魔王
役割の世界は百年に一度、勇者と魔王の殺し合いをする世界である。
勇者と魔王はほぼ同時に誕生する。
勇者は異世界より転生して産まれ。
魔王はこの世界で生きる者から役割を与えられある日突然魔王になる。
魔王は魔物の王である。
魔王が人間であった時もあればダークエルフであった時もあり影のような姿の闇の住民であった時や島のような巨大鯨だった時代もあった。
魔王に選ばれる基準は謎である。
勇者に勝利し暗黒時代を世にもたらした美しく妙艶な人間の女魔王がこんな言葉を遺している。
「何かぁ〜ある日とつぜん声がしたんですぅ〜『お前が魔王だ』ってぇ〜。笑っちゃうでしょ〜? 私がですよぉ〜? きゃははは♡」
魔王に選ばれる基準は謎である。
だが強大な魔力を持っていたり何かしら強い力を持つ者が選ばれるようだ。
魔王の役割に選ばれ、魔物の神から財宝を受け取ってまず初めにする事。
将来自分を殺しにくる勇者などから身を守る為の拠点作り、それと魔王軍の召集である。
拠点は一から建築して創り上げる魔王もいれば、放置されてた好条件の遺跡や旧魔王城を「ここ良いじゃ〜ん」と修復と増築で済ます魔王もいた。
魔王軍の召集はこれはと思う魔物に三顧の礼で幹部に登用し俺最強軍団を作る魔王もいれば、前魔王軍から長命族で引き継ぎを行ないこれを速く済ませる魔王などもいた。
しかし、それらより何よりも優先する事がある。
それは「速攻で勇者見つけて殺す」事である。
勇者が戦えるぐらい成長する前に、村や街を無差別に下級魔物の群れに襲わせ運良く成長中の勇者を見つけて殺す。暗黒時代の歴代魔王の勝利パターンの多くはこの開幕戦であった。
もちろん国、領主も抵抗する。というか村や街を魔物に破壊されると税収が下がる。領地を、民を守るための兵を増やしたり村々に防柵を築いたり冒険者や傭兵団に報奨金を出すなどをして魔物達からどこかで育つ勇者を守っているのだ……
いつもなら。
ーーーーーー
「魔王様は何もしなかった?」
「何もしなかったのよぉ」
「何でだろ?」
「さぁ」
蟲の頭、蚕娥に似た顔の額から人間の上半身が生えているナナジの後ろで宝玉の女神がナナジの長い黒髪に櫛を入れて梳かしていた。
あかの授業が終わって直ぐお疲れ様と言いながらニコニコと笑顔でやってきた女神は自分がはっ倒して乱れていたナナジの髪を見て櫛を借りた。
はじめガチガチに緊張していたナナジをほぐす為、女神は今まで出会った魔王の話をしだした。そして話は現在の魔王に移る。
蟲は大木に引っかかっていた魔導兵器を抱えてそっと下ろした。先程までお互い殺し合おうとしていたのに頭に枝が刺さったままの魔導兵器は蟲に感謝の礼か両手を合わせて何度も上下に振っている。
「申し訳ない〈勇者殺し〉もう一体を」
蟲の鎧に乗って掴まっていたぎんは川で逆向きに突き刺さっている魔導兵器を頼むと頭上の蟲の顔に向っていった。
『承知した』と蟲は川に向かう。
女神の話を聞いてナナジは魔王に興味を持った。
「魔王様は今どちらにいらっしゃるのですか?」
「それ神の決まりで妾から言えないのよぉ。でもナナジにならこっそり教えても良いかなぁ妾の娘に、いや妹に! 妹になるのならぁ教えるわよぉ義姉妹の契り結びましょうよぉ」
取り調べから宝玉の女神はやけにナナジを気に入っている。
「え、ええ! そんな畏れ多いこと出来ません!」
何故か物凄く身の危険を感じてナナジは断った。
『宝玉様?』またとんでもない事言い出したぞこの神。
「はぁ」ぎんは溜息をつく。
「ちょっとだけ! ちょっとだけだからぁ! ね? ちょっとだけ!」
「何です!? 何なんですその台詞! 何かやだ!」
女神は両手をワキワキとしてナナジににじり寄る。
ナナジは逃げ出そうとした。だが彼女には足が無かった。
(妾もどこに居るか知らないし魔王にも会ってないんだけどねぇ)
宝玉神の財宝の受け取りを断った魔王は初めてではない。力こそ正義を掲げるオーク王や話を聞かないへそ曲がりの鳳凰などに断られた事もある。
だが今回の魔王は。
女神は魔王の使者から財宝不要の上書を受け取った時は不快より興味を持った。
どうするのかと。
それから魔王は東方領で人間だけの魔王軍を起こし。
東方軍、そして帝国軍の撃破。ついに東方領を統一。帝国領への侵攻。
帝国も何とか抑えている状況だが国境の要塞を越えられると詰みだろう。それも目前のようだった。
魔王になって15年。たった15年でここまでやれる人間なら覇王と呼ばれても良いだろう。
だが魔王である。
今回の魔王は人間、おそらく男だ。
「どんな人かしらねぇ」
「やめて〜! 止めて〜! うわ凄い力だ!」
蟲は二体の魔導兵器から拝まれていた。
それから蟲から魔王軍合流を提案されナナジはokを出したが女神からそれとなく止められ。
蟲とナナジは後でもう一度話し合う事にした。
「それじゃあ何か困った事があったらぁお姉ちゃんに頼みにいらっしゃいねぇ」
(お姉ちゃんて、結局魔王の居場所教えて貰ってねえし)
笑顔で手を振っていた女神とその眷族達はリーンっと金の鐘が三回鳴った時にその姿がかき消えた。
『転移魔法だ』
「はあ」
辺りにはまだ鐘の音が響いる。森は再び暗い夜になっていた。
「凄い人、いや凄い神だった……」
『彼女はいつもあんな感じだ油断できない』
「わかる……あ、お肉焼いてくれる? 味とかもう気にしないから何か食べたい」
『わかった』
蟲は熱弾でどれぐらい熱したら焼けるだろうかと考えながら枝にかけていた肉をぶら下げた紐をたぐり寄せるが。
『おや?』
ーーーーーー
「くろ様それ何です?」
宝玉神の黄金に輝く石材で建てられた塔から出た時、あかはくろが肩に見慣れない包みを担いでいたので訪ねてみた。
塔の中では「魔導兵器を川に突っ込ませたバカはどいつだ! 何だこの有様は何とやりあった!」と整備長のドワーフ人の怒号が聞こえる。
「ああこれですか?」とくろは振り返った。
あかは自分の顔が赤くなってないか心配になった。彼は黙っていれば顔がとても良く、女神の前ではああだが普段は非常に紳士的で、困った時の相談はぎんではなくくろにと囁かれる程面倒見も良い。
実は鉱石人の女性陣にとても人気があるのだ。何で女神の前だとああなんだ。
「あの川で見つけたんです。角馬の肉でしょうかとても状態が良いので持ってきちゃいました」
拾い食いかよ。
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫でしょう。それに」
くろが微笑む。額に「バカ」と書かれているがやはり顔が良い。
(くそぉ〜やられたぁ)とあかの顔が名前通りに紅くなる。
「私の妻は料理上手なんです」
そう照れるように言うとくろは肉を担ぎ直して歩きだした。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
しばらく修正と書き溜めをしたいので投稿が遅くなります。
ばっか小説はこう書くんだよ!アドバイスやひのもと語間違えんなよ!誤字報告ありましたら教えてください。Twitterの方でもかまいません。勉強したいのでよろしくお願いいたします。
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