安全確認ヨシ! 事故無く今日も一日頑張りましょう!
登場人物紹介
蟲騎士
〈勇者殺し〉の名を持つ全長20mの人型モンスター。虫タイプ。勇者と英雄の役割を持つ人間が苦手。性格は真面目で争いや戦闘からは避けようとする。同化したナナジを争いから遠ざけ守る為に人間達と暮らす事を選ぶのだが……
ナナジ
蟲騎士と同化しその額に上半身だけの女性の姿で生えている。性格は残虐で争いと戦闘を好む。人間だった頃の記憶が無くこの世界の言葉は理解できるが話せないので蟲騎士が彼女の言葉を翻訳して会話する。
「便利だ……」
「……ええ便利ですね」
鹿郡領への大森林から魔物の侵入を防ぐ森林砦にある修練所でここの責任者である砦将オットーは副官と共にそこから見える砦の修復工事の様子を見て呟いた。
二月前の魔物の大襲撃で分かった砦の問題点の修正工事と崩壊した大門の修理工事は順調に進んでいた。順調過ぎて長期の日当目当てだった労働者達が「仕事が速く終わってしまう!」と不満を上げる程だった。
その原因はオットー達の視線の先。巨大な石材で城壁を組み立て続ける魔物の存在だった。
ーーーーーー
「楽しいの?」
『ああ実に興味深い』
石工職人の人間達に教えて貰った通りの何倍の規模で作業をしながら蟲騎士は答え、質問したナナジはあくびで目に涙がたまっていた。
蟲騎士が今並べている石材は石切場で切り出して運んだ石を人間の職人達が苦労して加工した物だった。
その大きさは通常の石材の何十倍も大きく蟲騎士が持って運ばないと誰も積めない大きさだった。
『むう?』
その巨大石材を城壁に積み上げる前に仮組みして乱れが無いかを調べる作業していた蟲騎士の手が止まる。
「なんかズレたね」
全てこの形通りにとマスターと呼ばれる石材と同じように叩き削られた石を蟲騎士は並べていたが列から浮き上がる石材を取り上げて裏返しその表面に昆虫の脚のような指を当ててなぞったりマスターの石材に乗せたり合わせてたりしてしきりに何かを確認している。
『ここか?』
「全く分からん」
『むう……すまない一つ見てほしい』
「お〜う!」
蟲騎士は離れて作業していた人間達に声をかけ返事を聞いてから石材を両手で持って大事そうに砂をひいた地面にそっと降ろすと修正担当の石工職人達が集まって来た。
始めの頃は側で一緒に作業をしていたが一度うっかり手を滑らせて石材を落として大事故になりかけてからは離れて作業し不具合がある石材があれば地面に置いて見てもらっていた。
『ここだと思うのだが』
「どれどれ」
「削り足らんかったか」
ここ二月の間に魔物に慣れた職人達は石の大きさに合わせて自分達で組み立てた大きな木製の足場を置き石材を確認する。
長方形の石材の表面には溝穴とその穴と同じ突起が削られていて石材を乗せて合わせるとこの凹凸がぴったりと噛み合う加工がされ以前の砦もこのように加工された石材で築かれオーガの怪力にも耐える丈夫な城壁だったという。
その城壁を大門ごと破壊してしまった蟲騎士は職人達が石工工作用の金槌でトントンと叩き削って修正している間に自分の頭の高さまで組み立てた城壁を振り返る。すでに石を積み終え完成している部分にはモルタル職人達が紙が入らない程の僅かな石材の隙間に接着にも使うモルタルを詰めていた。
森林砦は前領主のヴォルケが風来坊時代にその目で見た帝国領と東方領の国境に築かれていた東帝国要塞を参考にしたという。
大森林から岩山の大きな谷底の道を塞ぐ形である砦まで続く緩やかな上り坂に大きく蛇行した段差のある道をあえて作り二月前の大襲撃では魔物達はこの道を高所から放つ投石機や大弓の攻撃を受けながら進んだが岩山を削って作られた壁が立ち塞がり多く開けられた溝穴の中から矢の雨が放たれた。
岩壁を登り越えようとすると魔物返しの仕掛けが開き石や熱した油が落ちてくる。しかし本当に越えるべき壁と道があるのは左側面、今組み立てている大門がある城壁だった。攻め手側の魔物達は今度は右側面になった岩壁から矢雨を受けながら攻城戦を強いられたのだった――
『見事な物だ』
蛾の顔を動かして視線を変えて大森林の方角、蛇行した道で別の作業をしている集団を見る。
その作業は蟲騎士がここにシズカ達と到着した際に蛇行した段差のある道をまるで階段を上がるように登って来たのを見た兵士が提案し地面に深い穴を掘っては壺のような物を運んで並べて土で埋めている。この上を蟲騎士のような巨大な魔物が踏めば壺が割れて沈み足止めする仕掛けなのだという。正直嫌がらせ程度の物だが彼らは大真面目に作業をしていた。
蛾の表情は分からないがどことなく満足そうなのでナナジは蟲にもう一度質問をした。
「面白いの?」
『ああとても面白い。今まで戦争で潰し回っていた物がこうして作っていたとは知らなかったんだ』
「ふ〜ん」
『宝玉の地下神殿を良く見ておけば良かったな。今思えばどうやって建てたのだろう』
「あっそ」
その地下神殿を破壊したナナジは興味が無さそうでまたあくびをした。
「蟲騎士さま〜いいですよ〜」
『承知した』
石材の修正が済んで職人達は足場を外している。
人間達が充分安全な距離まで離れたのを確認してから両手を伸ばした。
後にどうやってこの石材をここまで運びどうやって積んだのかと多くの歴史学者達の頭を悩ませる事になるその巨大石材を蟲騎士は背負ってここまで運び両手で落とさないようにしっかりと持って持ち上げた。
修復に数年はかかると予想された工事は二月で細かい作業が残るものの終盤にかかっていた。
ーーーーーー
「便利だ……」
石材を持ち上げて城壁に積み重ね始めた蟲騎士を見て砦将のオットーはまた呟いた。
「……砦将……オットー砦将」
ハッ! と名を呼ばれて我に帰ったオットーは咳を一つして副官に返事をした。
「すまん何の話しやったかな?」
優秀だがそろそろ婿を探してやらねばと思っているオットーの女性副官は眼鏡をかけ直して話しだした。
「本日の予定です。今日の昼には調査隊の第二陣が大森林に一陣が築いた拠点に向かいます」
「第二陣には例の新隊長がいるよなあ。彼は大丈夫なんか?」
「優秀な人物だと聞きますが?」
「う〜ん」
調査隊は先日結成時から今まで指揮していたオットーの先輩でもある隊長が現役を退き後方へ下がったので新隊長が任命されていた。
何故か周りからトカゲと呼ばれる人物で顔も知っているがどうしても先輩の前隊長と比べると頼りなく感じる。
オットーが言い出した事だが第一陣はシズカ達を発見して引き返したが大襲撃の原因調査の為に第二陣の彼らは大森林の奥へと向かうのだ。
「それともう一つ。許可された機械甲冑の模擬演習を今日行います」
「おお例の二機はもうそこまで動かせるんか! 半年はかかると聞いてたのに早いな」
オットーが声を上げた時、修練場の隣にある機械甲冑の整備棟からキイイインと機械音が修練場に鳴り響いた。
「扉〜あけ〜〜!!」
機械音に負けじと声を張り上げる整備師達が整備棟の両開きの大扉を左右に押して開ける。
扉を一杯まで開けると一人が中に向かって両腕を上げ大きく丸を作る。機械甲冑の中には機械音で声が届かないので腕全体を使って合図を送っているのだ。
ギシン。ギシン。と人では無い大きな足音と共に整備棟から剣と盾を持ち鹿の角の鹿郡の紋章が縫われた緑色のコートを纏った西方製の機械甲冑が出てきた。
肩には「Ⅷ」と番号が書かれている地面から頭の上まで五メートルはある機械甲冑の喉元の装甲を開き耳を覆う革兜をかぶり足下を注意しながら甲冑の足を動かして歩かせる髭面の男の様子が見えた。
オットーは「ほお」と声を上げた。機械乗りの腕前は歩く姿で全て分かるという。少々ガニ股気味だが上半身のブレは小さく広場の中央に立つと足回りを確認するように足踏みしたり振ったりしている。
「確かハチと言ったか東方領で魔王軍と戦ってたのは本当のようやな」
元々ここにいる六人の機械乗りには無い実戦経験のある機械乗りはとても貴重だ。
八番機が修練場の広場の中央で止まったので整備棟でまた整備師が腕を上げて丸を作り腕を振る。二機目の機械甲冑が出てきた。肩には「Ⅶ」と書かれた機体だった。
「おい……おいおいおいおい! 七番機は確か、アレだあの〜アレだ!」
「千の軍出身のクルト氏です」
「それだ! たまげたな」
見学していた他の機械乗り達も驚いている。出てきた七番機の歩く姿は上半身のブレが全く無かったのだ。
八番機に並び同じように足踏みし片足を上げて振ったりする。それでも上半身はブレが無くしかも片足で立ったまま。そんな事ができる機械乗りはここには今まで居なかった。
「全く化物め模擬戦じゃなくて演習にしといて良かったぜ」
ハチはクルトの七番機を見ながら東方製の機械甲冑とは違いまだ慣れない五本指の手を開いたり閉じたりしていた。落下防止の鎖が剣と手首に繋がってはいるが剣を握るその細い指が頼りなく見えるのだ。
更に視界が低い。西方製はその喉の位置に乗り手の顔があり東方製と千の軍製の機械甲冑はその兜に乗り手の頭を入れる為に操縦槽の位置が僅かに高い。違いは僅かだがハチは違和感を強く感じた。魔素呼吸機関が入る甲冑の顔は人の口や鼻のように機械音をだして魔素を呼吸している。
「何もここまで人に似せなくても良いだろうに……」
ハチは新しく愛機になる機械甲冑にぼやくと突然呼吸機関が不具合を出して咳き込んだ。
「おっといかん!」
頭上にあるメーター類を見ながら両手にあるスイッチで適切な操作を行った。
咳は次第に収まり呼吸の回転数値も通常に戻っていく。
「フー……すまんすまん。そうだなお前は悪くないぞ俺様が合わせればいいだもんな。これから長い付き合いになるんだ仲良くしようじゃないか」
ハチは八番機が咳き込んで心配する整備師達に問題無しの合図を送る為に左腕を上げた。
隣の七番機は今度は人が屈伸運動をするように膝を曲げたり伸ばしたりしていた。
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「何か始まったよ! 見学! 見学しよう!」
『むう……』
退屈していたナナジが騒いで自分が生える蛾の頭をぺしぺしぺしと叩いている。
見れは人間達も作業の手を止めて修練場の機械甲冑をみていた。
職人達の中には決闘でもするのかと勘違いし金を賭け始め石工職人の親方は仕方ないと休憩する事にした。




