鹿郡の機械甲冑隊
登場人物紹介
蟲騎士
〈勇者殺し〉の名を持つ全長20mの人型モンスター。虫タイプ。勇者と英雄の役割を持つ人間が苦手。性格は真面目で争いや戦闘からは避けようとする。同化したナナジを争いから遠ざけ守る為に人間達と暮らす事を選ぶのだが……
ナナジ
蟲騎士と同化しその額に上半身だけの女性の姿で生えている。性格は残虐で争いと戦闘を好む。人間だった頃の記憶が無くこの世界の言葉は理解できるが話せないので蟲騎士が彼女の言葉を翻訳して会話する。
クルト……元千の軍所属の機械甲冑乗り。帝国東要塞の生き残り。
ハチ……元東方軍の機械甲冑乗り。帝国東要塞の生き残り。
オットー……鹿郡領森林砦の砦将。
鹿郡領の機械甲冑隊はヴォルケから領主の座を引き継いだレオンの代になって大森林から大型の魔物襲撃に対抗する為に結成された部隊である。
だが隣の虎郡領から招いた整備長以外のベテランは居らず隊員の殆どは西方中央領にある機械乗りと整備師の教育、育成の為の学園を卒業したばかりの若者ばかりで今まで鹿郡には誰も機械甲冑隊を指揮をした事がある者や全く新しい兵科にしたがる者は居らず金だけは非常にかかる若い人員と装備と機材を最前線の森林砦に押し込め砦将以前のオットー守備隊長に押し付けた形での結成であった。
指揮官は一応オットーだが専門の長不在で機械甲冑隊を結成して二年、ベテランの整備長は整備等の専門技術は厳しく指導するが隊の指揮は専門外で全く取らず任務や訓練は一応真面目にする彼らだが学園祭の続きのようなノリで多数決とくじ引きで隊を編制し、本来隊長機であるはずの一番機や自分達の搭乗機をカードの勝敗で決め、機械乗りと整備師達との間で喧嘩などの騒ぎを度々起こしてはオットーの頭を悩ませていた。
だが二月前、帝都の貴族の元へ嫁いだはずの前領主の娘シズカが危険な大森林を通って故郷に帰還した。
帰還したシズカは十数人の傭兵を連れておりその中に二名のベテラン機械甲冑乗りが居ると知ったオットーは彼らの宿に何度も足を運び三顧の礼で向かえた――と、伝わっているが実際はクルトとハチが入隊に必要な推薦状と書類一式、それから機体講習のお知らせなど久々の休暇で暇だったオットーがわざわざ教えに行っていたのだ。
レオンからの入隊許可が届く前にオットーに招かれて森林砦の整備棟に二人が入ると早速怒号が棟の中で上がり機械乗り達は修練場の周りを走らされ整備師達は機械甲冑の前で腕立て伏せをやらされていた。
オットーは二人のどちらかを隊長になるよう勧めるが二人とも「ここのやり方のほうが面白い」と何故か断った。
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シズカ夫人の推薦とレオン領主の許可を得てそんな鹿郡の機械甲冑隊に操術・戦術教官として入隊したハチは修練場で整備師達が何とか動かせるまで仕上げた八番機を両膝を付いて待機姿勢に座らせて人工筋肉筒の熱を冷ます為の水が蒸発し白い蒸気を吹き出す機体から降りて担当整備師達を呼びつけた。
魔素呼吸機関を始め初乗りで発覚した不具合と二足歩行する乗り物なだけに足回りの違和感は例え小さい事でも修理と修正を頼み更に改造の必要性を訴えた。
「――それと講習から思っていたがやはり軽すぎる。鎧の厚みを増やすとか重くしてくれ。これじゃあ殴りあえん」
ハチのオーダーを聞きながら八番機担当になった若い整備師はう〜んと頭をかいた。
鹿郡の機械甲冑隊が採用している機体は〈駆馬四式〉と呼ばれる機種で元になった〈駆馬〉の設計は二百年前、西方中央で使っている現主力機〈水馬〉と比べればかなり旧式なのだがこの軽さと指の器用さは他に無く細身で見栄えも良いので現在も西方領の多くの甲冑隊が採用し独自の改良を重ねて様々なバリエーションがあり西方ではベストセラー機なのだ。
――ガション! ガッガッガッ! ガン! ズサー! ガション! ガッガッガッ!
七番機はクラウチングスタートで走りだすが急に止まったと思ったら今度は逆方向に走り出したりとを繰り返している。
ハチと同じく教官として入隊したクルトはまだ七番機を試すように動かしてるので七番機担当の整備師達や他の機械乗り達も集まって来た。ハチは整備師達と混ざって整備を手伝い機械乗り達に操術のアドバイスをくれるのだが彼の言う案には苦笑いしていた。
「ハチさん、機体が軽いのは骨に使ってるミスリル鋼が軽いからで強度は通常の物より有りますから……」
「強度の問題じゃ無い軽さが問題なんだ」
「と言うと?」
「例えば一番機と二番機の! ……え〜っと」
「ハーディだ。あ、です」
「ジュールであります」
五人の機械乗り達からまだ少年と言っていい男と強面の男がハチに呼ばれて前に出て名乗った。彼らは大森林で蟲騎士を待ち伏せして戦った三人の内の二人だった。
「お前らどっち体重が重い?」
「そりゃあこいつ、あ、いや彼ッス」
「自分であります」
ハーディと比べるとジュールは頭一つ身長が高く横にもがっしりとしている。
「じゃあここで押し合ってみろ」
「押し合う?」
「難しく無いだろ普通に手で押し合えば良い」
二人は言われた通りに手を合わせてぐぬぬぬ! と押し合う。結果はジュールの方が押し勝った。最後ハーディは勢いを付けて押し返そうとするが勝てなかった。
結果を見てハチは整備師達に振り向き。
「ほらな」
「は?」
整備師は分からず聞き返す。
「これ見て分かんねえか? 単純に体重の重い方が力勝負で有利なんだよ。これじゃあ実戦で使うのは難しいんだ」
実戦は難しいと言われジュールはムっと不満そうに言った。
「実戦は魔物相手に何度かありましたが」
「魔物じゃない! 魔王軍の重い東方製機械甲冑にだ!」
ハチに怒鳴るような大声で返され機械乗り達は驚いた。彼らの中では機械甲冑は魔物と戦う乗り物としか考えが無かった。
「せ、戦争でですか!?」
「おう! 今回の魔王軍は機械甲冑を使うからな!」
「き、機械甲冑同士でやり合ったのかよ!? あ、ですか!」
「おうよ! 帝国の東要塞じゃ百機近くの魔王軍の機械甲冑を重装甲にした二十六機で迎え撃って押し勝ったんだぞ!」
「何と!?」
「そ、その時の話しもっと聞かせてくれ! あ、ください!」
「ハハハハ良いぞ! 後で話してやる!」
笑うハチの隣で機械甲冑を見上げながら八番機担当の整備師は真剣に考えていた。
「……なるほど重さもパワーか……ハチさん整備長と相談するのでご一緒して貰えると助かるのですが」
「おう良いぞ! あ〜……ここまでは駄目出しだったが整備は良くできている。初乗りでここまで不具合が少ないのは逆に大した物だ。長い間放置されてた機体だとは思えんぞ」
ハチは最後に機体を見上げ最近まで整備棟の置き物だった七番機と八番機を今日までに動かせるまでにした整備師達を「良い仕事だ」と褒め「良かったな」と八番機のまだ熱をもつ装甲を撫でた。
――ガション!
その時クルトの乗る七番機が試し乗りに満足したのか八番機の隣で両膝を付けて待機姿勢に座らせ全身の人工筋肉筒を動かしたからか座った途端に脇や膝裏など全身からシュー! と大量の蒸気を吹き出した。
肘から蒸気が出ている機械甲冑の右腕で胸装甲の前を見る為の溝穴が開いているバイザーを上げると中から大汗を流し左手で水筒を持って水を飲んでいるクルトが姿を見せた。
操縦槽の中は熱が籠もらないようにはなってはいるが乗り手は激しく手足を動かすので水分補給をする為の多くの水筒が設置されている。
七番機担当の整備師達が駆け寄るとクルトは操縦槽の腕を入れる穴から右腕を抜いて革兜と耳栓を外し機体のコートに縫い付けられてる縄梯子を掴んで降りてきた。
「おうクルト! 七番機は調子良さそうだな!」
クルトはまた水筒から水をこぼすように飲み干し手ぬぐいで顔に流れる汗と水を拭ってから返事をした。
「――ああ問題無いレベルだ。良く仕上げてくれました整備師殿、機体が冷えたらまた出しますので水の補給をお願いします」
水筒を受け取り七番機の冷却水の補給を頼まれた整備師は分かりました! と整備棟にかけて行き残った方の整備師はクルトに訪ねる。
「他に何かオーダーはありますか?」
「そうですね――」
七番機を見上げ少し考えてから口を開いた。
「機体がとても軽いですね」
クルトの言葉に整備師と機械乗り達はお〜と声が上がりやっぱり重さが必要なのかと七番機の担当整備師は改造案を考える。ハチだけは表情を変えず腕を組んで見ていた。
「なので装甲を全て外してもっと軽くしてください」
――間。
「「「「ええ〜!?」」」」
「やっぱりか〜」
全員の驚きの声に混じって頭をカクンと傾けるハチ。
「(東要塞でもこいつは俺様が組み立てた機体に軽量級に要求してアレをやったんだよなあ)」
「え〜と、え? ちょっと待って下さい、え? 外すんですか? 軽くする為に装甲を? え? 全て?」
「はい腕と腰回り両足の装甲全て不要です頭部と胸甲の中には重要機関と操縦槽があって外せないのが残念ですが」
「え〜とえ〜と……」
混乱している整備師に変わってハチが声をかけた。
「あ〜クルトさんよお。機体を軽くすると押し負けるのは知ってると思うが装甲を全部外すと強度不足になるんじゃねえか?」
「強度はアレが蹴っても折れないミスリル鋼の骨で問題無い」
修練場の外で石工職人達と何故か一緒に見学している蟲騎士を指してクルトは説明した。
「攻撃は?」
「躱す」
「だがもし機械甲冑同士の力比べはどうする?」
「それも問題無い。例えば一番機と二番機の二人、前へ」
「ハーディです……」
「ジュールであります……」
クルトに呼ばれた二人は名乗って前に出た。
「お前達はどっちが体重が軽い?」
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