満月
25ボブ
時刻は朝の6時を少し回ったところ…
日曜の朝だと言うのに、早々と目が覚めてしまったジミーは半開きの瞳を擦りながら階段を降りていると、キッチンから物音がが聞こえる。
「おはよう」
「あら、おはようジミー、どうしたのこんなに早く…今日は日曜日よ」
ニコニコしながらジミーの母親は手際よく朝食の準備をしている。
「ん…母さんは日曜もこんなに早く起きて朝食の準備してるの?」
ニコニコしながら、それには答えず母親は手を動かしている。
すると、包丁とまな板が当たる音に混じり、二階から足音が聞こえてきた。
父親だ。
珍しく、父親もこの日は早く目覚めたらしい。
しかも、リビングに入って来た父親の表情は何か怒っているように見えた。
「あらあなた、今日は早いのね?」
「……」
ムスッとした表情で席につく父親。
少しの間が空くと父親の口が開いた。
「母さん…この前送られてきた蕎麦を全部茹でてくれ…」
「えっ…?この間JAPANから送られてきた蕎麦を全部?」
「そうだ」
「全部ってあなた…ものすごい量よ…」
「いいから茹でなさい。」
眉間にシワを寄せ、腕を組みながら蕎麦が茹で上がるのをじっと待つ父親。
ダイニングチェアがミシッミシッと軋みだす。
父親の大きな躯体が揺れ始めたかと思うと、あたかもそこに蕎麦があるように、見えない箸で蕎麦をすくいあげ、口元に運ぶ仕草を見せ始めた。
徐々にそのスピードは増していく。
ミシッ…ミシッ…
ダイニングチェアが悲鳴を上げ、スピードが最高潮に達しようとしたその時、大きなボールに山盛りになった蕎麦がダイニングテーブルの中央にドンっと置かれた。
大きな躯体を支えるダイニングチェアの軋み音が止んだ…
「………」
「ジミー…」
「は、はい…」
「何してる…早くここに座りなさい…」
「えっ?」
「早く」
言われるがままジミーは父親と対面に座った。
「ジミー…父さんとどっちが早く食べられるか競争だ。」
「いや…ちょっとまっ…」
「母さん、合図を頼む。」
「だからちょっ…」
うろたえるジミーの小さな声をかき消す母親の声と同時に父親は物凄い勢いで蕎麦をすすり始めた。
「スタート!」
ジュルジュルジュルッ…!
「ウッ…ゲボゲボゲッ〜」
勢いよくすすり始めた父親は蕎麦をぶちまけて真っ赤な顔で咳き込みながら床を転げ回る。
どうやら蕎麦のつゆが気管に入ってしまったようだ。