表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/169

待ち伏せ・裏側

 調査隊隊長の魔術によって姿を消し膝を付いて屈み待ち伏せている機械甲冑に乗る兵士は開けられた溝の穴から歩く魔物を覗き見る。そしてその歩く巨大な機械甲冑のような魔物に息を呑んだ。


 ――でかい!


 この役割の世界で一番大きいと思っていた彼の誇りでもある機械甲冑をはるかに超える巨大な魔物。昔西方中央の学園で教官が甲冑を超える魔物はいると教えてもらっていたが彼は今まで一度も出会った事が無かったし想像を超えていた。


 その頂上は狭い視界では全体が見えず攻撃できる距離に近づくと片足ぐらいしか見えないのではないか。その足の指は子供の頃虫捕りで捕まえた小さい昆虫の脚に似てる気がした。



 そもそもこの機械甲冑は頭上が見える様に設計されていない。

 騎士の兜の形をした顔と首は動かず。自分が乗り込む機械甲冑の喉の辺りにある装甲とバイザーにいくつか開けられた溝穴からでしか外が視えない。正面以外は左右を確認をする為の薄い溝穴。足下確認と呼吸のためにいくつか開けられた小さい丸い穴。それ以外に外を見るすべが無く頭上を見るには乗り手が背をのけぞり甲冑を無理矢理上に向けるしか無い。無論そんな事をすればたちまちバランスを崩して仰向けに転倒する。

 どうしても視界を確保したい場合はその開閉できるバイザーを自分の手か機械甲冑の手で押し上げて開けるしか無く戦闘中に装甲をずらして身を危険に晒すような事をする機械甲冑乗りはいなかった。



 自分の、一番機の正面で魔物が止まった。剣を構えて数歩走ればその左足が突ける距離。


 ――気づかれた!?


 心臓がドクンと跳ねる。自分の物かそれとも機械甲冑の物か。



 機械甲冑の動力源は〈心臓〉と呼ばれる歯車から生まれる。

 甲冑の背の穴に専用の発条巻きを挿し、いっぱいにまで回すと約六時間その歯車は左右に揺れる。揺れる歯車はポンプに繋がりポンプは全身の錬金術で作られた人工筋肉筒に魔素をふくんだ血液を巡らせ魔素を得た各部の筋肉は乗り手の動きを真似るように伸縮し機械甲冑を動かす。

 魔素を消費した血液は肺に送られて魔素を再びふくみポンプによって再び全身を巡る。 

 血液を送る際まるで人の心臓のような鼓動音がする事から機械乗りや機械術師はその歯車の事を〈心臓〉と呼称した。



 巨大魔物の身体が周囲を確認するような動きをする。顔はここからじゃ高すぎて見えない。カイコ蛾のようだと調査隊の隊長は言っていた。


 調査隊の隊長が魔物にかけた魔術は "我々が石ころに見える" である。

 魔物は今機械甲冑をその辺りに転がる石ころと勘違いし姿が見えていない……はずだ。


 段取りでは調査隊が後方からクロスボウで一斉射し驚かせて隙をみせた化物に機械甲冑と同じ二足歩行の弱点でもある両足を我々三機で攻撃し動きを封じる作戦であった。

 姿を消してる今は攻撃は出来ない。何故なら"石ころ"は攻撃しない。少しでも攻撃する動きをすればたちまち姿が見えてしまうので絶対に動くなと隊長から念を押されていた。


 狭い視界から魔物の右手の方に回っていた二番機が魔物に槍を構えてすり足移動するように見えた。少しでも攻撃しやすい位置にと思ったのだろう


 ――あのバカ!


 魔物の身体が二番機に向いた。



 呼吸が止まる。 



 だが魔物は何も見つけられないようで周辺を確認するような動きをした。


 ――生きて帰ったらアイツぶん殴ってやる!


 だが次に機械甲冑兵は信じられない物を見る。

 化物が左腕を上げて〈アームサイン〉をしたのだ。


 ――「周辺警戒セヨ」だと!?


 アームサインは機械甲冑兵同士で行うサインだ。機械甲冑乗りの声は空気中の魔素の呼吸による機械音でかき消される。会話するには一旦停止するしかない。その為のアームサインなのだが……


 ――何故化物がアームサインを! 偶然か? だが手首を回す仕草が偶然できる訳が無い! いや誰に向けたサインだ!


 この化物には仲間がいる。それもサインが見える距離。すぐ近くに。


 心臓が跳ねるこれは自分のだ。今ならあの左足の膝裏に剣を射し込む事が出来そうなのに。


 ――調査隊の攻撃はまだか? 早くしてくれ!



 だがこの時魔物の後方に潜んでいた調査隊は混乱していた。


 初めは潜伏、潜入系スキルを使いながら大森林を前進していた調査隊は巨大な魔物を目視し驚きの中で南方人の隊長は全隊員に命令を下した。


 どう見ても真っ直ぐ森林砦に向かう巨大化物を前後から挟み撃ちで待ち伏せし打ち倒すと。


 一番若い兵に砦への伝令として送り出し魔物の糞の匂いを使った魔術で姿を隠す。


 術の効果はうまくいき魔物は調査隊の前を通り過ぎた。

 だがその後驚愕させるものが目に飛び込んだ。


 魔物の後ろから人間が馬車の列を作って着いて来ていたのだ。

 しかも術範囲に入っていたので自分達の姿は見えていない筈なのに警戒するような動きを見せた。

「自分達は旅人です!」と名乗ったが魔物に率いられる旅人が居るわけがない。


 調査隊の隊長は迷っていた。


 攻撃かそれとも保護か。


 この危険な大森林を通って来れる人間は英雄か、もしかしたらこの中に勇者が居るかもしれない。だが化物に率いられているのはどういう事だ? 魔王軍か? だが帝国と戦争中の魔王軍が何故ここにいる?


 悩む隊長を更に驚愕させる事が起きた。彼らの馬車から降りてきた黒髪の長い褐色肌の女性。その顔を見た瞬間隊長は指示を出した。


「止め! 攻撃止め! 保護せよ!」


 馬車から降りて来た女性は元部下で弟子。

 彼女の両親に四番目の妻に是非欲しいと願い出て断られ、今でも心から欲しいと思っている女性。二の姫シズカと共に帝都に居るはずのヨーコだったのだ。



 調査隊隊長は攻撃中止の命令をしたがその命令が聴こえていない者達がいた。

 化物と対峙していた機械甲冑の兵士達である。


 彼等は挟み撃ちをする調査隊の攻撃を未だに待っていた。



 戦場で機械甲冑への命令伝達は本陣から鳴り響く太鼓や銅鑼、角笛、旗振り、伝令などで伝えられる。

 しかしその太鼓や銅鑼は機械甲冑兵には聴こえない。なにせ甲冑内では機械音が常に鳴り響き太鼓の音など聴こえないし乗り手も耳栓をしている。耳栓をしないと機械乗りは生涯難聴に苦しみ悩む事になる。

 命令は随伴する兵が聞き。そして長い棒で鎧の肩を叩き乗り手は叩かれる振動で命令を知る。


 命令は全て単純明快「突撃」


 前もって文章や口頭で伝えられているポイントへの突撃。後の細かい事は指揮官に丸投げである。一度突撃を開始した機械甲冑に兵は随伴出来ない。危なくて付いてけない。


 多くの戦場絵師が戦場の華のように描かれるその機械甲冑の突撃は外から見れば派手で良いが中の乗り手達はそれどころではない。汗と鼻水流しながら必死に走る。

 両軍注目の中で転ばないように走らないといけない。突撃する先に何があるかは全く見えず分からない。


 魔王軍の機械甲冑隊が東要塞戦終盤で突撃した際に万全体制で待ち受けられたのが見えた多くの兵が「糞!」と敵の将より味方の将を罵ったと伝わっている。


 ともかく一度機械甲冑兵に命令すると変更する事は難しい。ここには陣太鼓も随伴兵もいないのだ。



 一番機の目の前で魔物が背を向けている。後方を見る為か右足を引いたのだ。一番機の中から魔物の後方。右の薄い溝穴を覗くが木々が邪魔で調査隊の様子は見えない。


 魔物が今度は左足を大きく引いた。その身体は一度右手の方角にいた二番機のいる方角で止まり。次に正面の三番機、そして自分の方角で止まる。


 ――見ている?


 そんな筈はない。魔術で姿が見えていない筈だ。


 魔物がまた一歩下がる。


 巨大な魔物が下がったので一番機の視界の端にその蛾のような頭部が見え装甲越しに魔物の黒い目と目が合った気がした。


 ――見られている?


 三番機はもうバレたと判断して動いた。魔物の逃げ道を塞ごうと大きく迂回して走り出す。


 二番機も槍を構えて吠えるように機械音を高らかに鳴らした。


 一番機の乗り手は。


「ばれたんならもうええ! やったらあ!」


 立ち上がり右手に剣を持ち左手に剣の柄頭を当てて腰を落として構え教巻通りに機械甲冑の足を前に出して突っ込む。彼等はまさか魔物を目の前にして攻撃中止の命令が出てるとは思ってもいなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ