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流星湯切りオンライン

流星湯切りオンライン ~注文は新エリアの攻略? うるせぇ、うちはラーメン屋だ!~

作者: nullpovendman

「へいらっしゃい! まずは入口の券売機で食券を買ってくれ!」

 鉢巻をしたヤンキー然とした店主が声をかけてくる。


 ラーメン流星。

 準和風テイストを売りにしたVRMMO「夕霧オンライン」でその名前を知らない者はいない名店である。


 店主である尾白流星の朝は早い。

 なにせ現実でもラーメン屋に勤めているからだ。

 といっても現実では、チェーン店タピ岡屋の早番の店員に過ぎない。朝5時からタピ岡屋でスープを仕込み、麺を仕込んだ後は、午前10時の開店以降、ランチタイムの混雑を過ぎるまで厨房を担当し、15時に遅番の店員に引継ぎをして帰宅する。

 帰宅後は「夕霧オンライン」にログインし18時から21時までゲームをする。

 夕霧オンラインユーザーからは、「ラーメン流星」がオープンしている18時から19時半までが、ゴールデンラーメンタイムと呼ばれている。いかにこの時間にログインできるが、夕霧オンラインの攻略に影響するのだ。


 ****


 流星は、いつか自分の店を持ち、すべての日本人を満足させる至高のラーメンを提供することを目標としている。

 そのために、いくつかのラーメン屋で修行をしているのだ。

 尾白流星の父は、こってり系デカ盛りチャーシューもやしチョモランマで有名なラーメン尾白の開祖、尾白悟郎である。

 尾白流星は父からラーメン作りの才能を引き継いで入るものの、実家で修行することはなかった。父と折り合いが悪いなどの深い理由があるわけではない。

 単にラーメン性の違いである。

 尾白流星は、あっさり派だったのだ。


 独り立ちして独自のラーメン道を究めるため、貯金をしつつラーメン屋で修行をする日々を送る流星だったが、まだまだ先は長い。そんなある日、家でラーメンの研究をしていた時、ふと、客の男性が言っていたことを思いだした。


「ぶふ。最近のVRMMOはすげぇよな、ぶふ、味覚まで再現されてんだもんな。ぶふ」

 鼻息荒く語っていた男性の言葉が本当であれば、VRMMOでラーメン屋の修行ができるのではないか。

 さっそくインターネットで検索した流星。

「VRMMO ラーメン で検索っと。おっ。『夕霧オンライン。準和風テイストで、最初の街で遭遇するモンスターからのドロップ品が、ラーメンの具材としか思えない。開発者がラーメンに狂っていたに違いない』とあるな」

 この出会いが夕霧オンラインユーザーのラーメン観を変えていくことになるとは、この時はまだ誰も知る由もなかった。


 夕霧オンラインを始めた流星。

 まずはキャラクターメイクである。

 名前はそのまま、「流星」を採用。

 見た目、現実そのままに髪の色を金髪に変更する。

 さて、職業選択である。

 準和風をうたっているだけあり、最初の職業には、侍、忍者、手妻師(他のVRMMOで言うと魔法使いの一つに相当する)、などがある。

 流星の選ぶ職業はもちろん、料理人である。

 さらに、手のタコなどを見て、現実の経験をステータスに反映する。この工程は後発組だけのものだ。夕霧オンラインはもうすぐ3周年を迎えるため、後発組が追い付けるような調整がされている。その一つとして、現実でなじみがあると思われるスキルを一つプレゼントされるのだ。

 一通りのキャラメイクは終わった。さあ、冒険(ラーメン作り)の始まりだ。


 料理人の初期装備は、包丁、エプロン、寸胴鍋である。

 現在の流星のステータスをご覧いただこう。

 ------

 キャラクター名 流星

 性別 男

 職業 料理人


 体力 10/10

 魔力 10/10


 攻撃力 11(+1)

 防御力 9(+2)

 瞬発力 11

 魔法攻撃力 9

 魔法防御力 9

 技術力 11


 装備

 頭:なし

 武器:包丁(攻撃力+1)

 盾:寸胴鍋(防御力+1)

 胴:エプロン(防御力+1)

 手:なし

 足:なし

 装身具:なし


 スキル

 包丁格闘術Lv. 1

 寸胴防御術Lv. 1

 ラーメン生成 Lv. 1


 所持金

 5000イェン

 ----


 流星は驚愕した。

「寸胴鍋って盾なのかよ!」

 何はともあれ、ここから流星の伝説は始まるのだった。


 ラーメン屋を作るためには、道具が必要であり、店が必要である。

 この手のゲームは、何をするにも、まずは金策である。

 最初の街「楼閣街」の周辺に出現するモンスターを狩って、素材を売るのが金策の基本である。古事記にもそう書いてある。


 だが流星はそんなことはしない。

 一にラーメン、二にラーメン、三四もラーメン、五に餃子である。


 流星は「楼閣街」のラーメン屋を巡った。「楼閣街」は最初の街であり、周辺のモンスターのドロップアイテムもラーメン関連のものなだけあり、ラーメン屋自体は多い。

 だが、多いからと言ってうまい店があるわけでもない。可もなく不可もない店ばかりであった。

 料理人の作った料理は、食べると一定時間強化効果があり、冒険に出かけるまえは腹ごしらえが基本である。攻略wikiにもそう書いてある。

 ただ、ラーメンはなぜかリアル準拠になっており、作ってから時間が経つと伸びてしまう。注文を受けてから作るラーメン屋もあるが、作り終わるまでに若干時間がかかることで、出来合いのものを販売するおにぎり屋やサンドイッチ屋、ケーキ屋、さらには乾物屋にすら人気で勝てていない。

 結果、出来合いの伸びたラーメンを出す店が多く、微妙な味の店ばかりなのだ。

 食べ歩いた結果、所持金は残り1000イェンになってしまったが、食べた中で一番マシだった店でアルバイトする約束を取り付けた。

 普段はNPCが伸びたラーメンを売っているが、流星がいるときは、客が許せばその場で作ってもいい、とのことだ。


 注文を受けたらまず、麺をゆでる。夕霧オンラインでは1秒で粉おとし、2秒でハリガネ、3秒でバリカタ、5秒で普通、7秒でやわめと設定されている。客の好みに合わせて麺をゆでたあとは、湯切りをし、スープを入れ、具を入れていく。この作業は夕霧オンラインの並の料理人でも手早く終えても湯切りに10秒、スープと具のセットで30秒ほどかかるのだが、流星は現実でもプロのラーメン屋である。VRMMO内であることを踏まえても湯切り2秒、スープと具のセットに2秒という実に驚異的なスピードで終えることができた。

 これであれば客を待たせずにラーメンを提供できるため、ラーメン屋として活躍できるだろう。


「醤油ラーメンひとつ! バリカタで!」

 新規の客が注文をする。

 ラーメンを3秒ゆでたら、流星の得意技の出番である。


 流星湯切り(メテオドライブ)


 流星が現実のラーメン屋で培った、麺の状態に合わせてミリ単位で振り下ろしを調整した完璧な湯切りである。


 スープを入れ、具材を入れる。

 現実のラーメン屋で培った、具材セットに最適化された動きは、もはや芸術と言える。


「へい、お待ち!」

 客も驚きを隠せない。

「兄ちゃん、何者だよ、そんな早業でラーメンを作れる料理人なんてみたことがねぇ」

「へっ! 俺はしがないニュービーでさぁ! この店でアルバイトをして、いずれ店を持とうと思ってんだ!」

「おう、兄ちゃんが自分の店を持ったら、絶対行かせてもらうぜ! 久しぶりに伸びてねえラーメンが食えて満足だ!」

 そう言って客はラーメンを食べ、満足そうな顔で金を払って冒険に出かけて行く。


 超高速のラーメン作成が評判を呼んだらしく、流星の(ゲーム内の)アルバイト先はやがて評判になっていく。

 客が増えるにつれ、流星も流星湯切り(メテオドライブ)だけでは対応がしきれなくなっていく。

 こうなれば、さらなる必殺技を解禁せざるを得ない。


 三連(ジェットストリーム)流星湯切り(メテオドライブ)

 3人までの同時注文をこなせる流星の得意業である。これは現実でもやっている。


 覇王(エクストリーム)流星湯切り(メテオドライブ)

 8人までの同時注文をこなせる流星の最終奥義である。さすがに現実ではできない。


 こうしてそのパフォーマンスとともに評判となったラーメン屋から、たんまりとアルバイト代をせしめた流星は、ほどなく自分の店を持てるほどにイェンがたまったのだった。

 自分の店が持てるとなれば、あとはラーメンの研究である。

 いよいよ流星も冒険(素材集め)の時だ。


「まずは味噌ラーメンの材料からだな」

 味噌は、入れればうまみを引き出すことがたやすいので、素人にもおすすめしやすい。塩ラーメンなどは、味の調整に苦労するので、素人にはおすすめできない。(※流星の偏見)


 夕霧オンラインでは、きちんと最初の街で味噌や醤油、みりんなどの調味料がそろうようになっている。準和風を名乗るだけのことがある。

 みりんはイエロースライムのドロップアイテムである。ちなみにイエロースライムのレアドロップは酒である。

 これは包丁で刺して簡単に倒せた。


 味噌や醤油はゴブリンがドロップする。ゴブリンは調味料を作成する知性があるらしい。

 これも包丁で刺して倒せた。包丁は万能である。


 他にも、ぐるぐる、という名前の、ナルトをドロップするモンスターや、メンマをドロップするタケノコ型のモンスターなどがいる。


 至高のラーメンを追求する流星の情熱を阻むものはもはやいない。何度か死に戻りつつ、具材を集めた流星は自分のラーメン屋を開くことになった。


 ****


 流星の作るラーメンはうまく、そして、バフの効果も高かった。

 最前攻略組も常連になり、たまに一緒に素材集めをしていたら、いつしか最強のラーメン屋として有名になっていた。


 常連の一人である、最前攻略組の男性が店に入ってきて声をかける。

「流星! 新エリア行こうぜ!」

「うるせぇ! うちはラーメン屋だ! ラーメン注文しないなら出ていけ! 冒険は閉店してからだっていつも言ってるだろ!」


 完


具材集めや、ラーメンの試行錯誤をもう少し書き込んで、連載版を投稿しています。よろしければそちらもご覧ください。

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