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冒険者の羽根・7


 次の日、レオン達は村に到着し、昼には森へと入った。

 森に入る前に村人達から、その村からでも見える、山にある愚王の別荘跡まで、数年前に遺跡調査に来た学者達が作った道がある事を教えてもらい、木々を切り倒して作られた、柵のある山道を進み、丸太の階段を上り、〈このすぐ先、愚王最後の地〉と、文字が彫られた看板の前を通り、目的地に到着した。

 愚王は四百年も前の人物なので、四百年前の建築物が残っているとは思ってはいなし、冒険者ギルドでも、探索しても何も無かったと聞いてはいたが――

 そこには草木に覆われた、大量の大石が集められた、石の山が幾つもあった。


「え? これが愚王の別荘……この石山が?」

「これは……何んだろう??」


 レオンとテオドールは、村人達が言っていた、調査の為に、石山の周りの木を切り倒したと思われる丸太を避け、石山に近付いて見上げた。一番高い物は、6メートル弱はある。


「何故山の上に、こんなにも石山が必要だったのでしょうか」

「これは石垣だ」


 レオン達の疑問に、ルイスが答えた。


「石垣?」

「防壁じゃなくて?」

「これは守りの為だけに造られた物じゃない。山の上に建物を建てる為の基礎部分だ」


 レオンは石山を覆う草を手で除け、テオドールと一緒に中を覗き込む。


「なる程……」

「凄い……石だけで積み上げている」


 石山と思っていたそれは、不揃いな大小の石材だけで、見事に隙間無く積み重ねられていた。

 二人の知っている石垣は、石の間をモルタルなどで固め、積み重ねた物だった。


「先生から話を聞いて、愚王の時代について調べてたんだ。彼の領土は、今の西方国の東部郡から中央郡の南半分、そして西部郡の一部まであった内陸国で、何度も魔王軍の猛攻を押し返した強固な山城と要塞を造れる、優れた築城技術を持っていたそうだ。見ろ」


 ルイスは山の上から見える、途中立ち寄った村と、自分達が出発した街がある、北の方角を指差した。


「愚王の領土は丁度この辺りまであった。この石垣を基礎にして、北の隣国を見張る為の城、兼住居を、ここに建ていたのだと思う。愚王の最後がここなのは、逃げ回れる土地がここまでしか無かったからだろう」

「ここに城が?」

「もしそうなら四百年前は、僕達が通った森や山道に城下街があったのかもしれないね」

「ああ! そういえば道の途中で、崩れた石材の壁があったね!」

「なあ、一番高いこいつを登らないか? 街が見えるかもしれないぞ?」

「よし! 行こう!」


 歴史と浪漫を楽しみ始めた、まだ十五歳の少年達は、石垣を登ろうとした。


「はい! はい! はい! 坊や達! 止めな!」

「ウルリカさん?」


 彼女が手を叩いて鳴らして呼び、子供達を現実に戻した。


「いい加減にしな! 遊びに来たんじゃ無いよ!!」

「あ、すみません……」

「まったく……それで、財宝ってのは何処にあるんだい? 石ころしか無いじゃないか。まさか、これが財宝の山だって言わないだろうね」

「もちろんです。昨晩話した通り、財宝は地下に……地下……地下?」


 地下は何処? ここ? 


「これの下?」

「これを掘り返すのかい?」

「あ……」

「おい」


 石垣の前で呆然となるレオンに、呆れた様子のウルリカ。


「レオンさん、先生の話しを思い出せ」


 いつの間にかルイスが、石垣の上まで登り、辺りを見回していた。


「先生は物見塔の話しをしていたろ。先生がここに来たのは何百年も前で、塔なんてもんはもう完全に崩れて無くなってる。だが塔の基礎は残っている筈だ」


「先生は塔と、井戸の間に……」


 ルイスの目が細くなる。


「あったぞ……井戸だ」


 …………


「――それから愚王は箱を持って見張り塔と井戸の間にあった建物に入って行ったんだけど、直ぐに出てきて、その時には箱を持ってなかったんだよ。」


「――見に行ったんだけどね、何も無くてねたぶん地下に隠したんだと思う。」

 …………


「それがここかい」


 ウルリカが居る場所は、高い石垣にあった階段から下りた石床の上だった。

 そこには建物があったが、壁や屋根は、大昔に崩れたようだ。

 石床は石垣と違い、加工された石材が使われ、僅かに残っている壁は漆喰、建物内の床には、大理石のタイルが使われていた。

 広さは冒険者ギルドの酒場程あり、幸い崩れ落ちた瓦礫などは殆どが、石床の外側の下に落ちている。ここに来た略奪者か、遺跡調査員達が撤去したようだ。

 そして話しに聞いた倉庫は、その建物内の一角にあった。


 ウルリカは振り返り、自分が立つ石床から見える風景から、四百年前の、ここの風景を想像する。


 周りをぐるりと囲む低い石垣は、屋敷を守る防壁と物見塔の基礎、中央の最も高い石垣は城主の屋敷、防壁と屋敷は、跳ね橋で移動できる。

 屋敷からの階段を下り、ここと井戸、残っている瓦礫の雰囲気から、ここは城主が、神々に祈りを捧げる聖堂だったのだろう。

 そして聖堂は、宝物庫も兼ねている事は盗賊の常識だ。

 そして井戸、これは本物の井戸では無く、城外へと繋がる脱出ルートの入口。


 宝物庫で財宝を回収し、この脱出ルートを通って、城外へと逃げる。


 そこまで想像して、ウルリカは現実に戻った。


「うん。財宝があるとしたら、ここだろうね」

「そこに、焚火の跡がありますね」


 テオドールが床を指差しルイスが見る。


「ここに探索に来た冒険者の物だろうな」

「本当に財宝があるなら、そいつらはお間抜けにも、お宝をケツにひいて休んでたんだね」


 ウルリカはそう言いながら、ローブを脱ぎ、背囊を下ろす。


「それじゃあ地下が無いか調べるから、あんたらは休んでな」

「何かお手伝いを」

「要らないよ。あたいの尻でも眺めてな」


 ウルリカはレオンに、お尻を向けてパチンと叩き、脱いだローブを石床に引いて這いつくばり、短剣の柄頭で、倉庫跡のタイルを一つ一つ、コツコツと叩き、下に空間は無いかと調べ始めた。


「ですが……っ!」


 ウルリカのスラリとした体型が浮き出る戦闘用ボディスーツで、這いつくばる彼女の姿に、男達はハッ! とする。


「ま、周りを警戒してきます!」

「俺も!」

「じゃあ僕は、野営の準備を!」


 ウルリカの邪魔にならない様に、慌てて離れて行った。


「フフフ……さてと」


 その様子で笑みが浮かんだが、表情を引き締め、地道な作業を再開する。


 それから一時間程、ウルリカは倉庫の中で、建物の中央に近い床を、念入りに調べていた。

 外から見た想像と、建物の構造から、地下倉庫を作るなら、建物の中央側に造るのが自然だからだ。


 そして、その読みは当たった。


 コツコツ……コツコツ……コンコン。


「!」


 コツコツ……コン……コンコン。


 水筒を取り、水を少し、タイルの継ぎ目に少し掛ける。水は流れず、継ぎ目に染み込んで行った。


 間違いない。


「見つけた……レオン! ルイス! テオ! 来ておくれ!」


 三人を呼び、状況を話す。


「このタイルが入口だよ。恐らくだけど、隠しレバーの操作か何かで、開く仕組みだと思う」

「では、その仕掛けはどこに?」

「馬鹿だねえ、そんな仕掛けなんかとっくの昔に壊れて動かないよ。だから無理矢理引っ剥がす。……テオ」

「はい!」 

「やりな」

「どすこいいいいい!」


 テオドールの怪力メイスが叩きつけられ、タイルが砕け散った。


 …………


 砕けた床の穴から、頭に蜘蛛の巣を付け、口と鼻に、布でマスクをするレオンが顔を出した。


「本当に有りました……よっと」

「上げるぞ!」


 穴から出たレオンは振り返り、穴の中から、同じような姿の、ルイスが持ち上げた、砂埃を被った箱を受け取り、床に置いた。


「これ以外に、中には何もありませんでした。大きさも脇に抱えられる程……恐らくこれが、愚王の宝石箱です」


 地下倉庫の探索はレオンとルイスが行なった。テオドールでは穴が狭く、ウルリカは、蜘蛛の巣の中に入る事を嫌がったからだ。


「お疲れだったね。顔を洗ってきな、調べとくから」

「お願いします……」


 水筒を受け取り、埃だらけのレオン達がトボトボと離れると、ウルリカは布で宝箱の埃を拭き取る。すると、銀色の光が反射した。


「へえ……こりゃあ箱だけでも金になりそうだねえ」


 箱は四百年前の物だが、金具が壊れたり、錆びてもいない。表面には細かい銀細工と、鷹の細工がされている。


「幾らぐらいになります?」


 テオドールに聞かれ、頭の中で計算する。


「使われてる銀の量からして……多くて銀貨二十」

「え? そうな物ですか?」


 想像してたよりも遥かに安い。それにこれは、愚王が最後まで持っていた歴史的な物なのに。


「残念だけどもそんなもんさ。こいつに価値を付けるのはあたいらじゃなくて、これの買い手の次の次、そのまた次の、偉い先生達が決めるもんだからね……?……やけに軽いね」


 持ち上げてみたが、銀製の箱にしては軽い。


「?……空……では無いね」


 振ってみると、中に何かがある感触がする。


「開けてみるか。テオ、あたいに魔法の盾を掛けておくれ、掛けたら離れてるんだよ」

「分かりました」


 テオドールから魔法の盾で身を守ってもらい、一応トラップが無いか確認する。

 無いとは思うが、爆発罠の可能性を考え、テオドールが離れるのを待つ。

 父親が爆発罠の解除ミスで、二人の仲間と身体の半分を失った経験から、ウルリカはとても慎重になる。

 顔を洗って来たレオン達が戻るが、ウルリカの真剣な表情を見て、三人は彼女の作業が終わるまで、離れた場所から静かに待つ。

 時間を掛けて、罠の無い事を確認し、小さな金具を取り出し、箱に差し込むと直ぐ、カチンと軽い音が、レオン達にも聴こえた。

 ウルリカは箱を開けて中を見るが、首を傾げ、思い出した様に、来い来いとレオン達に手招きした。


「どうでした?」

「これ、なんだと思う?」


 レオン達は箱の中を覗き込む。


「……貝殻???」


 中身は、細かい金の模様が付いた、大量の小さな貝殻が、箱一杯にあった。


「何だろう?」


 愚王の国を調べていた、ルイスも首を傾げ、ウルリカはう〜んと腕を組む。


「こりゃ《鑑定》を頼むしかないね。知り合いに鑑定スキルを持ってる奴がいるから、頼みに行こう」


 ーーーーーー


 街に戻ったレオン達は、ウルリカの案内で一軒の武具屋の前に居た。

 ここの親方が鑑定スキルを持っていると、教えて貰ったからだ。


「親方は居るかい?」

「あ、ウルリカさん、いらっしゃい!」


 店番に出迎えられ、様々な武具が並んでいる店の中を、レオン達はキョロキョロしながら眺めている。


「この店は?」

「あたいの防具を作ってくれた店さ。ついでに紹介するから、あんたらも見てもらいな。親方の腕は保証するよ」

「それはありがたいですね」

「(あのスーツを作った親方だろ? 本当に大丈夫か?)」

「(シー! シー!)」

「(やば……)」


 ルイスとテオドールを睨み付けてから、ウルリカは店番に訪ねた。


「それで、親方は留守なのかい?」

「あ〜居ますが、今は奥で――」

「ウルリカか!? 今行く! 旦那、ちょっとすみませんね」


 親方と呼ばれた人物は、店の奥にある部屋で他の客と会っていたようだが、ウルリカが来たと知ると、客を待たせて出て来てくれた。


「ドワーフ……」


 親方は背が低く、火によく焼けた顔をし、長い髭を蓄えたドワーフ族の男だった。


「おうウルリカ! やっと儂に抱かれに来たか!」

「くたばれ」

「ワハハハ! で、今日は何の用だ」

「ちょいと親方に、鑑定して欲しいもんがあるんだよ」

「良いぞ! 鑑定代はいい! その代わりにお前を抱くのが条件だ!」

「ああ良いよ」

「ウルリカさん?」


 レオンは驚くが、彼女はニヤリと笑った。


「あたいがヨボヨボのババァになったら、抱かれに来てやるよ」

「ワハハハ! 良し! ブツを出せ!」


 レオン達はここまで運んで来た。貝殻が入っていた宝箱を、机の上に置いた。


「むう……」

「どうかされましたか?」


 それを一目見た親方が唸ったので、レオンは訪ねた。


「いや、何でも無い」


 親方は貝殻を一つ摘み取って目を瞑る。


「《鑑定》…………フム……やはりこれは貝貨だな」

「ばいか??」

「文字通り貝殻の金だ。愚王の国は内陸国で、海の物は非常に貴重で価値があった。だから愚王の国では貝殻を、こんな風に細かい金や銀細工がされて、国の通貨として使われてたんだ」


 親方のごつい手のひらで、小さな貝貨が転がる。


「へ〜」

「面白いですねえ」

「そんな事はどうでもいいんだよ。で? 全部で幾らになるんだい?」

「この手の物はコレクターに売るもんだ。儂は専門家じゃないが……こいつは意外と現物が残っていて、偽物も多い」

「む」


 嫌な予感がした。


「こいつは正真正銘の本物だが、コレクターは余り買わんし、細工に使われている金の量も少ない。愚王の時代なら、これ一個に金貨一枚分の価値があったんだろうが……まぁ全部で……多くみても銀貨で百枚だな」

「百枚? ……はあ…………まあそんな物か」


 余り期待していた訳では無いが、落胆が大きかった。だがこれで、盗賊ギルドへの借金の利息分は払えるかと、ウルリカは気を持ち直した。


「どうする? 儂に売るならすぐに……ああ、その箱も入れて帝国小金貨三十枚ですぐに買うぞ」

「はあ!? こんな銀箱が小金貨三十枚!?」


 ウルリカは驚く。帝国小金貨一枚で銀貨百枚の価値がある。


「その箱に使われいる銀細工が、銀じゃなく真銀鋼(ミスリル)だからだ」

「「「「真銀鋼!?」」」」


 今度は四人が驚いた。


 真銀鋼は鉄よりも硬く、そして軽く、さらに錆びない、非常に貴重な金属であった。

 真銀鋼で造られた武具は、冒険者なら一つは欲しい憧れの装備だ。


「潰して溶かして武具にするには、まあちと量は少ないがな。それぐらいの価値はあるもんだ。どうだ? 売るか?」

「もちろん――」


 レオンが言いかけた時だった。


「待ってほしい! 貝殻も全部ふくめて金貨四十枚で買うよ!」


 店の奥の部屋から、商人風の男が飛び出して来た。


「え?」

「!?」 

「誰?」

「売ったー!!」

「旦那ぁ……」


 三人は驚き、ウルリカは勝手に売り、親方は呆れている。


「親方君ごめんよ〜愚王時代のミスリル細工と聴こえてねえ。……お、おお〜これは! 実に良い物だ! この羽根の部分なんか特に! おそらく親方君と同じ、ドワーフ族の細工だね! 素晴らしい! 君もそう思わないかい!?」


 商人は箱を、その細工をレオンにグイグイと見せてくる。


「え、ええ……良い物です、か」

「小金貨四十枚……」


 ウルリカは帰る道の休憩の途中、箱の上にお尻を乗せて、椅子代わりにしていた物が、銀貨にして四千枚の価値があった事に青ざめていた。

 レオン達と山分けして、一人銀貨千枚、盗賊ギルドに借金を返してもまだ余る額だ。


「あ〜ごめんよお〜! 人前ではしゃいでしまったね。私はミスリル細工が大好きでねえ、こんな見事な細工を見てしまうと童心に帰って興奮してしまうんだ。どうかな? きんで売ってくれるかい?」

「ですが本当に良いんですか?」


 ウルリカが余計な事を言うなとレオンを睨み付けてくるが無視する。


「こんなにも払わなくても、貴方は親方から手に入ったと思うのですが……」

「うん? あ〜全然構わないよ! だってそのお金は、私に返って来るからね!」

「?」


 商人は笑顔で、貝貨を一つ摘んで机の上に、レオンの前に置いた。


「君はそのお金で、親方のお店でお買い物をしてくれるんだろ? 君達がここでお買い物をすれば、そのお金は親方に行き、このお店は私が出資してるんだ。売上が私に入る。ほら、返って来た」


 貝貨はレオンの前から、親方、商人の前へと移動する。


「これからもご贔屓に。というやつだよ」

「なるほど……そんな考え方も有るんですね」

「そしてこの出会いが将来、私に大きな利益を呼ぶかもしれない。例えば君が大金持ちになって、私が持って来た商品を全部買ってくれるとかね!」

「ハハハハ! そうなるよう頑張ります! ええっと……」

「ああ! まだ名乗っていませんでしたね。私は武器商人のタルンという者です。以後お見知りおきを、そして、これからもご贔屓に!」


 ーーーーーー


 金貨を受け取ったレオン達が帰った後、商人と親方はまた奥の部屋へと戻って来た。

 部屋の真ん中には、ウルリカの戦闘用ボディスーツの元になったスーツが、マネキンで立て掛けられている。


「ちょっと人が良すぎて心配になるけど、成長が楽しみな少年達だったね。ああいった冒険者は成功すると、私達に大きな利益を呼ぶよ。私が帝国に行ってる間よく見てあげてね」

「分かりました。で、こいつは帝国では売れますかね?」


 商人は親方の店に、このボディスーツを見に来たのだ。


「う〜ん。少し難しいね。女性の身体の線が出過ぎる。機械甲冑乗りの女性用アンダースーツも、体型が見える事を嫌がる女性が多いんだ」

「ウルリカの奴は、良いと言ってたんだがな……」


 ボリボリと頭を掻く。


「まあ色んな女性が居るからね。でも衣服と鎧を、一緒にするって発想は面白い」

「面白い?」

「うん、面白い。だからいっその事、逆に布地を増やしてみよう。予算は出すから試しに、貴族の令嬢貴婦人が身に纏って、ダンスも踊れるような。色はそうだな……真っ赤で派手な〈戦闘用ドレス〉を作ってみてよ!」


 ――後に、その赤いドレスは帝国で、とある夫人の手に渡る。


 ーーーーーー


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