表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/169

番外 帝国要塞

「魔王軍退く」


 この報に要塞将と部屋にいる全員が「勝った!」「やった!」と叫んだ。


 昨晩から始まった魔王軍の今までにない要塞への大攻勢。ここを突破されたら帝都までの守りはほぼ無い。ここで負けると国が滅ぶ。要塞内の兵士達は必死に戦った。

 弓が折れるまで矢を撃ち。取り付こうとした敵兵には煮えた油をぶちまけ。城門は岩や砂で埋まり。崩れて開いた城壁には敵味方の機械甲冑が剣が振れる隙間なく盾で押し合い殴り合う。攻撃は晩から始まり気がつけば夕方。敵が退いたと聞いた兵士は座り込みそのまま死んでいた者までいた。


「やっと勝てた」誰もが思った。


 だが攻撃は終わっていなかったのだ。


「東の空より影! 数は三! 迫る!」


「三? 三!? 間違いないか!」要塞将が叫ぶ。

「一体で《千の軍》を全滅させたアレが三体……」別の将は震えながら椅子に座り込みふさぎこんだ。

「いや、まだだ!まだ!」若い将は声を上げる。


 中央の席に座る一人の将が手を上げ全員の視線が集まる。


「ど〜やらここまでだねぇ」


 中心にいた老将が言うと。若い将も諦めの色が浮かんだ。


「オイラがあの野郎に大見得切ってからどれくらい経ったかな?」

「ちょうど一年ですね」


 老将が聞くと側に居た副官が微笑んで答えた。

 老将はそれを聞くと「そっかそっか」と笑顔になった。



 一年前。老将は元々帝国領の田舎で父が残した道場で若者達に剣術を教えながら静かに暮らしていた老人だった。


 そこへ皇帝に拉致するように連れて来られ要塞司令官に任命される。


 兵なし。士気なし。勝機なし。な〜んもなし。

 老人は皇帝に無礼な口調で言い放った。


「まあ無茶して一年は何とかしましょう、ですが二年目はすっぱり諦めてくださいね」と。



「みんな今日までよくこんな素人と一緒に戦ってくれたね」


 老将は立上り頭を下げる。


 要塞将は涙を流し「共に戦えて光栄でした」と言い自分の額に右の握り拳を当て叩く仕草をして頭を下げる。彼の信じる鍛冶の神の礼を老将に送った。


 室内の全員が立ち上がりそれぞれの信じる神の礼を老将に送った。


(始めは反発した子もいたのにね)


 老将は思い出して微笑み右手を左胸に当て一応彼の家が信じる勇者の神への祈りの真似事で返すと。


「さてと、そろそろ行こうかね」


 老将は大剣を担ぎ部屋から出ようとする。


「どちらへ?」若い将がたずねた。


 老将はニカッと笑って「決まってるでしょ。あ、大事な書類とか一切合財燃やしといてね。敵に渡す事ないからね終わったら逃げて」と言って副官を連れて指揮所から出ていった。


 二人は城壁に向かって歩く。


「まさか君が貴族様とは分からなかったなあ」

「先生を騙したようですみません」


 副官は謝罪すると。老将はい〜のい〜のと手を振る。そして何かを思い出したように「あ」と声をあげた。


「そういや君、結婚したんでしょ? 良いの? こんな所で死んで?」


 老将は心配したが副官は何でもないように首をふって笑う。


「結婚したと言っても一度も妻には会った事ありませんよ? 今頃我が妻は父の腕の中でしょう」

「うえ〜! 貴族さんて分からないな〜ひどいな〜」


 老将は足を止め北の方角を見て言う。


「オイラは結婚が遅くてね、子供も出来なくてあの子に迷惑ばっかりかけちゃったんだ」



 思い出すのは杖をつきながら馬を追いかけようとするあの子の姿。


「あぶないから帰りなさい。元気でね」


 最後にかけた言葉がそれだった。



「あ〜オイラもひどいね〜」


 老将は肩にかける剣を見た。


「何で必死にコレやってたのかなあ」


 持ち上げ剣の柄を握りながら考える。何であの子の事も考えもせず。


「お父様を超えたかったのでは?」

「と〜ちゃんに?」


 老将は驚いた顔を副官に向けてから笑い出す。


「ハハハ! と〜ちゃんには絶対勝てないよ! だってあんなのと戦って勝っちゃう人だよ?」


 老将は東の空から迫る影を指さして笑う。


 影は三つ。副官の目にその姿形がはっきり見えるまで近づいていた。その大きさはここの城壁より高いだろう。なぜ始めからアレを使わなかったのか。


 副官は影の頭の上に小さい何かが見えた気がした。


「あれは?」


 目を細めるが影は旋回してそれは見えなくなっていた。


「君たち〜! もういいよ〜! 逃げなさ〜い!」


 老将が声を上げる。副官がハッとして見ると二機の機械甲冑と十人程の兵士達が崩れた城壁を瓦礫や砂で埋めようとしていた。


「ああん?」


 一機の機械甲冑が振り返る。


 兜の面を開けて中の髭面の男がキョロキョロと首を動かし自分に近づく声をかけた老将を見つけると。


「うるせぇジジィ! ここは俺たちの家だぞ! 自分達の家を守って何が悪い!」


 機械甲冑乗りは足元まで近づいた老将に向かって怒鳴り散らした。


 兵士達もそ〜だ! すっこんでろ! と声を上げる。


 副官は「ぶ、無礼」者! と慌てて怒鳴ろうとしたが老将が笑う。


「ハハハハ! そうか! そうだね! ごめん! じゃあ最後のもうひと踏ん張りだ!」


 老将は嬉しそうに機械甲冑兵の足を叩いてから通り過ぎ崩れた城壁をぴょんぴょんと跳ぶように登りその上から息を吸って迫る敵を見る。


 一度引いた魔王軍は再び整列し突撃の構えをとっていた。


 老将は鞘から大剣を抜く。


 その刀身の光は蒼。そして風。鍛冶の神が聖なる泉を剣の形に叩いて鍛え、勇者の神が風の精霊王を柄として封じて創り上げたその剣。伝説の勇者が魔王を討った伝説の剣。その光は空を泳ぐ影の一体をひるませた。


 副官も剣を抜く。刀身は銀。この剣も伝説のひと振りだろう。キィィンと剣から音が鳴り響く。


 崩れた城壁の上で老将は叫んだ。


「我こそは先代魔王を討った勇者ヒロシの息子ホープ! 北の英雄と名乗れば分かるだろう! 貴様らの手柄首はホレここにあるぞ! 早いもの勝ちだ! 取りに来い!」 


 老将は自分の首をとんとんと叩く。 


 その声に前進していた魔王軍が止まる。勇者の息子? 北の英雄! ざわつく魔王軍に老将はニカリと笑う。


「どうした! 来い!」と叫ぶ老将の前に影が落ちる。


 恐怖が目の前に降りてきた。


(お、おおお! でけぇぇぇ! 無茶苦茶でけぇぇぇ! と〜ちゃん昔こんなんとやりあったんか! やっぱすげ〜なあの人!)


 それは帝国軍の恐怖そのもの。


 自分が要塞にくる以前、帝国軍の最後の逆襲。

 千機の機械甲冑兵での逆侵攻。それをたった一体の怪物によって全滅し。失敗した。


(それが、今、目の前に、しかも、俺だけ、たった、一人で)


「先生!」


 その声にハッとして振り返る。


 そこには愛弟子の姿。


(ゴメン二人だったわ)


 老将は心の中で弟子に詫びる。


 視線を怪物に戻すと老将は驚いた。怪物が剣を顔の正面で構えている。


 決闘の礼。一騎打ちの願い。


 老将は目をまん丸にして驚きそして心から笑った。涙が出そうになる。本当ゴメン! 愛する人よ。俺の剣の人生は最高の一生だった。


 老将が怪物に答える。剣を地面に突き刺した。それは決闘の場では無作法なのだが。


「すまねぇな怪物! オイラのは喧嘩剣術よ! よくと〜ちゃんに怒られたわ! 礼儀正しくできねえ!」


 剣の輝きが増す。


「礼儀なんていらねえ! 殺し合いだ! こいよ! かかってこい!」


 人間が怪物にむかって手招き。


 怪物は承知したように短く吠え構えを解きもう一本の剣を腰から抜く。


「嬉しいねぇ! はじめから全力で来てくれるのかい!」


 怪物が唸る。油断なく。にじり擦り寄る。


 老将は嗤う。堂々と。まるで若者に剣を教えるように。



 老将は息を大きく吸い。剣を地面から抜いた。


「ぶった斬ったらぁぁぁぁぁ!」


 老将と怪物が咆哮を上げ――




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ