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役割の世界

 「役割の世界」


 この世界に生きる者は一人一人に役割を持って産まれる。


 王は王の役割に、民は民の役割に。


 魔物は魔物の役割に、獣は獣の役割に。


 役割は役割の神に付けられる。


 役割は死ぬまで変わらない。


 民が王になる事は無い、獣が魔物になる事は無い。


 だがこの役割が大きく変わる時がある。


 百年に一度。


 異世界より勇者が転生し。この世界の者が魔王の役割に選ばれ殺し合う。


 勇者がその(つるぎ)で魔王を討ち勝利すれば世界の役割は変わらず光の秩序が守られる。


 だが勇者の(つるぎ)が折れ魔王が勝利すれば世界の役割は消え闇の混沌が訪れる。


 混沌では人々は醜く争い。民は王となり、獣は魔物となる。


 百年ごとに神々はこれを繰り返す。


 巫女は問う。なぜ神々はこのような事をするのかと。


 賢者は答える。それが「役割の世界」なのだと。


 ――――――


「役割の世界ねえ」

「この世界では人や魔物や動物まで役割が決まっているのです」


 巨大な化物の頭の上で額から生える上半身しか無い人間の女、ナナジの前に大柄な女性が手に持つ世界の詩という詩が書かれた紙を貼ったボードをペシペシと指し棒で叩いている。


 ()()と呼ばれた大柄な女性は黒髪を肩の長さで切りそろえ肩や首から赤みがかった銅色の鉱石が角のように生えていた。

 他の眷族達と同じ首と肩を出した服を着て肌の色は元々は白かったのか日に当たった部分が焼けて健康的な色になっている。

 気が強そうな美人で宝玉の女神程ではないがスタイルも良い大人の女性でナナジの好みのタイプだった。


(俺の体が女で化物じゃなきゃ口説くのになぁ)とナナジはがっかりしている。


「聞いてますか?」と()()が聞く。


 ナナジは手渡された詩の書かれた紙を振りながら。

「この役割って君にもあるの?」と聞いた。

『貴方も役割があるのかと聞いている』


 蟲がナナジの言葉をこちらの言葉に変えて()()に伝えているようだ。

 ナナジの言葉はこちらでは通じず。ナナジは蟲と合体してるからだろう、こちらの言葉を理解できた。


「私は宝玉の女神様の眷族という役割です!」


 胸に手を当て自慢するように()()は答えた。


 ナナジの目にはあかは緑色の六角形の枠が囲み〔〈役割__宝玉神の眷族〉__〈鉱石人〉〕と表示されている。


「確かにねぇ」

『まさしくと言っている』



 宝玉の女神は宝石の付いたソファにもたれながらすぐ側に立つ自分の眷族に話しかけた。

()()あれの言葉解るぅ?」


 あれの言葉。ナナジの話す言葉。


「はい! いいえ! さっぱりであります!」


 ()()と呼ばれた眷族は女性と間違える程整った顔立ちの男性だが金髪をボサボサに伸ばし白い顔や肌には呪払い(じゅばらい)の入れ墨を入れ、額には何故かインクでこちらの世界で「バカ」の意味がある文字が書かれていた。他の眷族とは少し違うデザインはどことなく軍服をイメージしそうな服を纏い、首や肩からは鋼のような黒く光る鉱石が生えている。


 くろと並ぶように立つ、()()と呼ばれた美丈夫の眷族が女神に話しかけた。


「宝玉様はご存知でなのですか」

「少しね。あれはニホン語という言葉よぉ」


 ぎんはニホンという言葉に聞き覚えがあった。


「ニホン……東方領の更に東の海に出た島にある小さな領地ですね。古代の勇者が魔王を倒したあと海を渡り築いたという」

「ですがニホン領にあのような言葉はありません!」ぎんが思った事をくろが答えた。

「そうよぉニホン領にニホン語という言葉は無い。無いのよぉフフフフ」


 女神が扇で口元を隠すが横に立つぎん達からはその妖しく微笑む横顔が見えた。


「面白いわねぇこんな事ってあるのねぇフフフフ……」


「はぁ」ぎんはこの方はまた何か悪戯を思いついたのかと溜息がでた。

「……美しい」くろは女神の横顔を見惚れている。


 三人の後ろの方では女神が吹き飛ばした魔導兵器が大木の上にひっかかりどうやって降ろすか眷族達が集まって話あっていた。 




 ナナジは世界の詩を目で読みながら「この詩おかしいわね」と言った。


『この詩は変だと言っている』


 ()()はナナジの言葉に驚いてこの世界で奉られる九大神の一神、子供達の野菜の好き嫌いをやめさせる神、たまねぎ神の話をとめた。


「何が……おかしいのですか?」

「魔王、様をまるで悪者のように詠っているよね。まるで勝ってはいけないような」

『この詩は魔王様を悪者にして勝利してはいけないようだと言っている』


 ()()はまるで頭の良い生徒をほめるように「そうですそうなんです!」と、うんうんうなずいている。


「この詩は人間の権力者によって書き足されたと言われています!」


 そうだろうなぁとナナジは思った。


 せっかく王の役割で産まれても勇者が負けて全てを失うのならそれは嫌だろう。

「民が王に」とは能力と才能がある者が王になれるチャンスだと詩っていたのではないか。そして巫女は聞いてみた「この世界おかしくね?」と「しょうがねぇじゃん」と賢者が答えた詩。


 役割の世界、神々がそう作った世界、勇者と魔王が殺し合う世界。その勝敗で時代を決める世界。


 本当何でこんな世界を作ったのやらとナナジはその神をちらりとみた。


 神は扇で口元を隠し目は笑っていた。



 あかの授業が終わったのは日が山にかかり夕方になった時だった。


 疲れた……正直宝玉の女神の話し以外、全然頭に入ってない。他の神の話は必要な時に蟲から聞ければいいやと思っていた。


 八大神の一神。あれ? さっき九大神て言ってなかったか? まぁいいや宝玉の女神の話だ。


 彼女は地下の神。地面から下が彼女の領域だ。

 彼女は宝石の神だが大地の恵みの神であり、鉱石の神でもあり、井戸水・地下水の神でもあり、地震・温泉の神でもある。


 他の神と違って頻繁に人間の前に姿を見せる神で、町の豊作祭を村娘に化けて自分を称える舞を町人とまざって酒をのんで楽しでいたという逸話や、村の唯一の井戸が枯れて村人たちが困っていたら旅人姿の彼女がふらりと現れ「ほら頑張んなさぁい」と井戸を蹴ると水が吹き出したなどの逸話が数多くある。


 そのためか彼女の信者は役割の神に次いで多かった。


 だが彼女は魔物の神でもある。


 百年に一度、魔王の役割が復活すると彼女は莫大な財宝とアイテムを魔王と魔王軍に提供する。魔王はその財宝を軍資金にして備え、勇者とその一党と戦うのである。


 その魔物の女神が「じゃあ、そろそろ帰るわね。たまには遊びにいらっしゃい」と言った時。


『宝玉様、我々も魔王軍と合流します』と蟲が魔王軍参戦の希望を宣言した。


 ナナジは蟲から魔王軍の参加を相談された時に別に良いよと言っていたので何も言わなかった。


 だが女神の返事は予想外だった。


「今回の魔王軍とは合流しなくて良いから自由にしてていいわぁ」

『は?』

 蟲は女神の顔をまじまじと見た。その顔は冗談ではないようだ。


「新しい魔王から参加は断られたから。妾はいないから貴方も動く必要は無いわぁ」

『断れた?』


 宝玉の女神の財宝は魔王軍の軍資金だ、断る意味が分からない。


「今回の魔王はねぇ何か変なのよぉ」


 女神は首を傾げてぼやいている。


「宝玉様」


 ぎんが女神を呼び何か目で訴えてる。


「え〜嫌よぉ」

「はぁ」


 ぎんは溜息をつく。そこにくろと呼ばれた眷族が大声で言った。


「新魔王様は魔獣兵の参戦だけは認めているであります!」

「くろ!」


 女神は閉じた扇でくろの脛を強く叩いた。


「あいた!」


 くろはしゃがみこみ今度は頭を叩かれる。ゴン! と鈍い音が響く。


『どういう事だ?』蟲はまだまともに話ができるぎんに声をかけた。


 ぎんはこめかみを指で押してから。


「新魔王様は宝玉様の支援や旧魔王軍残党の参加。魔獣兵以外の魔物の参戦を全て断ったんだ」

『全て断った? それでどうやって勇者と戦うんだ?』

「想像できんと思うが。新魔王様の魔王軍は人間だけで魔物は、お前たち魔獣兵しかいないそうだ」

「貴方と蛇以外の六体は魔王軍の傘下に入ったそうよぉ手柄も立てて帝国は亡ぶ一歩手前」


 くろは女神の足元でのびていた。


『帝国を!? 魔獣兵だけで勇者と帝国軍を倒したのですか!』

「それがねぇフフフッ……勇者居ないのよぉ」


 女神は何が面白いのか笑っている。


『勇者がいない?』

「〈勇者殺し〉お前はどうする?」


『我々は……』

「説明を! 説明を要求します! できればわかり易く! 置いてかないで!」


 ナナジは蟲の頭をぺしぺし叩きながら訴えた。


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