機械甲冑乗りの男
「僕としたことが……」
「お前らしくもない」
アーダムが片手で頭を抱え座り込んでいる。あんな化物の挑発でやりあってしまった事にすぐ冷静になったようだ。側にいるブラッツは息を吐いた。
「お前がお前らしくないと困るのは夫人だ。俺じゃあ盾になるぐらいしか使い道がないんだからな」
ブラッツは自分の頭に巻く包帯を親指で指した。
「いや……僕はそんな」
「そうなんだ」
ブラッツは友の肩をポンと叩いた。
「痛ったたた!」
怪我なら僕だってしているとアーダムは口を尖らせたが彼は言い返さなかった。
焚き火を囲むように目の前の化物は今はアーダム達ではなくバナン、ハチ、クルトの三人と話をしていた。この三人は魔王軍と直接戦った男達だった。とくにクルトが〈千の軍〉出身の機械甲冑乗りとはここで話を聞いててブラッツは驚いた。
〈千の軍〉とは対魔王軍戦の前に操者の育成も難しい機械甲冑乗りを全国から集めて厳選し一千機の機械甲冑で組織された帝国軍の切り札的存在の部隊であった。
だがその切り札は魔王軍のたった一体の魔物によって全滅した。
『装甲を容易く切り裂く光る剣と貫く光る投げ槍。まるで後に目があるように全ての攻撃を素早くかわす。そんな魔獣兵は一体しかいない。その機械甲冑の〈千の軍〉を滅ぼしたのは〈機動〉だ。一体で集団戦が一番得意な奴だ』
「機動?」
『魔獣兵の名だ。俺達は別の名で呼び合うがそちらからはこう呼んだ方が理解しやすいだろう』
「〈機動〉……あの白い奴はマニューバというのか……」
ーーーーーー
クルトは一年と少し前の戦いを思い出していた。
千人いた仲間達が次々に切り裂かれ貫かれて死んで行った。
あの巨大な白い機械甲冑のような奴が背中から火を噴きながら仲間の中を通り過ぎると誰かが死んだ。
将軍専用機は光る剣で両断され。最強の一番隊隊長は光る投げ槍であっさりと討たれた。
クルトの部隊長は皇帝に向って罵る言葉を口にしてから白い奴に前から挑みその隙に背中から挑んだ戦友の攻撃をかわした白い化物は二人を同時に光る剣で貫きそしてその腕を塞がれた。
化物の腕を掴み光る剣に焼かれながら部隊長が叫んだ。
「今だクルトー!!!」
クルトは隊長の背から化物に向って挑んだ。
隊長機を踏み台にして飛び上がり化物の頭部、そこに兜飾りのように生えている人のような物を狙ったのだ。別部隊の機械甲冑兵も加わり三機同時に掛かった。
俺は一太刀当てられる。そう思った時声が聞こえた。
『御見事也』
――今思うとあの白い化物が発したのだろう。
次にクルトが気がついた時には機械甲冑は逆さになり手足が全てもげていた。機体は動かせず何とか開いた兜の面から苦労して這い出したあとは力が抜けて座りこんだ。
屋根が無くなった民家と根元から折れた木。そして何かが跳ねながら転がったような跡が一直線にこちらへ向っていて自分の機械甲冑の背はこれも民家だろか壁を突き破って逆さになって止まっていた。
吹き飛ばされた? どうやって? いや戦いはどうなった? 化物は? 皆は? ここはどこだ?
俺は先程まで戦っていた地形と違い何がどうなったのか思い出せず呆然としていた。
ガチャン!
その時、民家の影から東方領製の機械甲冑が一機現れた。
魔王軍? 残党狩りか? いや、あの紋章は……東方軍か。
「おお! あいつ生きてるぞ!」
ガチャンガチャンとがに股で肩に八番と書かれた機械甲冑がクルトに近付く。
彼の後ろからは三十人程の歩兵と十騎の騎兵が続く。
兜の面が開き中から髭面の操者が笑顔を見せた。
「遠くから凄い勢いで飛んでくお前が見えてな! どうせ生きて無いが通り道だし心臓だけでも回収してやろうと思って来たんだが良く生きてたな!」
髭面の男は声がでかかった。
俺は無事だと手を振ろうとした。だが身体が動かない。
「おっとまてまて、こりゃあ……動くな! バナン! 回復薬と包帯はまだあったか!?」
「え〜っと? うわこれはやばい! 誰かあの民家から扉もってこい! どうせ誰も居ないから蹴破って取ってこい! 担架代わりにするんだ!」
どうやら俺は重傷らしい。這い出す時は痛みは感じなかったのだが今はひどく疲れを感じていた。
「そっとだ! そっと運べ!」
俺は声を出そうとしたがうまくいかなかった。苦労して口を開いたら回復薬の瓶を突っ込まれた。東方製の回復薬は酷く苦くむせた。
「馬鹿吐き出すな! ゆっくりと飲むんだ!」
そう言って騎士は俺の口に薬を流し込んでくれた。
「俺の……心臓を……」
やっとそこまで言えたが視界が暗くなっていく。
「は? 心臓?」
騎士が困惑している。
「機械甲冑の心臓だ。大丈夫だぞ! お前の機械甲冑は生きてるぞ!」
髭面の機械甲冑乗りが布で包んだそれをみせてくれた。
そこで俺の意識はとんだ。次に目が覚めたのは東要塞内のベットの上だった。
そしてそのベットの上で俺は〈千の軍〉の全滅を知った。
ーーーーーー
クルトとの話が終わり次にバナンが蟲にたずねた。
「じゃ、じゃあ次は要塞を攻撃して来た奴らについて聞きたいんだが――」
バナンは東帝国要塞で見た事を蟲に話た。
『ふむ、そいつは〈急襲〉だな』
「急襲?」
『全身が黒く両手に長剣、そして騎士道精神にのっとったような一騎打ち、間違いない〈急襲〉だ。姿と気配を完全に消し影に潜んで不意打ちを得意とした奴だが、頭がちょっとな』
蟲が自分の指を頭に向けてくるくると回す。
『いつか勇者か英雄と正々堂々と仕合たいと言ってたがスキルも使わずに本当にやるとは……それで、どうなった?』
「凄え戦いだったぜ。機械甲冑でも無いのに化物と打ち合ってよ。しかも押してたんだ」
「……最後は化物の右腕を斬り落としたんだが左の長剣に振り払われて……」
蟲はほおと息を吐くように言った。
『勝ったか』
「負けたんだよ!」
『ああすまない』
蟲は怒鳴るハチに謝罪した。
「……北の英雄は笑っていたよ」
北の英雄の亡骸を弔ったのは彼の副官とバナンの部隊だった。
「その後その化物はもう一匹の化物に連れられ引きあげ俺達は英雄の遺体を要塞に運んで弔った後また立て籠ろうとしたんだが……」
「次の日に残った方の化物が要塞上空から爆発する糞をばら撒きやがって一日も持たなかったんだ」
「俺の部下達はその混乱でどうなったか」
「あれには参ったぜ俺様の機械甲冑もそれでぶっ壊れちまった」
『それは糞じゃない……まあいい。その魔獣兵は〈強襲〉だ』
「〈機動〉〈急襲〉〈強襲〉か……」
クルトが確認するようにつぶやく。
『魔獣兵の中でも飛び抜けて戦闘力の高い奴らだ』
「お前は?」
『私では足元にもおよばない』
「違うお前の名だ」
『私の名は蟲だ』
「そうじゃない魔獣兵の名だ」
『ああ私の魔獣兵の名は』
その時天幕の方向からオオオと声が聞こえた。蟲は声を止め額にいる化物の女が顔を向けて確認する。
「エ? 静サン? ワ! ワ! スゴクキレイ!」
化物の女が興奮気味に何か言っている。だが焚き火に居た男達全員がすぐにその意味を理解した。
天幕から出てきたシズカ夫人はいつものドレスでは無く貴婦人の、胸元をその大きな胸がこぼれ落ちそうな程開いた服を着ていたのだ。
おおおう。と焚き火の側にいた男達、ナナジも入れて六人が声を出す。シズカは六人に気づき片目をつぶって投げキッスの様な仕草し片手の指を一本一本曲げてまるで男を招く娼婦のような仕草をする。
すぐに「奥様!」と珍しく使用人の服を着たヨーコにたしなめられた。
姿を変えても彼女は彼女だなと男達は苦笑した。
ーーーーーー
シズカは天幕の側で蟲とナナジの様子を見ていたタルンとアベル少年そしてロカとマルティの四人に近づき話しかけて今回の事で礼を言い勇者の神信者の礼ではなく淑女らしく膝を曲げて頭を下げた。後に控えるヨーコも主人と同じ用に頭を下げた。
タルンはいやいや問題ないよと手を振って返しロカとマルティは揃ってシズカ夫人を見て鼻の下を伸ばしている。彼らは頭を下げる夫人から丁度よい角度で立っていたのだ。
顔を上げるさいにシズカはアベル少年の左腕に包帯が巻かれていたのを見つけた。彼とシズカは飛び出したワームに引っかかり大きく跳ねた馬車に乗っていた。
その時彼女はブラッツとデイブに抱えられて守られ二人は頭と背を幌の屋根に叩きつけられ。自分は馬車に括られたアーダムの上に落ちた。その際彼の身体からボキリと折れるようなゾッとする音を聞いた。
彼らはタルンが用意してくれた上級回復薬を飲んだがまだ身体には痛みはあるはずだ。
アベル少年もどこかで怪我をしたのだろう。
「痛む?」
「い、いえ奥様……」
自分は皆のお加減で身体に傷一つ無い。
シズカはその包帯を愛しむように優しく撫でてその上に赤い唇を押し付けた。
ええええ! と声が揃って焚き火の男達は振り向き、蟲は再び話を止めてナナジが声がした方を見る。
シズカ夫人はくすくす笑いながら次はデイブとガイに向かって歩き出していた。
彼らも同じ馬車に乗っていた。二人はポカンと口を開けて自分を見ている。
タルン達は客で彼らはマチルダの兵だが構うものか。さて、どんなお礼をしてやろう。
だんだんと楽しくなってきた。ウズウズとして唇を舐める。
後ろを歩くヨーコはハラハラとしていた。主人の病気がでなければ良いがと心配したがもう手遅れだった……
だがデイブは唇を舐める夫人の顔を見て逃げ出した。あの顔を彼は知っていたのだ。
「そうだ! アレックスの手伝いをしなければ! 行くぞガイ!」
「いやだから俺は便所を……」
「後だ後! ほら行くぞ!」
ガイは一度夫人を見てしハッ! とした顔になり慌ててデイブに続く。
「え、ちょっと待ちなさい!」
二人は夫人の止める声も聞かず去っていった。
「もう! 良い事してあげようと思ってたのに!」
頬をふくらませ腰に手を当てるシズカ夫人の後ろでヨーコはホッと息を吐いた。
ーーーーーー
『〈観測〉だ』
「何?」
クルトは聞き返した。
『聞いてただろ? 私の魔獣兵の名だ。姿を隠しそして隠れている敵を探し出すのが私の役割だ』
「つまり……偵察がお前の役割だと?」
『そうだ戦闘は得意じゃないんだ。敵を見つけたらとっとと走って逃げ出すんだ』
そんな役割は軽装騎馬隊でも送れば済むではないか。そんな事の為に魔王軍は魔獣兵を使うのか?
クルトは確かめる為に口を開いたが。
その時先程の男達の悲鳴のような声を上げたので全員振り返って会話が止まる。シズカ夫人がアベル少年の腕にその唇を当てているだけだった。蟲にはその行為の意味が良く分からなかった。
少年の顔は真っ赤になっている。
暫く全員で眺めていたがコホンっとアーダムが咳をした。
「所でその背の羽根があるって事は飛べるのかい?」
『ああ実は飛べないんだ。これは羽根の形をしているが別の事に使う』
蟲は背にある羽根をパタパタと動かすがその巨体を浮かせるには小さすぎるし羽ばたく力も弱い。
「何だお前あまり大した奴じゃねえのかよ」
『そうだ。だから魔王様からの召集も無かった。そういじめないでくれ役割だから仕方が無いだろう』
「ハチ魔物さんをいじめちゃだめよ?」
「ソウヨイジメカッコワル〜イ」
「い、いや。俺は別にいじめちゃいませんよ?」
シズカ夫人がいつの間にか自分達に近付き会話が聞こえたのかハチに声をかける。魔物の女からも何か言われてハチは汗をかいた。




