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ウイリアム騎士団

登場人物紹介


ウイリアム……ウイリアム騎士団団長。女ばかりの騎士団を作った。牛郡領主の後継者だったが竜騎士の爆発攻撃によって戦死した。


アイザック……ウイリアム騎士団副団長。有能だが顔がゴブリンのように醜く不気味とエレオノーラや女騎士達から嫌われていた。


エレオノーラ……ウイリアムの副官。牛郡領一の美姫と評判だった。


ロメロ……前牛郡領主の末弟。ウイリアムの叔父、エレオノーラの養父。


 自分の館に二ヶ月ぶりに帰ったロメロが、客を待たせた客間に入るとゴブリンのような顔をした男がソファーで居眠りをしていた。

 彼は部下に起されて直ぐ、初対面でいきなり「誰だこのデブ」と呼ばれて唖然とする。


「(この男が狂人アイザック、報告と噂では聞いていたが何て顔だ、本当に人間か?)」


 ロメロは昔読んだ報告書を思い出す、アイザックはとある事件の容疑者だった。


「(九年前の長年調査していた軍の横領調査の協力者を殺害し、不正の証拠を隠滅した疑惑あり……いや、そんな事よりもウイリアムは己を殺そうとした男を何故自分の家臣に招いたのだ?)」


 アイザックはオークに襲われていた村を護衛騎士達と共に救出したウイリアムを、突如殺そうと襲いかかったという。


 捕らえられ、牢に入れられたアイザックだが、ウイリアムに牢から出された。

 ウイリアムは自分の前に引き出されたアイザックに、領民を守る為に軍に一番必要な物は何かと質問した。

 アイザックは、鹿郡領の〈調査隊〉という部隊の例を上げ、強力な独立部隊だと答えた。


 ウイリアムが軍から独立し、領主の命令が無くとも独自の判断で迅速に動ける部隊の必要性を口にしだしたのは、アイザックが側に付き出した頃だった。

 ウイリアムは自分で結成した騎士団の資金を、軍の金は一切使わずに領内の有力者達から集めていた。

 支援者達の中には、騎士団員の殆んどが女性ばかりなのを見て、資金と同時に次期領主の側に自分達の娘を近づけようと入団させ更に女性団員が増えたと、ウイリアムに近づけようとした娘が呆れた様子でロメロに話していた。


 ……


 そのウイリアムの死後、多くの女性団員を失っても、ウイリアム騎士団の副団長アイザックは、麾下の部隊を率いて、軍が引き上げて魔物によって荒れた牛郡領東部で、本来の独立部隊として自由に動き、逃げられず孤立した町や村の守備隊の兵士達を吸収しながら領民達を救出して回り、西部へと逃がし続けた。

 このアイザックが助けた多くの領民達の食料などで、内政を預かるロメロは頭を悩ませる事になったのだが……


 ロメロの兄、軍を預かるクリフは、アイザックに鹿郡領に行進する牛郡領軍の一隊将を任せたかったようだが、彼は使者の目の前で机を棍棒で叩き潰し、鹿郡領への行進に反対して、追い返したという……


 ーーーーーー


「ロメロ閣下に大変なご無礼、お許し下さい」

「う、うむ」


 片膝を付き、頭を下げたアイザックがロメロに謝罪する。

 客間に入った時、部屋には自分の側近と護衛以外に四人の客が居た。

 アイザックの隣で共に頭を下げる細目で長身の男。

 頭を下げる二人の男の後ろには、癖のある黒髪を肩の辺りで切り揃えた若い女は立ったまま、愉快そうに黒い手袋をした手の甲で口元を隠し、クククと喉を鳴らしている。

 ロメロはアイザックの謝罪を聞きながら、その女に目を向ける。


 その姿はまるで古い絵本から出て来た魔女のような姿だった。

 つばの広い三角に尖った黒帽子、白い肌に纏う肩から胸元まで大きく開いた黒い服。

 ロメロの視線は、黒く長いスカートから浮き出る身体の線をなぞりながら上へと上がり、白い大きな谷間で止まるが、彼女の黒い瞳を細くしてこちらを見ているのに気付き慌てて目をそらした。


「オッホン! いや、構わんよ! 娘にも良く痩せなさいと怒られたものだハハハハ!」

(わたくし)はそのような事を言った覚えはありませんわ」

「いや、本当に言ったぞ?……っ!」


 答えた後に、ハッとしたロメロは、その声の主を良く知っていた、だが三人から少し離れた椅子に座るその姿は、記憶にある姿からかけ離れていた。


「エレオノーラ……ウイリアムの事は残念だが、お前が生きていると聞いてどれ程嬉しかったか、良く生きて帰って来てくれた」


 言葉ではそう言うが、ロメロの目には落胆の色が浮かんでいる。

 流行り病で亡くなった友の残された幼い一人娘を、子がいなかった自分の養女にし、子が出来なかった妻が亡くなってからは、娘では無く自分の情姫にすれば良かったと考えるほど、牛郡領一の美姫と美しく育った娘が、今は本当にそうすれば良かったと後悔する姿だった。


 顔全てを包帯巻かれ、頭に巻かれた包帯から短くなった金髪がのぞき、指先から足の先まで、全身を包帯が巻かれている。

 包帯の上に着ている衣服で女性と分かり、包帯から僅かに開いて見える右目の青い瞳で、自分の知る娘だとかろうじて分かった。


 ーーーーーー


 エレオノーラは騎士団でウイリアムの副官を任された美しく賢い女性で、ウイリアムも良く頼り、四式隊の男達はあと何年で二人は結婚するかとアイザックも混じって賭けまでしていた。

 なお大穴で嫁はアイザックに賭けたタイラーは殴られた。


 ……


 エレオノーラは騎士団が受けた竜の爆発攻撃からただ一人生き残った女性だった。

 吹き飛んだ陣地跡で、世話係の女達と思われる死体の下に埋まっていた所を発見された。

 アイザック達はまだ人の形をしている事が幸運な死体を掘り起こしたが、その死体が僅かに息をしている事に気付き、魔術師と神官や巫女など二十名で編制された術式隊に治療させた。


 本陣から離れた村で医療活動をしていた為に無事だった術式隊は、エレオノーラの治療に高等な回復魔法や高価な回復薬や薬湯、彼女達が知るあらゆる治癒術が実験のように使われ、エレオノーラが意識を取り戻したのは発見されてから十日後であった。

 目覚めた彼女は変わり果てた自分の身体とウイリアムの死に錯乱したが、術式隊の隊長に魔術で無理やり落ち着かされた。

 だが元々賢く冷静な彼女は、治療を受けながら病室の中で牛郡領の状況と鹿郡領への行進という軍の計画を知ると、殺したいと思う程嫌っていたアイザックを呼び出し、愛したウイリアムが民の為に結成した独立部隊として、自分の計画を彼に話した。


 ーーーーーー


 ロメロは娘を抱きしめようと立ち上がるが、術式隊隊長の黒い魔女が、間に入って制する。


「ククク……お涙頂戴も良いですがいけませんよ閣下、彼女は見ての通り治療中です、傷にさわりますのでハグはお控え下さい、どうしても言うなら私が代理を、ヘイカモ〜ン」


 黒い魔女は、まるで感情の無い声で話し、ロメロに向って両腕を広げ、こいこいと招く。

 ロメロはどうして良いか分からず、アイザックの方を一度見るが彼とその部下もまたかといった顔で何も言わない。

 え? 良いの? 本当に? 抱きしめようか手をワキワキして迷ったが、魔女の後ろに居る娘の片目から、つめた〜い視線を受けて我に帰った。


「い、いや結構」

「ああ、そうですか」


 ロメロはソファーに座り直す、見た目はとても良い黒い魔女は残念そうにし、やはり感情なく淡々と話だす。


「先程閣下は私を寝室に連れ込み、そこでウッフン、アッハンとしたそうにジロジロと身体を見ていたのでそうして欲しいのかと」

「いやいやいやいや! 私はそのような事は思っていない!」

「アザリー待って、本当待って、これから大事な話があるから待って」


 エレオノーラが包帯が巻かれた手で魔女の黒い服を掴んで引っ張ると、部屋に居る全員が固まった。


「エレオノーラ……そこを強く引くとずれ落ちて私のがこぼれてしまいます。男性陣大喜びの丸出し大サービスになりますのでやめて下さい」


 魔女は服を摘んでクイッと上げる。


「ご、ごめん」


 客間に居る男性陣全員なんだかな〜と情け無い顔になって魔女を見ないようにしてる。


 ロメロはエレオノーラが呼んだ魔女の名前を聞いて思い出した。


「この魔女が変わり者で有名な変人アザリーか……」

「変人とは失礼な」

「あ、声に出てしまった! すまぬ! けして!――」

「変人ではなく変態とお呼び下さい」


 黒い魔女はクククと喉を鳴らす。


 お前の騎士団こんなのばっかりかと、ロメロは死んだ甥を問い詰めたくなった。



 ーーーーーー 


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