玉ねぎマンとバジリスク・下
兵士は褐色肌の南方人で長い赤毛を一つに編んで背中に流し今は鎧を脱ぎ黒いシャツと黒いズボン、鉄板が付いた黒革ブーツを履いている。歳はヤマとそう変わらないように見える。
「……ああ」
「やっぱりかそんな空気だ」
兵士の目はヤマの黒装束姿を見て上下する。
影とは国が抱える特殊諜報員などを指す名称である。
「どこの者だい?」
兵士は聞いてみた。だが影の者は普通自分の組織、里の話はしない。分かっているがここから何か話のきっかけになればと思っていた。だがヤマは兵士にあっさりと教えた。
「元御庭番衆だ」
兵士は驚いた顔になる。
「御庭番衆? 帝国の? 何で皇帝の眼と耳が――」
「元だと言ったろ辞めたんだよ。まあ座れ」
ヤマにすすめられて兵士は焚火をはさんで座り同席しているガイとデイブに会釈した。
するとガイが兵士に自分が食べていた皿を突出し食えと促した。
見るからに戦士で屈強な男に皿を突き出されたその意味が分からない兵士はヤマに困惑した視線を向ける。
「彼は北方人だ」
「ああ!」
兵士は何か納得してガイの皿から煮た豆を一つ摘んで食べた。
北方人は食事をしてる際に外から来た客に料理を分け与える習慣があった。
寒く、魔物が多く、食料が乏しい北の大地で人々はそこで助け合う習わしが生まれた。
国ができ中央との交流と貿易を始め飢えは和らいだが風習は残り孤児も我が子のように育て、分け合い、助け合い、支え合う。彼ら北方人はそのため非常に結束力が高く男は生まれながらにして戦士と言われる程体格良い。
中央帝国の初代皇帝は建国の際に彼らの力を借りたから帝国が出来たとも言われている。
同じ北方人のマルティとロカが数年ぶりに会ったにもかかわらず連携が良かったり。ブラッツから聞いた孤児だったリズを拾い困っていたところ預かってくれたという彼の伯父奥方殿の慈悲深さを聞くと納得する。
ガイのこの行動は同席した北方人の挨拶のような物だ。なおデイブは「何やってんだこいつ」という目でガイを見ていた。
「どうも!」
「こちらこそ」
話には聞いていたが生まれて初めて北方人をみた南方人の兵士は何故ここに座ったのか忘れていた。思い出してヤマに向き直る。
「あ、え〜……オホン! しかし良く里を抜けられたな」
「なに? ……ああ違う抜けちゃいない。御庭番衆は決まった人数があって世代交代制なんだ。交代した者は里に帰るか外に出るか決められて俺は外に出た。たまに里から仕事も頼まれたりする」
「へ〜」
話をする彼らの隣の焚火で座っていたブラッツは調査隊から分けて貰った携帯食をかじた。練った小麦粉をパンにせずそのまま熱した鉄板で焼き固めような見た目をしている。噛むとボリッと口の中で砕けた。
「(ほんのりと甘い。砂糖か? まるで菓子のようだ)」
砂糖は高級品だ。それを軍の携帯食で食べたり機械甲冑にミスリル鋼を使ったりと鹿郡領はかなり豊かなようだ。だがパサパサしていて飲み物が欲しくなり茶を入れたコップに口を付けた。その時ヤマの話が聞こえた。
「情報収集や事件の調査とか、最近だと人探しとかな。わざわざ帝都近くまで呼び出されて若い役割の巫女を探せとか」
突然ブッ! とブラッツが吹き出してむせる。
「わっ! きったねぇえな!」
「いや、すま、ゲッホ! ゴホッ! ゴホ!!」
「大丈夫かい?」
ブラッツは正面にいたジョンに咳をしながら謝罪する。心配し隣にいたアンナが彼の背中をさする。目はリズを探すが彼女はナナジに食事を運んでる最中だった。
「役割の巫女を? 何でまた?」
「さあな途中でもういいと連絡がきて打ち切ったがね」
調査隊の隊長と話を終えたのかシズカ達三人が彼らの焚火に戻り大きく咳をすブラッツにシズカは「大丈夫?」と声をかけ彼は手を振って「大丈夫です」と返事をし背をさすってくれたアンナに礼を言った。
「あ、お疲れ様です。夫人にはこっちを」
アレックスは体調の悪い彼女の為に別に作った麦粥の鍋をかき回した。
「じゃあ僕もそっちを頂こうかな。いいかい?」
「ああ量は充分あるよ」
アーダムは粥の入った皿を受け取るとスプーンでひとすくいして口をつける。それはシズカの為の毒味でもあったがアレックスも慣れたもので何も言わなかった。
ヤマはその様子を見て火傷跡がある頬を上げてニヤリと笑い口を開いた。
「そうそう俺が育てられた里の後輩に百年に一人と言われる程の天才君がいてね……」
突然アーダムがブッ! と吹き出してむせる。
「あ、すまん熱かったかな?」
「いや、ちが、ゲッホ! ゴホッ! ゴホ!!」
「あら大丈夫?」
アーダムは謝罪するアレックスに手を振りながらむせ。心配したシズカは彼の背中をさする。
ヨーコは彼が落としかけた皿を素早く受け取り味見をし首を傾げていた。
「その糞餓鬼を御庭番衆に入れる為に凡人で一番年寄りだった俺が用済みを言われたんだよ」
「凡人て……」
聞いていたガイがつぶやき。デイブはむせるアーダムの様子をハラハラとみていた。
「自分を天才だと垂れる糞餓鬼だったがまあそのお陰で役割の世界をあちこち見て周れたんだがな」
ヤマはそう言って自分の話を終え。苦い顔になっているアーダムと目が合うとどうした? という顔で眉を上げて見せた。
アーダムはいえ何も。といった顔で首を振って溜息をつくと未だ背をさすってくれるシズカにいつもの笑顔を見せる。
「すいませんお陰様で助かりました」
「もう大丈夫?」
「ちょっと変な所に入ったみたいではっはっはっ! アレックス済まない少し無駄にしちゃったね」
「ああ大丈夫だよ。まだお替りはあるし」
「じゃあ頂きます」
彼はアレックスから二人分の皿を受け取り礼を言って歩きだす。シズカ夫人はその後ろを影を踏むように付いていく。貴族らしからぬが彼女は気にしてないようだ。新しい皿を受け取ったヨーコはアレックスに感謝と微笑みを残して二人の後ろを付いて行った。最近の彼女達の席は蟲騎士の掌だ。
……本当に変わったな。あの夫人のお陰か?
「で、お前は?」
ガイが茶を入れたコップを兵士に渡し話を促した。兵士はヤマがまさか話してもらえるとは思ってなかったので困った顔になっている。
「あ〜俺んちはその……」
兵士は頬を人差し指で掻きながらな考え。
「まあいいか。俺んちは邪眼だよ里は南の砂漠近くなんだが」
「ほお石化封じの呪いを使うと聞く連中だな」
「呪いというか里神でもあるバジリスクの為の習わしでね」
バジリスクとは血に猛毒を持つ魔物でその目に見られた者や息を吹きかけられた者は石化する恐ろしい魔物である。倒すには鏡のように磨かれた盾が必要だと言われている。その姿は――
「バジリスク? そんな鶏の生息地によく里が……」
「待て違う! 鶏じゃない! 蜥蜴だ!」
急に兵士が慌てる。バジリスクを鶏と言われるのが嫌なようだった。
「蜥蜴? だが俺が昔見たのは尻尾が蛇で……」
「違う違う! それはコカトリスだ! バジリスクは鶏冠がある大蜥蜴だ! うちの守り神を鶏にしないでくれ! 何故か良く間違えられるんだ!」
「そうなのか?」
しばらく兵士とヤマは何かの魔物の話で盛り上がっていたが他の兵士達は何の話かさっぱり分からない。
ともかくその日からこの兵士は全員からトカゲと呼ばれるようになった。




