機械甲冑の連携戦
一機の機械甲冑が剣を、人のサイズにすると小剣のような剣を両手で持ち腰を落して蟲騎士の左足に向かって突っ込んでくる。
五メートルしかない機械甲冑で二十メートルはある化物に剣を叩きつけても効果は無いと判断したのだろう。甲冑の全体重を乗せたその突撃に蟲は片足を上げてひょいと避けた。
突撃してきた機械甲冑は躱されても止まらずそのままガシャンガシャンと鎧を鳴らしドタドタと走り抜けて行く。左肩の装甲にⅠと数字だろうか模様が描かれていた。
「アハハハ! 凄い! 大きい鎧が動いてる! 走ってる!」
『喜んでる場合か!』
蟲騎士の額に生えているナナジが小剣を持った機体を目で追っているので蟲は別の槍を構えた機体を見る。肩にはⅡと描かれていた。
槍持ちは機械音を高く鳴らして突っ込んできた。
蟲は慌てたように距離を取る。
「なに慌てて強いの?」
『いや、所詮は魔導兵器の劣化模造品だが数で来られると厄介だ』
蟲はコロロ……と鳴く。
ニ機ともやはり足を狙って来る。蟲は過去に機械甲冑の部隊と戦いそこで油断し両足を負傷して倒れ大ムカデの夫婦に助けられた経験があった。
「じゃあ私にやらせて! もうシズカさん達せいで最近溜まって……いや! 暴れたいから!」
途中顔を紅くして慌てて言い直す。目で追ってる小剣を持った機体は足を止めて振り返り再び突撃の構えを見せた。
ナナジは人間達と一緒に旅を始めてから今日までの数日間ほぼ毎晩シズカとヨーコの天幕から警戒で使用している聴覚スキルで嫌でも聴こえてしまう二人の秘事と思われる声や物音で悩む日々が続いていた。
それまで余り無かった破壊欲と食欲以外の欲が日に日に増し。この上半身だけの女の身体で慰める方法も分からず。遂には一度男を試そうかと思う程まで来て若く顔が中性的なアベル少年に近づき声をかける寸前で踏みとどまって離れ少年から不審な目で見られたりもした。
蟲は人間と一緒にいれば発狂の危険が下がると言っていたが別の事で狂いそうだった。一度大暴れしてスッキリしたい。そうナナジは思っていた。
『駄目だ。そのシズカの国の兵だぞ』
「へ?」
『紋章が鹿の角、鹿郡の機械甲冑だ』
忌々しそうに言う。そうでなければ既に熱弾で始末している。蟲は両腕の篭手に収めている武器も取り出してもいなかった。
「あ〜そりゃまずいか……どうすんの?」
これから世話になろうとしてる国の人間を殺すのは後々困るだろう。シズカとマチルダに近づけなくなるかもしれない。あの柔らかな匂いと感触から離れるのは惜しい。
二人の胸と尻を思い出し……やっぱ女の方が好みだとナナジは思った。
『シズカ達が戦いを止めるまでここから逃げだせば……むう?』
正面の機体が機械音を鳴らせ挑発するように大きく槍を振って地面を叩く。蟲の目は地面を叩いた槍を何故か目が離せなくなり逃げ出せない。槍を追うように身体が動いてしまう。
『むう!? ヘイト系スキルか!』
「ちょっと何してんの!? 来たよ!」
それを隙と見て小剣を構えた機体が良いタイミングでまた突っ込んでくる。だがナナジが見ていたお陰でぎりぎりで回避して後ろへ飛んだ。
着地し蟲はコロロンと鳴いて首をふるふると振った。額に生えるナナジもア〜! と揺れる。
『危ない危ない。こいつらなかなか連携が良いぞ』
「これが人間との戦闘か」
ナナジは目を回しながら思う。
獣やミミズとは違う。人間は魔物を殺す為の術を何百年の知恵と経験を受け継いで来ている。ほんの数カ月前に魔物になって目覚めた自分とは経験が比べられない。
殺すのは簡単だが殺す訳にはいかない。だがもしもの時は仕方が無いと諦めよう。シズカが戦闘を止めてくれれば殺さなくても済むのだが。
カーン! カーン! カカーン!!
ナナジは突然鳴り響く金属を叩く音のする右手の方角へ視線を向けた。
シズカ達がいる方角に背を向けた一番最初に動き回り込むように走った三機目の機械甲冑が機体を隠す程の大盾を構えていた。
下に付いている杭を地面に突き刺して固定し小剣で大盾を叩く。見える肩にはⅢと描かれていた。
長方形の盾には中央に紋章では無く✕マークが印されている。
「何だ? ……あ、あれ?」
✕マークから目が離せなくなる。それどころかそれを中心にして視界がぐにゃりと歪む。
"貴方は盾の印しか視えない"
「何……これ……」
『いかん視線誘導の魔術だ! 抵抗しろ!』
小剣を構えた機械甲冑がまた突っ込んで来た。ナナジは目を離していたが機械音と鎧が鳴らす音で蟲は反応出来た。
右手で剣を持ち左手の掌を柄頭に当てて腰を落して突っ込んでくる。
もしかしてこいつはこれしか出来ないのか?
『く! 死ぬなよ!』
蟲は剣をぎりぎりで避けつつ足を残す形で突っ込んでくる五メートルの機械甲冑の片足を二十メートルの巨体で器用に蹴り払った。
バチン! とぶつかる音が響く。
機械甲冑の脛装甲には小型の魔物を蹴り倒す為の棘が付けられている。彼らの機体には殺傷力を上げる為か鏃のような棘が脛に幾つも付けられていた。蟲の足はその棘で少し削れた。だが蹴られた機械甲冑の方は派手な音を立てて倒れ突撃してきた勢いで頭から木々に突っ込み蹴られた右足から赤い水を吹き出している。
人間は簡単に死ぬ。今のでも下手したら死ぬだろう。蟲は中の人間を心配した。
「うううん……うん? あ、やったの?」
目を閉じ頭を振ってからペシペシと叩いて魔術から目を覚ましたナナジは倒れた機械甲冑を見て殺したのか蟲に訪ねた。
『……むう? いや』
倒れた機械甲冑は自分の腕を使ってうつ伏せから仰向けになり起き上がろうとするが片足が動かないのか座ったまま動きが止まる。
『良し。生きてる』
あと二機、槍と大盾。だが戦いは突然終わった。
大盾を持つ機械甲冑が背後を振り返る。
ナナジの目には褐色肌の兵士達が機械甲冑に石を投げて慌てたように大きく両腕を振ってるのが見えた。手を振る中にはシズカの兵も居た。
「やめ〜! 止まれ〜!」
「一発当てようか?」
「……やめてください」
銃を構えて言うヤマの言葉に忍者の役割が付いた兵士が汗をかいて止めた。
ーーーーーー
大型の魔物に警戒しながら倒れた機械甲冑に数人の兵に連れられてシズカの兵士で同じ機械甲冑乗り二人が近づいている。
ナナジの眼には〈技術者〉の役割が付いたハチが座り込む機械甲冑の右足に取り付く。
「血は止めてるな? ……止めてね〜じゃねえか! 右一番を閉めるんだよ!」と怒鳴り指示を出す。
胸装甲を開いて顔を出していた〈教師〉の役割が付いた乗り手は「誰だあんたら!?」といいつつも慌てて中に戻り頭上を見ながら両側にある穴に腕を突っ込み何か操作をしている。
〈人造人間〉の役割が付いたクルトが歪んだ装甲にある整備用の隙間を無理矢理開けて灯りを付けた小型のランタンを持って中を覗き込む。
「装甲は曲がっているが折れて無い。蹴られた衝撃で筋肉筒が破裂している」
「ほほう。型は古いが骨に良い素材を使ってるな。血止めテープをくれ!」
「おうよ! 骨はミスリル鋼だぜ!」
乗り手は自慢するように言いながら甲冑の中から出て腰の荷物入れから丸い塊を投げて渡す。
「は〜そりゃ高いだろう。って何だこりゃ! こんな小さいので破れた部分が塞がるか!」
「それしかね〜よ!」
渡された物に不満を言うハチに一番機の乗り手は降りてきて言い返した。
「こいつの整備師は?」
クルトは側に控える兵士に向いて聞いた。兵士は機械乗りの会話は理解出来てない。
「え〜っと……後方で待機している」
「ここに呼べ。右一番の筋肉筒大一と小一を持ってこいと伝えろ。あと……もっと大きめの血止めテープを機械乗りに持たせろ。こんな物は使い物にならない」
クルトはハチに渡されたテープを兵士に怒るように見せて言った。
「は、はい」
兵士はクルトの気に押される様に素直に返事をし一度機械甲冑を覗き込む化物をみてから離れて行った。
「あんた詳しいんだなあ」
乗り手が感心するように言った。
ハチは歯を見せて笑う。
「あったり前よ! この方はなあ。何と〈千の軍〉の機械乗り様だぞお!」
「マジか!? いやマジですか! いや本当ですか!」
「よせハチ。それに千の軍はもう無い」
「無い? どう言う事だ? ですか?」
クルトは答えず歯を噛み機械甲冑の足の周りを調べていた。それを見てハチが代わりに口を開いた。
「う〜ん話せば長いんだが……無くなった」
「短!」
クルトはハチと乗り手の会話を聴きながら機械甲冑の脛にこびりつく木の皮が枯れたような破片に気付く。
手に取るとクシャリと崩れた。
機械甲冑の側で額の女に見せる様に屈む化物の足をみる。傷は既に塞がりきれいに治っていた。




