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見える者と見えない者

 切り札を聞いて蟲の頭から生える上半身だけの女は女言葉も忘れて声を荒げていた。


「何だそれ! 何に使うんだそれ!」

『何にと言われても敵にだ』

「敵? 戦争でもするのか!?」

『そうだ』

「はあ!?」

『我々はモンスターだ。魔王様に召集されれば人間と戦わなければならない』


 女は絶句する。だがすぐに。


「貴方に勝てる人間はいるの?」と聞いてきた。


 もう落ち着いたのか女言葉に戻っている。


『言っただろ英雄と勇者だ。この役割には我々は勝てない』

「あ〜言ってた? かな?」

『おい』

「覚えてる! 覚えてるよ! バッチシ!」


 蟲が何かを言おうとした時。化物の耳に人の声が聞こえた。


『人間の声だ!』「丘の向こう!」同時に叫ぶ。


『まずい。もし勇者なら』


 蛾の毛が逆立つ。


「ビビるな!」


 女は自分が生えている蛾の頭を叩く。


「《超擬態》使ってあの丘から頭出して人間を探すんだ!」


 蟲は先程角馬を仕留めた丘に向って足先から八本の飛蝗の脚が伸び、足音も立てず飛ぶように走って位置に付いく。周辺景色に合わせて顔の色を変え、蟲の頭にいる女は着ていた青色の打掛が目立つと思い脱ぎ捨てていた。


 丘から蟲の頭をそっと付き出し丘の向こう側の景色が女の目に広がる。広い、緑の美しい景色。ここから人間を探すのは《視覚強化》では苦労しそうだった。


『まだ《熱感知》が使えない』


 女は舌打ちをする。さっきの《熱弾》の影響か。いったいどんな熱量なんだ。


「《聴覚強化》と《嗅覚強化》で足音とか匂いとか糞でも何でも人間のだす物を全部拾え。見つけた位置に印を付けて私の目に送れ。この方角だ」


 向きを手で示し蟲に指示をだす。目に六角形の白いマークが次々に浮かぶ。《視覚強化》で今も増える印の辺りにズームする。


「いた。二人だ」


 白いマークは全て消し、目に写った人間達に六角形の黄色のマークが囲む。印に文字が付く。女の顔に笑みが浮かぶ。勇者は居ない。


 〔〈役割___狩人〉__ 〈人間〉〕

 〔〈役割__道案内〉__ 〈人間〉〕


 一番近いのは這っているのか移動が遅い。フフフだらしなく失禁しているのか。追いかけて鉈で切り裂こう。簡単だ。役割は〈狩人〉か。


 もう一つのは走っている。だがそんなに足音をバラ撒いて逃げられると思っているのか? こいつは《熱弾》で焼こう。射的の練習だ。外したら翔んで踏み潰せばいい。役割は〈道案内〉? まあいい。


 よし、殺そう。



「勇者じゃないね殺そう」

『何?』


 女の言葉に蟲が困惑する。


「怖いのは英雄と勇者なんでしよ? だったら良いじゃない。狩人なんてさっさと――」

『待て、何を言っている? 狩人?』


 言葉を遮って聞く蟲に女は少しムッとしている。


「だって印に狩人と道案内って」

『役割が見えるのか!?』


 蟲が驚く声に女も驚く。


「え? この印ってあんたがつけてんじゃないの?」

『まさか。いや、そんなハズはない。だが……』


 蟲は考え事を始めて女の話を聞いていない。


 そうこうしてる間に走ってる道案内は見えなくなった。狩人はまだ這って移動している。何か喚いて泣いてるようだ。


「あいつら行っちゃうよ?」

『……』


 蟲はまだ何か考え事をしている。


「お〜い」


 ペシペシペシと蟲の頭を叩く。


『あ、ああ。大丈夫だ問題ない』


 蟲は立ち上がって引き返す。人間達をあのまま行かせるようだ。


「領主に知らせるとか言ってたけど」


 不満そうに言った。


『兵隊がきたら逃げれば良い。相手にする必要は無い。人間は殺した分必死になる。やりすぎると英雄や勇者を連れてくる相手にしないのが一番なんだ』

「ふ〜ん」


 女はまあそうかもしれないと納得した。


 蟲は木の枝に脱ぎ捨てて引っかかっていた打掛を頭の女に拾わせるためしゃがみこんだ。女は手を伸ばすが微妙に届かなかったので腰をにょろんと少し伸ばして拾い、葉を払って裏表をよく確認してから体にかけた。


 立ち上がった蟲は


『だが脅しはしておこう。耳を塞げ』


 蟲が息を吸う大顎が開く。女は両耳を塞ぐ。


 ゴオオオオオオオンン!


 山に響く蟲の咆哮。蟲を中心に木々が揺れる。


 這って進む狩人は振り返ってその咆哮を聴いた。そして何か言葉にならない叫び声をあげながら器用に両手両足を動かし猛スピードで去って行った。


 徐々に蟲の声が小さくなり最後はコロロンと大鈴を転がしたような声で鳴いて止まる。


 女は片目を開けてから耳から手を離した。


「なんて言ったの?」

『ここは我々の縄張りだ。と言った』

「そんなのでいいの?」

『あの人間達が広めてくれるだろう。賢い人間はこれで近づかない。だが一応移動しよう』


 蟲は移動しようと一歩足をだす。が川に浸けた肉を思い出した。グルンと川に向きを変えて歩きだした。

 前に進むと思ってた女は突然向きを変えたので体が捻り「ぐえ」と言った。



 川に向かって歩いてる蟲に女は腕を組んで聞く。

「で?」

『なんだ?』


 蟲が聞き返した。


「私に言う事あるでしょ? 役割が見えると知った時驚いてた」

『ああアレか。よく考えたら簡単な事だった』


 蟲はあっさりしていた。


「へ?」

『我々の、貴女の元の人間の役割は〈役割の巫女〉だ』

「巫女?」


 蟲は昆虫の脚が集まった様な手で指を二本立てる。


『役割が見える人間はニ種類しかいない。勇者と役割の巫女だ。勇者はありえないので貴方は巫女だ』

「ちょっと何言ってるかわかんないです」


 女は半目になって言う。



 その時、鐘の音が聴こえた気がした。


 歩いてた蟲が急に足が止まる。急に止まったので蟲の額に居る女は上半身の体が前に傾き「おっと」と言った。


 そして蟲の目で、川の側にいつの間にか宝石がいくつも埋め込まれた大きく派手なソファが置かれてあるのが見えた。

 その上にこれまた派手な宝石が散りばめられ身体の線と色を隠そうともしない白いドレスを着た美女が足を組んで座っていた。


 今度は鐘の音が聴こえた。リーンと美しい音が辺りに響く。音はソファにぶら下がる小さな金色の鐘から鳴っているようだ。


「やっと見つけたわぁ」


 美しい金髪の長い美女が微笑んでいる。


 蟲の女は美女を見て息を呑む。


 何十という宝石を散りばめた白く薄い生地のドレスを押し出す豊満な胸。ソファにもたれて座る細い腰。そして、見せつけるように組む白く長い足。


(おふう……抱きしめたら凄いに違いない。残念ながら無いけども)


 蟲の女の鼻の下がのびている。


 リーンと鐘の音が鳴る。


 鐘の音にハッ! とし。


「え? だ、誰?」

『……しまった』


 蟲が唸っている。


「凄く良い声ですぐ場所がわかったわぁ〈勇者殺し〉」


 蟲の上にいる女は腰を伸ばし自分の目で美女を見る。美女の周りを六角形の青色のマークが包む。

 そして。


「宝玉の神……女神?」


 美女が翠の宝石のような瞳を細めて微笑む。


「おうちを調べたら貴方がやったとわかった時は驚いたわぁ」


 蟲の女には美女が哀しそうに見えた。



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