ありのまま今起きてる事を話します
目が覚めたらの巨大な蟲の化物になっていた。
何を言っているかわからないと思うが俺も、いや、私は女のようだ。私にも分からない。
「私は誰?」
『知らない』
性別は一応、女。日本人という種族。それ以外ほとんどわからない。
(名前は? 年齢は? 何故ここに居るのか? 分からない。なるほど、これが記憶喪失か)
廃墟を見渡した。
「ここはどこ?」
『ここは地下の神殿だ』
とても広い地下空洞。そこに築かれた古代の巨大遺跡は、先程まで化物が何日も暴れまわって破壊され尽くし、もうゴミの山にしか見えない。
「私は何?」
『見ての通りだ』
高さ20メートルはある顔と手足は蟲、ずんぐりした騎士のような鎧の形をした体、蟲と人型の巨大モンスター。
「何で蟲なんだよ! 巨大化するならもうちょっと、こう、あるだろ! 巨大悪魔とか! 巨大恐竜とか! 寄りによって蟲かよ! 現代っ子にはきっついよ! 顔の蚕蛾はちょっと可愛いけど!」
『……』
その巨大な蟲の頭。蛾の額の真ん中で。
「頭がどうにかなりそうだ」
とても長く伸びた黒髪で顔が見えない人間の女が頭抱えて途方に暮れていた。
長い黒髪をつまんでみる。
「こんなに長かったか?」
髪をつまんでた爪の長い白い手をみる。
「こんな指だったか?」
5本の指で肌をなぞり。
「胸は チッ!」
舌打ち。
指はさらに下へ……
「無いんだけどね」
人間の腰から下が蟲の頭に埋まってる。いや、腰から上の。あとどうも以前の自分の姿でも無い。人間の女が蟲の頭から生えている。
「あ、これの顔はどうなってんの?」
自分の顔を指さして言った。
『待ってろ』
人間部分と蟲がつながる腰の付け根部分が “にょろん” と伸びて蛇のように動き蟲の目の位置まで移動する。普段ならひと目発狂しそうだがこの時はもう感覚が狂っていた。
「へ〜こんな事も出来るのか本当に化け物だな」と素直に関心さえしている。
蟲の目を使って人間の顔をみる。
「……え〜。う〜ん」
蟲の目で見る女はガッカリしている。
瞳の色は青だが目つきが悪い。形は良いが変に長い眉毛。鼻筋は良いが唇が薄い。
歯は、ああああ。いいいい。お、歯並びは良かった。指や舌で変に長い歯が無い事を確認した。
「何かキャラクリミスった感じだなあ。私ならもう少し目を。そうだなあ。化粧をすると変わるか?」
蟲の目で見る女は顔の角度を変えながらぶつぶつ言っている。
『なんだそれは』
「え? だから※※※※※をミスった。あれ? なんだっけ?」
目の前の女は人間が考える時の仕草をしている。
『今のは障害か、やはり不具合がでるな』
そんな声を聞きながら伸ばした腰を縮めて蟲の頭に戻った。
「で、お前は何?」
ずっと聞こえるこの声。もうこいつからだと流石に気づき、下の蟲に向かって言った。
もう聞き慣れた低音の声で蟲が答える。
『お前とは我々のことか』
「他にもいるの?」
『いない我々だけだ』
我々。あなたとわたし。私は貴方。声に感じた意味合いに目覚めてからもう何度目か、女は暴れたくなった。
『もう破壊できる物はないぞ止めておけ』
辺り一面の廃墟。
石の街で見えた崖の階段を登った奥に美しい遺跡があった。蟲が言うには神殿と呼ばれた建物は見るも無残に崩壊していた。
様々な宝石が埋まった柱はへし折られ。何か重要な内容が絵や文字で描かれてた壁画はもはや解読不能。ここを守るように並んでいた金の騎士像はわざわざ土台から外されて並べられ、そこにこれまた豪華な壺や鐘を投げつけられ両方バラバラになっていた。
おそらく相当の価値がある遺跡がこの化物によって破壊され。さらに女の背には捜索の際ここに住んでいた住人の物だろう、女性向けの衣服や装飾品を大風呂敷に詰めて背負っている。何故か女は火の付いてない煙管を咥え「大漁!」とドヤ顔で言った。
探索と八つ当たりと暇つぶし跡を女は見渡して。
「まあ、今はそれよりも」
煙管を放り捨て、今一番聞きたい事を女は聞いた。
「何故人間が頭から生えてるのか教えて」
『いいだろう。だがその前にここから早く出た方がいい』
「何で?」
誤魔化す気か。と言うところで蟲は答えた。
『ここはもうすぐ崩れる』
「え?」
パラパラと上から小石が落ちてきた。頭上を見ると天井にヒビが入っている。
「え? え? 俺のせい?」
『違う。ここの力を消費し過ぎた。急ぐぞ』
体の中で何かが切り替わる。蟲が勝手に動きだした。
「これ勝手に動くのか!」
『我々の体だからな当たり前だ』
蟲が走りだす。足先から伸びた八本の飛蝗の脚を伸ばしその脚が束になり多関節の脚になって地面を蹴り跳ぶように走りだした。
神殿を去り。廃墟駆け。谷を飛び越える。目覚めた塔を目指しているようだ。
女は大きくバウンドする中、蟲の頭に伏せて白い毛を掴み数日の大暴れの事を大声で聞いた。
「動けるなら! 俺を! 止めれた! だろ!」
『疲れてたんだ休みたかった』
「疲れてた!? 何で!?」
『舌噛むぞ後にしろ』
蟲は両手で頭の女を落ちてきた石から守り。体に当たる石は気にする様子はない。
塔の裏側の崖に蟲の為に作られたような大きな両開きの門が見えた。
だが大岩が落ちてきて進行方向を塞ぐ。
ダン! ダン! ズダン!! と地面を踏み砕き三段跳。岩を飛び越えそのままの勢いで門を蹴破った。
門の中は塔と同じ石材で積まれた通路になっていて蟲が立っても余裕がある高さと幅があった。
蟲は通路に入ると伸ばした脚を畳んで縮め飛び込んだ勢いで滑りながら振り返る。通路の床が削られて足の跡が付いた。
『ここなら大丈夫だ』
「お、おう~~」女は目を回していた。
塔で見えないが何かが砕ける音と揺れも感じる。
「何で突然崩れ始めたの?」
落ち着いたのか女の言葉遣いが戻る。
『生き返らせる為にここの力を使い切ったんだ』
蟲は言うと通路を歩きだした。
「生き返らせる? 誰を?」
歩きながら蟲の腕が上がり昆虫の指が一本伸び女を差す。
「俺〜!?」
通路に女の声が反響する。
蟲の女はテンパると素になる設定です。(゜゜)