赤竜乙女の休日
登場人物紹介。
シズカ……前鹿郡領主の次女。赤竜乙女のあだ名がある男女問わずの色欲魔。暗闇が苦手で人と触れて無いと夜眠れない。
アーダム……シズカの配下。帝国から連れてきたシズカの愛人。
ブラッツ……シズカの配下、元帝国近衛兵。シズカの愛人。
ヨーコ……シズカの使用人。シズカの武術の師であり恋人。
ヤマ……シズカが雇った傭兵。過去の勇者が作った武器ライフル銃を使いこなす。
北砦の戦いが始まる二月ほど前。
魔王軍に敗れ降伏した帝国の帝都から、魔王の虐殺から逃れた一人の姫が故郷に帰還した。
姫の名をシズカと呼ぶ、異世界から転生して来た古代の勇者と同じ名を持ち、西方南部九郡の一つ鹿郡領の前領主の次女で、前夫の一物を噛み切った事から、夫を食い殺す魔物〈竜乙女〉の名と、西方人の父と南方人の母から受け継いだ青い瞳と赤い髪、僅かにエルフの血も流れるその美貌と赤い唇で、男も女も誘惑し、その猛獣のような性欲から、〈繁殖期に入った赤竜〉と呼ばれ。この二つの名が合わさって〈赤竜乙女〉、そんなあだ名をもつ南部では慎みの無い色狂いで有名な姫だった。
そのシズカ姫が、人は誰も通る事が出来ないとされていた魔物の巣窟である大森林を、一匹の巨大モンスターに守られながら森を通って故郷の鹿郡領にたどり着き、その巨大な魔物を連れて帰ったと聞いて南部の領主達は色めき立った。
「その魔物とは何だ!?」
鹿郡に説明を求め、すぐさま使者を送った。
自分の館に帰って直ぐにレオンに呼ばれ、鹿郡領都に到着したシズカは義兄のレオンに帰還の挨拶と魔物について話し、訪れた使者達にも語った。
シズカが連れ帰った巨大な魔物は蟲騎士と名乗り、全長二十メートルの人型の巨人、機械甲冑の鎧を纏ったような身体に昆虫の脚が集まったような手足を持ち、その顔は鍬形の大顎が生えたカイコ蛾に似ていて、人の言葉を理解して話すことも出来る知性も持った魔物だった。
そして、その巨体よりも目立つのがカイコ蛾の頭に上半身だけの少女が生えている事だ。
蟲騎士の頭に生えた少女の名をナナジと呼ぶ、長い黒髪と青い瞳に白い肌、彼女は言葉を話す事は出来ず、代わりに話す蟲騎士によれば、ナナジは地下の宝玉神殿を荒らした邪悪な人間達に斬り刻まれ、嬲られ、殺された少女だった。
神聖な神殿を荒らし、血で穢した事に怒った蟲騎士は人間達を殺した後、斬り刻まれた少女の死体を取り込んで肉体を再生し蘇らせた。
生き返ったナナジは生前の記憶を全て無くし、蟲騎士と同化して魔物になったが救ってくれた蟲騎士に感謝し、宝玉の女神から慈悲と寵愛を受けて名を授かり姉妹の契を結んだのだという。
テオドール神官による神聖魔法、嘘を見破る〈真偽の奇跡〉を何度も唱えられ、シズカは嘘をついていないと結果が出た。
使者達との会見後、そのまま姉のトキワが嫁いだ虎郡領に赴き、トキワの夫、虎郡領主と直接会って他の領主達の説得の約束を取り付け、次に虎郡領内にある勇者神の司祭と会談、魔物が勇者戦記録の経典一巻丸ごと書き変える程の記憶を持つ事を語ると司祭は椅子からずり落ち、魔物から記録の聞き取りを願った。
次の宝玉神の司祭との会談では宝玉神官戦士団が突然乱入し、シズカは拘束され、魔物のナナジが本当に宝玉神の義妹かを確かめる為に、宝玉神会の神託の儀式の間に、まるで罪人のように連れて来られた。
だが数日かかるとされた儀式は一分で終わる。
〈あらぁ? 妾のナナジちゃんそんな所に居るのぉ?〉
短いが神の声を、神官や巫女でもないシズカが脳内に直接聴いて目を回して気を失い、司祭は泡を吹いて倒れ、神託の間にいた神官戦士達も神の声を聴いて全員が腰を抜かして大騒ぎになった。
男達護衛三人の静止を聞かず、シズカ救出の為に潜入していたヨーコは屋根裏で失神している所をヤマが発見し、アーダムとブラッツは堂々と入口から入り、シズカを救出した。
次の日、宝玉神会からの謝罪と、頭痛に耐えながらベアトリス女王に手紙を書くなど、蟲騎士とナナジが鹿郡に住めるように、自分の側に居られるようにする為に、連日休み無く、忙しく奔走していた。
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「疲れたよ〜! も〜休みたいよ〜!」
鹿郡領に帰る途中の馬車の中で、シズカはヨーコに抱きつき、顔を埋めながら泣き言を言っている。
鹿郡に帰れば、次は父のヴォルケと結婚したマチルダとの祝会、狙っていた女を父親に取られたと思うとやるせない。
「シズカ様、本当にお疲れ様でした、お宿に戻ったらゆっくりお休みにしましょうね」
ヨーコは外から見えない様に内幕を閉め、太陽の様な微笑みでシズカの頭をよしよしと撫でる。
彼女のこの様な姿を見れるのは役割の世界で自分だけなのだ。
「(私のシズカ様、外の二人に渡すものか、私だけの……いけないけない。私とした事がはしたない)」
頭を振るヨーコの細い腰から手を離さないまま、シズカはヨーコを見上げる。
「じゃあ領都に着いたら美少年拾って食べて良い!?」
「……は?」
何か変な事を言い出した、相当疲れているようだ。
「だ、駄目です!」
「じゃあ村に居るアベルを呼んで! 食べ頃なの!」
「男は外の二人で我慢するって約束したじゃないですか!」
「じゃあナナジとリズで!」
「もっと駄目です!」
「む〜……」
ヨーコは泣きそうになった。こんなにも慕い、大事と思っているのにこの御方は……
「私がお相手しますから……」
――ギラ〜ン!
「ぎらん? きゃ!」
ヨーコの黒く潤んだ瞳を見た赤竜乙女は青い瞳に火が入り、赤い唇を舐めてヨーコの上に伸し掛かっかる、いつの間にか腰帯が外されていた。
「ここで!? お待ちに! お宿までお待ちなってくださいませ! こんな場所でなんて!」
「ヨーコ」
「は、はい?」
赤い唇が近づく。
「愛してる」
「おっとと! いや〜激しいね〜はっはっは!」
突然揺れ出した馬車に、手綱を握るアーダムは笑った。
ブラッツは何だかな〜と情けない顔になり、ヤマは一族に伝わる邪を祓うまじないをしていた。
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シズカの魔物について南部の領主達が報告を聞いていた頃、領内でシズカ姫の旅とそれを助けた魔物の物語が吟遊詩人達に歌われ出し、その生きた伝説は領民達の話題となり始めていた。
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