旅支度
40秒で支度しな!
今回惨殺シーンがあります苦手な方はバックしてください
崩れ始めた遺跡のある空間から出て巨体でも余裕がある通路を歩いて移動している。蟲が言うにはこの先に出口があるという。
この時、蟲と体が同化し上半身しか無い人間の女は草色に染められた服を身にまとっていた。
遺跡で発見した衣服は肌触りが良く着心地が良いのだがどれも首と肩を大きく出すデザインでサイズも合わず、肩からずれ落ちそうになるので革製の長い紐ベルトを体に巻き付けて胸元で締めて止めていた。
ちなみにズボンやどうみても太腿丸出しになるような腰巻きもあったが彼女にはもう必要が無いので全て置いてきた。
さらに長い髪は櫛を入れ後ろにまとめて紐で括り。顔には軽く化粧までして印象がずいぶん変わっていた。
女は「せっかく女の顔なんだから」と能天気に今の状況を楽しみ出した。
何故自分が化粧の使い方やメイクができるのか考えもしていない。
フフーンと満足したようで歪みの無い銀色の手鏡を汚さないように布で挟んで紐で巻き、お腹の革鞄にしまった。
捜索中に見つけた鞄は使いやすそうな上開きで中は幾つもの区切りがあり丈夫で軽くて柔らかい。それを服の上から腹に当てるように体にくくりつけている。
本来は腰に巻いてぶら下げて使う物のようだが彼女にはその腰が無いので工夫をしたようだ。先程使った化粧品も鞄に入れてあった。
「つまり、ここで隠れ住んでたら変な連中が入り込んできて。私の元になった人間を殺したと?」
『そうだ』
『もったいないと思ってな』――
女は作業をしながら蟲が言った事をまとめる。
そもそもここは蟲の友人が築いた神殿とその眷族の住処だったという。化物に友人関係てあるんだと思いつつ。
ある約束で数百年ぶりに訪れたがその友人と眷族は既におらず自分の力も枯渇していたのでここで活動期というのが来るまでおとなしくしていたらしい。冬眠するように眠っていると活動期間近に変な人間達がこの遺跡に入り込んできたという。
『変な連中だった。我々が立っていた魔法陣があっただろ。あそこで踊り狂って騒ぎだしたんだ』
「ふ〜ん」魔法陣? あの塔にあった銀の模様か?
『アイツの眷族だと思って隠れて静かにしてたんだが数日も、踊り回ってやかましくてな』
女は話を聞きながら体を隠すほど長い黒髪を短く切り落とそうか迷った。だが手に入れた櫛を使うと驚く程ツヤが出て気に入り、結局長いままにする事にした。
『散々踊り騒いで出ていったのでやれやれと思ったがしばらくしたらまた来たんだ』
その時に生贄にされて殺された少女がいたらしい。
『アイツはそういったのを嫌う奴だったので眷族じゃないなとわかって全員消してやった』
これが証拠だと目に六角形の映像が浮かび蟲の記憶が映る。
見覚えのある魔法陣。そこに十数人の全身真っ黒な格好した集団。その中心に黒髪の少女が縛られている。映像は集団の上からで少女の顔は見えない。
(私の元になった女か)
苦しむとか嫌だとか何か感じるかと思ったが何も感じない。本当に自分かと疑いさえしている。
(おそらくこの連中はここで何かの儀式をしていた。もしかしたら蟲の姿か気配を何か勘違いしたかもしれない)
少女はひどく殴られ、足が不自然に曲がり、顔や体を短剣で切り刻まれ、最後は少女の首めがけて短剣を振り下ろされ……
蟲はその瞬間を見なかった。視線を戻し、両腕の篭手から鉈が飛び出す。男達が血塗れの少女に集まり――
もういいかと女が手を振ると目の映像が消えた。
『すまない』蟲が女が気分を悪くしたと思い謝罪する。だが女は髪を櫛で梳かしながら別の事を考えていた。
(何で自分の死を見てもこんなに冷静なんだろう?)
心配する蟲に笑って大丈夫だと言う。
(こいつの影響か?)蛾の頭を見ながら思った。
蟲と体が繋がる付け根を隠すように青色に染められ大きくゆったりとした上着を打掛のように着る。
「よし」と腹の鞄をポンと叩いた。
それから蟲は少女と同化するため死体を取り込んだという。
「何でまた?」
『なかなか珍しい色をしていたんだ』
「色?」
『魂の色って言えばわかるか?』
「魂の?」わからん。
蟲の種族は他の生物、人間を取り込んで今のように同化し自分の力にするらしい。その力は自分達に見える魂の色が良いとより強くなれるという。
『我々は例え手足が千切れても修復できる。ならできると思ったんだ。それに』
――『もったいないと思ってな』
蟲は少女を取り込んで体を自分の中で蘇生しようとした。
『こんな事は初めてだったから取り込んだ後が大変だった』
同化して自身の力を回復、それから少女の蘇生に全力を出したらしい。
一度体から離れかけた魂を苦労して留め。以前同化していた人間を参考に体を修復。足りない血液を自身ので補い。不要な部分は排出。ようやく魂が安定するまでどれほど時間が経ったのか蟲にも分からないらしい。
少女が目を覚ますまで一歩も動かずあの場に立っていた。あの魔法陣の上に、遺跡の力をも使って。
『不具合も多くでた。我々も感じているだろ?』
感じる不具合。記憶だ、それとノイズ、あと……
正直に話してしまおう。
「私が落ち着いてこの話を聞けてるのも不具合?」
先程まで感じた事を隠さず蟲に話た。
少し間があり『修復する際混ざりあったのが原因かもしれない』と蟲は言った。自分のミスだと。
ここまで聞いてて「はぁ」とため息がでた。
何故か蟲が緊張している気配がする。
「うん」
女はうなずいて両手を前に付き、指をそろえて深々と頭を下げる。足があったら正座もしていただろう。お腹の鞄がちょっと邪魔だ。
「助けてくれたんだね。ありがとうございます。あと、ひどいこと言ってごめんなさい」
『……我々のためだ気にするな』
「我々の?」我々ってどっち? と女は顔を上げる。
『そうだ我々のためだ』
おや? この感じは。
「じゃあそういう事にしておこう」
何だ可愛い所あるじゃないかと女は笑った。
話も終え長い通路を蟲は歩いて進む、何か良い事でもあったのか足取りが軽い。後ろの方でガラガラと崩れる音がするがこの通路には問題ないようだ。
女は装飾品を入れた袋を取り出し腕輪や首飾りを着け。もし着けるならどれが良いだろと耳飾りを耳に当ていじりながら手鏡で見ている。
切り刻まれたという傷の無い自分の顔を見て。ふと先の話で思った事をたずねてみた。
「どうせ助けるならもうちょっと早く助けなかったの?」
蟲はウ~ンと唸り。
『助けるというか始めは魔物らしくさらうつもりだったんだ。まさかあそこで殺すとは思わなかったし。だから人間達を一撃で葬れる瞬間を待ったんだ』
こんな巨体の化物がやけに慎重だ。
『もし仕損じて逃げ出した人間が多勢仲間を連れて戻ってきたら大変だろ?』
「あ〜なるほど」
体の修復中に人間達が攻めかかる。蟲は飛んだり跳ねたり動き回るだろう。中にいるバラバラの自分は掻き回される。確かにやだな〜。と汗が出る。
『そうだな、地上に出る前に教えよう。外で一番油断してはいけないのは人間だ』
蟲は指を一本立たてて続ける。
『普通の役割の人間の力ならそう大した事は無い』だが。と蟲は昆虫の指を振る。
『我々のようなモンスターが絶対に敵対してはいけない人間の役割が二つある』
役割ってなんだろう。と思いつつ蟲の言葉を待つ。
『英雄の役割をもつ人間と』
立てる指を二本にする。蟲から脅えの気配がする。
『勇者だ』