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魔王軍の追撃者

ちょっと汚いお話です。食事中や苦手な方はご注意ください。


 シズカ達が町から旅立って十日後。


 宝玉の泉亭の食堂に警備長と町長は以前に座っていた同じ席に座っていた。

 だが目の前に座る人物は赤毛の美しい女性ではなく大柄な身体に黒い板金鎧を纏い。顔がでかく頭には毛が無くハゲつるで。眉毛が太く長く伸び。ギョロリとした目。そして口の大きな男だった。

 ハゲ男は二人に構わずムシャムシャと骨付肉にかぶりつきスープをスプーンを使わずにごくごく飲み干しまた肉にかぶりつく。大ジョッキのワインをぐびぐびと飲みプッ! と骨を飛ばして豪快に笑いだした。


「ガハハハ!! 待たせてすまんな!! こうやって座って飯を食ったのは久しぶりでな!! ずっと仕事続きで馬上で飯食って糞してたからな!!」


 声がでかい。


 ハゲ男は木製のジョッキにワインをドバドバと入れまたぐびりと飲み干した。また別の肉にかぶりついた。


「ここの飯は美味いな!! ここのコックは!? お前か!! 百万の感謝を!! 家に雇いたいぐらいだ!! 東方の家に雇ったら儂が食えんな!! ガハハハ!!」


 ハゲ男は豪快に笑ってまたワインを入れたジョッキを空にする。

 宝玉の泉亭の料理人はどういった顔をすれば良いのかわからずとりあえず褒められてると思い「は、はあ、有難う御座います」と頭を下げた。


「よし!! 外の部下達にも美味い飯を頼むぞ!! 行け!! 駆け足!!」


 先程までワインを飲んでいた木製のジョッキを料理人に投げつけそれが頭に当たりカーンっと乾いた音を立てて料理人はぶっ倒れた。


「どうした!! 敵襲か!! 誰にやられた!! 報告!!」


 ハゲ男はバン! と机を叩いて立ち上がり倒れた料理人の胸ぐらを掴みがっくりがっくり揺らす。料理人は泡を吹いている。


 その間町長と警備長はどうすればよいか分からず椅子に座ったままアワアワしていた。


「団長」


 ハゲ男の後ろに控えていた痩せた細目の男がハゲ男を団長と呼ぶ。


「む!? 誰だお前は!!」

「副長です。あと貴方の息子です」


 町長と警備長はえ? 息子なの? て顔をする。二人は親子にしては全く似てないからだ。


「あ、養子なんです」


 副長は慣れたように町長達に言った。


「む!! そうだった!! 我が息子よ!! じゃあこいつは誰だ!!」


 団長は泡をふく料理人を揺らす。


「その者はここの料理人です。先程団長の食事を出してもらいその礼をしてる所でした」

「む!! そうだった!! 百万の感謝を!! ……誰にやられた!! 報告!! 敵襲ー!!」

「団長いけません。それ以上締めると死にます。父上。ストップ」


 団長が料理人を揺する。

 副長が止める。

 町長と警備長は訳が分からず椅子に座ったままアワアワしている。


「む!! 我が息子よ!!」


 団長が突然料理人から手を離し椅子に座り直した。


 ワインの瓶を掴み先程投げたコップを机の上に探すが見つからず結局瓶のままぐびりと仰ぐ。


「この二人は誰だ!!」


 誰だ言われた町長と警備長の二人の顔は揃ってえ〜!? となった。


「情報提供者です我々の追う人物を知っていると」


 二人はコクコク頷く。


「おお!! 情報感謝しますぞ!!」


 バン! と机を叩き団長と呼ばれた男は立ち上がろうとした。

 だがスッと座り直し机に突っ伏して「ぐご〜ぐご〜」といびきをかいて眠り始める。


 えええええ!? 寝たぁぁぁぁぁ!?

 二人は口が開けて呆然としている。


「団長はお疲れのようだ。ここの部屋を一つお借りします」

「は、はぁ」


 副長は控える兵を呼んだ。


 兵に支えられ団長と呼ばれた男は連れて行かれた。


「では団長に代わって私が話を聞きます」


 細目の痩せた男は先程までハゲ男が座ってた椅子に座った。


「魔王軍疾風騎士団副長のグエンと申します団長の、父の御無礼をお許しください何時もはああではないのですが余程ここを気に入られたのでしょう。景色が故郷に似ていたからでしょうね」


 グエンと名乗った男は微笑み額に拳を当てて叩く仕草をする鍛冶の神信者の礼をして頭を下げた。


 町長は掌を合わせた宝玉神の礼。警備長は同じ鍛冶の神の礼をして返す。



 鍛冶の神は火と金槌と金床の神であり職人と建築の神でもある。武具の神で、戦の神であり兵士や武人はこの神の信者が多かった。

 芸術の神でもあり一部の宝石職人は宝玉神では無くこの神を崇める職人もいる。

 医療の神であり九大神の中で唯一名を持つ神であった。地域によって名は変わるが負傷し治療を受ける際に神の名を叫んで痛みに耐えるのである。

 ある高名の勇者が肩に刺さった矢を抜く際に「イッテエ!」と叫んだ事から多くでイテエ神と呼ばれるようにもなった。



「い、いえ」


 やっと話が進むと町長は安心した。何せ町は今一万の兵に包囲されてるのだ。


 途切れ途切れの行商人達の話では帝都は包囲されてるとは聞いていたがここまで魔王軍が来るということは帝都は既に落ちたのだろう。


 初めこの町に姿を見せた黒色の騎士は三人だった。

 魔王軍とは名乗らず騎士達に町長は懲りずに化物退治の依頼を頼みに来た。そして一通り話を聞いていた騎士が逆に聞いて来た。


「化物退治はまぁいいんだけどこっちの話も聞いてもらっていいか?」


 騎士達はある人物の名と特徴を口にした。


 町長はその人物に覚えがありここに居た事を告げると騎士達が豹変した。


「マジか! こっちかよ!」


 騎士達はそう叫ぶと馬に飛び乗って町を飛び出し北へ去って行き二日もしないうちに一万の兵がここを包囲したのだった。化物退治どころではなくなった。自分の答え次第で町がどうなるかと町長は緊張していた。


「ではお聞きします。こちらの町に元帝国近衛兵のブラッツが立ち寄ったのは間違いないのですね?」



 ーーーーーー



 シズカ私兵団は魔物の多い北方領出身のマルティとロカ。そしてガイの提案で大森林の中では馬車の中で眠るようにした。大きく天幕を広げていては見張りの目が足りなくなる。ここは敵陣のど真ん中なのだからと。


 一番先頭にあった馬車は女性用。二番目を男性用とした。三番目の馬車は輸送用で旅の荷物を満載していたので寝るには不向きだった。


 隊には女性は五人。男性は十五人居てマルティとロカの二人は三番目の馬車の上で交代で眠り。残り十三人を六・七で分けて見張りに着いていた。

 シズカ私兵団では女性陣は見張りに立たない。一晩ぐっすり眠って貰いその分男どもが頑張るのだ。


 一番目の馬車の中でメイド見習いの少女リズは眠っていた。目の前の席では主人であるシズカと上司であるヨーコがお互い身を寄せ合いながら眠っている。


 二人は集団で眠る馬車の中でもそれを止めず隣で座るマチルダは顔を真っ赤にして横になって動かなくなり何度かうわ言を言っていたがしばらくして寝息を立てていた。

 アンナは馬車に入ってきた時はあらまぁと声を出したがマチルダに毛布をかけ剣を抱えて眠り出した。

 結局自分も疲れていたのだろういつの間にか眠っていたが急に目が覚めしばらくもじもじしていたが小用に我慢出来ず起き上がった。


 リズはヨーコに抱きついたまま眠る美しい赤髪の貴族夫人の主人を見つめた。


(ブラッツ様もこの人とあの様な事をするのだろうか……)


 ボッ! と急に顔が熱くなり顔をプルプル振って邪念を払う。


 今自分が生きているのはブラッツのお陰だが命の恩人の彼がシズカとヨーコのように一緒にいる所を想像すると胸の奥が苦しくなる。

 それが何かは少女にはまだ分からなかった。


 馬車の幌からでると見張りで立っていたデイブと目が合った。山賊のデイブにリズは頭を下げるが彼は何も言わず馬車から少し離れて立ててあった幕から離れて行った。


 男性陣はその辺りで済ませるが女性はそうはいかない。幕で四角く囲いその中には済ませる為の穴を掘り。紐でくくられ飛ばない用に石で押さえられた紙。そして穴を掘る為の木製のシャベルが置かれていた。

 リズはブラッツ達と旅に出るまでこのように済ませる事を知らず失敗も多かったが今ではもう慣れてしまった。

 だがもう一度幕から顔を出して左右を確認。

 デイブは既に見えなくなっていた。見張りの彼は済むまで幕から目を離しさりげなく馬車の反対側へ離れてくれていた。


 だがそれが仇となってしまった。


 既に誰かが使用した後の匂いに耐えながらリズは済ませた後シャベルで埋めそして次の使用者の為に穴を掘る。前の使用者の物を掘り返さないように掘る穴の位置の順番は決まっている。

 ここの地面は石が多くリズには重労働だがこれはルールなのだ。例外は許されない。あの主人だってするんだからとリズは細い腕に力を入れた。

 穴を開け終え。ふうと息を吐いて幕から出て側の台に置いてある水を入れたタライから水をすくって手を洗った。


 手を拭き馬車に戻ろうと振り返ると髪の長い青い上着を羽織った女性が自分のそばに立っていた。


 長い黒髪でリズは初めヨーコだと思った。だが顔を見るとこんな女性はこの隊には居ない。「誰!?」と聞く前に嘘! 何で! とリズは混乱した。


(どうして()()()()()()()の!?)


 女がリズに飛びかかった。口を押さえられ腰に手を回し両足に何かが巻き付き動きを封じられた。

 リズの目の前に主人と同じ青い色の瞳。「シー」と女性は瞳を細めて言った。


「ヒッパッテ」


 女が何か呟くと二人は夜の森の影の中に吸い込まれるように消えた。


「うん?」


 デイブは何か物音が聞こえた気がして幕の方を見る。お嬢さんはもう馬車に戻ったのか居なかったのでデイブは見張りの持ち場に戻り交代はまだかなと欠伸をした。



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