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悪意の無い悪⑨

ちょっと長くなりました

怯え腰を抜かし座り込む須磨

魔女の姿が目の前で変化していく様を見て

現実離れした状況に、なろう系小説なら

異世界ファンタジーに歓喜するところだが

実際には恐怖がその上をいき

それどころではない状況だった


魔女は2本のツノが現れ

ヴァンパイアのような牙が伸び

爪が長くするどくなり

腕が筋肉質に、目が爬虫類のように

腰まで伸びていた黒髪が銀色に変化していき

その後背中からバサァッという音と共に

大きな黒い翼が広がった

見た目グラマラスな女性のまま

どうみても悪魔という表現が正しい姿に

変わってしまったのだ


 『まぁ6割程度だな、あまり元の姿を見せると

 理性まで飛んでしまいそうだからね』


魔女が爪を舐めながら須磨を見下ろし

ニヤリを笑う


 『あ、ああ、あああぁ』


言葉にならない言葉を漏らす須磨

爬虫類に睨まれた獲物のように

怯えながら仲間達に助けを求め

辺りを見渡すと

双子の少女と思われた子供も

悪魔のような翼が生えフワフワ浮いている

その下に正座させられた仲間達が恐怖で

動けなくなっている


 『さてと君は少しおいたが過ぎた

 見せしめという訳でもないが

 ここまでの命として一生を終えてもらおうかな

 つまり死ねという事だ』


そう言いながら魔女が長く鋭くなった爪の

尖った先端を自分の目の高さまで掲げる

そして大きく振りかぶり

その爪で串刺しにするかのように

須磨めがけて腕を振り下ろす

鋭くとがった爪先が須磨を串刺しにする瞬間


須磨を抱えて横っ飛びする人影

そのまま机や椅子が散乱したところへ

突っ込む


ガッシャーーン

ガラガラガラ


 『いててて…』


ガレキの中から立ち上がる魔王様

そしてそれを見つめる須磨


 『あ、あんたは会社の…荷物持ち?』


須磨が助けられた事よりも

まさかの人物がここにいる事に驚愕している


 『誰が荷物持ちじゃ!!!ちゃんと仕事しとるわ!!!』


腕と頭を打ったらしくおさえながら

須磨に突っ込みを入れる

そして魔女を見つめ


 『なんだよ、その姿

 殺さないんじゃなかったのか?』


魔族の姿をさらしている魔女を指差し

何をしているんだと言わんばかりに

さとすような口調で話かける魔王様


『全員殺したりしないさ

 ただそいつはやり過ぎた

 武器を出した、その銃だって

 威力を試す為に小動物でテストしている

 救い様がないんだよ』


怒りもあるが呆れている様子の魔女

須磨を殺す事はもう決まった

そう言わんばかりの口調だった

それを聞いて魔王様は複雑な表情をして

魔女を冷静にさせる為に話かける


 『この世界では人を殺しちゃダメなんだろう

 大きな罰を受ける、そうなんだろう?

 お前らはこの世界で生きていく、そう決めたから

 人の姿に扮してこの世界のことわりに 

 準じて生活してるんだろう

 それをこんな事で破ってしまっていいのかよ』


魔王様が魔女に冷静になれよ、と

言わんばかりに早口で問いかける

とりあえず人の姿にさえ戻ってくれ

そういう思いを込めていたのだが

魔女を人の姿に戻すまでには至らなかった


 『この世界でもあっちの魔界でも

 同種族を殺める事は許されないだろう?

 それでもそういう事は起きるべくして起こるだろうに

 それが今なんだよ

 この世界だって秩序を守る事を決められているのは

 一般人だけさ、どこも同じだよ

 今だって圧倒的武力を持つ人間が

 圧倒的無力な人間にボタン一つで

 ミサイルを落とす

 一体何の理由があって殺されなきゃいけないんだ

 って事実が普通に起こってるさ

 国と国の犠牲になるのはどこの世界も一般人

 リーダーは前線に出ず安全な場所で

 指示だすだけ、何を偉そうにして講釈たれてんだって話

 それに比べて今ここはちゃんと原因と理由が出来上がって

 罰を受ける人間が決まっているじゃないか

 一国を治めてたあんたなら分かるだろう?魔王様』


魔女が自分が正しいという事を証明するかのように

魔王様とロスバトルを始める


 『あぁ、分かるよ

 あんたが圧倒的武力の持ち主で

 こいつ、須磨が無力だよな

 個対個なら、服従でもさせればいいじゃないか

 それこそ尚更無駄な殺生なんて必要ないだろう?』


背後にいる須磨を親指で指しながら

殺す事を認めない魔王様


 『魔王が人を守るのかい?』


魔女が不可解だという表情で魔王様に尋ねる


 『守るつもりなんてないよ

 あんたと同じく罰は受けてもらう

 それにまだこいつにはやってもらいたい事もあるしな

 死なれちゃ困る』


二人の会話が続く中

須磨が四つん這いになって

この場所を離れようとコソコソを移動を始める

それを見た魔女が


 『私の敵に回るって言うのかい!』


と語尾が強めになった瞬間

四つん這いの須磨を逃さないというかの

ごとくに長い爪で串刺しにしようと

攻撃を開始する


 『くそっ!

 敵に回すつもりなんてないよ

 この世界にいる間は良好な関係で

 いたいですね!』


と四つん這いになってた須磨の足をひっぱり

魔女からの攻撃をかわすように

引きずって右から左へ移動させる


 『お前あっちに走れ』


魔王様が須磨を危険な所から遠ざけようと

指示を出す

魔女の爪が空を切るが

倒れていたリビングテーブルの天板に

爪が突き刺さる

そのままテーブルごと持ち上げる魔女

そのテーブルを須磨向けて投げつける

ヨタヨタした足取りで走りかけた須磨目掛けて

テーブルが飛んでいく

それを見た魔王様が慌ててダッシュする


 『クソォ〜このヤロー』


と言って自分が盾となるかのうように

横っ飛びでテーブルにブチ当たる


 『ぎゃぁぁ〜』


という叫び声と共にテーブルに激突した魔王様は

そのまま弾き飛ばされる


 『うううぅぅぅぅ、いたぁい』


テーブルの下敷きになって動けない状態で

呻き声を上げる魔王様

須磨が慌てて駆け寄る

流石に何度も助けられたら

守ってもらっているという事が理解できるらしい


 『お、おいおい

 あ、あんた大丈夫か?

 なんで、どうしてそこまでしてくれるんだよ』


須磨がテーブルを避けて魔王様の無事を

四つん這いの状態で確認するが

意識がない


 『死んでないよな?

 目を覚ましてくれよ〜〜

 なぁ、おい〜』


その背後から魔女が迫りよる

その気配を察知した須磨が振り返ると

魔女はすぐ側まで来ていた

見上げると薄明かりの為

顔が暗くて見えない

それが余計に恐怖を助長する

もうダメだと悟った須磨は

怯えて動く事すらできない

空気に飲まれてしまっている

一瞬の沈黙があり静寂に包まれる


 『覚悟はできたかい?

 自分の非は見えたかい?

 後悔はしているか?』


魔女が須磨に囁きかける

須磨は魔女を見上げた状態で

腰を抜かしたまま言葉は出てこない

一瞬のような一生のような時間が流れる

魔女が黙って手を上にあげる

再三幾度となく見た爪を振り上げる姿

須磨が目をギュッと閉じる


・・・・・・・・・


何事も起きないと思った須磨がそっと目を開けると

両手を広げた魔王様が血を流しながら立っている


魔女が無言で歯を食いしばって魔王様を見つめる

振り上げた爪は上がったままだ

肩で息をし、ゼェゼェいいながら魔女を睨む魔王様

見つめ合いが続くが魔女が諦めたように

首を左右に振ってため息をつき


 『仕方ないね、あんたの覚悟も一緒に頂くよ

 じゃーな、魔王様』


そう言って魔女は悲しい目つきで

爪を魔王様、須磨に向けて振り下ろす

その時だった

ずっと背後にいた須磨が突然前に出て


 『す、すいませんでした!!!』

 『すいません、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい』

 『本当にもう、すいませんでした…』


土下座をして二人の間に滑り込み

泣きながら頭を下げ、ひたすら謝る須磨がいた

頭を上げ謝り、下げてまた謝る

それを見た魔女が目をつぶり少し考える


 『ん〜まぁ合格点とするか、な』


魔女が爪を下げ、姿を元に戻していく

泣きながら頭を下げていた須磨の頭に手をおき

そう言ってニコっと笑う

置かれた手をそのままに涙を流しながら

魔女を見上げ何が起きたか理解に苦しむ須磨


 『心の底からの謝罪を受け取るって言ってんだよ』


と魔王様が須磨に説明し親指を立て

good job的な感じで笑う


魔女がマウとモウに合図をすると

正座させられていた他の4名が須磨の元に連れてこられる

全員うつむいたまま黙り込んでいる

その姿を見ながら魔王様は


 いや、ちょっとお灸そえるって域超えてね?

 どう考えても脅迫以上だろう

 反省するっていうかトラウマだろ、これ

 罪と罰の範疇はんちゅうはわからんがご愁傷様

 はぁぁ体中痛いし、スーツボロボロだし

 これ高いのに 

 妹御に怒られるな〜

 借り物の体壊さなくてよかった

 私って死んだらどうなるんだろう

 消滅しちゃうのかな?

 気を利かせて転生とかしてくれる…

 わけないか


そんな事を考えながら魔女をチラッと見ると

魔王様に向けてピースしていた

 

 結局あいつの手のひらの上なんだろうな

 

 『お疲れ、魔王様』


魔女がにこやかに声をかけてきた


 『最初から決まってたシナリオ通りでしたみたいに言うな』


魔王様がため息まじりに答える


 『まぁまぁそう怒りなさんな 

 このお礼は必ず、スーツも新品にして返すよ

 それじゃ5人全員連れていくけどいいかな?』


と魔女が魔王様に許可を求める


 『あ、まって須磨は貸してくれ

 後でちゃんとそっちに連れてくよ』


 22時を回った頃

社内で朝陽の同期である田口が責任を感じ

須磨のイタズラの後始末に追われていた


 『あ〜無理かも知れない、こりゃ間に合わないかも…』


田口が独り言を言いながら頭をクシャクシャにして

かきむしる

そんな時だったガチャッという音と共に

扉が開いた

田口がドアの方を見ると俯いた須磨が立っていた


 『え、あ、す、須磨君!?』


田口が席を立ち須磨の方まで駆け寄る

いろいろ言いたい事があるが言葉にならないというか

何しに現れたのかという恐怖もあった

しかし表情を見るに…


 『すいませんでしたーーー!!!』


頭を下げる須磨

下げた頭をそのままにして上げる事はない

その姿を見て田口はいろんな思いを吹き飛ばす


 『あ〜やっぱりだよね〜

 よかった〜あれだよね

 謝罪って事は〜さくっと元に戻してくれるんだよね?

 今日中に帰れそうだー

 ばんざーーーい

 ささっ一緒に片付けようぜ!』


そう言って田口が上機嫌で須磨を椅子に座らせる


 『はぃっ、データ関連も全て持ってきていますので

 お時間は取らせません

 ほんとにすいませんでした!』


須磨が立ち上がって頭を下げようとするも

田口はその肩をとって須磨を見る


 『もう謝罪は聞いたよ

 作業を見せてくれるかな?

 私が至らなかった点を確認したいから

 いろいろ教えて欲しいんだ

 スキがあったから生まれた結果だとも思ってるんだ』


ニコニコ顔の田口来未が須磨に笑いかける


 『あんたと言いあの人といいこの会社

 良い人多過ぎて潰れますよ』


と須磨がボソッとつぶやく


 『ん?何か言った?』


田口が須磨の作業に没頭してた為

よく聞こえなかったようだ

田口は須磨を見て一体何があったのか不思議に

思っていたが聞くことは野暮だと思った


しばらくして作業も1段落した所で田口が須磨に

休憩を促す


 『ちょっとコーヒーでも買ってくるよ

 そのまま楽にしていてくれたまえよ』


そう言ってパタパタと自販機コーナーに

向かって行く

その時自販機の方から話声が聞こえてきた


 『ちょっと座ったら寝ちゃってたか…

 マウ誰か来た?

 そか来てないならよかったよ

 疲れた時はやっぱこれオロ○ミンC

 これおいしいよね飲んだことある?』


田口が声の主に聞き覚えがあり

そおっと自販機コーナーを覗いてみると

一人言を呟いてる朝陽がいた


 朝陽くんじゃん

 一人言?誰かいる??

 なんかボロボロなんだけど

 理由は分からないけど

 たぶん須磨くんをどうにかこうにかして

 ここまで導いてくれたんだよね

 ありがとうございます

 今出て行くのは朝陽くんの男気を潰しちゃうかな

 直接お礼言いたいけどね

 心から感謝するよ、朝陽くん


 『さぁてと帰るかな〜』


終わり

ちょっと長くなりましたがやっと終わり

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