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冒険者の羽根・9

 ーーーーーー


「拙者はノスケ。本当の名はあるが、長すぎて覚え難いと言われ、今はこの名を乗ってるでござる。剣の修行の為、東方領よりも東にあるニホン領から西方領まで来た侍でござる。拙者とレオン殿との最初出会いは、冒険者ギルドで聞いた湯屋の食堂の中で、金が足りず途方に暮れていた時、拙者に声を掛けて――」


 それから、二年の時が流れた。


「――え!? 二年!? 拙者の闘技大会の活躍は!?」

「ちょっと〜! 私達の出番あれで終わり!?」

「私のウルリカちゃんを何処に連れてくのよ〜!?」

「受付嬢殿とギルド長殿?」

「何で貴方達! 拠点の街を変えてるのよ!」

「はて? 冒険者ギルドに登録していれば、ギルドがあるどの街を拠点としても良いと、聞いたのでござるが?」

「そ、それはそうだけど……誰から迷宮都市の話を聞いたの!?」

「レオン殿は、受付嬢殿から聞いたと言っていたでござる」

「え」

「あなたが!?」

「え、え〜っと……彼の気を引こうと、確かそんな話をしたような……」

「受付嬢の話を聞いて、皆で話し合い、皆で決めた事でござる。もちろんウルリカ殿も賛成したでござる」

「あちゃ〜……」

「……そんなあ〜……私の計画があ〜……」

「ギルド長はどうされたのだ? 計画とは?」

「いや〜それはちょっと〜家庭のプライベートなので、言えないんですよ〜」

「家庭???」


 ーーーーーー


 冒険者として成長したレオン達は、二年の間に侍のノスケ、魔術師のココを仲間に加え、西方北部郡にある〈迷宮都市〉と呼ばれる街に移り、数ヶ月が過ぎた。


 …………


「う〜ん……家庭とわぁ……」

「おやおや、お侍さんは眠ってしまったね」


 机に突っ伏して眠るノスケを、向かいの席でワイングラスを傾けるエルフ、魔術師のココが微笑みながら言った。


「あんな事があって、ノスケさんも疲れているのでしょう」


 ノスケの隣の席に座る勇者神官服を着た、二年の間に、身体が更に大きくなった、神官戦士テオドールが笑う。


「流石に駄目かと思ったが、全員が無事で帰れたのは、本当に幸運だったな」


 エルフの隣に座る屈強な男は、二年の間に背が伸び精悍な顔付きになった戦士ルイスだった。


「何言ってんだい。あんな苦労したのは、その馬鹿のせいじゃないか」


 四人が食事する席の、隣の机に居た女、二十歳目前となり、流石に露出の多い服を着るのはやめたウルリカの言葉に、テオドールとルイスは苦笑する。


「ノスケさんがヘイトスキルを使って、一体の迷宮オークの気を引く筈が……まさか奥から、ゾロゾロと三十体も出てくるとは思わなかったですもんね」

「慌てて逃げたノスケさんを、スキルに引っ張られて追いかけて行くオークの群れを、追いかけて後ろから倒す事になるとは……」


 その三十体の内、彼らが倒したオークの数は十四体だった。

 残りはノスケが一人で、走る個体差で先頭になったオークを振り向きざまに刀で、一太刀を浴びせて倒し、再びスキルを使用して逃げ、追って来た所、また振り返って一太刀をとくり返し、十六体の迷宮オークを倒していた。


「クフフフ! あれは面白かったねえ!」

「先生……笑い事じゃありませんよ」

「魔物に向かって大声で、やーやー我こそは〜って、何がしたかったんだこの馬鹿は……」

「ま〜ま〜ウルリカさん。全員無事で帰れて、三十体も迷宮オークが倒せたんです。もしかしたら今回で、羽根が五枚になるかもしれませんよ」


 テオドールが首から下げている首飾りに付いている、小さな銀板を持って見せる。

 銀板には、四つの羽根の印が彫られていた。


「羽根が五枚になれば、迷宮の中層に入れる許可が貰えます。今日はそのお祝いもしたいですね」

「羽根が五枚になっても、明日からは迷宮には入れないんだろ? 中層から下層まで、私が一気に道案内出来るのに、残念だよ」

「それは仕方ありませんよ先生。迷宮に住む鉱石人との契約ですからね。冬の間は、ゆっくり休んでて下さい」


 迷宮都市と、迷宮の中層に住み着く鉱石人との契約で、今日から春までの冬の間、迷宮の門は閉鎖され冒険者は出入り出来ない。

 特例で鉱石人達と取引する行商隊か、帰還しない冒険者の救助隊のみが、迷宮に入る事が許されている。


「私が住んでいた頃は、鉱石人なんて居なかったんだよ? 宝玉の女神が、中層に湧く温泉を独り占めしたいから、眷族で占領してるんだよ!」

「ココ、あんた前にここには初めて来たとか言ってなかったかい?」

「あ、ん〜んん……そ、そうだよ〜? この街は初めてだよ〜?」


 ウルリカのツッコミに、ココは瞳をグルンと動かして誤魔化すので、ルイス達は大笑いした。


「それに先生、鉱石人達は温泉を独占していませんよ。ここの湯だって、そこから引いた湯を流してるんですから」


 五人が居る場所は、〈迷宮の休憩所亭〉と呼ばれる湯屋、そこの食堂の一角を占領し、今期を全員無事で終了出来た事を祝っていたのだが、このパーティのリーダーであるレオンは、冒険者ギルドに報告に行っているので、姿が無かった。


「……それにしてもレオンのやつ遅いねえ、飯が冷めちまうよ」


 ウルリカはココが仲間になってから、彼女の影響で伸ばし始めた髪をいじりながら話す。

 ウルリカの席には二人分の料理があるが、他の四人と違い、余り手を付けていない。


「ふむ?」


 エルフの長い耳が、ピクリと動き、ワイングラスを置いた。


「来たみたいだよ。だけど……」


「レオン様、いらっしゃいませ」


 その声で、ウルリカの顔がパッと晴れ、食堂から見えるロビーの受付に視線を向けて、その表情がムッと曇った。

 二年の間に成長したレオンの背後に、ゾロゾロと女性達が付いて居たからだ。


「ここが、迷宮の休憩所亭ですか」


 先頭の女性はノスケが持つような刀を腰に差し、立ち振る舞いが武人のようだが、その衣服は……何故かメイド服だった。


「待て。ここでは警備に不安がある」

「いや、話しに聞いた貸し切り用の別館ならば、我々だけで警備は事足りるだろう」

「然り、我らがお嬢様をお守りすれば問題無い」


 メイドは五人居て、それぞれ刀、鉄甲、分銅鎖、大鎌で武装している。


「悪い奴らが来てもね! あちしがぶっ飛ばすよ!」


 最後の一人は、まだ幼い少女にしか見えないが、その身体よりも巨大な、折り畳み式のバリスタを軽々と背負っていた。


「どうだ? おすすめだと言ったろ?」


 メイド達に続き、筋骨隆々の大女が、ミシリと床を踏み、入口を少し屈んで入ってきた。その胸には、九枚の羽根が刻まれた銀板がある。

 大女は、レオン達にこの迷宮の休憩所亭を紹介してくれた、女戦士のララだった。


「北方人が紹介する宿なので心配でしたが、ここならばお嬢様の宿所に相応しいかと」

「これ、ララ様に失礼ですよ」


 そのメイド達に守られるように居た、純白のローブを纏い、そのローブと同じぐらい白い肌と、美しい金髪を腰まで長く伸ばした碧眼の美少女が、刀のメイドに注意した。


「……ララ様、失礼いたしました」


 刀のメイドがララに謝罪し、頭を下げると、他のメイド達も揃って、ララに頭を下げた。


「ガハハハハハ! 野蛮な北方人の紹介なら、そりゃあ誰だって心配するよなあ! だから道案内はレオンに任せたんだが、まさか知り合いだったとわな」


 レオンは苦笑して、自分の首を撫でた。


「いきなり首を掴んで止めるんですから、何事かと思いましたよ。ですがセシリー様と、こんな所でお会いできるとは驚きました」

「私も驚きました。レオン様はお家を出て、冒険者になったとお噂は聞き及んでおりましたが、まさかこんなに早く再会できるなんて」


 美男美女同士が談笑し、ハハハフフフと微笑み合い、その周りだけ、キラキラと光り輝いていた。


「花?……花が見える……」 

「あれ? セシリー様だ」

「誰だいあの女」


 ルイスがゴシゴシと目元を拭き、ウルリカは女の正体を知っている様子のテオドールに聞いた。


「大貴族のお姫様だよ。〈聖女〉の役割を持ってる有名人さ。レオは貴族の子供だけが通える、学園の同期だったて」

「ふ〜ん……」

「でも、何でこんな所に居るんだろ?」


 テオドールと同じ疑問を、レオンはセシリーに聞いた。彼女の首には、羽根の印が一つある、冒険者の銀板を下げている。


「セシリー様ほどのお方が何故、冒険者になられたのですか? お家はお止めしなかったのですか?」

「それは……フフフ……秘密です」


 セシリーは、笑って誤魔化した。


「お嬢様」


 鉄甲をはめたメイドの後ろに、この湯屋の仲居達が並んでいる。


「今からお泊りする、別館にご案内したいとの事です」

「分かりました。ではレオン様、またお話いたしましょう。ララ様、お宿のご紹介、ありがとうございました」

「おう! ゆっくりして行きな」


 貴族らしく、優雅に一礼したセシリーを、レオンは笑顔で、メイド達に守られた彼女が、廊下を曲がって、見えなくなるまで見送った。


 …………


「当店には特別なお客様だけがお泊りになる別館が四つございます。本館のお客様とは違う、別館のスタッフによる、特別なサービスを――」


 廊下を歩くセシリーは、仲居の話す案内を聞き流しながら、自分の護衛メイド達に聞こえるように話し掛けた。


「レオン様の背後に居た、あの女は誰か」

「はっ」


 主人の問いに、大鎌を背負ったメイドが答えた。


「あのエルフはレオン様の家に永年仕える、ココ大魔導師に間違いありません」

「なんと! あのエルフが!」


 メイド達は、ゴクリと喉を鳴らす。


「西方国建国からその名があり、ベアトリス姫誘拐事件の際に、先王自らが彼女の館に赴き、両膝を付いて助力を求めたという、あの……」

「そっちでは無く」

「は?」

「いえ……何でもないわ」

「はっ」


 主人が黙ったので、メイド達も静かになる。

 聞きたかった事はエルフでは無く、あの場に居たもう一人の方。


(あの女……レオンと一緒に居る女ね。私を睨んでいたあの瞳……気に入らないわ)


 聖女の瞳が、冷たい光を灯した。


 …………


「我が君……」


 セシリーを見送ってすぐ、後ろから、ココに呼ばれた時にはもう、レオンは笑顔では無かった。 


「はい、あのメイド達は噂に聞く、黒の姉妹でしょうね。彼女の家に仕える戦闘メイド集団、その精鋭中の精鋭……」

「そっちじゃなくて、こっちこっち」

「え? はい?」


 呼ばれて振り返ると、ニコニコと笑顔なココと、ニヤニヤと笑顔なララの間で、ウルリカは怒った顔で、最近彼女の癖になっている、少し伸びた前髪をイライラといじっていた。


「……?」


 レオンは分からず、ウルリカに近づく。

 出会った頃は彼女と同じぐらいの背丈だったが、レオンの背は二年の間に伸び、見下ろす形になる。


「ウルリカさん、どうかされましたか?」

「ああん? 何も無いよ!」

「?」


 とても不機嫌だ。


「どうしたのでしょう?」

「分からないかい? この子はね……愛する人が他の女と仲良くしてるので、やきもちを焼いてるのだよ〜!」 

「ち、ちが! っ!?」


 ニイイイと笑顔のルイスとテオドールに、ドンと背中を押され、ウルリカは、レオンの鍛えられた逞しい胸に飛び込み、二年前と変わらない、優しい笑顔で抱き締められる。


「ご安心して下さい、私の心はあなたのものです」

「あ……あ……」


 耳元で囁かれ、ボン! と一瞬で、ウルリカの顔が真っ赤になった。


 ――カッ!!


「餅! 餅でござるか!? 何処!? 餅は何処に!?……あれ?」


 ノスケが起きた。


 …………


 二年の間にレオンとウルリカは、仕事の後は一緒に食事などをして、いつしか恋人関係になっていた。


 ーーーーーー 



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