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冒険者の羽根・13

 

 セシリー達と別れたレオンとララのパーティー、十二人の冒険者達は、上層とは入口が違う地下迷宮の中層に入るため、羽根の印が五枚無いと中には入れない、迷宮都市の象徴である遺跡、迷宮都市の中央にそびえ立つ塔の中を進んでいた。

 レオンは塔の通路を、キョロキョロと見ながら進む。

 通路は見慣れた石材で積み重ねて作られているが、一定の間隔で天井に開けられた穴から、松明でもランプでもない明るい光に驚く。


「これはいったい……」

「どうした?」

「い、いえ……」


 レオンの前を歩くララが振り返って聞いてきたので、灯りの事では無く別の事を聞いた。


「歩きづらいと想像してたのですが、中は傾いてないのですね」


 巨大な塔の遺跡は、何故か斜めに傾いている。


 ララはニヤッと笑い、通路の壁を親指を伸ばして指した。


「この通路は通りやすくする為に後から作られたもんだ。本当の傾いた通路はこの中にあるそうだぞ」

「あ〜なるほど」

「あと、この光ってるのが何かは俺にも分からん」

「そ、そうですか……」


 塔は円柱形で、その高さは西方首都にある女王の城よりも高く、広さは迷宮都市の西地区が丸々収まる程広い。

 そんな塔がなぜ傾いているかについては、多くの伝説がある。  


「勇者戦記録には、勇者シズカ様がここの大迷宮で雷の剣を発見した時、シズカ様は剣の力を初めは制御出来ず、塔の地下を破壊してしまい傾いてしまったと……そう記されていますが、これはシズカ様の死後に書かれた創作でしょうね」

「……へえ、未来の司祭様がそんな事言って良いのか?」


 勇者戦記録を絶対の教本とする勇者神官の意外な言葉に、ララが驚いた顔をしたので、テオドールは微笑む。


「僕の役割は〈司祭〉ですが関係ありません。それに、僕達は迷宮都市に来る前に雷帝湖を見てきました。あれ程の巨大湖を作る力を持った剣が暴走したのなら、この塔は残ってはいないでしょう」


 この時代の勇者神会に保存されている、名前が判明している十人の勇者戦記録の中で、最強の勇者と称えられているのが勇者シズカである。

 シズカは勇者としての高い戦闘力と異世界の知識、そしてカリスマと美貌で西方全土を初めて征服した女王で雷帝と呼ばれたが、この偉大なる勇者の最後は実に呆気ないものだった。

 勇者シズカは邪悪な魔王との決戦の為、百万の軍勢を率いて進軍していたのだが、突如として雷帝の象徴でもある雷の剣が暴走し、大爆発を起こした。

 彼女と彼女の軍勢は刳れた大地と共に消滅し、残った円形の大穴には雨水や川の水が流れ込み、迷宮都市がすっぽり入るほどの巨大な円形の湖が出きあがり、その湖は雷帝湖と呼ばれ、そこから流れ出る大河は、現在では西方国首都の生活と経済を支えている。


「――今でも雷帝湖の底では雷の剣が眠り、新たな勇者の手によって目覚めの時を待って――」

「おい止めろ……おい!」


 テオドールは、ぐるぐるした目を見開いたまま、ララが止めるのも聞かず、話しを続ける。


「……これ、いつまで続くんだ?」

「すみません。テオはこうなると長くなるので」

「そうか……やっぱ勇者神官なんだなぁ」

「はあ……そうだ。ねえココ、長生きのあんたなら、何か知らないのかい?」


 ウルリカはこの遺跡に詳しそうな、エルフのココに話し掛けたが……


「何であのチート勇者が称えられてるのだ……あの女が無茶苦茶したせいで、我がどれだけ苦労したか……」


 様子がおかしい。


「ココ?」

「ん……あいつが、我を逃がす時間を稼ぐ為に毒鱗粉を使ったんだ。毒は勇者に通じなくても、軍勢の進撃を止めようとしてね……鱗粉に引火するから止めろと言ったのに聞かなくて……案の定、十分に拡散する前に放たれた雷で誘爆してね……死んだんじゃないかと本当に心配して――」


 ブツブツと、ウルリカにだけ聞こえるように答えている。


「何? あいつ? 鱗粉? 何の話しだい? 遺跡は爆発で傾いたのかい?」

「――え? ……あっ!! 間違えた! さっきのは話しは忘れてくれたまえ!」

「……あ〜なるほどね〜」


 ココが珍しくワタワタと慌てている様子と話しの内容から、ウルリカはニヤ〜とする。


「な、何かな?」

「ココの男か〜ちょっと想像できないね〜」

「ウルリカ殿! 何か誤解をしているよ! そもそも種族が――」


 ココが言いかけた時だった。


「おおおおお!! これが遺跡の中なのか!?」


 先に通路を抜けたルイスが、踊り場に設置された手すりから身を乗り出して、何かを見下ろして驚いた声を上げた。


「ハハハッ! 初めて見ると驚くよな!」

「こっちの階段で降りるんスよ〜」


 冒険者達はルイスを笑いながら、通路を出て踊り場を右に進んだ先にある階段を降りていく。


「なんとおおお!?」


 続けてノスケも、下を覗き込んで声を上げた。


「いったい何がある……んっ!?……何だい? 風?」


 ウルリカも通路を抜けると、ゴォォォと重く、押し返されるような空気の壁を強く感じ、そして男達が揃って驚いた顔の、レオンの隣に立ち、驚いた。


「……これは……とんでもないねぇ……」


 ウルリカ達が見下ろしているのはとても大きな穴。

 底から空気を吹き出し、僅かに見える淡い光に吸い込まれそうな、巨大な大穴があった。

 大穴の壁には、長い年月を掛けて築いた階段の道があり、底の方まで続いている。


「うわ〜! 懐かしいなあ〜!」


 ココがウルリカの隣に立ち、まるで少女のように瞳を輝かせて歓声を上げた。


「懐かしい? これ、何千年も前の物なんだろ?」


 ウルリカのツッコミに、ココは赤面し、誤魔化すように咳をする。


「ンンッ!……直径は約6km、長さは約30kmの役割の世界で最大の筒状の人工建造物、その筒で出来た大穴だよ。中は殆ど埋まっているけどね」

「ココ姉様、これは何の為に作られたのですか?」


 レオンは大穴を見て、この遺跡がただの塔では無いと確信した。


「う〜ん……何と説明すれば……うん、元々これは、空の彼方を旅する船だったのさ」

「船? ……これが、空を飛ぶのですか?」

「ではこれが、空から落ちてきたという伝説は本当でござったか……」

「この遺跡は今でも飛べるのですか?」

「いやいや、中にあった機関部や居住区も朽ちて無くなり、今では丈夫な外壁だけが残った、ただの煙突だよ」


 ココは天井を見上げたが、遺跡の天井は長い年月の間に崩れて失われており、青い空が見える。


「ほほお〜面白い話ししてんな」


 レオン達が振り返ると、ララが後ろでココの話しを聞いていたようで、顎に手をやり、ニヤニヤと笑っていた。


「こいつの中に沢山の古代人が住んでたって事はレッド達の調査で分かったんだ。古代人は何故か、壁の内側に張り付いて住んでたとかな。だが……こいつが船だったなんて話しは初めて聞いたぞ」

「おやそうなのか。……ふむ」


 ココは少し考える仕草をし、唇の前でピッと右人指指を伸ばして微笑んだ。


「さっきの話しは全部私の妄想なので、本気にしないでくれたまえ」

「またホラ話かい!?」


 男達はなんだかな〜と情けない顔になり、ウルリカは怒り出すが、ララはニヤニヤと笑うのを止めない。


「ココ、今度レッドも入れて話しをしないか? あいつが今の話しを聞いたら喜びそうだ」

「遠慮しておくよ。遺跡調査の専門家に笑われたくないからね」

「まあ今すぐ決めなくても――」


「お〜い! 何してんだ〜!」

「皆待ってるスよ〜!」


 遠くから、階段を降りて傾いた側に作られた、大きな台車の様な物がある広い踊り場から、ララの仲間達が呼んでいる。

 そこにはララの仲間以外にも、ギルドの係員達や他の冒険者達もいた。


「おっといけねえ。今行くー!」

「リフトが有るのですか」

「ああ、こんな大穴を階段で降りてたら、疲れるし時間がかかるだろ?」

「私が住んでた頃は何ヶ所も休憩所があったのに、便利になったものだね」

「……なあ、やっぱ詳しく話ししようぜ!」

「やめなよ。どうせまたホラ話だよ」


 三人の女性を先頭に、レオン達が階段を急いで降りた先には、冒険者ギルドが管理するリフト乗り場があり、二つある内一つに、縦に連結されてつながった、三台のリフトが止まっていた。


「三号車に乗ってください」

「わかりました」

「俺達は二号車だ」


 ララ達が乗り場の階段を降りて行く。

 下を覗き込めば、幾つも立っている鉄塔に沿って、穴底まで続くレールと何本もの太いワイヤーが伸びているのが見えた。


「お席に着きましたら、安全ベルトを必ず装着してください」


 レオン達は係員の指示に従い、一番上の三号車と書かれたリフトに乗り込む。

 リフトは人が十人乗れる程広く。しっかりと固定された椅子があり、「安全ベルトを必ず装着してください。」と注意書きがあり、リフトの回りは鉄の格子で囲まれ、格子には「危険ですので触れないで下さい。お席の手すりに掴まって下さい。」と注意書きがあった。


 レオンの隣の席で、盗賊のウルリカは落ち着かなくソワソワする。


「牢屋みたいでなんか嫌なんだけど……」

「我慢してください」

「手荷物などを、その箱に収めてください」


 係員からの指示で、席の前にある、しっかりと固定された箱に、それぞれ武器や背嚢を箱に入れると、係員は箱の金具でしっかりと閉めてからレオン達全員の安全ベルトを指差し確認し、リフトから降りると声を上げた。


「三番よ〜し!」

「二番よ〜し!」

「全車準備よ〜し!!」

「最終駅まで全信号、青、確認! 最終安全装置解除!  発車よ〜し!」


 係員達の声を聴きながら、レオンは学園に居た頃、機械甲冑科の見学時、一機起動するのに整備師達が何度も安全確認の声を張り上げていたのをふと思い出した。


「なんだか嫌な予感がする……」


 隣に座るウルリカがポツリと言った。


「では、落としま〜す!」


 レオンとウルリカの席から見える位置にあるレバーを係員が掴んで、躊躇なく引いた。


「は? 落と――」


 腰を浮かしかけたウルリカの肩を、レオンは瞬時に腕を回して押さえる。


 ガコン!


「――――――――――ッ!!!!!」


 ウルリカの声にならない悲鳴を残し、三台のリフトはレールの上で加速し、火花を上げながら穴の底に向かって、落下して行った。


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