三番機出ます! 三番機発進!!
登場人物紹介
蟲騎士
〈勇者殺し〉の名を持つ全長20mの人型モンスター。虫タイプ。勇者と英雄の役割を持つ人間が苦手。性格は真面目で争いや戦闘からは避けようとする。同化したナナジを争いから遠ざけ守る為に人間達と暮らす事を選ぶのだが……
ナナジ
蟲騎士と同化しその額に上半身だけの女性の姿で生えている。性格は残虐で争いと戦闘を好む。人間だった頃の記憶が無くこの世界の言葉は理解できるが話せないので蟲騎士が彼女の言葉を翻訳して会話する。
ハーディ……鹿郡領の機械甲冑隊員。一番機搭乗。
ジュール……鹿郡領の機械甲冑隊員。二番機搭乗。
エリス……鹿郡領の機械甲冑隊員。三番機搭乗。ナナジの過去と何か関係がある様子だが……
オットー砦将の提案で整備棟の中は突然騒がしくなった。
「三番機出すぞ〜! もたもたしてる奴はこいつで頭かち割るからな!」
「「「「う〜す!」」」」
整備長が怒号が飛び整備師達の声が上がる。三番機の起動準備が始まった。
「オーダーは小剣と大盾!」
「冷却水ヨシ! 水筒ヨシ!」
「三番機から輸血管はず〜し〜! 血液予備ぃ〜ヨシ!」
「人工筋肉筒の残留魔素確認始め〜!」
整備長が作業の様子に満足そうに頷き肩に大きな工具を乗せて声を上げる。
「模擬戦だからと言って気を緩めるな! 今ここは戦地と思え! 俺達のミスが仲間を殺すぞ! それを忘れるな!」
「「「「う〜す!」」」」
そんな整備棟の外では作業の邪魔にならないように三人の若い機械乗り達がいた。
「やってみなければ分からないじゃない」
鹿郡領初の女性機械甲冑乗りのエリスは同じチームメイト達から模擬戦を止めるように言われて長い黒髪をまとめ髪留めを挿しながら答えた。
青い瞳は機械甲冑の武器庫から七番機が訓練用の長槍を持って修練場へとゆっくりと歩いているのを見て目を細めた。
「それに勝算あるし」
「勝算?」
釣られて七番機を見つつそんな物あるのかとハーディとジュールは同じチームメイトの少女の話を聞く。
「あいつら今日初乗りでしょ? 中央や東方でベテランでも慣れ無い機体で歩く以外まだうまく動けないのに二年も乗ってる私が負ける筈無いじゃない」
「え?」
「は?」
微笑むエリスの言葉にハーディとジュールは耳を疑った。
彼女は実家のあるリリーナの町から出て森林砦に遅く到着しクルトが七番機を初乗りで走り回っていたのを見ていなかったのだ。
機械乗りの鎧に着替えて外に出ると修練場の外で蟲騎士が座っていて調査隊の兵士から拝まれていたのを見た時はクルトの機械甲冑は既に停止していた。
ハーディは父が彼女の家庭教師で同い年。子供の頃は良く彼女の家に連れて行かれては一緒に遊んだ。いや、悪戯され遊ばれた少女に慌てて教えようとした。
「お嬢様! クルト教官は――」
「ここでお嬢様だなんて呼ばないでっていつも言ってるでしょ!」
「あ、申し訳、あ、ごめん……」
「それよりエリス聞いてくれ。クルト教官は――」
謝るハーディの代わりに二人と歳は二つ上だが学園では一つ下の後輩、見た目は強面だがこれで気がとても弱くこの少女によくからかわれるジュールが口を開いたが。
「エリスここに居たか! 三番機準備完了だ! 左腕に残留魔素があるから心臓を回す前に軽く動かして消費しろよ! 故障の原因になるからな!」
ジュールの声は整備棟から出てきた隊で一番年配者である整備長の大きな声で消されてしまった。
「了解! じゃあ、あいつへの仕返し考えといてね!」
「あ、待って!」
「エリス!」
二人は片目をつぶって整備棟に入るエリスを追いかけようとするが整備長に前を塞がれた。
「ほかの機械乗りは立ち入り禁止だ! 出ろ!」
「ちょっと待ってください!」
「エリス! あ」
見ればもうエリスは機械甲冑に乗る前に必ず付ける耳栓を付け私物を入れる籠の前で着ていたコートの止め紐を緩めていて二人の声は聴こえていない様子だった。
「出ていけ! 危ないだろ!」
「解ってるよ! でも!」
機械甲冑の転倒による巻き込まれ事故防止の為に起動時には整備師以外は棟から全員出るのが決まりだった。
「で て けぇ〜!!」
整備長が手に持っていた大きな工具をブン! とハーディの頭めがけて振り下ろされぎりぎりで躱した。
「うわぁ!?」
「そっちの方が危ないじゃないですか!」
「あ あ ん!?」
「出ます。すぐ出ます。ハーディ行こう」
「でもエリスが……げ!」
また整備長が工具を上段に構えたので二人は慌てて整備棟から出て行った。
ーーーーーー
エリスは耳栓をし脱いだコートで胸元を押さえ一度振り返った。二人がクルトの事で何か言おうとしてたのを思い出したのだ。
だが振り返ると二人は既に居らず整備長が肩に工具を乗せて三番機を親指で指しながら立っていた。
「(まあいっか)」
コートを籠に突っ込み革兜を取って西方領内でしか作られない女性専用の機械甲冑乗りの、だがエリスをふくめ多くの女性達が不満を持つデザインの革鎧姿で六機並ぶ機械甲冑の三番目、自分の愛機に向かった。
機械甲冑乗りの革鎧は甲冑を操るのに必ず纏う鎧である。
つなぎ状であちこちにある金具やベルトを操縦槽の中で甲冑と繋げ文字通り機体と一つになる為に着ている。
特殊な製法で加工された柔らかな革で作られ身体にピッタリしていて薄く見えるが戦闘でダメージを受けた甲冑の破片が中の機械乗りを傷つけ無いよう守る為に革と生地が何層にも重ねられて作られており普通の兵士の革鎧よりも丈夫で軽く防御力も高かった。
異世界から転生してくる歴代の勇者達はこの機械甲冑乗りの革鎧を見ては「ぱいす〜」「ぱいろっとす〜つ」「ぷらぐす〜」などと呼んでいた。
この革鎧でクルトやハチのように男性機械乗り達は普段から着て過ごせるが西方の女性機械乗り達はとても嫌がった。
革鎧は女性個人のサイズに調整できる胸当てや手袋等を付けてブーツを履き下には汗を吸う肌着や長時間の任務等で緊急時のオムツもしている。だがどうしても締め付けて浮き出る体型を見られる事を気にしてしまう。
彼女達は機械甲冑乗りの一戦士だが一人の西方淑女であり乙女達なのだ。
その為エリスのように女性機械甲冑乗りは普段は鎧の上にお洒落なコート等を羽織っていた。
一流の職人に作らせたコートを脱いだエリスは自分に集まる視線を感じつつ愛機の前にかけられた梯子を素早く上がり狭い操縦槽に飛び込んでホッと息をついた。
操縦槽の中には四本のワイヤーで繋がっている薄く小さい鞍がありそれに跨がる。鞍が沈み両足に届く鐙に足を乗せてワイヤーとバネが繋がった金属鎧のような機材一つ一つを自分の革鎧にある金具に装着していく。
しっかりとベルトで固定されたか足を動かして確認。
もう片方の足も装着し続けて腰周り、胸周りと順番に装着していき最後に両腕を操縦槽の両側にある穴に通して手に届くレバーを握ってエリスは操縦槽の中で機械甲冑と一つになった。
機械甲冑は整備椅子に座っているので彼女も王座に座るような格好になっている。
エリスは操縦槽を覗き込む三番機の担当整備師を見て頷く。彼も頷き声は耳栓で聴こえないが一つ一つエリスの全身鎧のように纏う機材を指差し確認している。
彼は最後に彼女の手が届く位置にある小さいレバーを指差しぽんぽんと軽く叩くと梯子を降りて行った。
このレバーは指で摘んで強く引けば繋がる機材ごと固定具が切れて機械乗りは脱出できる仕掛けになっていた。緊急の時にエリスの命を助けるかもしれない一番大事な仕掛けだった。
梯子は外ずされ降りた担当整備師は機械甲冑の胸装甲から顔だけが見える彼女に向かって自分の左腕を上げて指差す。
「前に降りる時は無かったんだけどなあ」
整備長に魔素が残っていると言われた左腕を動かすとクンッと軽く反応があったが少し動かすと無くなった。
残留数値が表示される機材を見ていた整備師から確認し担当整備師は両手で大きく丸を作った。
担当整備師はそれから視線を上にあげて機械甲冑の後ろで大きなぜんまい回しを持って待機する整備師に指差し腕を回した。
「総員耳栓確認〜!」
「確認〜!」
整備師は自分の耳に耳栓がある事を指で確認し機械甲冑の背の穴にぜんまい回しを挿してぐるぐると素早く回し始めた。
しばらく回していると。
――カァン!!
「うわ!」
耳栓をしていても感じる音の衝撃に回していた整備師は身を縮めた。
チチチ……キイイイイイイン!!
機械甲冑の頭部の中にある魔素呼吸機関が人工筋肉筒を動かす為に必要な魔素の呼吸を始めた。
――ドクン――ドクン――
強い衝撃の後エリスは背にある歯車の形をした機械からまるで心臓のような鼓動を感じた。耳栓で聞こえないが今甲冑の中はやかましい機械音が鳴り響いているのだろう振動も感じる。
全身の人工筋肉筒に魔素をふくんだ血液が流れていく。
頭上の魔素数値と血液の流れを示すメータを見れば全て正常を示す位置に針を指している。
こうして手順通りにエリスの乗る鹿郡機械甲冑隊三番機は目を覚ましたのだった。
もう機械甲冑は自由に動かせれるが担当整備師はエリスに「待て」の指示を出している。今動くと機械甲冑と整備椅子に固定する止め具を外している整備師達を巻き込んで大事故を起こしてしまう。機械乗りが起動時に一番緊張する時だった。
担当整備師が安全な位置まで離れ全ての止め具を外して整備師全員が離れた合図を見てエリスに「ゆっくり立て」の指示を出した。
エリスは操縦槽の中でゆっくりと立ち上がり外の全長五メートルの機械甲冑もゆっくりと整備椅子から立ち上がっていく。
機械甲冑が立ち上がる時に前のめりになるのでその胸の中にいるエリスの身体は完全に真下に向くのだが彼女はその状態でも立ち上がる操作を続ける。
「「「「よ い しょ〜!」」」」
整備師達が声を上げて見守る中でエリスは両足で地を踏み三番機は立ち上がった。
「す〜」
三番機の中でエリスは機械甲冑が歩き出す前に機械乗りに伝わる声出しをする為に息を深く吸った。
周りには機械音で聞こえないがこれは勇者から伝わり何百年も続く伝統儀式なのだ。
「エリス、三番機、行きま〜す!」
エリスは一歩前に足を出した。
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ジュールは模擬戦の為に修練場へ歩く三番機を見送りながらハーディに質問した。
「なあ、一番機を走らせるのにどれくらいかかった?」
「……一ヶ月かかった」
本当は一ヶ月と十五日だ。
「俺の二番機とエリスの三番機もそれくらいだったな」
「クルト教官は今日本当に七番機の初乗りなんだよな?」
「……ああ」
「エリスがクルト教官に勝つのさあ……」
二人は同時に「無理だな」と言った。
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