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Your name?

 女神の眷族達が来る! 私を殺しに来る! 


 来る! 来る! と蟲の女の顔に笑みが浮かぶ。


 まずは両側で首を刈りにくる魔導兵器からだ。


「よこせ!」体を!


 蟲の女が叫ぶと体の中で何かが切り替わる。


(こいつ! やっと言う事を聞いた!)


 自由に動けるようになったうつ伏せ状態の蟲の体を()()()()()()()を勢いよく伸ばして一気に起き上がる。

 起き上がる途中、両腕の太い篭手から黒い鉈が飛び出し立ち上がった瞬間に両手で掴む。


 折り畳まれた刃が起き上がるまでの時間はない。

 まず鉈で両側から来る魔導兵器の斧を受けて流す。

 隙を作って後ろへジャンプ。

 《熱弾》を川に撃ち込みその爆発で混乱を起こす。

 混乱の隙に蝗の脚を伸ばして高速で距離を取る。

 逃げれるならそのまま。

 追われるなら振り返り一人殺りまた逃げる。

 繰り返し!


 刃がまだ折り畳まれたままの鉈を掴んだ瞬間に蟲の女はそれだけの戦闘計画を立てた。


 両側でうつ伏せだった蟲の首を切り落とそうと振りかぶっていた蟲に比べ子供サイズの魔導兵器は一瞬で目標が消えてバランスを崩し、そのツルンと丸い鎧にある光る一つ目だけが蟲の動きを追っていた。

 怯えている。何故かそう思った。


「小さい丸がぁ!」


 その怯える目を見て計画修正。

 鉈で切り裂くに変更。


「殺す!」


 魔導兵器を攻撃する為。蟲の両腕に力が入る。巨体が前へと。


 だが。


『上!』


 蟲の警告で頭の中が水をかけられたように急に冷える。

 ハッ! と蟲の女が頭を上げて目に飛び込んだ物は。



 白いふともも。


「へ?」


 宝玉の女神が白いドレス姿で長い腰布を靡かせて蟲の高さより高い位置から飛びかかってきた。


 女神はその身体より長い巨大な武器を振りかぶっている。


(近い! 躱せない! 鉈で受け流す! 怪我はさせないように。やれるか? やれ!)


 蟲は鉈を頭上からくる女神の攻撃を受け流すために鉈を構えた。


 女神が構えた武器を振り下ろす。するとその武器の長さが伸びて蟲の額にいる女に迫る。


(あの武器は俺に当たる! 絶対防がなければ!)


 手に持つ鉈で女神の攻撃を受けようとした。


『受けるな! 躱せ! 神の武器だ!』


 蟲の警告が飛ぶ。だがもう間に合わない。


 女神の武器と蟲の鉈がぶつかり――


 女神の武器は蟲の鉈を何も無かったようにスルリと通り過ぎた。


「ずるい!」


 女神の攻撃はそのまま蟲の頭上にいる蟲の女の脳天を直撃し。


 スパ―――――――――ン!!!


 痛快な音が響き渡った。


 その威力は巨体の蟲の身体を地に叩きつけ鍬形のような大顎が地面にめり込む。神の一撃に巻き込まれた魔導兵器も吹き飛びコロコロ転がっていく。


 宝玉の女神は地面に沈んでる蟲の背中に乗り。乱れた金髪を手で流し整えると神の武器、柄に「一発気合入魂」と書かれたハリセンを掲げ。


「うっしゃああああああああああ!」と勝ち鬨を上げる。


 おおおおおお! と眷族達も声を上げる。


 直撃を受けた蟲の女は遠くになりつつある意識の中で。


「神罰はくだされた! これ以上の手出し無用!」


 ぎんと呼ばれた眷族の声を聞いた所で意識が落ちた。


 ーーーーーー


「世界を知らぬ愚者には学ぶ事で全てを許しましょう。よって不問とします」


 おおおお。お優しい。さすが宝玉様。と周りから声が上がる。


「ありがとうございます……」


 蟲の女はズキズキと痛む頭を押さえながら女神の裁きを聞いていた。


 女神にはっ倒された蟲の巨体は、昆虫の脚が集まったような手を膝に乗せて正座で座っていた。

 蟲の頭、蚕娥の額から上半身しか無い人間の女が生える、そのすぐ前に宝玉の女神は娥の頭の上で仁王立ちで立ち。巨大な頭でも流石に額に二人は狭く感じたが女神は気にする様子はなかった。


 目前に肌の色が透ける程の生地の薄い腰布があるので顔が上げられない蟲の女は視線を下げて女神の宝石の付いた足飾りを巻いている素足を見ていた。


 正座で座る蟲の周りでは女神に吹き飛ばされ川に頭から突っ込み逆さにひっくり返っている魔導兵器を女神の眷族達がせーの! と引き起こそうとしている。


 太陽の位置は山に向って少し傾きつつあった。



 裁きは終わったので蟲の女の正体に話が戻った。


「貴方のお名前はぁ?」

「わかりません名無し……です」

「ワカリマセンナナジ? 変わった名前ねぇ」

「え? いや違」

「長すぎて呼びにくわぁ。今日から貴方はナナジと名乗りなさい。ナナジ!」

「ひゃっ、ひゃい!」


 否定しようと顔を上げた所に女神が腰を曲げて屈み込んだので、透ける程薄いドレスから、女神の先をまともに見てしまいナナジは顔を真っ赤にして変な返事をしてしまった。


「それでナナジはどこからきたのぉ?」


 女神の質問は続く。この質問は答えられる。唯一記憶していた地名。


「日本……です」

「ニホン? ニホンからですって?」


 その地名に女神が大きく反応した。


「それは……ずいぶん遠くから来たのねぇ」


 女神は扇で口元を隠しナナジの肩を撫でるように手を当てた。


「他の記憶は無いんですが日本人だったという記憶はあります」


 女神の手を目で追いながらナナジは答えた。


「そう記憶がないのぉ……可愛そうねぇ」


 女神はまるで話は終わったかのようにナナジから離れて蟲の頭から飛び降り。フワリと一瞬浮くように着地をした。


()()! ナナジに世界の仕組を教えてあげて」

「はっ!」

()()! ナナジに治癒を」

「はい!」


 指示を出した後は川の側にある自分のソファに向かって歩き出した。


 話は終わりかと安心したやら惜しいやらとたんにズキリと頭が痛んだ。


「痛ったぁぁ!」

『自業自得だ』

「役立たず」

『ちゃんと警告は出したぞ』


 蟲の答えにナナジは何か言い返そうとした時。下から呼ぶ声が聞こえた。


  ()()と呼ばれた眷族は小柄の可愛らしい少女の姿で蟲の体を登れず頭を下げてほしいと頼む。

 言われた通り頭を下げて顎を地面に付ける。よいしょと蛾の上まで登ってきたこうには首や肩から孔雀緑色の鉱石が角のように生えていた。


 こうの鉱石の角と服装をみて。


(あ〜だからこんな形の服なのか)


 自分も着ている地下遺跡で手に入れた衣服が全て両肩と首回りが殆ど出しているデザインの意味を知った。ナナジは紐でずり落ちないように止めているが

 ()()の服はサイズがピッタリでよく似合っていた。


「治癒をかけますので気を楽にしてください」とこうは微笑んだ。


 ()()はナナジの頭に手を触れると何か温かさを感じた時には頭の痛みがすっかり治まっていた。 


「終わりました」

 

 ()()は微笑んで言った。


「凄い! すっかり治った! ありがとう!」


 ナナジは礼を言うが()()の顔は何故か困った顔をして首をかしげている。


『感謝しますと言っている』


 蟲がナナジの言葉を翻訳したように()()に言った。


「ああ! どういたしまして!」


 ()()は両手を合わせて微笑んだ


(言葉が通じて無かった? でも私はこうの言葉は理解できてるし女神様だって……)


 そこで女神が自分の肩に触れていたのを思い出した。

 きっとあれで心を覗いたに違いない。始め通じてなかったから言った言葉を名前と間違えたのか。


(油断できない人だなぁ……)



 ()()が下りる時は蟲が手を伸ばし支えられて降りた。振り返り。

「ありがとうございます〈勇者殺し〉様!」と礼を言って離れていった。


「勇者殺しってなに?」


 ナナジは聞いた

 蟲は、やっぱそれ聞くかぁ〜といった溜息を付き。


『……昔、大まぐれで勇者を倒せた事があるんだ』

「まぐれで?」

『大まぐれだ。それから〈勇者殺し〉の称号をもらってから宝玉様からもそう呼ばれるようになった』

「今更だけどあんたの名前って何?」

『蟲で良い。蟲と呼べ絶対勇者殺しとか呼ぶな』

「あ、嫌なのね」

『結構恥ずかしいんだ』

「ブフッ! アハハハハハ!」


 ナナジは目覚めてから初めて心の底から笑った。


「あの、よろしいですか?」


 あかと呼ばれた大柄な女性の眷族がボードや紙の束を持ってナナジと蟲に声をかけた。


「はい! お願いします!」

『よろしくと言っている』


初バトルを書いてみました。バトルです。バトルなんです!

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