違法部活動勧誘現行犯
・佐納燕
高等部一年生
風紀治安委員会所属
昨日午後三時半頃、無認可活動行為を行っていた高等部三年:鷺宮誠氏を現場に居合わせた風紀委員が確保した。
鷺宮氏は非公式部活動「超神道幸福連動会」の部員勧誘を行っていたとして、承認を得ていない部活動団体の行動、及び無断での敷地を占拠した活動の規則違反として指導室へと連行された。
鷺宮氏は昨年の十二月に行われた散桜会でも無許可で活動をしており、その際に生徒会執行部から活動禁止勧告を受けていた。これに対し鷺宮氏は「前回は宇宙意思統括連合部であり、今回は別の団体だ」等と発言をしており、これを受けて生徒会執行部会長: 鈴ヶ崎音色氏は「そもそもどちらも活動団体として許可は出しておらず、言語道断」とのコメントを残している。
また「光桜学園には未認可の部活動が確認されているだけでも三十は存在している。活動申請をだし、承認するに足る活動内容を行うように」と苦言を呈している。
――光桜学園新聞部発行:楽集新聞より――
「いい加減になさい!!」
女性特有の甲高い声が部屋中に響き渡る。
生徒会長である鈴ヶ崎音色先輩の物だ。
「まぁまぁそう怒りなさんな。さっちん取り合えずお茶を」
対する鷺宮先輩はどこ吹く風といった様子だ。
小さな体ながら飄々(ひょうひょう)とした態度でもてなしを要求してくる。
さっちんというのは恐らく私の事だろう。
苗字である佐納から取っているのだと伺える。
「お言葉ですが鷺宮先輩、この部屋には給湯設備はございません」
「じゃあ自販機で買ってきてー、音色ちゃんもワッショイ緑茶でいいよね?」
「貴方は自身が要求できる立場だと思っているのですか」
ある意味では上級生らしい態度で自分に命令を下す鷺宮先輩に、鈴ヶ崎先輩は尚も怒りを発露する。
彼女の怒りはもっともである。
鷺宮先輩は学園の規律を乱した事でここに連行された身だ。
恐縮するならいざ知らず、上から物を言える胆力は流石と言える。
「佐納さん、彼女の言う事を聞く必要はありません。水でさえ過ぎたものです」
元より聞くつもりはなかったが、鈴ヶ崎先輩の言葉に頭を下げて了承した。
上級生でもある彼女の言葉に礼を欠くべきではない。
「なんという扱い。人権侵害だー」
「黙りなさい」
鈴ヶ崎先輩は静かに睨みを利かせた。
鷺宮先輩を捕らえたと報告を受け、先ほどおいでになられたが、既に疲れの色が見えていた。
普段はもっと余裕と威厳に満ち溢れているだけに少々驚いている自分がいる。
「お二方、これでは一向に話が進みませぬ故……」
「失礼。佐納さん。話を元に戻しましょう」
「別に問題はない。話は進まずとも時間は進む。踊らにゃ損々」
尚も続く挑発行為に鈴ヶ崎先輩は怒りの色を見せる。
しかし相手の思う壺と感じたのか、小さく咳払いをして収められた。
「それで? どういうつもりなのかしら鷺宮さん」
「別に、弱小クラブが部の活性化を計って新入部員を勧誘するのは当然。取り立てて騒ぐことじゃない」
「敷地を占拠しての勧誘には事前の申請が必要です。ましてやあなたのは部としても承認されていません」
「申請出したって承認しないくせにー」
話をはぐらかすのも限界と感じたのか鷺宮先輩は比較的真面目に応対をする。
だがそれでも些かの挑発的な態度が滲み出てしまっておられた。
「宇宙に散らばる強い意思の力を結集して、学園によりよい未来繁栄を目指す。こんなバカげた活動内容の部を承認しろと? ふざけてるにも程があるわ」
「それもう解散したから。今は超神道幸福連動会。生徒会長なのに情報が古い」
「公式に登録もされていない部活の情報など記録されていませんからね」
確かに鈴ヶ崎先輩の言い分は正しい。
しかしながら、鷺宮先輩の主張も分からなくはなかった。
この学園の非公式な部活動は多い。
学園側が確認しているだけでも三十以上はあった筈。
そしてその部活動の大半は鷺宮先輩と同じような事をしている。
無論許される事では無い。
しかし大半は、その行為自体はほぼ黙認されているというのが現状だ。
「学園として活動の支援は行わない」というだけであり、よほどの問題を起さなければ強制解体などは行われない。
「そーだ。燕ちゃんも入る? 超神道幸福連動会。今なら副部長にもなれちゃう」
「あなたは人の話を聞いているのですか?」
そう言って鷺宮先輩は私に尋ねる。
唐突な誘いに少々面を食らうも、一考する。
名前から活動内容は推し量れないが、字面だけ見ると前向きな姿勢の言葉が多く、好感が持てる。
「先輩からの申し出はありがたいですが、自分は風紀委員に所属する身。これ以上は身に余ります」
「そっかー。帯刀少女ってメンバーとしては魅力的だったんだけどね。ビジュアル面でも戦闘面でも」
誘いを断られたのを気にした風もなく、鷺宮先輩は無表情でそう言った。
しかし、唐突に自分の右手に握られている愛刀をじっと見つめる。
すると、おもむろに不思議そうに顔を上げた。
「そもそも、それって校則違反じゃないの?」
「こちらですか?」
「そそ。真剣ざんしょ?」
「ええ。これは我が先祖代々伝わる名刀。この学園に凶事が迫った時にしか抜かぬゆえ、ご安心ください」
「全然回答になってないんだけど」
不意に鈴ヶ崎先輩が咳払いをする。
またもや脱線しかけた話の軌道を戻したのであろう。
「とにかく! 今回の件の罰として、誠の部活は解体。同時に一二〇〇字程度の反省文を提出する事」
「えぇ~そんなご無体な~」
「確かにそれは些か厳しすぎるのでは」
痺れを切らしたかのように唐突に言い渡された内容に風紀委員として意見を出す。
確かに規則を破ったのは事実。
だが、行為としては部の勧誘を行っただけだ。
せめて注意勧告が精々、部の解体と反省文はやり過ぎに感じる。
「いえ、彼女に年末の前科があります。それ以前にもね。なのに改善もみられない。これでも甘いくらいだわ」
そう言って鷺宮先輩を睨む。
当の本人は口では不満を言いつつも、最初から分かっていたかのように余裕の態度であった。
その様子を鈴ヶ崎先輩は不愉快な目で睨みつけるも、一度だけ大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
「話は以上です。反省文は今週末までに生徒会に提出する事いいですね」
「おーけー。ドンと任せておくれ」
「……言うまでもないですが、ふざけた内容だと再提出の上、処分も重くなりますからね!」
そう言い残し鈴ヶ崎先輩は指導室から出ていかれた。
鷺宮先輩は強く締められたドアの音にわざとらしく肩を竦めた。
「音色ちゃんは冗談が通じないねー」
「鷺宮先輩に反省が見られないのが原因かと」
「失礼。とっても反省してる」
「左様ですか。失礼致しました」
頭を下げて謝罪をする。
許しを得て顔を上げると先輩は複雑そうな顔をしていた。
「まぁいいや。さのっぴ、喉乾いたからお茶頂戴」
「かしこまりました」
気を取り直したように注文する先輩に応えるべく、出入口へ足を向ける。
互いの立場はどうであれ、今の彼女は敬意を払うべき上級生なのだから。