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化物退治の依頼・上

「見えました! 使者が言った通りの集団です」


 上の見張り台から声が聞こえた。


「お、来たね。ご馳走さま! 休憩中に騒がしてごめんね!」

「いいよ騎士様こちらも楽しかったよ」

「アーダム殿上がって来てくれ確認をしたい」

「はいは〜い」


 アーダムは民兵達に暗黒神の礼をしてから階段を上がった。


「本当にミスリルチェインの集団です」

「驚いたなこりゃ」


 見張り台に上がると警備長とその部下の会話が聞こえた。


「でしょ〜? 凄いんだからうちの主人」


 警備長の横に立ち愛する主君の軍を見る。


 種類の違う幌の付いた馬車が二台に商人が貴重品を入れて輸送する際に使用する丈夫な金庫付きの馬車が一台。その三台の周を銀色の鎖鎧を纏った十人程の男達が数人が馬に、残りは徒歩で進んでいる。


「あんなのでよく東の森を通れたな」


 警備長は記憶している荒れた森の道を思い出した。大木が倒れて道を塞いだ所もあったはずだ。


「はっはっはっ。ほんっと大変でしたよ……」


 アーダムは男全員で倒れた大木を抱えたのを思い出して汗をかいた。



 集団は門の側まで近づいて止まり仲間達がアーダムに気づいて笑っている。


 馬車から赤い女性シズカが降りて前にでる。警備兵達から夫人を見て声が広がった。


「先程使者を送った旅の者です。開門をお願いします」

「開門する前に確認したい。町での目的は補給と数日の宿だな?」

「その通りです」

「……わかった門を開こう。ようこそ旅人よ宿まで案内する」



 門のぎりぎりの幅で馬車を通してから警備長を先頭にシズカ達は町の中を進んだ。


 町の住民はやってきた集団を物珍しそうに見て道を譲り。子供達が彼らの纏う鎖鎧に憧れの目を向ける。


「何かしら」「きっとあの」「やっとか」そんな住民達の会話をマチルダは何度か聴こえた。



「夫人!」


 アーダムは馬車に乗る愛する主人に声をかけた。シズカ夫人は幌から顔を出し愛する愛人の一人に笑顔を見せた。


「使者の役目お疲れ様! どうしたの?」

「ちょっと気になる事かありますので少し外れてよろしいですか? 宿の場所は分かりますので後で合流しますから」


 彼がこんな行動する時はきっと何かある。


「分かったわ。お願いね」


 許可を出しシズカは微笑む。

 アーダムは手を振り集団から外れて人混みにまぎれていった。



 町の中央を通ったあと警備兵が宿の前に止まる。宝玉の泉亭と書かれた小綺麗な宿だった。


「こちらで二十人泊まれます食堂はそこに馬車と馬はこちらの奥に」

「ありがとうございます警備長殿」

「……では自分は失礼します。良い旅を」


 馬車に乗ったままのシズカに警備長は鍛冶の神の礼をして去っていた。



「嫌な感じだ」


 馬車を宿の馬小屋に止めてからマチルダは言った。


「歓迎されてない?」


 マチルダが山賊をする以前から自分に付いてきてくれる幼馴染のアンナが聞いてきた。


「逆、あたしらを見て何か期待されている」

「どういう事スか?」


 アンナの夫、ジョンが怪訝な顔をする。


 マチルダは山賊時代からの部下を集める。


「一応警戒しようアンナ達は宿の周りをお願いできる?」

「まかせな!」

「えぇ〜?」


 アンナは大柄な身体をゆらしてやっと休めると思っていた夫を引きずって行った。


「ガイ、デイブ、デクは馬と馬車から目を離すな」


「おなか すいた」


 ガイとデイブは頷きデクは不満を言った。


「すぐ交代させる。じゃ頼むよ」


「応」と男達の返事を聞いてからマチルダは夫人の姿を探しすぐ側を大きな荷物を抱えよろよろ歩く少女を呼び止めた。


「リズ! 夫人はどこ?」


 メイド見習いのリズが振り返った。長い髪を編んでまとめ身体が細いが可憐な少女だ。将来きっと美人になるだろうとマチルダでも分かる。

 以前に彼女の事でアーダムとブラッツの二人に真剣な顔で「俺達に何かあったらどうか守ってやってくれ……ついでに夫人からも」と頼まれている。


「マチルダ様? 奥様でしたら宿の前で降りましたけど」

「ありがとう」


 マチルダは礼を言って大荷物をもってフラフラするリズを追い越して少し進んでからピタリと止まり振り返る。引き返してリズの抱える荷物をひったくり男達を呼びつけた。



 宝玉の泉亭の中にある食堂でシズカとブラッツとヨーコ、あと商人のタルンが今後の事で相談していた。



 武器商人のタルンは彼らの装備しているミスリル製鎖鎧の元々の持ち主である。

 帝国の敗北を知り慌てて店で一番の高価なミスリル製の武具を馬車に詰め込み先に西方領へ逃した家族を追ったところ運悪く事故に合いそこへ山賊を率いたシズカ達が通り武具を見つけられた。

 タルンには護衛も雇っていたが自分を入れても三人しかいない。山賊達に自分は殺され全て奪われる。そう思った時シズカはタルンに言った。


「このミスリル武具を全て買い取りたい」と。


 もちろん手持ちの金では足りないので西方南部領まで来てほしい。私は領主の娘だ必ず払う。何なら自分の身体を好きにしても良いとまで言ってきた。

 タルンは無茶苦茶だが全て奪われるよりは良いとその話に承知しついで旅の金の相談役を買って出た。


 彼の商人としての知識と経験はシズカ達に非常に有難く予定してた消費の半分以下でここまでこれ旅費は余裕があるし夫の屋敷から持ち出してきた宝石などもまだ多く残っている。


 ちなみにシズカの身体の件はタルンは丁重に断った。彼には西方領に愛する妻と娘が待つ紳士なのだ。



 相談は食料と薬の調達、馬車の整備、道のない森の中通るのに必要な物など。あとここで男達に発散させる料金の話。

 ヨーコは赤面したが大事な話だ。深い森の中を何日かかるのか分からないし士気と彼女たちの安全の為である。

「あら私は別に」と言ったシズカはブラッツとヨーコに叱られ。タルンに「夫人はもう少し慎みを持ちなさい」と小言を言われている時。彼女達に少年が近付いて来た。


「あの〜ちょっと良いですか?」

「ん? どうしたんだいアベル君」


 タルンにアベルと呼ばれた少年は東の森を通る最に道案内役に雇った狩人の少年であった。

 彼の役目はこの町に着いた事で終わりだがそのまま東の森を一人で帰す事もできずそれに彼の故郷には家族は居らず本人がこのまま付いて行く事を希望した。

 シズカは歓迎しアベルを小姓として雇うことになった。

 小姓として雇ったその晩。では早速とアベルを天幕に連れ込もうとする夫人を全員で止めたのは言うまでもない。


「どうしたの?」

「お客様です。その、奥様にお話があると……」


 少年は振り返りその視線の先にある食堂の入り口には十数人の男達。先頭には門であった警備長と老人と立っていた。


 アーダムの行動はこれかとシズカは目を細める。


 老人がシズカ達の前に進む。


「はじめまして私はこの町で町長の役割を持っている者です。ご夫人にお願いがありまして……」


 老人は胸の前で両手の掌を揃えて合わせる。


 宝玉の女神信者の礼。

 右手は恵みの神、左手は魔物の神の意味を持ち人と魔物の両面を合わせ持つ宝玉の女神を表している。 



「あら? お誘いなら明日では駄目かしら? 湯で身体も拭きたいし着替えもしたいし色々と準備もしないと。それともこのままがお望み?」


 そう言って夫人は赤い髪をかきあげた。

 同じ席に座る三人はまたこの人はと呆れている。


 町長は夫人が何を言ってるか理解出来なかった。ハッとしてから。いや、いやいや違います! と慌てて老人は息切らし完全にペースが乱れていた。


「ゴホン! 申し訳ございません。実はその……ご夫人の兵を私達に雇わせてほしいのです」

「私の兵を? お断りします」


 シズカ夫人はきっぱりと冷たく言って断った。


「待ってくれ! 話を聞いてくれ!」


 住民達がズカズカと食堂に入ってきた。


「化物退治に協力して欲しいんだ!」


 住民達は夫人に手を伸ばして詰め寄る。咄嗟にブラッツは町人と夫人の間に入った。


「無礼は許さん!」と剣の柄に手を付けた。


 住民達は驚いて止まりブラッツの声に周りで食事をしていたシズカの私兵達も慌てて立ち上がり武器に手を付けた。


 警備長が待て話し合いを! と慌てる。

 タルンは不味いなこりゃと汗をかいてアベルを呼ぶ。


「アベル君ちょっと」

「はい?」

「アーダム君を探してきてくれないかな多分彼でないとここは収まらないと思うんだ」

「わ、わかりました!」


 アベルは食堂を出て宿から飛び出し。すれ違いにマチルダとガイが宿の中に飛び込んだ。


「えっとえっと……あ! アンナさん! アーダムさん戻ってませんか?」


 アンナとジョン。宿の周りを警戒をしていた二人に声をかける。

 振り返った二人はアーダムならと揃ってアベルの頭の上。後ろを指差した。


「僕がどうしたんだい?」

「アーダムさん!」


 アベルの後ろにアーダムがにこにこ笑って立っていた。


「ここの町長って人が来て僕らを化物退治の為に雇いたいって!」

「ああやっぱり来たね。聞いた話通りだ」


 アーダムは別れたあと情報を集めていた。

 西の森に住みだした化物の事。

 住民たちは化物に怯えている事。

 町長が化物退治の為に腕に自信を持つ者を集めている事。

 そこに高価な装備を持つ貴族の夫人が率いる戦士の集団が町に入った事。

 なんてこと無いその辺りに居た噂好きのご婦人達に声をかけただけで情報は集まった。後は真偽か確かめるだけの作業。その際町長の集団が夫人の泊まる宿に向ったと聞いて戻って来たのだ。


「さて夫人はどうしたかな?」

「すぐ断りましたけど住民達が……」

「だろうね」

「なあアーダムさん」


 ジョンがアーダムを呼ぶ。


「なんだい?」

「あっし達じゃ夫人の助けは出来ない早く中に入って助けに行って来な」

「はっはっはっジョ〜ン! 何言ってるの! 君達は夫人の助けになってるんだよ!」

「……ありがとよ。ほら早く行きな。あっしは化物退治に雇われるのはごめんだからな」


 ジョンはそう言って警戒に戻りその妻も頼むよと言って夫を追った。


 ――私の国はあんな仲の良い夫婦でいっぱいにしたいわ!


「やれやれ本当なのに」


 アーダムはそう言ってから宿に入りアベルも後に続いた。


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