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山賊の夫婦

登場人物紹介


蟲騎士……〈勇者殺し〉の名を持つ全長20mの人型モンスター。虫タイプ。勇者と英雄の役割を持つ人間が苦手。


ナナジ……蟲騎士と同化しその額に女性の姿で生えている。性格が残虐で争いと戦闘を好む。


シズカ……前鹿郡領主の次女。赤竜乙女のあだ名がある男女問わずの色欲魔。


アーダム……シズカの配下。帝国から連れてきたシズカの愛人。


ブラッツ……元帝国近衛兵。シズカの愛人。


リズ……使用人見習いの少女。ブラッツに助けられた過去がある。


アベル……シズカの小姓として雇った少年。


マチルダ……元山賊。シズカに捕まり配下になる。シズカの色欲が苦手。


クルト……元千の軍所属の機械甲冑乗り。帝国東要塞の生き残り。


バナン……元東方軍の騎士。帝国東要塞の生き残り。


マルティ……タルンに雇われていた傭兵。弓が得意。元冒険者。


ロカ……タルンに雇われていた傭兵。槍が得意。マルティとは同郷。


デイブ……元山賊。マチルダの腹心(自称)


ガイ……マチルダに雇われていた傭兵。大剣使い。


ジョン……元山賊。マチルダの部下。アンナとは夫婦。


アンナ……元山賊。マチルダとは幼馴染。ジョンとは夫婦。


ヤマ……シズカが雇った傭兵。過去の勇者が作った武器ライフル銃を使う。


アレックス……シズカが雇った傭兵。元料理人


デク……マチルダに付いてきたモンク。謎が多い。

 全身をこすり洗ってくれた湯女に料金は上が出すだろうがそれでも銀貨を多めに渡した。


「ガイ様、こんなに良いんですか!?」

「ああ話をしてくれた礼だ」


 〈癒しの泉亭〉という宿に入るさいに装備と荷物は預け服は全て洗濯されたので代わりに渡されたYUKATAという服を戦で受けた傷痕だらけの身体に着る。

 喜ぶ女の口づけは断り湯部屋から出た。湯女はいつでも部屋に呼んでおくれと言うが俺は室内では一人で寝るようにしている。


 昔世話になっていた傭兵団長が一緒に寝ていた女から夫の敵だと首を切られて殺されていたのを見てからどれだけ悪酔いして眠っていても側で息遣いや物音がしただけで目が覚めるようになった。これが逆に戦場で傭兵達と天幕の中や外で雑魚寝をすると熟睡する。

 俺はまだ眠れるのでマシな方だが酷い奴は本当に頭がおかしくなり世話になってた医者を突然殺した奴もいた。


 今の雇い主がそばに男か女がいないと眠れないのは本当に頭がおかしいんだろう。西方南部生まれの傭兵から噂は聞いていたが実際に会ってみると確かに頭がおかしかった。


 旅の目的が無くなり小銭稼ぎのつもりで山賊のマチルダに雇われジョンとアンナが発見したシズカ夫人の乗る馬車を襲ったが失敗し捕らえられた。

 縛られてる俺を夫人は北方人の特徴であるグレー色の瞳を覗き込むと。


「あなたは北方人? 北方人のって大きいって本当? ちょっと見せて!」


 興奮した顔の赤毛の美しい夫人にいきなり縛られたままズボンを下ろされかけた。

 悲鳴を上げた事は初陣で人を初めて殺した時以来一度も無いがあの時は本気で怖かった。アーダムとブラッツが止めてくれなかったらきっとみっともなく悲鳴を上げていただろう……


 その後シズカ夫人に山賊達と一緒に雇われ無事に鹿郡領に届けた褒美と休暇として夫人から三日間この高級湯屋を貸し切りにしているので自由にして良しと言われている。


 自由にとは湯も酒も女もということだ。こんな太っ腹な雇主は今まで出会った事がなかった。


 階段を上がって宿の二階にある自分にあてられた部屋の扉を開ける。

 一人用の個室でランプの灯りが照らす。机が一つありその上に硝子のコップと硝子の水入れ。そして一人用にしては大きい綿が詰められたベッドがある。

 扉を閉め鍵をかける。女を呼んだ場合は扉は開けておかないといけないのは娼婦館と変わらないようだ。女は呼ばないがこれで朝まで熟睡できたら最高だ。


 精霊水入りの薬湯の効果か古傷の痛みが消え身体が軽く熱い。

 熱を冷ますため歪みの無い高価な硝子でできた窓を開けて窓枠に腰掛けて外を見る。

 部屋からみえる景色は本来はリリーナの町が一望できるが今は巨大な魔物が林に座り込んでる様子がみえる。この魔物を見て混乱しひっくり返った輸送隊の片付けで遅れてこの宿に到着した蟲騎士と名乗る魔物だ。


 魔物の額から紐の様な物が伸びて庭を挟んである離れの露天浴場に伸びていた。

 浴場は混浴で湯着を着れば男女共に入れるのだがデイブの提案で女性専用としてる。どうせ男は女が付く個人用の物しか使わないからと提案したがシズカ夫人だけが不満を上げた。

 ……誰の為だと思ってるんだか。


 浴場につながる中庭で窓からすぐ下に一緒に旅をしたジョンとアンナが置いてあるベンチで身を寄せ合っていた。


「仲が良いな」


 アンナはベンチの上に座り彼女の膝を枕にして寝るジョンの髪を撫でていた。

 背を向けていた彼女は俺の声と視線に気づいたのかとろんと酔った顔を振り返って見上げ目が合うとニヤリと笑い人差し指を一本伸ばして唇に当てた。

 振り返るさい肩の辺りで適当にバッサリ切り揃えた癖のある髪からのぞく着崩れたYUKATAの襟がずり落ちその背中が見えてしまってるが彼女は隠そうともしない。

 伝説に聞く女だけの戦闘民族。その女戦士はきっとアンナの様な姿をしていたのだろう。その筋肉とたくましい身体の線を見ているだけであれだけ楽しんだ後なのに男の部分がゾクリとする。あの小男でひょろひょろのジョンがどうやったらあんな良い女をものにできたんだ?


 ーーーーーー


 ――マチルダに雇われ山賊のアジトに案内されたあの日、雇われた町で自己紹介は済んでいたが山賊の顔など覚える気も無かった。だがアンナを一目見て考えを変えた。


 アジトは山中に放置されてた古い民家だった。中に入ると身体の大きな女が出迎えた。


(かしら)おかえり。そいつが助っ人かい?」

「ええ、あの三人組より使えるよ……三人は?」


 大女は知らないと肩を上げる。


「まったく! これから初仕事なのに!」


 マチルダはそう言って(かしら)なのに自分で探しに行った。その後ろを男達が付いて行く。アジトに残された俺は同じく残る大女を見つめる。


 北方の故郷では女は身体が丈夫で大きく、子を多く産み、多く育てられるのが最高の女だとされている。シズカやマチルダは美人だとは思うが妻にするなら絶対にアンナのようなたくましい女だ。

 出会った頃の山賊だった彼女は自分とそう変わらない大きな身体に革鎧と猛獣の毛皮を身体に巻き付け髪をくくり額と頬に黒と赤の塗料で呪祓いの模様を描いて戦化粧をしていた。


「雇われたガイだ。よろしく」

「うん? ああ、アンナだよろしく」

「アンナかいい名だ」


 俺はアンナをすぐに口説いた。戦士はいつ死ぬか分からない。後悔しないよう女と楽しめる時に楽しんで生きろというのが剣の師の口癖のような教えだった。


「こんな所でいい女に出会えるとは俺は運が良い」

「ハハハ! マチルダは母親似で美人だからねえ!」

「いや違う……どうだ、ひと仕事前に外で二人で楽しまないか?」

「は? ……ああ、ひと仕事おわったら酒をやるかい」

「いや今から二人で」

「は? 今? 二人?」


 どうも鈍いのか経験がないのか言葉の意味を彼女は考えている。山賊も明日生きるか死ぬかわからぬ身だと聞いていたのだが。


「あ〜……まさかと思うけどあたしを口説いてるのかい?」

「そうだが?」

「えええええ!?」


 アンナは両手で口を覆って抑えて驚き誰かを探すように周りを見回す。


 (かしら)のマチルダは他の子分を呼びに行って居ない。


 意外な反応で驚いた。その反応が可愛く益々気に入った。嫌なら嫌と言えば済むのに言わない所を見ると脈があるのかもしれない。


「あ、あ、あ、あたし? あたしを? 何で??? あたしよりマチルダの方が……マチルダに手をだしたら許さないよ!?」


 混乱してるのか突然胸ぐらを掴まれる。


「いや俺は君が良いんだが?」


 目の前の唇を奪いたい気持ちをぐっと堪えて言った。アンナは慌てて手を離す。


「じょ、冗談がすぎるよ!」

「冗談じゃないぞ? 君は良い女だ」


 顔を真っ赤にして両手で口を塞ぎ「そんな事言われたの初めて……ど、どうしよう……」と言いながらキョロキョロと誰かを探して目を合わせようとしない。

 もうひと押しかと思った時。


「おい」


 男の声が聴こえた。だが声はするが姿が見えない。アンナも驚いて声の主を探す。 


「誰だ?」

「さっき自己紹介したろ! ジョンだ!」

「そうだったか? だが姿を見せろ透明化のスキルか?」

「そんなスキルあるか! 下だ! 下! 下を見ろ!」


 俺とアンナは言われた通り下を見る。 

 背の低い男がいた。


 顔を上げて左右を見る。


「何処にいる?」

「いま目があったろ!」

「……いつから居た?」

「最初からだ! アンナがお前の胸ぐら掴まえた時には間に居たわ!」

「……全然気づかなかった」

「……あたしも」

「お前らああ……!」


 ドワーフやホビットのような。……とまでは言わないが中央人の平均より背が低い男。アンナと並ぶと更に小さく見えるジョンが拳を握って俺を睨んでいた。


「で、なんだ?」

「こいつはあっしの女房だ!」

「何?……そうだったのか。知らなかったんだすまない」


 背が低くくひょろひょろの男と身体が大きくがっしりした女。どう見ても不釣り合いだったが俺はすぐにジョンに謝罪しアンナに詫た。故郷では不倫は重罪だ。


「いや、分かってくれたら良い。明日生きてるか死んでるか分からねえ傭兵が女を求めるのは当然だからな」

「あ、あんたごめん……」

「あ? 何謝ってる別に怒っちゃいねえよ。おめえを口説く男がいた事に一番驚いてんだからよ!」


 そう言って笑うジョンという男。身体が小さいのに器がでかい。


「改めて、ガイだ宜しく頼む」

「ジョンだ。今度は忘れんなよ?」

「ああ。しかし羨ましい。こんないい女を嫁にするとは」

「いい女って……こいつ朝メシに林檎を潰して搾りジュースを出すような奴だぞ?」

「朝飯にか? 良いじゃないか」

「あ、いやだから林檎を素デ!?」


 ジョンは何か言い直そうとしたがアンナに頭を鷲掴みにされた。


「イデデデデデ!!」

「あんた〜獲物探しに行くよ〜」


 そのまま運ばれて行った。


 ーーーーーー


 邪魔したなと口を動かして詫て窓を閉じて頭をかく。


 アンナの身体を思い浮かべあの湯女を部屋に呼ぼうかと思った時に扉が叩かれた。


 一気に酔いが覚める。


 館に入るさいに隠し持っていた短剣を握り今も叩かれる扉に近づき声をかけた。


「誰だ?」

「俺だ! ガイ開けてくれ! 速く!」


 ヤマさん? 元御庭番衆、傭兵達の中でも伝説になるほど彼が何故こんな切羽詰まる声を?


「どうしたんです? うわっ!?」


 鍵を外し扉を開けると部屋に男達がドドドとなだれ込んだ。


 俺と違い大部屋で酒と女達を楽しんでいるはずの共に旅をしたシズカ隊の男達だった。全員自分と同じくYUKATAを着ている。


「何だ! 何だお前ら!? ヤマさん何なんですか!」

「すまん! かくまってくれ!」

「何から!」

「静かにしろ! ぶっ殺すぞ!」

「あ、はい」


 一緒に旅をしてて一度も聞いた事が無いアレックスの脅しに思わず素直に返事を言ってしまい扉を押さえて話を聞かない男達から離れアベル少年と一緒にガクガク震えるデイブに聞いた。


「どうしたんだ?」

「夫人が……夫人が……」

「夫人? シズカ夫人がどうした?」

「シッ! 来たぞ!」


 扉に耳を当てていたバナンが手を上げて全員を制した。


「ひっ!」

「何なんっグッッ!?」


 同じ北方人のマルティに口を塞がれロカに動きを塞がれた。


 ベットだけは大きい一人部屋に十一人の男が詰りむさ苦しい。


 あ、ヤマさんが《潜伏》スキルを使った。マルティも……え? デイブお前《潜伏》スキル持ってたのか! 今窓から飛び降りたのはクルトか? 下にはアンナとジョンが……何!? デクの姿が霞のように薄くなっていく! 


 ズシーン…… ズシーン……


 何の足音だ!?


「おとこ〜! ……おとこ共はどこおおおおおおおお!」


 この声はシズカ夫人か? こいつら夫人から逃げてんのか?


 足音が部屋の前まで迫る。俺は《気配探知》のスキルを使って扉の向こう側を探った。


 扉のすぐ外では美しい赤毛の女。シズカ夫人がYUKATAの胸元が大きくはだけほぼ半裸で歩いていた。


 健全な男子ならニ、三もなく押し倒してしまう所だが零と一で逃げ出すだろう。

 まず目の光がおかしい。歩くたびに目から青い残光を残す。

 だらしなく開いた口の端から謎の煙を吐き。ゾンビーのように両腕を上げフラフラと歩く。


「おとこおおおおおお!」


 シズカ夫人が頭をガクガク揺らしなが吠える。


 怖い。めちゃくちゃ怖い。


 《気配探知》は気配しか探れずほとんど想像なのだが。


 男達は息を吸うのも止めてシズカ夫人が部屋の前から通り過ぎるまで待った。


 その間窓の外からアンナの怒号とジョンの慌てる声とクルトの悲鳴が聴こえ何故か水飛沫の音がした気がするが彼らはそれどころでは無かった。

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