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戦の衣・下

「参ったな〜馬が全然足り無いなんてなあ……」 


 頭を掻きながら歩くバナンの後に、隊長格のマルティとロカが続く。 


「どうする? 領都まで歩いて行軍するか?」  

「戦前に疲れさせたくねえな」


 ロカが長く伸びた顎髭を撫でながら言う。考え事をしてる時の、彼の癖だ。


「う〜ん」


 バナン達の悩みは、急な召集で二百人の兵士達を一度に運ぶ、兵員輸送馬車と、さらに機械甲冑の専用輸送馬車を引く為の荷馬の確保ができていなかったのだ。

 元々砦にあった個人の物以外の馬は、大森林に入った調査隊が多くを持って行ってしまっていた。

 先程顔合せした騎兵の隊長に町で出発の準備を進める部下と守備隊に、町の馬商から荷馬の確保と、別任務の為に、再びリリーナの町まで走ってもらった。来たばかりで往復させる事を詫びた、だが騎兵隊長は「勤めですから」と、笑った。


 残ってる馬で重い機械甲冑だけでも運び、兵は歩くとして領都まで、早馬で駆けても一日以上かかる道を森での旅のように休み休みで歩かせるのは時間がかかる。

 今回は制限時間があるのだ。出来れば馬も疲れさせたく無い。

 それに百名を超える兵を行軍させると転ぶなどの足の怪我や、寄せ集めな為に別部隊との喧嘩などのトラブルを必ず起こす。

 自分のような余所者が、トップにいる事に不満を持つ者も多く居るだろう。


 バナンが騎士団を起した時、スポンサーであり、武具の提供者である商人のタルンに、真っ先に頼んだ物は剣や鎧では無く、団員全員分の丈夫なブーツだった。

 そのブーツを履かせ、行進の訓練ばかりさせた。

 だが、それでも兵士達の行軍中の怪我やトラブルは、必ず、起こす。


 戦場で育った十年以上の経験で、必ずだ。

 絶対に全ての計画通りには行かない。


 出来るだけ兵員輸送馬車に詰め込んで、トラブルを起す前に、最速で兵を戦地に運びたい。


 唯一心配の無い事は、水と食料の輸送は、個人で持てる物以外は必要はなく、自分達は自国領内を通るので、何処に行けば水と食料があるかは、兵士達が一番良く知っている。

 弁当代として、持ち逃げされても良い額の銅貨を兵士達全員に渡すようにとオットー砦将に約束させ、銀貨や金貨だと農村ではお釣りが出せないしトラブルも起こる、銅貨が最善だと説得までした。

 先に出てもらった騎兵隊長のもう一つの任務は、領都までの道沿いにある休憩予定地の村々に、金は払うので飲み物や食事の用意を頼む為の伝令を出す任務だった。


 運ぶのは兵士だけ。


 荷台を引ける物なら牛や家畜でも、もう何でも良いので多少無理矢理にでも町や村から接収しようか、と考えながら、バナンは甲冑隊の整備棟前に着いた。機械甲冑用の輸送馬車を確認する為だ。


 整備棟の前では、機械甲冑を乗せて運ぶ専用の荷台が五台、機械甲冑の整備に必要な機材や予備部品を乗せる荷台が同じ数、どれも大型で兵員輸送用よりも多くの荷馬が必要そうだ。 


 倉庫から引張出した荷台を整備している兵がふと手を止め「引く馬が無くね?」「あ、本当だ、どうするんだろ?」と、会話が聴こえた。

 バナンは、その横を通り過ぎる。馬が無く、悩んでる様子を兵には見せない様に。


 荷台の列を通るとクルトとハチ、それとエリスと言ったか黒髪の少女と若い機械乗りの男が二人、今回の鹿郡の初の戦争に共に行く機械乗り達だが五人とも何故か整備棟の隣に居る蟲騎士に注目していた。 


「みんな、どうしたの?」

「あ、バナン様」

「様? え? この兄ちゃん誰?」

「……私達の隊将よ」

「は? マジで? ……本当に? ……失礼しました!」


 まだ少年のような童顔の機械乗りの男が姿勢を正し頭を下げて、エリスは赤面したのを見てバナンは吹き出した。


「ハハハ! うん! よろしくね! 所で何見てんの?」  


 皆の視線を追う。

 視線の先にはうつ伏せになった、蟲騎士の眼で自分の姿を見ているナナジがいた。      


「お〜思った通り似合うじゃないか」


 ナナジは、自分達が運んで来たタルンが彼女用にと、一流のミスリル細工師の職人達に作らせた戦の衣を着ていた。

 おそらくシズカ夫人が愛用している戦闘ドレスを参考にしたのだろう、見た目はドレスにも鎧にも見える。

 小さいミスリルの小板を一枚一枚繋ぎ合わせ、まるで一枚の絹の生地のように銀の輝きを反射する上級銀細鎖衣(シルバーチェイン)と呼ばれるその銀の衣で身体を包み。白く美しい模様や飾りが付いた、鹿郡の色である緑色のサーコートを上に纏っている。

 蟲騎士と繋がる下は、長いコートが、ドレスのスカートのように広がり、魔物と繋がる部分を隠し、遠目で見れば、豪華なドレスを着た女性にしか見えないだろう。


 製作に、タルンが一体幾ら金を掛けたのだろうか想像出来ない、騎士団の装備もそうだ。


 ーーーーーー


 騎士団の装備を受け取る日、バナンはブーツ以外は中古や安物で良いとタルンに頼んでいた。


 実績を積み重ねていき、人を増やし、篩に掛け、経験と実力を身に着けた兵に一級品の装備を与えるつもりだった。

 だがタルンが運んで来た装備はどれも一級品、仲間達は喜んだがバナンは慌てた。


 兵の見てない場所でタルンに詰め寄ったが、自分達のスポンサーであり武器商人のタルンは、嗤う。


「これはね、商売なんだよ。君達は大きく強くなってもらう、()()()()()()、君達が戦場で大いに目立って活躍し、君達と同じ武器を領主様に買ってもらう、僕達は儲かる、君になら分かると思うんだけど?」


 背筋にゾッと冷たい汗をかいた、やっぱこの人には敵わないと改めて思い、装備の礼を言った。


「ああ! それともう一つ、ナナジさんに武具を届けて欲しいんだけど」


 タルンは、普段の笑顔で武具の入った包みを出して、彼女に渡すようバナンに頼んだ。


 ーーーーーー


 ナナジはくるんと回り自分の背を蟲の眼で見る。とても気に入った様子で笑顔だった。

 身体を隠す程長い黒髪は一つにまとめて後に流し半透明の生地で出来た袋で包んで鎧と髪が引っ掛かるのを防ぎ宝石が付いた銀のチェーンを巻いて止めていた。


「あれ良いわね」


 エリスが自分の髪留めを触る。 


「あれ良いな」


 ロカが自分の顎髭を触る。


「正しく姫騎士と歌われる名前の通りの姿だね! あ、蟲姫騎士……か…………」


 バナンは、笑顔から突然真顔になり、うつ伏せの蟲騎士に視線を向けて。


「…………おお!」


 ポン! と、手を合わせた。      


 ーーーーーー


「しゅっぱ〜つ!」


 愛馬に跨りバナンの出発の号令と共に、三本の旗が上がる。鹿郡領の鹿の角が描かれた緑色の旗を先頭に、森林砦隊の旗、そして鹿郡で見慣れない漆黒色の旗、岩の砦騎士団の旗だ。

 兵士達はまずはリリーナの町まで歩くように命じられ、そこで守備隊の兵と合流し兵員輸送車に乗って領都に向うと聞かされた。

 兵士達の後ろからまだ兵が乗り込んでいない一頭の馬で引く輸送車が続く。

 そして――


 ――ズシーン! ズシーン!  


『我々が忌々しい機械甲冑を運ぶ事になるとは……』

「ウダウダイウナ〜ハタラケ〜!」

『むう……』


 蟲騎士は丈夫で太いロープを握って歩いていた。

 長いロープの先は機械甲冑を乗せた輸送車に括り、全車と繋がって引っ張られている。


 歩く兵士達が後ろを振り返りその様子を見る。


「うちの余所者隊将頭いいな、あの魔物で輸送車を引っ張るなんてな」

「ああ村の連中から聞いたんだが、何でも東方領で魔王軍と戦ってた大将軍だったらしいぞ」

「へー! 若いのに凄い人なんだな!」

「だな! 俺達は運が良いぞ!」



 兵の士気はバナンが不思議がる程高く、リリーナの町に到着して守備隊と騎兵隊が合流した。


 だが合流したのはそれだけでは無く……


 戦争の噂を聞き急ぎ集まってくれた休日中だった兵士達。

 町民が金を出しあって雇ってくれた冒険者と傭兵。

 若者達が集まり結成した義勇軍。

 若いもんに負けるか! と、気合が入っちゃってる老兵。

 金の匂いを感じて集まる商人と、吟遊詩人に絵師。

 老兵に付合せられた医者。

 掃除婦だよと名乗って付いてくる娼婦。

 それらに弁当を売りだす、バナン達が世話になってる宿のマヤ女将とその従業員。


 バナンが率いるのは結局、機械甲冑の整備師など、非戦闘員も入れると予定だった倍の四百人を超える数になった。


「早速トラブルかぁぁ……」


 バナンは頭を抱えた。


 しかし。


 彼は、彼らを率いて、鹿郡の軍記に名を残す最速の速さで領都ヴォルケに到着する。


 

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