手紙のご用事なあに?・上
登場人物紹介
蟲騎士
〈勇者殺し〉の名を持つ全長20mの人型モンスター。虫タイプ。勇者と英雄の役割を持つ人間が苦手。性格は真面目で争いや戦闘からは避けようとする。同化したナナジを争いから遠ざけ守る為に人間達と暮らす事を選ぶのだが……
ナナジ
蟲騎士と同化しその額に上半身だけの女性の姿で生えている。性格は残虐で争いと戦闘を好む。人間だった頃の記憶が無くこの世界の言葉は理解できるが話せないので蟲騎士が彼女の言葉を翻訳して会話する。
「この道を左へ……だったな」
冒険者は荷物を下ろし先のリリーナの町で冒険者ギルドの受付嬢から聞いた道を地図を開いて確認する。
羊郡領の冒険者ギルドから荷を預かって出発し二月前魔物の大群とドラゴンの襲撃で荒れた牛郡領を避けて南下し竜郡と虎郡を通って十数日かけてここ鹿郡領まで来た配達クエスト。目的地は目の前だと地図をしまい届ける荷物を入れたバックを軽々と背負い直し杖代わりの長棍を握り直した。
背負う荷物は重くは無い。彼が受けたクエストは最近ギルド化の噂がある手紙の配達クエストだった。
冒険者といっても魔物退治だけが仕事では無く冒険者ギルドのクエスト掲示板を覗けば様々な仕事があった。
その一つに荷物などを届ける配達クエストがある。その内の一つ手紙の配達は荷が軽く一通だけでは報酬は安い。だが何百通の手紙を一度に町に運ぶとその報酬は馬鹿にはできず彼のような手紙専門に運ぶ冒険者もいる。
冒険者ギルドのクエストは魔物退治など危険であればあるほど報酬も高くそこばかり目立つが中にはこの冒険者のように途中に立ち寄る町から町へと手紙を運び小さい仕事を積み重ねて大きな報酬を受け取る冒険者もいるのだ。
そして彼にはもう一つ別の目的があった。
「町のギルドに渡して報酬貰っても良かったけど噂に聞く鹿郡の魔物を見たいもんな」
独り言を言う冒険者が吟遊詩人からその鹿郡の魔物の歌を聴いたのは竜郡領の酒場だった。
聞いた歌のあらすじを簡単に説明すると。
鹿郡領主の娘シズカ姫が帝都に迫る魔王から逃れる為に危険な大森林を通りぬけて故郷の鹿郡領に帰ろうとした。
だが森の中頃で六つの首を持った邪龍に襲われ、邪龍の首に囲まれ閉じ込められたシズカ姫は神に救いを願い祈った。
するとシズカ姫の目の前を飛んでいた一匹の蛾が祈りを聞き巨大な魔物に変身して邪龍を退治してシズカ姫を救った。
助けられたシズカ姫は蛾の魔物に感謝し鹿郡領に連れ帰って今も共に暮らしている。
当人達が聴けば何故そうなった? と言いそうな内容の歌だった。
初めは子供だましの馬鹿馬鹿しい作り話しだと思った。だが同じ酒場にいた最近鹿郡領から来たという冒険者がその魔物を自分が目指すリリーナの町で見たと自慢していたのを聞いて興味を持った。
冒険者として旅の土産話は一種の財産だ。ひと目見ようと本来ギルドに荷物を届けるだけでクエストは終了なのだが受付嬢に確認すると偶然にも運んだ手紙の中に届ける人物と魔物が居るのは同じ村だと聞いてついでだと手紙を直接渡す為に場所を聞いてリリーナの町を出発したのだ。
村はそれ程遠くは無い場所にあり昼前に出発し手紙を渡して魔物を見学してから引き返しても日が高い内に宿を取ったリリーナの町に戻れるだろう。
報酬をギルドからもらったら鹿郡名物の精霊水が混じった湯を楽しむ事にしよう。
そんな事を考えながら右手側には大森林から魔物の侵入を防ぎ高くそして長い岩山。左手側には収穫が終わった畑が広がる冬の近い鹿郡の道を歩く。
道は村につながる道にしては全て石畳でしかも良く整備され所々に補強された跡があった。
歩きやすい道を歩いていると目指す村の住民だろうか人が三人集まっているのが見えた。
道は一本道なのでそのまま進むと村人達は岩山を見ながら談笑している。釣られて右側を見るが自分にはただの岩山にしか見えなかったが――
「うん? お? おおおおおおお!? おおおおおお!!」
村人達に近づくとそれが突然開いて現れ我慢できず走り出し村人達の隣で止まった。
村人達は突然走って来た冒険者に驚きつつも冒険者の顔を見て笑う。
冒険者の目に飛び込んできた物は岩山を大きく凹形にくり抜いて出来た石切場だった。だが驚いたのは石切場にでは無い。そこにいる生き物にだ。
「す、凄い……歌で聴いた通りだ……」
そこに居たのは蛾の頭をした巨大な、蟲騎士がいくつも並ぶ荷台に人の手なら何時間も掛かりそうな建築に使うのだろう長方形の形に削った大きな石材をひょいひょいと軽々と摘んで乗せていた。
荷台の側に居た人、岩切職人が手を振ると魔物は作業を止めて離れ、乗せていた石材よりもさらに巨大な石材をいくつかまとめて手首から糸のような物を出して括り始めた。
職人達が荷台に荷馬を繋ぎ終ると同時に魔物も立ち上がり糸で括られた巨大石材をよいしょと背負ってドスドスと歩き運ぶのかと思ったら職人達から距離をとると「ぴょん」と、人からは見れば「ドカン!!」と両足から何本も別の脚を生やして地面を叩き飛び上がって岩山の上をぴょんぴょんと跳ねて飛び越えて行ってしまった。残された石材を乗せた荷馬車はノロノロと進んで出発した。
冒険者はいつの間にか長棍を落とし口を開きっぱなしで魔物の姿が消えるまで見ていた。
……来て良かった。良い土産話になった……
「驚いたやろ?」
少し西方訛りのある村人達に声をかけられ冒険者は落とした長棍を拾い照れ笑いしながら答えた。
「ええ本当に魔物と暮らしているんですね」
「俺らも初めはたまげたよ。でも言う事は良く聞くし仕事もちゃんとするんや」
「へ〜」
別の村人が会話にはいった。
「所で旅人さんか?」
「いえ冒険者ギルドの者です。この先の村に手紙を届けるクエストの途中でタルンさんって商人の方なのですが」
「タルン……あ〜あの人か、あの人やったら昨日家族がいる領都に行ったで?」
「え!? ……その領都を通って来たのに参ったなぁ……」
鹿郡領都からリリーナの町に来る途中の道でそのタルン氏とすれ違ったのかもしれない。
「また戻って来るしそのクエストて届け先の近い人に預けてもええんやろ?」
「はい、お隣さんとか友人とかなら……」
「同じ宿に住んでる人達がおるからその人達に預けたらええんとちゃうか?」
「すまんけど俺らはこれから仕事に行かなあかんから案内はでけへんけど村はこの道のすぐやから会った誰かに聞いたらええで」
「いえ、とても助かりました」
「宿はずっと美人の女主人が一人でやっとったけど旦那さん来てから飯が美味くなってなあ。宿は岩の〜……せや、宿は呼び方変わって今は泊められへんかった」
「変わった?」
「今はシズカ邸前岩の砦亭〜……何やったかな?」
二人の村人はお互い思い出そうとしてる所今まで喋らなかった最後の村人が冒険者に教えてくれた。
「鹿郡シズカ邸前岩の砦亭バナン騎士団かっこ仮かっことじ仮本部だよ」
「え? すいませんもう一度教えてください」
冒険者は聞き返した。
ーーーーーー
冒険者は魔物から村を守る為に村をまるごと囲む古い遺跡を利用した塀の入り口を冒険者ギルドの身分証を出して通り衛兵に聞いた道を進んで目的地の古い宿の前に立った。
「ここか」
宿の名前が書かれた看板前に手書きで書かれた看板が立てられていて「鹿郡シズカ邸前岩の砦亭バナン騎士団(仮)仮本部」とか書かれていた。
シズカ邸前の意味は着いてすぐに分かった。おそらく吟遊詩人が歌っていたシズカ姫の住む立派な屋敷の道をはさんで直ぐ前にその宿はあった。
人口が多い村のようだが村の宿にしては古いが大きな宿だった。
宿の敷地内には三つの建物がありそれぞれ通路で繋がっていて宿の出入り口でもある食堂と百人は寝泊まりできそうな大きな建物との間にある建物からは風呂用の煙突があり湯を沸かしているのか白い煙が上がっていた。
看板の裏にある本来の宿名をのぞいて見ると「岩の砦亭」と書かれていた。
「岩の砦亭……岩の砦ってあれか?」
冒険者はここからでも見える村の中央にある古代の南方人が築いたと伝わる岩で作られた遺跡を見てピンと来た。元々この宿はあの遺跡を探索する冒険者が拠点にする冒険者の宿だったに違いない。冒険者達はここでパーティーを募集して集まりここから出発し地下ダンジョンの入口がある遺跡に入って行き――
「おや? お客さんかい?」
大先輩達の背を想像していると女の声で呼ばれて振り返る。
話しに聞いた宿の女主人だろうか女性が猫を思わせるように目を細めて薪を抱えたままニコニコと笑顔で冒険者を見ていた。
「今は宿はやってないけど食事はできるよ?」
「いえ客じゃ……」
ない。と言う所で宿の中から良い匂いがして食欲を刺激し昼飯を食べずにリリーナの町を出た事を思い出した。
「……いや、ここで飯にするのもいいか」
「そお? じゃあそこから入ってね〜」
そう言って女性は衣服の上に首から前に下げるエプロンドレスからはみ出る程の胸と腕で薪を抱えて宿の敷地内へ入って行った。
冒険者は女性を目で追ってからいかんいかんと頭を振ってから食堂に入った。




