれだし、確かクロノは戦後まもない時代生まれで転生したという話なので彼からすれば歯がゆいところがあるかもしれない。

 彼自身はお手本のようなショタだが、ゴリゴリの昭和勢だ。

 平成生まれの自分とは価値観のベースが違う。

 昭和とか平成とかいう単語も久しぶりに思い出したなぁ、なんて思いつつ、


「…………別に、キャラ付けじゃない」


「はぁ。ではなにゆえ」


「…………単に、上がり症なだけ、だ」


「はぁ」


 何を思っているのか読めないその言葉もわりと胸に来るのだが。

 それでも気力を総動員して、口を開いていく。


「……元々、人と話すのが苦手だった」


 一度区切り、


「それで、転生してから冒険者になってもずっとソロで。人と話す必要も無く、向こうが、勝手に話を進めることが多かった」


「なるほど――――勘違い系というやつでありますな」


「………………」


 そう言われるとそういう系統なのかもしれないが、なんとも言えない気分だ。

 ソウジはため息を吐きつつ、


「刀を振るっていれば、大体解決した」


 言う。

 転生者としては想像のしやすい、魔法があって、魔物がいて、亜人がいて、奴隷が一般的で、ステータスがあって、スキルがあるアース349。

 何より、個人としての戦闘力があれば冒険者としていくらでも成功できる世界だ。

 ソウジがコミュ障だろうと、強ければ何の問題もないし、世界に七人しかいない同格(Sランク)の冒険者はソウジよりもよっぽど人格が破綻している。

 だから、依頼を受けて、魔物を殺し、ダンジョンを攻略し、魔王を倒せればそれでよかった。


「最近は、家族ができて少しはマシになった……気もする、が。喋るのは苦手だ」


「あぁ、御影さんを見て―――」


「おっほん!!!!!!!!!」


「おもろいでありますなぁ」


「はて、御影さんがなにか?」


「トリウィアさん、触れないであげてください」


「はぁ……まぁいいでしょう。いくら私でも人の隠したい秘密まで漁るほど、品性がないわけではありません」


 本当に助かった。

 冒険者として大成し、やることもなくなって掲示板を覗いていたらウィルと出会い、そのウィルに感化されて奴隷を買ったのは人生の大きな転機だった。

 結果的に不器用がすぎる自分を愛してくれて、良かったとは思う。

 決して、その決断が間違っていたとは思っていない。

 だが、それはそれとして御影がえっちだから鬼族の娘を買ったり、その後もクールなエルフや元気なハーピーも追加で買ったりもしたのはちょっと、かなり、とても恥ずかしい。

 

「んんっ……掲示板で、口調が違うにも。意味はない。敬語が下手なだけだ」


「テンション感もだいぶ違う気がするでありますが……そこは置いておくでありますか」


 そうしてくれると助かる、と思いながらソウジはストローに口をつける。

 タピオカミルクティーなんてものはソウジの世界には存在しないし、前世でも陽キャの飲み物すぎて忌み嫌っていたものだが、悪くないと思う。


「……ともあれ、俺のことは気にしないでくれると、助かる。みんなが楽しんでいるのを見るの、楽しい」


「ははあ。そんなもんでありますか」


「気持ちはわかりますけどね、僕も」


「私もです。御主人様が楽しんでいるだけで私もメイドとしての存在意義の絶頂を感じております」


「楽しみ方は人それぞれという話……というか、みなさんウィルくんの楽しんでるのを見て楽しんでいたのでは?」


「いやぁ……」


 巴とクロノは照れ、アルカとソウジは無言で通した。

 そんな四人にトリウィアは苦笑し、


「全く愉快な人に見守られていて――――」


 続く言葉はなかった。

 ただ、彼女が手にしていたはずのカップが地に落ち、中身が溢れる。


「―――――――は?」


 トリウィアが、ソウジたちの前から消えていたのだ。







「――――!」


 その瞬間、トリウィアは弾かれるように立ち上がる。

 前触れはなかった。

 別の世界で、休暇中で、会話中だったから気が緩んでいたとはいえ、それにしたって何も感じない。

 ただ、気づいた時にはトリウィアの周囲は一変していた。

 場所は変わっていない。

 それまでと同じカフェのテラスで、同じテーブル、同じ椅子に座っている。

 だが、話していた巴、クロノ、アルカ、ソウジの姿は無く、


「周囲の人たちも……!」


 あれだけいた他の客さえもいない。

 完全に、無人だ。

 否。


「あなたは―――」


 視線の先、モールを軽い足取りでこちらへ進んでくる人物がいる。

 目元を隠している大きなサングラス。

 グラデーションが掛かった毛先を持つ明るい青い髪と服のあちこちに塗料が付着した少女。

 見覚えがある。


「昨日の、ロッカー……!?」


「いやぁ、別にロックはやんないけどねぇ」


 喫煙所の近くの壁に絵を書いていた子だ。

 肩をすくめた彼女は、トリウィアの前方で足を止める。


「改めまして、だねぇ。びっくりしてるぅ?」


「それはもう。……周りに誰もいないのは、あなたの仕業ですか?」


「そうだよぅ」


 彼女は屈託のない、にへらとした笑みを浮かべ、


「私はクロイツ―――」


 いつの間にか、両手に手にしているものがあった。

 拳銃に似た、しかしそれよりもずっと大きいリボルバーを持った火器。

 妙にカラフルな色合いのそれにトリウィアは見覚えがある。

 実用的な武器ではなく、王国の一部の好事家向けに錬金術師が作られたそれは、


「確か、グレネードランチャー……?」


「流石、詳しいねぇ。トリウィア・フロネシスさん」


「なぜ、私の名前を―――」


「簡単だよぅ」


 変わらず、ゆるい微笑みのままクロイツは銃口をトリウィアに向け、


「《《私たちは今日》》―――――《《貴女たちを再起不能にするために》》、《《この世界に来たんだから》》」


 引き金を引いた。





前々からそうでしたが、デリカシーはない。


クロノ

限度額無制限私服コーデたのしいいいい

アルカ

楽しんでる御主人様たのしいいいいいい


ソウジ

コミュ障!

マリエルとは違って武人、武侠ではないが

刀振るってたら世界の頂点にいた男

黒はかっこいいと思っている。

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― 新着の感想 ―
面白くて一気読みしちゃいました 続きがとても楽しみです~
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