罪と罰
24ボブ
「ビール持ってこーい!」
ジェイコブの大きな声が冷たいコンクリートの壁にぶつかり反響する。
すぐにそれが消え、静寂に包まれると、ウィルの怒声が聞こえた。
「カット!」
とある街の一角にある廃工場。
中は薄暗く、辺りを見渡せば窓ガラスは割れ壁には落書き、床を見れば長い年月を物語る厚く積もった粉塵と工具や部品たちが散乱している。とても夜は立ち入れないような場所だ。
まだ昼間なのに薄暗いその部屋の片隅には三脚が支えるビデオカメラが設置してあり、液晶画面にはRECと表示されている。
部屋の中央あたりに自宅から持ってきたであろう折りたたみ式の簡易テーブルとチェアが置いてあり、ジェイコブが座っている。
「飲みたいって気持ちが全然伝わってこねーんだよ!もう一回!」
カメラの横でゲキを飛ばすウィル。
「ビール持ってこーい!」
それに応えるよう、ジェイコブは精一杯の声を振り絞る。
どうやら何かの作品を撮っているようだが、どんなストーリーでどんなシチュエーションか分からないが、2人の表情は真剣だ。
首を横に振るウィル。
「ビール持ってこーい!」
「……」
「ビール持ってこーい!」
「……」
「ビール持ってこーい!」
「……ダメだダメだダメだ!喉の渇きが全然伝わってこねーんだよ!代わりならいくらでも居るんだぞ!」
「ビール持ってこい!」
「お前はそんなもんかぁっ!」
「び、ビール持っ…ゲホッゲホッ…か、監督…ノドが…」
「甘ったれてんじゃねー!代わりならいくらでも居るんだぞ!お前なんか辞めちまえぇぇ!」
ジェイコブの頭の中で何かの糸がプツリと切れる音がした。
「さっさとビール持ってきやがれこの野郎ー!!!」
唾液を撒き散らしながら、まるで発狂に近い叫びが薄暗い部屋に響き渡ったあと、静けさを取り戻したそこには肩を上下に動かし、荒く乱れた呼吸を整えるジェイコブの呼吸音が虚しく残った。
恐る恐るウィルの表情を窺うと、ニヤリと笑い、小さく頷いた。
どうやらOKが出たようだ。