表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

159/169

冒険者の羽根・33

 

「左右の通路、ゴーレムの警戒をしてください」

「了解ボス」


 チームに指示するレッドの声を聞きながら、レオンは昇降機から降り、それまで昇降機が発見されるまでただの壁と思われていた二重の扉を通り、下層地下五十階を見て驚いた。


「これは……」


 下層地下五十階の通路の天井は非常に高く通常の四倍はあり、そして横幅も同じように広く、そんな通路が真っ直ぐに続き、その先に開かずの扉と言われた大きな赤色の扉が見える。

 レオンは高い天井を見てから左右を見ると、通常の大きさの通路が、レッドのチームが奥を警戒する、通路の入口が左右にあり、両方とも扉が開いたままであった。昇降機が動くまではこの通路を通って来たか帰っていたのだろう。

 だが、レオンが驚いたのは視界に広がる巨大な通路では無かった。


「(何故ここはこんなにも……)」

「何でここはこんなに明るいんだい?」


 思った疑問をすぐに口に出すウルリカがレッドに質問した。

 驚いていたのは巨大な通路ではなく、その通路が全て見渡せる明るさだった。以前降りた螺旋倉庫のある階は灯りは全く無かったのに、ここはとても明るいのだ。

 他の仲間達も、ココ以外の三人も辺りを珍しそうに見回している。


「?……ああ〜」


 ウルリカに質問されたレッドは振り返り、辺りを見回すレオン達を見てすぐに察した。


「レオン殿達は下層に降りたのは一度だけでしたね。明るいのは天井に晄石(こうせき)が埋まっているからです」

晄石(こうせき)? 光る石?」

「そうです。あれですよ」


 レッドは通路の天井や壁に一定の間隔で並んで埋まっている、正方形の形をした光る石を指差す。


「空気中の魔素に反応してあのように光る特殊な石です。ここは最近まで一番深い地下でしたし、それに天井が高いから晄石がそのままなんですよ。上の方の階は冒険者達が殆ど掘り出して持ち帰ってしまいましたが、下層が発見された頃は全の通路や部屋がこのように明るかったんです」

「そうなんですか……ああそうか、この灯り」


 レオンは晄石の灯りに見覚えがあった。

 迷宮に入る前に通る塔の通路でみた光と、中層まで降りた昇降機乗り場の近くの発掘作業場を照らしていた道具や、前西支部レイドリーダーが持っていた魔力を込めると光るランタンも、あの晄石を使って作られた魔法具だろう。


「あれ? 晄石の事、言ってなかったかな?」


 自分を指差すココ。


「いいえ」

「全然」

「無いでござるなあ」


 首を横に振られる。


「このような便利な晄石の鉱脈は未だ一つも発見されていませんが、過去の魔王城跡ではよく発見されています。もしかしたら宝玉の女神から賜わる物なのかもしれませんね」


 魔王軍の軍資金は百年に一度、魔王が役割の神から魔王の役割に選ばれ、魔物の神である宝玉の女神から受け取る事になっている。


「あ〜……たまに籠一杯に石背負って帰って来る連中が運んでたのってこれか〜」

「おや? ララは知らなかったのですか?」

「俺達は中層で、こっち専門だからよ」


 レッドの問に、ララは大きな力こぶをパシパシと叩きながら答えた。


「他の連中が魔物討伐以外で何で稼いでるかなんて興味ねえ」

「下層で討伐する物といえば……」


 レオンが向けた視線の先に、広い通路のあちこちに転がっている金属の残骸がある。


「ゴーレムですか」

「そうだ」


 それらは開かずの扉を守っていたのだろう、冒険者達に討伐された下層に数多くいるゴーレムの残骸だった。

 ゴーレムは元々人型で、立ち上がれば3m以上はあっただろうが、今は多くの部品が抜き出された鉄屑だった。


「ゴーレムのコアは機械甲冑の心臓を作る部品になるから国に高く売れるし、装甲や歯車なんかも金になる。レオン達が便利なもんを発見してくれたから俺達もここに下りて稼がせて貰ったぜ、その帰りにセシリーと――」

「「「いやいやいやいや」」」


 稼げたと言った瞬間、ララの仲間達から否定の声が上がった。


「なに嘘ついてるんスか。ララがゴーレムぶん殴って粉々にしちゃうから、ぜんっ……ぜん! お金にならなかったッス」

「あれほどコアだけは砕くなって言ったのにな」

「勿体なかった〜ね」

「う、うるせえ! ゴーレムとやるのは初めてだったんだよ!」

「魔王様が直々に設計した防衛用ゴレームを粉々って……」


 黒い仮面を着けていて表情は分からないが、ココは困惑している様子だった。


「ボス」


 そこにレッドの部下が駆け寄って来た。


「左右の通路からゴーレムが近寄ってくる気配はありません」

「良し。今のうちに開かずの扉まで行きましょう。一班はお客人二人の守り、身を挺して必ず守れ。二班と三班は後方からゴーレムの強襲に警戒しながら続け。前衛は――」


 そう言ってレッドは、ララとレオンの方に振り向く。


「――前衛をお願いしたいのですが」

「おう任せな」

「分かりました」


 前衛の先頭はレオンのパーティーからルイスとノスケ、ララのパーティーからは大斧を肩に乗せる戦士と、刀身が盾になりそうな大剣を背負う戦士の二人が前に出た。

 ララの存在で余り目立たない二人だが、重量のある武具を軽々と扱っている様子から並の戦士では無い事が分かる。


「《気配探知》……」


 レオンはその四人の前に立ち、地面に手を当ててスキルを使用した。扉まで約100m、その間に何も反応はないが……


「扉まで何も気配はありませんが、私のスキルは気配を上手く隠せる者には通じません。ご注意を」

「分かりました。ゴーレムの中には透明になって姿を隠し、壁に貼り付いて待ち伏せするタイプもいます。天井と壁にも注意して慎重に進みましょう」

「あ〜……ララが蹴ってぺっちゃんこにしちゃったやつッスかね?」

「丸くて四本脚のやつか? 驚いてつい蹴っちまった」

「警備型ゴーレムをぺっちゃんこって……」


 黒い仮面を着けていて表情は分からないが、ココは困惑した様子で歩き始める。

 それから一行は慎重に通路を進み、何事もなく赤い扉まで到着した。

 開かずの扉と呼ばれた扉は、巨大な通路をそこで区切るように存在していた。過去に冒険者達があの手この手で開けようとしても出来なかった巨大な扉だ。


「我が君、カードをそこの溝に通せば扉は開くよ。ちなみに中から開ける場合は、昇降機と同じで手のひらの印に触れ、開けと念じれば開くからね」

「なるほど」


 説明を聞き、レオンは開かずの扉の前で、以前ココから受け取ったこの扉の鍵だという赤いカードを手に持つ。


「セシリー様がこの中に……」

「レオン殿、お願いできますか?」


 レッドが扉を開くよう頼んで来た。彼の目的は聖女の救出ではなく別の何か、それがこの中にある。


「はい。ですがその前にスキルで中の気配を探ります」

「分かりました。お願いします」

「……チッ!」


 レッドの口調や態度に急かす様子はない。舌打ちをしたのはレッドのチームに守られる、ローブで顔を隠す二人組、その背の低い方の人物からだった。


「早く開けろよ、のろまな冒険者ガッ!?」


 小柄の人物の脳天に、もう一人のローブ姿の男から拳骨が落ちる。


「いっったぁぁぁ! また天才の頭脳をおおおお!!」

「もし扉を開けた瞬間に大量の魔物が溢れ出てきたらどうする。探知する術があるならするべきだ」


 ゴロゴロと転がって痛がる小柄な人物に、殴った男は淡々と話した。


「……おい」「ああ」


 男の言葉を聞いて、後方からのゴーレムを警戒していたチームの数人が、クルリと扉の方に身体を向けて武器を構える。


「《気配探知》」


 背中に騒がしさと視線を感じながら、レオンは開かずの扉に手を当ててスキルを使用する。探知範囲は非常に狭くなるが、向こう側の気配を確認するだけならできる筈だ。


 反応は……………………一つ。


「っ!!」


 レオンは目を見開き、カードを溝に素早く通して捨て、腰の魔人剣を抜く。


「我が君?」


 突然の行動にすぐ側にいたココは驚いた。 

 ビーーゴキン! という音とともに、開かずの扉と呼ばれていた扉が真ん中から割れ、左右にゆっくりと開き始める。


「左の、この方角に気配を感じました。数は一つ、反応が弱々しく、おそらくですが負傷しています」


 レオンが扉の左の奥の方角を手で指し、その説明だけで全員が理解できた。


「中に……聖女様が本当に」


 扉はゆっくりと開き、人が通れる隙間が開くと、レオンはその隙間から中に入ってしまった。


「我がき、ウルリカ殿!?」

「……セシリー様……」


 レオンの行動に驚くココの前を、聖女の名を呟いてウルリカが続く。


「お二人とも待たれよ! まだ警戒を!」


 ノスケが続き、それからココ、ルイス、身体の大きいテオドールが続く。


「俺達も、っ!? ゴーレムだ!!」


 呆気にとられて出遅れたララ達はテオドールの後を続こうとしたが、中程まで開いた扉から見えた大型ゴーレムの姿を見て武器を構えた。


「……待て」


 だが、すぐにホッと息を吐いて武器を下ろす。

 開かずの扉の中は晄石の灯りで明るく、大きな長方形の倉庫のような広間、その中心に一体、頭部の半分程失った大型ゴーレムが両膝を付いて停止していた。


「倒したのはセシリー達か……」

「緊急! 人がいた! まだ生きている!」

「!」


 ルイスの声にララの視線が左に動く。


「オイチ殿!? しっかりなされよ! オイチ殿ー!!」


 視線の先には、青白い顔で下腹部を両手で押さえた女性が、壁を背にし、血が乾いて黒く汚れた床に座っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ