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故郷の地

 西方領の南、山脈を挟んださらに南の地にある領地郡。

 その領地は西方南部郡の中で最も新しい九番目の領地であった。


 元々その地は西隣の虎郡領の一部だった。


 今から四戦記前、勇者が魔王に敗れた暗黒時代の頃。

 東の大森林から低級魔物の大群による襲撃によってその地は一度崩壊した。魔物の大群は撃退されたが当時の虎郡領主は他領との戦争中の為にその地を放置した。


 今から三戦記前、勇者が魔王を倒し中央帝国時代の始まりの頃。

 長年放置されたその地に勝手に住みだした蛮族の略奪に悩んだ当時の虎郡領主は治安回復と奪還の為に軍を動かしその地の北に接する牛郡領の軍と合同軍で蛮族の討伐が行われ一戦記ぶりにその地は虎郡領に戻った。


 今から一戦記前、勇者が魔王を倒し帝国の統治が三百年続く事になった頃。

 その地の開拓が進んだある時、希少なミスリル鉱脈が発見されるとその地の民は歓喜に包まれたがすぐに嘆きへと変わった。牛郡領主が突如その地の半分の領有権を訴え虎郡領と戦になったのだ。


 戦は激しくその地を燃やし民は苦しみ助けを西方領中央の西方王に求めた。民の声を聞いた王は虎郡と牛郡の間に入り休戦と争いの元になったその地を西方中央の飛地として取り上げた。


 今から三十年前、魔物にさらわれた姫を救出した放浪者に西方王は褒美としてその地を与え鹿郡と名を付ける。


 鹿郡領は西方南部領で最も新しい九番目の領地であった。



 ーーーーーー



 鹿郡領森林砦。


 巨大な天然の岩山の間に四百年前の大襲撃に大森林から低級魔物の大群が通ったとされる道を防ぐ形でその大砦は築かれていた。


 この岩山の道以外に大森林から鹿郡領へと通る道は他になく砦の後方は岩山を削り良く整備された道が続き後方の町まで続いている。



 その砦の中で砦将のオットーは若い兵士に聞き返した。


「なんて? 巨大な化物? 今なんて言った?」


 若干西方訛りのあるオットーの前で出された水を飲み干した若い兵は口を袖で拭いて標準の帝国語で話す。


「機械甲冑の何倍も! 何倍も巨大な化物です! その化物がここに! この砦に向かっております! 隊長はオットー将軍に急ぎ伝えよと!」


 若い兵士は口から水か唾かを飛ばしここにと床を叩きながら興奮気味に話す。道の無い森の中を馬で一昼夜駆けたのだろう彼の顔や鎧には枝が当たってできた傷が目立つ。早く休ませてやりたいがオットーは彼から聞く事が多くあった。

 兵士が床に置いた木製のコップを拾い水を入れて再び兵士に差し出す。


「そんで調査隊はどうした?」


 また水を受け取った兵士は自分が興奮している事に気づいたのかその水を飲まずに頭からかぶる。


「(情報の価値を理解しとる。調査隊の隊長はほんまええ兵を伝令で送ってくれた)」


 顔を手で拭いてから冷静になった兵士は自分が見た物を話しだした――



 ーーーーーー



 話しの始まる数日前。


 突如として森林砦は魔物群れの襲撃を受けていた。


 襲撃は連日続き魔物は大規模だったり小規模だったり。百匹以上の大群が来たと思ったら次の日は数匹だけだったり。低級魔物のゴブリンとコボルドだけでは無くオークの群れが来たと思ったら次は恐ろしいオーガ数体が、沼に住むはずのリザードマンが、そしてまたゴブリンが……様々な魔物の襲撃が続いた。


 守備隊長のオットーは後方の町で休暇中の兵士を呼び戻し。新領主から送られてきた増援の部隊も入れて二百の兵で防衛する。兵の数は魔物の数より少ないがこの森林砦は迎撃装備が充実していた。


 前領主が帝国の東方国境にあるという帝国要塞をその目で見て参考にした(パクった)という砦は強固でオーガの怪力にも良く耐え、壁は直線では無くV字形をしており。例えオークが壁に張り付いていても迎え側から矢を射てるようになっている。その壁を登ろうとしたリザードマンを魔物返しという仕掛けから石や煮えた油を流して叩き落とし、その上の階の壁の中から薄く開いた狭間の列から兵士達は安全にゴブリンやコボルドを射抜く。


 四百年前の大襲撃の再来かと心配した新領主はさらに援軍を送るために兵を集結させているという。前領主もそうだったが新しい領主も判断と動きが速い。


「二代続けてええ領主さん持てたんはほんま幸運やで」


 砦の屋上から放たれる大弩に射たれて倒れるオーガと投石機の放つ石で頭を潰されて動かなくなったゴブリンを見てオットーはそんな事を思いながら指揮を続けた。



 何度目かの襲撃でホブゴブリンの群れが砦の壁に矢を受けながらたどり着き石壁を発狂したように叫び両腕で叩き、ついには頭を何度も打ち付けて死んでいったのを見て魔物の様子がおかしい事に気がついた。


「魔物がなんか錯乱しとる?」


 この魔物達は逃げ道を求めてここまで来た? 何故かその時オットーはそう思った。



 永久に続くと思った襲撃は突然止まり砦から見える大森林は魔物を吐き出し尽くしたのか風にふかれて木々をゆらしている。


「大森林に偵察隊を出しましょう。この襲撃は何かおかしいです森の中で何かが起きています」


 今朝援軍を率いて砦に到着した将軍にオットーは標準帝国語で意見を述べた。


「……うむ」


 砦の上からその将軍は眠そうな目で魔物の死骸の山を見回し。


「魔物の死骸を全て燃やして埋めろ」

「は? あの……」

「はっ!」


 将軍は人の話しを聞いてるのか全然関係ない命令をした。

 命令を受けた援軍の隊長達の一人がオットーに片目を閉じて離れていく。同じ鹿郡出身で知ってる奴等ばかりだった。


「君の兵は全員後方の町で休ませなさい……君もご苦労だった休みなさい」


 砦側の損害は連日の襲撃にもかかわらず数人の軽い怪我人が出ただけだったが全員が本当に疲れていた。後方の町には兵士達を休ませる施設が充実しているし家族を住まわせるてる兵もいる。オットーの実家もそこにあった。


 将軍はオットーも休めと命令するが彼は拒否した。


「いえ! 自分は大丈夫です!」


 俺の砦で勝手されてたまるか。そんな気持ちが守備隊長のオットーにあった。


「……そうか。機械甲冑兵は何機動かせる」


 将軍は気にする様子はなくオットーにたずねた。


「はっ! ……は? えーっと……」


 この森林砦には機械甲冑兵の整備施設がある。十二機も整備ができるが一度も全て使った事が無い。今は八機の機械甲冑が整備の為に専用の椅子に腰を下ろしているが動くのは六機しかない。原因は単純で機械乗りが六人しかいないのだ。襲撃時は切り札として待機させていたが結局使う事はなかった。


 後ろに控える部下を見る。小さく頷きながら部下は指を三本立てた。


「三機動かせます!」

「……うむ。彼をここに」


 将軍の副官は返事をして下がっていく。


「……」


 将軍は何も喋らないまま自分の副官が戻るまで砦の上から周りの風景を見ていた。下では兵士達が砦の外に出て「ゴブリンの死んだふりに注意しろ〜」と声を掛け合いながら作業を初めている。


 新領主に唯一不満をあげるならこの余所者将軍の任命だ。

 元冒険者だったという新領主は冒険者仲間の一人だった戦士に軍のトップを任せた。彼に付く役割が将軍だからという理由だった。

 役割が薬屋の自分に将軍をやらせろとは言わないが多くの部隊長も同じようにこの人事に不満を持った。


「将軍お呼びですか?」

「……うむ」


 将軍に呼ばれ副官に連れられた男の顔を見てオットーは驚いた。

 やってきた男はこの鹿郡領最強の部隊。前領主が領地内に潜む魔物の巣を探し出して叩き潰す為に探索スキルを持つ兵士を中心に編制された〈調査隊〉隊長の男だった。


 オットーは何度も大規模な低級魔物狩りで一緒に戦った事がある。この余所者将軍より何十倍も役に立つ男だとも思っている。


「大森林を調査する必要がある。頼めるか?」

「お任せ下さい。ですが我々だけですか?」


 隊長は即答する。だが危険な大森林の中に俺達だけか? と聞いた。


「いやオットー将軍から機械甲冑兵を出してもらう。良いな?」

「はっ!……は? 将軍? 俺が? あ、三機出せます!」

「それなら」


 隊長は笑いながら頷いた。


「……うむ。では後の事は二人に任せる……ああ任命式は後日になるがこれは決定事項だ。オットー部隊長は森林砦の砦将に任命される。おめでとう」

「はあ……どうも」


 オットーはそう聞いて気が抜けた。


「(何や今と変わらんやないか)」



「では後を頼む」


 そう言って余所者将軍は後方の町で休ませる兵士達を連れて森林砦から去って行った。


「やる気があるのか無いのかよ〜分からん人やなあ」

「あの人もあれで悩んでいるんですよオットー将軍」


 オットーと隊長は砦から去る兵士達を見ながら言った。


「あ〜その将軍とか言うのほんまやめてください」

「良いじゃないか将軍は今や大襲撃を防いだ鹿郡領の英雄だよ?」

「ハハハ! んなアホな! 俺は薬屋ですよ?」


 オットーは先輩でもある隊長の話を冗談として笑って受け取った。

 ここを守ったのは頑張ってくれた兵士達とこの砦のおかげで自分がした仕事は魔物の数にビビった兵のケツを蹴飛ばしたぐらいでだったら誰でも英雄になれると言って笑った。



 それから調査隊は二週間分の水と食料。三機の機械甲冑兵とその整備隊員。三十二名の兵を連れて出発したのは次の日の朝だった。


 ――だが出発して二日後、若い兵が一人だけで戻ってきた。


 砦内の自分の部屋で地図と書類を広げたまま流石に疲れが出たかうつらうつらと眠っていたオットーはその知らせに飛び起きた。

 その兵をこの部屋連れて来いと命令した後、机の上に水入れと木製のコップが目に付き水を飲んで頭を覚まそうとコップに水を注ぐ。


 水がコップの半分ぐらいの時に扉が開き二人の兵に支えられた調査隊の兵士が入った来てオットーは兵士を見て驚く。

 目の焦点が合わず明らかに様子がおかしい。コップから水が溢れて慌てて水入れを起こして机に置く。


 座り込む兵士にオットーは片膝をついて水を入れたコップを差し出すと兵士は虚ろな目で受け取り溢れた水が手を濡らすと現実に戻ったのかコップに視線を向け渡したオットーに目を向けまたコップに視線を戻す。


「戻ったか? まず飲めそんで何があったか話せ」

「……蛾の頭をした……巨大な化物が出ました……」


 兵士はコップに口を付ける直前で止めボソリと話してから水を飲みだした。


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