番外 魔王軍会議だよ全員集合!
降伏した帝都の東門が見える丘の上に帝国大道を警備する為の兵士達が休む施設があった。
砦では無く見た目は大きな館。
この館は百人程の兵士が寝泊まりする事ができ食事と風呂まで入れる大きな施設で平時では毎日この丘の館から帝国大道の警備の為に兵士達が出発していた。帝国大道には帝都から東帝国要塞までこんな館が幾つも建てられている。
そして今その丘の館に魔王軍本陣があった。
館を中心に大小の天幕が地を埋めるように張られ兵士達は天幕列の間に開けられた竈がある広場に集まり手柄自慢など談笑し自分達の勝利を喜んでいた。
広場から離れた場所に巨大天幕が幾つもありその一つが前の大きい入り口が開けられそこから見える中には三機の巨大な武者の鎧、機械甲冑の姿が見える。
機械甲冑は立てば五メートル以上の高さはあるが今はどれも寝そべり周りを整備員が忙しそうに工具を持った手を動かしている。その様子を見ながら間を歩く整備長のドワーフは煙管をくわえて書類の束を取り出して数枚めくり「部品が全く足らん」とぼやきながら煙を吐いた。
巨大天幕の外では番号が書かれた赤い革鎧を纏った機械甲冑乗り達は勝利に沸き返る広場の騒ぎには混ざらず座りこんで肩を落としていた。
同じ軍の中で勝利者の兵士達と違い彼等は敗北者だった。
本陣中央の館、その隣にある大天幕の奥の中央には王座、の代わりに隣の館から適当に持ってきた貧相な椅子が置かれていた。
王座の前には長机を置きその周りに十二席の王座と同じ椅子を適当に並べて七人が座り内一人に目元を銀の仮面を付けた女性がいた。
女性の背でまとめている長い髪は老婆のような灰色だが白い肌には深いシワは無く唇には紫色の口紅を引き今は魔王国となった東方領でも珍しくなった白いKIMONOという服を着ていた。
始めて仮面の彼女を見た者は一瞬ハイエルフかと思うがその耳は尖っておらず人間の物だった。
仮面の女性は中央の椅子から左側のそばに誰かが気を利かせたのか綿を詰めた敷物敷いた椅子の上に上品に腰を下ろし口元は微笑んでいる。
他の六名の男達はみな歳を四十越えた者ばかりで服装は揃いの黒の軍服を纏っている。
彼等は魔王軍のそれなりの幹部なのだがまるで悪ガキの集まりのようにだらけて椅子に座っていた。
「要塞戦で損害は出たがなんとかここまで来れたな」
一人の男は机に肘を付けてそこに広げる地図を見ながら言った。
地図は帝都を中心にあちこちに印と多くのメモが貼られており左下の、西南の方向にある大森林の位置と国境の町の位置に扉のような印が二つ描かれていた。
「損害? 大損害の間違いだろ?」
腕を組む男が言うと足を組む男もそうだと言った。
「そうだ大損害だ」
「魔獣兵の投入をもっとはやく出来ていれば」
腕を組む男が女をちらりと見る。
だが灰色の仮面の女性が微笑みながら「何か?」と首を傾げたので男は「いえ何も」と目をそらした。
「その魔獣兵も一体負傷とは」
「あのお爺さんには最後まで苦労させられたな」
「黒騎士の腕一本ぶった斬ったんだろ? 見たかったな〜」
一番大柄の男がのんきに言う。この中で彼と仮面の女は帝国要塞戦時に現場には居なかった。
「おい」
睨む腕を組む男に大柄の男は謝罪する。
「……悪い。一騎打ち許可したの誰だ?」
「疾風のまー君だよ、あの人あんなノリ好きだから」
「やっぱりか〜」と大柄の男はパラパラと損害報告書を読み。
「機械甲冑兵の損害が最も大きい。要塞戦で損害が二十七なのは分かるが追撃で六機大損ってなんだ? 何があった?」
機械甲冑の大損とはただでさえ生産が難しい機械甲冑とさらに訓練と育成の難しい操者両方を失う事である。
大金を注ぎ込んだにも関わらず全て失う事から皮肉も込めて軍ではよく大損という言葉が使われていた。
「敵の殿に凄腕の機械甲冑兵がいたらしい」
「たった一機にか?」
「多分〈千の軍〉の生き残りだろ。うちのじゃ相手にならんさ」
「六機倒したあと機体の損傷激しく山に放置し心臓を持って山の中を仲間達と一緒に撤退か……完敗だな」
報告書を読む大柄の男の話を聞いて背もたれに腕と顎を乗せてた男があっと声を出し。
「もしかして要塞戦で跳んだ奴じゃないか?」
「あ〜かもしれんな」
「は? 跳んだ? 機械甲冑がか?」
機械甲冑は乗り手の動きをそのまま真似て動く乗り物である。
機械乗りが腕を振り回せば甲冑も腕を振り回す。
だからといって乗り手が跳び上がれば機械甲冑も跳び上がるとは簡単には行かなく乗り手に非常に難しい技術が必要だった。
ーーーーーー
それは東帝国要塞戦終盤。
疾風騎士団自慢の工兵隊による爆破工作でヒビの入った城壁に大型投石機の集中攻撃を行い一部の壁が崩れた。
それ今だ! とその崩れた壁へ向けて機械甲冑隊を押し出したがその崩れた城壁の上に長槍と大盾で隊列を組んだ帝国の機械甲冑隊が土煙の中から現れそれを見た誰かが「クソ爺め!」と声を出した。
隊列にそのままぶつかってしまった魔王軍の機械甲冑隊は槍に穿かれ上から長槍を叩き付けられ大盾で押し返されまた槍に穿かれた。
それでも数の有利から損害を出しながらもじわじわと魔王軍の機械甲冑隊は押す。ついには剣を振り回す隙間なく両軍は崩れた城壁の上で盾と盾で押し合い殴り合いになっていた。
もう少し、もうひと押しという所で帝国軍の列後方からニ機の機械甲冑が仲間の手を借り、背を踏み台にして両軍の上を飛び越え盾で押し合う前列と後に続く後列のど真ん中に着地した。
一機は東方製で着地の際転んだ。もう一機帝国製の真新しい機体は槍で機械甲冑兵を穿きながら見事に着地し槍を捨てて剣を抜いて振り返り背を見せる魔王軍の機械甲冑兵を次々に討ち始めた。
討たれた兵は背中の味方に斬られたと思ったかもしれない。機械甲冑兵は兜に開けられた穴からでしか外が見えず非常に視界が狭いため戦闘中に正面以外を見る事が難しいのだ。
突然目の前に敵機が現れ驚いた魔王軍の機械甲冑兵も背を見せる敵を討とうと前に出ようとした時、起き上がった東方製の機体に槍を突かれて怯み一歩下がってしまう。一機が下がるとその肩に押され隣も下がる。隣が下がるとそのもう隣も肩に押され下がってしまう。前が下がるので後方の一機も一歩下がってしまい……
数秒だが後列の機械甲冑隊の動きが完全に止まってしまっていた。
狭く崩れた城壁の上で魔王軍には不運が、帝国軍には幸運が舞い降りた。
その間に盾で押し合ってた機械甲冑兵は全て討たれてしまい。帝国軍の機械甲冑隊は再び槍と盾を構え隊列を整えてしまう。ニ機の機械甲冑は開いた隊列の中を悠々と通って消えた――
ーーーーーー
「降伏した帝都の兵にその機械乗りは居ないのか? 本気でうちに欲しいんだが」
「いや残念ながら……」
そう言った時天幕の入り口が開けられ一人の若い女性武官が入って来て入り口の脇に立った。
彼女が入ってきたという事は……
男達が一斉に立ち上がり椅子を持って机に移動する。席順は決まって無いので場所が被りお前あっち行け! お前があっちだ! と指で場所を指し合う様子を見て仮面の女性はクスクスと笑い。女性武官は顔をしかめて咳をする。
男達は椅子を置き背筋を伸ばし待つ。
「ご苦労」
そう言って初老の男が天幕に入って来た。




