新入生インタビュー
・昌子メアリー
高等部二年生
新聞部所属
今年の四月より、高等部一年に新入生がやってきた。我らが光桜学園に外から高等生がやってくることは長い歴史の中でもとても珍しく、ここ百年の間でも本件を含めて四名と非常に少ないことが分かる。その栄えある光桜学園高等部新入生として新しく名を刻んだ渡戸阿奈多氏に我が新聞部は話を伺う事に成功した。
――光桜学園新聞部発行:楽集新聞より――
「別に構いませんよ」
転入生、渡戸阿奈多は二つ返事でインタビューを了承した。
自分で言うのもなんだけれど、まだ生活にも慣れきっていないであろう入学早々に、別の学年から自身の素性を嗅ぎまわる生徒がやってくる。というのは正直言って結構なストレスだと思う。少なくともアタシだったらブチ切れる……と早々に学校生活に暗雲が立ち込めるから、遠回しな嫌味を言いつつ了承するか、やんわりと断るかのどちらかになると思う。
だというのに彼は嫌な顔ひとつせずにそれを受け入れた。
インタビューを申し込んだ手前、話が早いのは非常に助かる。が、アタシ、昌子メアリーがそれを受けて彼に抱いた印象は「優しい人」でもなければ「チョロい鴨だぜ」でもなく何とも言い難い嫌な印象。あえて言葉にするとそう「鼻持ちならない奴」だ。
彼の態度自体はいたって普通だ。緊張した様子もなく、受ける側だと認識した際の傲慢さも感じない。対応もそれなりで、面白味はないがインタビューをするにあたっては比較的やりやすいタイプ。
ちょろっと尋ねた簡単なプロフィールの受け答えの時点でそう感じる。不愉快に感じる要素は別段見当たらない。それでもアタシの彼に対する印象はますます不審な気持ちを強めてしまう。
そう。彼の態度はあまりにも普段通り過ぎる。
そりゃあアタシだって彼と話をするのは初めてだし、部活動のお遊びレベルとは言えどもインタビューの対応だ。これが渡戸阿奈多の素だなんて思っちゃあいませんよ。
でもね。いくらなんでもコイツはリラックスしすぎている。
転入して一月も経たずに、知らない生徒からインタビューを受けてるっていうのにコイツの態度は余裕の一言だ。インタビューの了承だって、まるで「来るの分かってました」と言わんばかりの反応だ。
インタビュー申し込んでおいて、こんなこと思うのは非常に身勝手だってのは重々承知ですけれど、きっとコイツには裏があるに違いない。ともすればこのクッソつまらない受け答えすらも、アタシを適当にあしらう為に予め用意したんじゃないかしら! って思えてきて尚も腹立だしい。というのは流石に飛躍しすぎかな?
そもそもこの学園は中高一貫校で高等部から入学してくるという存在は非常に珍しい。ちょっくら第一図書館で調べてみたら、ここ百年の間じゃあ片手で数える位しか受け入れてないんだという。
というより、アタシはてっきりこの学園は高等部からの受け入れはしていないんだと思っていた。しかし調べてみれば建前上はしているらしい。
「ところで渡戸君は何でこの学校を知ったんです?」
「なんだか読者アンケートみたいな質問だなぁ」
右手で首元に触れながら渡戸は小さく笑った。茶色く男子にしては少しだけ長めの髪も相まって少々軽薄な印象を受けた。
実際コイツが何でこの学校の存在を知ったのかが一番の謎なのだ。この学校には恐らく公式のホームページなんてものは存在しない。何故なら入る人間はあらかじめ決まっているような物だからだ。
ここに来る理由は様々だけど、それでも言えるのは私を含めて、入るべくして入れられた。という事。
コイツが入学できたのだって、偶々空きができたからでしかないのだ。そして学園がその事を軽々に外に伝える事なんてない筈だ。
だいたいね。こんな辺鄙な山奥に建ってる学校に数年間閉じ込められるとなりゃあ、外の自由な生活をしてきた普通の学生なら自分から入ろうとは思わないわよ。携帯の電波だって届かないのよココ。
それを知ってワザワザここに来たって事は、何かしらの目的があるに違いなかった。
「知り合いの伝手って奴ですね」
「あら? ここにご兄弟でもいらっしゃるんですか?」
「そうですね。生き別れの姉がいるらしいです」
「おやおやこれは新情報! 噂の転校生の姉がこの学園に」
冗談か本気かはわからないが取り合えずアタシは飛びついた。記事のネタとして使えれば情報の真偽なんてどうでも良いのだ。
「ということはこの学園には、お姉さんに会いに?」
「まぁそんな感じですよね」
「きゃあ! 麗しき姉弟愛ッて奴ですね。 お姉さんとはお会いに?」
「いや、まだですね」
「あれま。学年や名前なんかお分かりで?」
「それもまだ。まぁ気長に探しますよ」
そういって渡戸は笑みを浮かべる。
何処かで、姉がこの学園に入れられているのを知って会いにやってきた。ということ? 理由としてはありえなくはないのかな? そう思うと姉想いの優しい弟の様に感じて、彼の印象も幾分かは和らいでくる。ま、完全に信じたわけじゃありませんけど。
「ということはインタビュー受けたのも、お姉さん側からコンタクトを取ってくれるのを期待して?」
「アハハ。バレちゃいました? 実はそうなんですよ」
「そうですか。気づいてくれると良いですね」
これは割と本心だ。彼の言い分が丸々事実であるならだけど。
これがきっかけで感動の再会でもしてくれれば次のネタにも出来るしね。
「じゃあお話はこれ位で、長々とありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ」
ぺこりと頭を下げると鞄を手に渡戸は教室を出ていった。さっきまでインタビューを受けていたとは思えない、実に自然な下校態度に見えた。その様子を見てアタシは小さく舌打ちをする。やはりイマイチ信用できない。
姉を探してこの学園に来た。というには、やはりあの余裕な態度は解せない。
こんな辺鄙なところまで探しに来た位なんだから、もっと切羽詰まった態度になるもんじゃないの? 動揺を隠してるとも思えないし、やはり話を鵜呑みには出来ないわね。
まぁいいわ。他に理由があるにせよ。アイツはいずれ行動を起すに違いない。その時こそアタシがアイツの化けの皮を剥いで白日の下にさらしてやる。余裕ぶったあの顔に冷や汗をかかせてやるんだから。