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西国一の成りあがり者

登場人物紹介


蟲騎士……〈勇者殺し〉の名を持つ全長20mの人型モンスター。虫タイプ。勇者と英雄の役割を持つ人間が苦手。


ナナジ……蟲騎士と同化しその額に女性の姿で生えている。性格が残虐で争いと戦闘を好む。


シズカ……前鹿郡領主の次女。赤竜乙女のあだ名がある男女問わずの色欲魔。


アーダム……シズカの配下。帝国から連れてきたシズカの愛人。


ブラッツ……シズカの配下、元帝国近衛兵。シズカの愛人。


マチルダ……元山賊。シズカに捕まり配下になる。シズカの色欲が苦手。


ヴォルケ……前鹿郡領主でシズカの父親。レオンを養子にして領主の座を譲った。


ベアトリス……西方国の女王。魔王を倒す為に未だ姿を見せない勇者を探している。

 ヴォルケという男の名が西方国の歴史に現れたのは突然だった。


 それは三十年前、西方国を揺るがせた大事件。

 当時の西方王の愛娘、ベアトリス姫が城内からさらわれるという誘拐事件が起きた。


 だが誘拐犯の一人は直ぐに捕らえられた。


 一人の男が娼館で派手に金を使って遊び酔って起こしたつまらない喧嘩で衛兵に捕まった。

 持っていた荷物から王族の紋章が付いた金貨袋とベアトリス姫が常に身につけていたネックレスや紋章が付いた指輪が発見され取調室まで運ばれたその男は拷問をされる前にベアトリス姫の誘拐。そして首謀者の名を連呼し城にある秘密地下ルートの情報を裏世界に売ったと自白した。


 誘拐の首謀者は西方王の後継者でありベアトリスと母は違うが可愛がっていた弟の弟爵だった。


 まだ若い「公爵」の役割が付いていた彼は姉が「女王」の役割を持っている知ると「西方王は後継者を弟爵では無くベアトリス姫にしようとしている。」という噂を本当に信じてしまい盗賊達を大金で雇い王族でしか知り得ない城に隠された地下脱出ルートを使って薬で眠らせた姉であるベアトリスを誘拐させた。


 愚かな弟爵は王の後継者の座から自ら転げ落ち処刑はされなかったが帝国へ人質として帝都に送られ二度と故郷の地を踏む事無くその悲惨な最後を他の貴族達と共に迎えるのだが事件はこれで終わらなかった。


 自白されたベアトリス姫の監禁場所へ王は自ら兵を率いて救出に向かった。

 監禁場所は首都から離れた森の中にある古い館だったのだが王が目にしたのはその隠れ家が魔物の群れに襲撃を受けた跡だった。

 隠れ家にはベアトリス姫の姿は無く彼女の着ていた衣服のみが切り刻まれ散乱した状態で発見され盗賊達の死体は多くが裸で発見されこの状況からここで何が行われていたかは跡を見た誰もが分かっていた。

 西方王は娘が盗賊達の慰み者にされている事には覚悟していたが魔物にさらわれた事に絶望した。


 信頼できる騎士や影に捜索を命じ城に戻った西方王は息子の罪は隠して「ベアトリスは城に潜入した魔物にさらわれた。」と公表し諸侯と冒険者ギルドに捜索を依頼、救出した者には望みの褒美を授けると発表した。


 国中がベアトリス姫を探し隠れ住む多くの魔物が討伐されたがベアトリスが見つからないまま数週間の時間が過ぎた。


 誰もが、父親でさえベアトリス姫の無事を諦めていた。


 だがそんなある日。


 突然、城内で、それも西方王の目の前に、襤褸を纏った男が同じく襤褸を肌に巻き付けたベアトリス姫を背負って現れた。


「姫さまぁ! 着いたよぉ〜重いよぉ〜降りてよぉ〜!」

「お、お前ほんま失礼な奴やな! ……ちょっとこっち向きい!」

「ええ〜? ぐぇ!? あっ……」 


 呆然としている西方王と大臣達の目の前でベアトリス姫をおんぶしたまま口付けされている乞食のような男が、のちに鹿郡領主となるヴォルケであった。


 ――ヴォルケという男の名が西方国の歴史に現れたのは突然だった。


 ーーーーーー


「お金持ちになりたい!」


 ヴォルケの願いを聞いた西方王は西方首都から遠く離れた西方南部、それも最も南にある飛び地領地を与えた。

 西方王は無事生きて帰ってきた愛娘からこの乞食を引き離したい一心から周りの反対を退けこの地に送り出したのだがヴォルケはこの地で様々な改革を行い今の鹿郡領を見事に作り上げた事に西方王は驚き愛娘からヴォルケを切り離した事を晩年に孫を抱きながらベアトリス女王に詫たという。



 ヴォルケの「お金持ちになりたい!」という願いは叶えられ見た目は若く見えるが五十歳を過ぎて鹿郡領主の座を後継者に譲り渡した彼は岐路に立たされていた。


「ああ! ヴォルケ様! お会いしたかった! マチルダは約束通りに貴方の元へ参りました!」

「……ああうん。……良く来たねええ……うん……」

「父様ぁ……」


 娘に睨まれながらはヴォルケは首に腕を回してがっしりとかじりつくシズカとそう歳が離れていない美女のお尻についつい癖で手を回しながら考えていた。


「(昔似たような事があった気がするなあ……)」

「父様ぁ! どういう事です!」

「ああヴォルケ様ぁん!」

「え〜……うん……あ〜」


「失礼します閣下、落ち着いて話せる広い場に移ってはどうでしょうか? 話しを聞きたい者も多いですし」


 シズカの後ろに控えていた優男がヴォルケに提案した。

 優男の目線を追って部屋の入り口を見ると多くの者が部屋を覗き込んでいる。中にはヴォルケが結成した調査隊の制服を着ている者もいた。


「そうだねぇ女将。大部屋を借りたいんだけど」

「はい、直ちに」

「よろしくね〜。所で君の名は?」

「アーダムと申します閣下」  

「閣下は要らないよ。ここにいる儂はただのヴォルケだからね」

「ハッ! ヴォルケ様」

「よろしくねアーダム君! ……所できみは昔会った事無い?」


 ヴォルケはもう一人の顔の大きい男に声をかけた。


「はっ! 一度帝都で……皇帝陛下の晩餐会で伯父と共にお会いした事がございます」

「……ああ! 思い出した! 十年前だ! あの大きな奥さん連れた! いや、元気な奥方を連れた御仁と一緒にいた坊やか〜立派になったねぇ〜」

「あの時は大変失礼しました!」


 深々と十年前と全く変わらないヴォルケにブラッツは頭を下げる。


「えへへへ良いよ良いよ! もう昔の事だよ! それにつまらないパーティーから抜け出せたから君に感謝しなきゃね!」


 そこでヴォルケはハッとしマチルダの髪をさわりながら思った。


「(あれが無かったからこの娘とも出会わなかったんだなあ)」


 ヴォルケは師に教えて貰った異世界語の〈縁〉という言葉を思い出していた。



「ヴォルケ様、皆様、お部屋の準備が出来ました。お飲み物も用意してあります。お話の続きはお部屋の方でどうぞ」 

「ありがとう女将。あのぉ……マチルダちゃん? 離してくれるかな?」


 女将の知らせでヴォルケは礼を言ってからベットから立ち上がろうとマチルダに声をかけている。

 アーダムは小声でブラッツに聞いた。


「(何したんだい?)」

「(転んでお着物にジュースかけた……)」


 アーダムは口をワオと動かした。    



 やっとマチルダから解放されたヴォルケはベットから立ち上がろうとした。


「うわぁ!!」

「父様!?」

「ヴォルケ様!?」 


 突然腰を抜かしてシズカとマチルダに支えられたヴォルケは窓を指さし。


「ああ! 窓に! 窓にいいい〜!!」


「?」


 窓には下半身が蛇のように長い女の魔物が、首をかしげるナナジが外から逆さまで覗きこんでいた。 

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