冒険者の羽根・20
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下層迷宮の入口を最初に発見したのは、北支部に所属する〈探検家〉の役割と十枚の羽根の印を持つ冒険者、レッドであった。
彼はほぼ円形の地下世界の中央に位置する場所に、ポツンとある円錐の岩山を見て、激しく違和感を感じていたという。
それから地下世界の一番北端にある岩壁に、まるで切り抜かれたかのような空洞があるのを知ると、彼はあの岩山が切り出された場所ではないかと調査をすると、岩山と岩壁の地質が一致し、彼はある仮説を立てた。
「岩壁から切り抜いた岩山を、如何なる方法かは不明だが、何故ここまでわざわざ運んで来たのか……それは九戦記前にここにあったという伝説がある、未だに発見されていない魔王城が隠されているのではないか」
それから彼は、何処からか調達したのか、莫大な資金で北支部の冒険者全員を雇い、岩山の発掘を始めた。
そしてついに。
岩山の空洞に隠されていた宮殿と、更に地下へと続く、迷宮下層の入口を発見したのである。
その発掘によって開けられた洞窟の前で、三チーム合同レイドの先発隊として、各チームから一人づつ出発させた四人の内、三人の冒険者達からそれぞれのレイドリーダーは報告を聞いて叫んだ。
「なに〜!? もう討伐されただと〜!」
西支部のレイドリーダーの声を聞いて、百名近い冒険者達がざわつき始めた。
「マジかよ……」
「どうした?」
「終わってんだってよ」
「はああ!?」
「何で? 魔人いねえの?」
「え、倒された?」
「なになに? 魔人は?」
「だから居ないって」
「?????」
「じゃあ俺達は、何の為に集められたんだ!」
「怒るなよ。居ないならそれでいいじゃねえか」
「レイドの参加金は貰えるんだからよ」
ゴゴゴゴゴ……
「うん?」
「なんの音だ?」
屈強な冒険者達の背後で、冒険者達よりも身体が大きく、肌も露わなビキニアーマー姿の女が、レッドオーガの様な形相で肩を震わせていた。
「フシュルルルルルル……何処のどいつだ……フシュー……俺の獲物を横取りしやがった奴は……フシュー……誰だあああああ!」
白い息を吐き、目が光ってる。
「ヒッ! 首千切りのララだわ!」
「やだこわい!」
「首をねじ切られちゃう!」
男達が慌てて逃げ出した後、仲間のノッポが呆れ顔で話しかけた。
「いやいや、ララだけの獲物じゃないッスからね?」
「相変わらずの戦闘狂だ〜ね」
「言っても無駄だ。ありゃ聞こえてないぜ」
「ところで、魔人を倒したのはレッド達か〜ね?」
「北支部が? 無いな。あいつらは遺跡調査に関わる事じゃなきゃ出て来ない」
「まあ、どっちにしろ――」
ノッポ達の視線の先に、いくつもの遺体袋が並んでいる。
影の魔人と最初に遭遇し、犠牲になった冒険者達。
袋の上には羽根と名前が刻まれた冒険者の銀板が置かれ、その中で一つだけ、人の形をしていない小さい袋がある。
「――上に、帰してやりたいスね」
「フシュルルル……そう……だな」
「あ、ララが戻った〜ね」
「じゃあここに居てもしょうがないし帰るか」
「そうッスね〜――うん?」
「すまん。ちょっといいか?」
遺体袋のすぐ側でキョロキョロと辺りを見回していた男が、目が合ったノッポに声をかけてきた。
「えっと……なんスか?」
「救助隊は来ていないのか?」
男の腕に、冒険者救助隊の腕章が巻かれていた。
「ああ〜救助隊なら少し遅れて来るッス。まだ川の辺りじゃないスかね」
冒険者救助隊は二十名程が参加しているが、何台もの空の荷車を人力で運んでいて遅れている。
ちなみに彼らは戦闘には参加せず、荷車はレイド戦で負傷か、死亡した冒険者を運ぶ為に使う。
「そうか。ありがとう」
黒装束の男は礼を言って、冒険者達に遺品を盗まれないよう、再び遺体の見張りに戻ろうとした。
「おいお前、ちょっと待て」
「なん、だ?」
男は振り返り、呼び止めたララの姿を見て視線が上下に動く。
「お前、救助隊から出た先発隊員だよな?」
「あ、ああ」
「だったら見てるよな? 魔人を倒した連中を」
「ああ」
「お、どんな連中だったスか? 数は?」
獲物を横取りした落とし前を付けてやる。
「あ〜……人数は六人だった。男が四人で女が二人」
「たったの六人? レイドチームじゃなくて?」
「直接戦ったのは三人で、残りの三人はもう一体の魔物を発見していた」
「もう一体?」
「ああ、魔物は二体で一体だったんだ。そいつは空に浮いてて、彼らの武器では届かないからとこいつで――」
男は肩に担いていた、自分の武器をララに見せようとした。
「お前の武勇伝なんてどうでもいいんだよ。どんな連中が居たかさっさと話せ。目立つ奴は居たか?」
男の手が止まり眉をひそめるが、ララには見えないよう後ろでノッポ達が謝罪する仕草をしているのを見て苦笑し、手に持つ銃を見る。
林に居た三人組と合流した時、一つ目の付いた黒い仮面を被った魔術師が、ドワーフ達も知らなかったこれを見て「っ!? それはセミオートマチックライフルじゃないか! 何処でそれを……いや……弾は? 君はそれを使えるのかい?」と訪ねられ、弾はあるし使えると答えると、自分がこの銃で、空に浮いている小さな黒い魔物を撃ち落とした……と、思われる。
実はその魔術師と話している途中で甘い香りがし、その辺りから意識が途切れ、戻った時には六人の冒険者達と、魔人の姿も無かった。
おそらくあれは、人の精神を乗っ取り、操る精神魔術。
対精神魔術訓練を受けていた自分を一瞬で操り、昔の友人が精神魔術を使えたが、あんな奴では、まったく比較にならない力を持った魔術師だろう。
遠くから見ていた先発隊員達によると、彼らは魔人を倒した後は意識の無い自分を置いて、下層へと入って行ったという――
「――ああ、目立つ奴なら居た。この辺りでは珍しい、黒い武者鎧を纏った凄まじい剣の達人と、一つ目の仮面を付けた小柄な女魔術師が〜……?」
ララ達は揃って、口を開けてポカンとしている。
「?……おい、どうした?」
味噌を買って貰えなくて泣き出す侍と、黒い仮面をしたエルフの女魔術師、この二人が仲間に居る、冒険者パーティーのリーダーは――
「レオンが……あいつらが……」
「ララァ!」
その時、先発隊員から報告を聞き終えた、西支部のリーダーが怒鳴り込んで来た。
「ちょっとお前に話しがあるぅ! お前が世話していたという新人共についてだぁ!」
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