こんにちは赤ちゃん?・下
登場人物紹介
蟲騎士……〈勇者殺し〉の名を持つ全長20mの人型モンスター。虫タイプ。勇者と英雄の役割を持つ人間が苦手。
ナナジ……蟲騎士と同化しその額に女性の姿で生えている。性格が残虐で争いと戦闘を好む。
シズカ……前鹿郡領主の次女。赤竜乙女のあだ名がある男女問わずの色欲魔。
マチルダ……元山賊。シズカに捕まり配下になる。シズカの色欲が苦手。
ヴォルケ……前鹿郡領主でシズカの父親。レオンを養子にして領主の座を譲った。
デイブ……元山賊。マチルダの腹心(自称)
ジョン……元山賊。マチルダの部下。アンナとは夫婦。
アンナ……元山賊。マチルダとは幼馴染。ジョンとは夫婦。
ガイ……マチルダに雇われていた傭兵。大剣使い。
ヤマ……シズカが雇った傭兵。過去の勇者が作った武器ライフル銃を使う。
デク……マチルダに付いてきたモンク。謎が多い。
トカゲ……鹿郡領の兵士。
十年前、突然山賊王の親父に隠れ家に急いで来いと呼ばれ山中に放置された民家まで馬を飛ばして来た。
隠れ家の入口には坊主頭で大男の見張りが立っている。
最近仲間に入り言葉が喋れず名も名乗れ無いが何故か親父は護衛でよく連れていく男だった。
「あ〜 あ〜」
「デク。親父は中かい?」
「う〜」
男は扉をとんとん。と叩いてから開けてくれた。
「ありがとう」
礼を言って中に入ると部屋には親父と見慣れない貴族風の格好をした男と酒を酌み交わしながら談笑をしていた。
「ワハハハハ! お前がまさか領主様になってるとはな! 驚いたぞ!」
「お頭〜そんなに笑わないでよ〜自分でもおかしいと思ってるんだからさあ」
「ハハハハハ!」
親父の笑い声に驚く。あんな顔を死んだ母や自分に向けた事はなかった。一緒にいる男は何者だ?
貴族風の男と目が合った。
「おや? お頭の子かい? こんなお坊っちゃんが、うん? いや失礼! お嬢さんがいたんだね」
貴族風の男は山賊達に舐められないよう髪を短くし幼馴染のアンナから男前で惚れそうだよと笑われた私の男装姿を一目見て少女と見抜かれた。
親父はいつもの仏頂面になり私の顔を見るなり言い放った。
「マチルダ。お前はこの男と一緒に行け」
「親父!? 何を言ってるんだ!」
「お頭なに言ってんの?」
貴族の男も驚いた顔を親父に向けた。
「あたしが何でこんな貴族と……まさか……まさか! あ、あたしを貴族に売ったのか!?」
最後の方は悲鳴になった。一週間前に奴隷商人にこの子なら高く売れる。最近貴族に若い女を欲しがっている。いくらならその子供を売るかとしつこく言われて激昂した私はその商人を殺した。
そしてその日から男女の絡みを見ると身体が震えて息が荒れ動けなくなるようになった。
「待ってお嬢さん! お頭は売ってないし儂も買ってないよ? 本当だよ?」
「うるさい! 変態貴族! あたしに触れるな! 嫌! 近づくな!」
「変態てそんな酷い!」
貴族を私は震えながら睨み続け涙が流れそうになる。
親父が口を開いた。
「マチルダお前の為だ」
「親父なんで? あたしは親父と一緒に……」
「お頭どうしたんだい? 君らしくないね」
「ヴォルケ……俺は山賊だ。山賊王なんだ……こんな俺につい来てくれた子分達を金持ちにしてやりたい。だがこの子は没落し売られていた貴族の娘に産ませた子で役割も山賊らしくない。いつ死ぬか分からない山賊よりも別の世界で生きる事ができるんだ……できるだけ帝国から遠い西方に連れて行って幸せにしてやってくれ」
「親父!?」
「お頭、一体どうしたんだい? 何に迷ってるんだい?」
「すまんヴォルケ言えないんだ……」
ヴォルケと呼ばれた貴族は顔をそむける親父を優しく見つめ数秒たってからハァと息を吐いた。
「……まあ良いさ君が選んだ道だし何も言わないよ。でも死なないでね? 友達を失うのは辛いからね? お嬢さんは儂が……」
「勝手に決めるな! だったらあたしにも選ぶ権利がある!」
「……分かった。じゃあこうしよう。連れて行かない」
「ヴォルケ!」
「彼女の言った通りだよ。彼女にも選択させて自分で決めさせるべきだよ」
「……勝手にしろ」
貴族は立ち上がり私に近づく。私は震えながら自分の身体を守るように腕を抱きながら下がった。ヴォルケはそれを見て止まり視線の高さをしゃがんで私と合わせ微笑んで話しだした。
「いいかい山賊をやめたくなったら西方南部の鹿郡領に来るんだよ。そしたら儂のお嫁さんにするからね。こうみても儂は奥さんをもう一人ぐらいもてるお金持ちなのだ!」
「うるさい! 誰が行くもんか! 変態貴族め!」
「エヘヘへ君が来るまで待ってるよ。いつまでもね! じゃあお頭そろそろ帰るよ。儂の部下達も心配するし」
「……わかった……偶然お前に会えて嬉しかったよ」
「儂もだよお頭! また一緒に飲もうね!」
ヴォルケはそう言って歩いて帰って行った。何度も振り返りこちらに手を振っている。
「さっさと帰れ! 二度と来るな!」
親父とデクは怒鳴る私の後ろでヴォルケを見送っていた。
「……先生。俺に何かあった時は娘を頼む。守ってくれ」
「う〜」
――それから十年たった。
あの貴族の名前と約束も忘れ身体が成長し男装しても女と隠せなくなったが山賊として生きてきた。
そしてあの山賊王の親父があっさりと死んで戻り跡を継ぐはずだった兄貴も何者かに殺されていよいよ残った山賊団を率いるのは自分かと思った。
だが山賊団はバラバラになり解散になった。百人いた子分の内残ってついて来てくれたのはたった四人だけだった。
だが挫けはしない。この四人から始めて行けばいい。自分にはこれしか道は無いのだから。
初仕事の前に人を増やさなければと考え山で動けなくなっていた逃亡兵三人を助けて仲間に加えた。
三人はクルト。ハチ。バナンと名乗った。だがどうもやる気が無い。そこで町に出て一人の傭兵を雇った。
東要塞にいる師の助太刀に向かっていた途中だったが要塞は陥落し、師も死んで目的が無くなった所だと言って雇われてくれた。
傭兵はガイと名乗りその剣の腕は中々の物だった。これなら行けると思ったが念には念を入れ簡単そうな獲物探して狙う事にした。
数名の護衛しか居ない馬車をアンナと彼女と結婚したジョンが見つけこれを初の獲物にと襲いかかった。
……だが自分達は敗れ全員捕らえられた。
山賊は捕らえられればその場で斬首と決まっている。
「頭はこの女か? 殺す前に楽しむか?」
「ううう!?」
ガイの剣を撃ち落とした武器を構える黒装束の男が私を見てゾッとするような事を言った。
ロープで拘束されて動きを封じられ口枷をはめられた私は何も出来ないし身体が震えて動けない。
だが顔の大きい男が止めた。
「よせリズがいる所ではやめろ」
「わかった」
「はっはっはっ。じゃあさっさと殺して先を急ごう」
別の男が剣を抜いた。襲撃中に私の後ろにいつの間にか回り込み首に剣を突きつけた男だ。
「それじゃあお嬢さん。さようなら」
「ううう……」
男の目が残酷に光り首を狙って突く為に剣を逆手にもった。
これが最後かと思ったら涙が出てきた。
「あら? あらあらあら。ちょっとアーダム待って。その女山賊さんの顔をよく見せて」
「はっ」
「ううう?」
私の歪む視界に赤毛の女が現れた。見た瞬間ドキッとする程青い瞳が綺麗な女だった。
「へぇ〜これは中々いい女ね。私のものにしたいわ」
「うううう?」
赤い女は私をじろじろと見て訳の分からないの事を言って赤い唇を舐めている。何故かゾクッと寒気がした。
「(……夫人、ヨーコさんに自分以外の女は作らないって約束したんでしょ? いいんですか? バレたらまた投げられますよ?)」
「(あ、そうだった! でも殺すのは惜しいわね。う〜〜)……そうだ! 口枷を外して」
赤毛の女は何か顔の大きい男とひそひそと小声で相談し口枷が外されて上体を起こされると女は私の前に腰に手を当てて立った。
私は女を睨みつけるが赤い女は微笑んで話し出した。
「ねえ女山賊さん。命を救う代わりに仲間になりなさい。私は前鹿郡領主ヴォルケの娘シズカ。西方の故郷に帰る途中なの。無事に鹿郡領まで着いたら報酬を払うわよ。どうかしら?」
「鹿郡領……ヴォルケの娘……?」
その名前を聞いて忘れていた約束を思い出す。
――君が来るまで待ってるよ。いつまでも――
「わ、分かった! 鹿郡まで行く! 仲間になる! だから部下達の命も助けてくれ!」
シズカの前で私はあの時の選択を決めた。
それからシズカ達と旅をして山賊の枷から外れた私の中で鹿郡領に近づく程ヴォルケへの思いが強くなって行った。
十年前と全く変わらないヴォルケの顔を見た時は止められずその胸に飛び込み触れられて名を呼んでくれた時は嬉しくてたまらなかった。
こうして私はこの人のものになると決めたのだ。
ーーーーーー
癒しの泉亭の大部屋で心配顔の幼馴染のアンナはマチルダに確認してきた。
「あの男と本気なの? 若く見えるけど五十を過ぎたジジイだよ?」
「本気だよ。あの時シズカと出会ってあの人との約束を思い出さなかったら皆死んでたんだ。こんな頭について来てくれた皆を金持ちにできるかもしれないし」
「マチルダ。あんた……」
「ああそうか。その可能性があるのか」
ポンと手を叩くデイブにジョンが聞く。
「ああ? 何の可能性だ?」
「気づかないか? マチルダさんは前領主と結婚すんだぞ? だったら二人の間で産まれる子供が男なら領主になる資格があるじゃねえか」
「……そうか! この領地がマチルダさんの物になる可能性があんのか!」
「がんばれ マチルダ」
「あんたら馬鹿な事言うんじゃないよ」
三人の男達がマチルダに声援を上げアンナは呆れ顔で叱る。
「馬鹿共の話しなんか聞くんじゃ無いよ。あんたが幸せになるんならそれで……マチルダ?」
マチルダの顔がみるみる真っ赤になって涙目になり小さくぷるぷると小動物のように震えだした。
「こ、子供……私とヴォルケ様と……赤ちゃん……を? あ、あ、あ、あか、あ、ああ……」
「マチルダ? お〜い? こりゃあ苦労しそうだねえ」
その様子をヤマと一緒に見ていたトカゲは悲鳴を上げた。
「何かあっちもとんでも無い事言ってる!」
「大変だな」
「人ごとみたいに言うな! お前らここで戦でも始める気なのか!?」
「そんな訳ないだろ心配するな」
「不安になるわ! 鹿郡領は出来てから今まで誰も人間相手の戦争なんてやった事ないんだ! 訓練はしてても戦になったら一般の兵は何も出来ないんだよ!」
「落ち着け心配するな大丈夫だ」
「やあやあ皆さんやってるね〜楽しそうだね〜」
その時ヴォルケを連れたシズカ達が大部屋に入ってきた。
ヴォルケは何故かロープで括られていた。
「あれ? 君どうしたの? うずくまってお腹痛いの?」
「ヴォルケ様! 鹿郡はこれからどうなるんですか! 戦になったら勝てませんよ!?」
「え〜?」
落ち着かず鹿郡の未来を心配するトカゲの不安は半分当たり半分外れることになる。
ちなみにデクさん。襲撃時はヨーコさんと立ち合っててマチルダさんの守りに間に合いませんでした。_(:3」∠)_カッチョワリー




