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番外 とある傭兵隊長の決断


「女達を救えー!」


 第二傭兵団に所属している傭兵隊長が声を上げた。

 

 牛郡領軍の弓隊が一斉に矢を砦に放ち、援護を受けながらいくつもの「亀」と呼ばれる隊列を組んで前進する。

 だがこの傭兵隊長が指揮する部隊は北砦の城門は目指さず、落馬で骨を折ったり矢を受けて負傷したウイリアム騎士団の女達を盾で取り囲み救助を始めた。


「あ……ああ、助け、て……」

「助けに来たぞ! 運ぶぞ! 続け!」

「砦はどうするんで?」

「ほっとけ! 女達を救うのが先だ! 一人も残すな!」

     

 くたばれと唾を飛ばした傭兵隊長が、背にいくつもの矢が刺さった女を抱える。

 仲間達の盾に守られながら戦場から安全な距離まで離れると、女を下ろし鎧の留め具を切り落とす。

 仲間が女の兜を取ると傭兵隊長はギリッと歯を噛んだ。女は恐らく自分の半分も生きていない少女だったのだ。


「こんな子供を戦場に連れて来やがって!」

「……死にたく……無い……」

「だ、大丈夫だ! 心配するな! 大丈夫だぞ!」


 衣服を裂いて背の傷を見ると、素早く治療すれば助かる傷だと傭兵隊長は経験から見て分かった。幸運にも鎧が良く守り肺を貫いた矢は無く、一番酷い傷は肩の骨を砕き貫通している矢の傷だった。 


「ヒーラー! ヒーラー来てくれ!」

「ヒーラアアア!」


 周りでも傭兵達が救出した女達の治療を始めるが悲鳴に近い声を上げていた。

 こんな時の為に自分の傭兵団では矢傷の治療法は学ばせていたが手の施しようが無い深い傷には治癒魔法や高価な回復薬を使うしか無い。 


 傭兵隊長は少女の矢が貫く肩を酒で洗い、反しがある鏃を切り落とす。


「抜くぞ。良いな? 我慢できるな?」

「……はい」 


 傭兵隊長は出来るだけ優しく声をかけると少女は小さく返事した。 


「いい子だ……血を見せるな。矢を抜いたら傷を押さえろ」

「うす」

「おう」


 二人の部下は真剣に頷く。

 戦場の負傷者は自分から噴出す大量の血を見て死ぬ事がある。

 ごつい傭兵の男が少女を動かないように抱えて肩の傷を見せないように頭を押え、もう一人は腰の荷物入れから包帯をとりだし両側の、まだ矢が刺さる傷口に添えた。


「行くぞ? 好きな男の事を考えろよ。せーの!」

「っ――!! ううう……」

      

 痛みからかポロポロと泣く少女に素早く血止めをし自分の荷物入れから小瓶を取り出し、封を開けて中の液体を少女に飲ませた。


「う!?……あっ! んんっ!」  


 液体を飲んで直ぐ、メキ! バキ! メキ! と、砕けた肩骨が元の位置に戻る音がするが数秒後に治まった。


「もう大丈夫だ! 良く我慢したな! 偉いぞ!」 


 傭兵隊長はそう言ってから手にある、けして安く無かった薬の空瓶を見る。


「さすが鹿郡領製の回復薬だな……クソ!」


 少女に傷を付けたのは鹿郡領の兵だが、癒やしたのは鹿郡領の薬だった。

 ふざけた話しだと傭兵隊長は思った。


 傷は塞がるが痛みは残るし失った血はどうしようもない、それに重症から回復薬を飲んですぐに動けるのは異世界から来る勇者ぐらいで、普通の人間は治療後に突然高熱を出して死ぬ者もいる。 


「急いで陣地に運んで休ませて……あ! クソ! クソ!」


 牛郡領軍には兵を休ませるその陣地が無い。

 一番ふざけているのはこっちだった。


「こんな場所じゃ……どうする……なぬ!?」


 考えようと傭兵隊長は周りを見ると、いつの間にか自分の周りには、大量の負傷兵が集められていたのを二度見した。

 少女の治療に集中していて全く気付かなかった。

 負傷兵の中には騎士団の女達だけでなく、知った傭兵達も居た、ヒーラーが集まっていたのでここに運ばれたのだ。


「何が……おい、何があった!?」


 顔に包帯を巻かれて地面に疲れたように座る傭兵に話しかける。


「見ての通りだよ」


 包帯の傭兵は座ったまま砦の方を見て、隊長は視線を追って砦を見る。


 隊長が見えたのは城門の周りで折り重なる様に死んでいる傭兵達の姿だった。

 盾を頭上に構えた傭兵の一隊が門に取り付き、手に持つ武器で門を叩き破ろうとしている。

 だが次の瞬間、真上から見て凹形で傭兵達を囲むようにある櫓に、おそらく中には弩を持った兵が居たのだろう、近距離で放たれ傭兵達の盾は貫かれ、砕かれた。


「あ〜あ〜あ〜。ひでえなありゃ」


 盾を失ってすぐ二射目が放たれ、戦意を失った傭兵達は逃亡し、背中を射たれてまた死体と負傷兵が増えた。


 女達を母のように殺されたのを見て逆上したのに男達はいくら死んでも傭兵らしく「俺じゃなくて良かった」ぐらいしか思わない。


「……お前ら上手く逃げたよな。団長(おじき)と他の隊長は全員死んだぞ」

団長(ヒゲダンゴ)が死んだのか? あ〜こりゃ駄目だな……」


 北砦の攻撃準備を全くしていなかった牛郡領軍は無防備の歩兵を繰り出し門を手で打ち破るしかない。あの門を破っても奥がどうなっているのかも分からないのにだ。

 機械甲冑兵を使えばまだ可能性はあるがこの様子だと砦側も備えをしているだろう。


 故郷の蛇郡領と竜郡領との旧領地問題の小競り合いでもこんな酷い戦いは無かった。


「よし、ずらかるぞ」


 傭兵隊長はあっさりと決めた。


「おいおい良いのか? 敵前逃亡にならないか?」

「死にたいのなら残ってどうぞ。どうせあのバカ領主とボケ将軍は終わりだ、どうとでもなる」


 傭兵隊長は振り返ると息を大きく吸った。


「女達を、負傷兵を領地まで運ぶ! 動ける奴は手を貸せ! 一人も残すな! 見捨てるな! 第二で残ってる奴と第三の連中にも話しを付けろ! 良さげな荷台をかっぱらって来い!」


 北砦の戦いは開始して一時間もしない間に、牛郡領軍は五百人の兵を失い、第二傭兵団と第三傭兵団の残党兵五百人は勝手に戦場を離脱した。

 領主護衛騎士団は慌てて止めようとしたが、負傷兵を運んでいると怒鳴り返されると何も出来なくなった。


 全てが終わったあと。

 この傭兵隊長は、一緒に逃亡した者達全員から感謝される事になる。

 

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